52話 一年未満は一年未満です。
夕方、待ち合わせ場所へ。さすがに今回は行きと違ってスムーズに顔合わせをすることが出来た。3人とも若いからと少し心配していたが、相手方のリーダーは笑いながら「それだけ若いのにそのランクなのだから問題ないだろう。冒険者は実力主義だ」と。
帰りの護衛をするパーティは新たに2つ。『ブラッシュ』と『ヴィスタ』。平均年齢とランクが高いのが『ブラッシュ』。リーダーはAランクで、あとの3人がBランク。次いで『ヴィスタ』。4人全員がBランク。そして最後が『ヴェルメリオ』である。
これならば揉める心配もなく、まとめ役を『ブラッシュ』のリーダーであるフェレ・トローバが務めることに決まった。
護衛依頼(Cランク)にしては平均ランクが高すぎるが、どちらもポリティス商会の護衛を何度かしているから引き受けただけだと言っていた。割とそういう理由で依頼を受けるパーティはいるのだとか。
「『ブラッシュ』と一緒に護衛依頼……やべぇヘマしたらどうしよう……」
「有名なパーティなんですか?」
「ウルプスのギルドで教官してるイーサンさんが昔所属してたパーティ」
姉弟の試験官をした人でもある。
「「へー」」
「へーって! お前らイーサンさんの恐ろしさを知らないから……!!」
ウルプス出身の新人冒険者達のほとんどが一度は受ける新人研修である。新人研修は個々の判断に任せられるのだが、比較的新人の死亡率が下がるからと推奨されているものでもある。ウルプスはその受講率が高く、Cランク以上の冒険者が多いことからも受講生が増えている理由であるが、経験者は皆、口を揃えてこう言う。「アレに比べたら新人殺しくらい可愛いものだ」と。
ちなみに新人殺しとはゴブリンを指す。強くはないがほどほどに知能があり、連携して集団で襲ってくるので、新人はゴブリンの策に嵌り、命を落とすこともままあるのだ。
「つまり、下手な事すれば新人研修受け直し?」
「俺の場合は手加減なしだろうなぁ……ハハハ」
Dランクで受け直しさせられた時はまだ手加減されたらしいが、新人研修の時とは比ではないくらい厳しく、Bランクになった今ならば……、と、ナストは遠い目をしていた。
((受け直したことがあるんだ……))
一体何をしたのやら。とりあえず、ナストよりイーサンが強いことだけは分かった。
「とにかくそういうことだから気合入れるぞ」
「はいはい」
「頑張れ」
気合を入れ直すナスト。そして、全く気負わずいつも通りな姉弟。ナストが空回らないようにだけは気を付けよう、と心に決めた姉弟だった。
打ち合わせも兼ねて夕食を一緒に食べることになった3パーティ。代金は5:3:2で、若手で人数もランクも低い『ヴェルメリオ』は2割しか出さなくていいそうだ。夕方集合にはこういう意味合いもあるらしく、初回ではずれを引いた姉弟はある意味強運だろう。
「まあ、その時々だけどな。あの場合、リーダーが決まらなかったし険悪な空気だったから仕方ない。あと、ランクが低かったり差がないときは普通に割り勘」
「なるほど」
割と冒険者の常識だったりするが、まだまだ知らないことが多い。ヒメカはナストの説明に納得するように頷いた。
「嬢ちゃんは新人なのか?」
「そうですね。冒険者になってまだ一年も経ってないです」
「へぇ! それでもうCランクとは凄いな!」
「私も弟も魔法士であり剣士だからだと思います」
「3人中2人が魔法士で剣も使えるとなると……とんでもないルーキー達だな」
「俺は4年目ですけど」
「4年目でBランクになってるのも充分凄ぇっての。Bランクに上がるのにどれだけの冒険者が挫折を味わってることか」
「こいつらならさっさとBに上がると思う……」
「ははは! まあ、魔法士相手じゃ仕方ねえよ」
ヒメカの剣の腕は知らないが、ユウトに関して言えば剣の腕だけでもBランクなどたやすいだろう。そう思いつつも、ナストは乾いた笑いを零すだけにとどめた。
ちなみに『ブラッシュ』も『ヴィスタ』も魔法士はいない。
軽い雑談で場を温めると、さっそく仕事の話を切り出したのはリーダーであるフェレ。鍛え上げられた体躯に落ち着きのある雰囲気の冒険者。その貫録はさすがAランク、といったところだろう。
それぞれのパーティは簡単なメンバー紹介をしつつ、配置について話し合う。やはりというか、魔法で広範囲をカバーできるナスト達『ヴェルメリオ』は中央の配置となり、先頭を『ヴィスタ』、後方を『ブラッシュ』が守る配置となった。最終的にフェレが判断を下したが、当たり前だが揉めることもなくすんなり決定した。
夜の見張り番も、ヒメカは免除、ユウトは1日おきの参加で、パーティシャッフルで3交代制となった。代わりと言ってはなんだが、ヒメカは料理番をすることに。本当に良いのか? と思わないでもないが、ヒメカの料理に関しては依頼主側からの要望として最初から組み込まれていた上に、美味しい料理が道中も食べられるとあって反対する者はいなかった。
話し合いはスムーズに終わり、後はただの食事会となり、明日に響かない程度の時間に解散となった。
「おはようございます」
翌日。待ち合わせであるポリティス商会へ早めに向かい、挨拶をしてから厩へセキトバとスイの馬具を用意しに行くと、2頭は嬉しそうに主人へ頭をこすりつけた。エサはヒメカ配合のものを用意していったとはいえ、何日も主人へ会えなかったのが寂しかったのだろうか。
「セキトバ、スイ、ウルプスまでまた旅だからよろしくね」
任せろと言わんばかりに鼻を鳴らすセキトバ。スイはいつも通りマイペースに馬具を装着されるのを待っている。
準備の時間を逆算して早く来ているとはいえ、出来るだけ早く用意を済ませようとテキパキと馬具を装着し、それを終えると馬車が待つ表口へ手綱を引いて移動した。
「あ、ロドリゴさん。おはようございます」
「おはよう。そういえば馬を預けていたんだったな」
すでに到着していた『ヴィスタ』の1人で、斥候役兼頭脳担当のロドリゴを見つけてヒメカが声をかける。その場にはいないが、おそらく他のメンバーもどこかにいるだろう。
「はい。セキトバとスイです」
いい子達なんですよ。と、ヒメカが紹介すると、ジッと2頭を見た後、「なるほど。なかなかに良い面構えをしている」と感想を述べる。
「ありがとうございます。ところで他の方々はご一緒ではないのですか?」
「ウチのリーダーとフェレさんは依頼主に挨拶に行っている。他のものは貸してもらっている馬車に荷物を積み込んでいるところだ」
ほらあそこ、と指差す方向には馬車に荷物を運びこむ『ブラッシュ』と『ヴィスタ』のメンバー達。ロドリゴは運び込む荷物を確認し終えたところなのだとか。
「君達のように大容量の魔法鞄を持っていたらいいんだがな」
持っていることは持っているが、護衛中に倒した魔物は倒した人の取り分なのでなるべく空きを作っておきたい。なので馬車に乗せられる分は乗せておくそうだ。
「と、俺も挨拶してきます」
「いってらっしゃい」
少し慌てるナストを見送り、特にすることもない2人は邪魔にならない場所に移動することに。空いた時間は商会の積み込み作業をぼーっと眺めつつ、セキトバとスイとの交流の時間となった。
商会の積み込み作業が終わる前に護衛の最終確認も終わらせ、出発の時刻となる。
行きと違って盗賊はすでに討伐済み。その上、同行するのは自分達よりもランクが上な先輩冒険者達ということもあり、気合を入れ直していたナストも基本を確認するように丁寧に動いている。少なくとも空回りの心配はなさそうである。
一度目の休憩時。セキトバとスイに騎乗してみたいと要望があったので、当人(馬?)に聞いてみるがセキトバは断固拒否したのでスイだけでよければ、と許可をする姉弟。
鑑定によるステータス比較とは違い、色んな意見が聞けるかも、と期待しての事である。もうこの時点ではセキトバが姉弟以外を乗せたがらないのは確信しつつあるので、セキトバはスイを基準にすれば大体のことは分かるだろう。
「……おぉ」
「道中も思ったが本当にいい馬だな。足も速いし胆力もあるし頭もいい。こんないい馬をよく見つけたな」
「ヴィーゼまで行きまして」
2頭を購入した店の名前も紹介するヒメカ。
「なるほど。あそこは軍馬も育てていると聞くからな」
「俺も自分の馬が欲しくなってきた」
「この依頼が終わったら行ってみるか?」
「そりゃいいな」
順繰りにスイに乗り、見張り番だった人は次の休憩時に、ということで再度出発。特に問題もなく、その日は2度の休憩を取り野営となった。
「あの、おかわりはあるのであまり慌てずに……」
朝昼が持参したものだったからか、初ヒメカの手料理を食べる面々はただただ無言で料理をかき込む。ヒメカは苦笑しつつ、のどを詰まらせないように水を大目に用意しておく。
初めてではない面々は、彼らを温かい目で見ながらも、おかわりを平らげられないように手早く口に運んでいる。
争奪戦の気配を察知した出来る秘書ヒューズは、ハリソンと自分の分を先に確保してゆったりと食事をした。
「姉さん、たぶん明日からは量を大目に作っておいた方が……」
「うん……私もそう思っていたところよ」
冒険者の強さと胃袋の大きさは比例するのだろうか? と思わないでもない位に冒険者達は良く食べる。ナストもよく食べると思っていた姉弟だったが、もしかしたら冒険者の平均なのかも、と思ってしまう。
「まあ、そもそも体が大きいし」
「そうだな……俺ももう少し筋肉が欲しい」
「ならもっと食え食え。小食過ぎるんだユウトは!」
「それは筋肉がつかない体質な私へのあてつけかしらぁ?」
「「ゴメンナサイ!」」
ヒメカの前で筋肉の話題は鬼門だった。
後にナストは言う。笑顔なのに背後に凶暴なエンシェントドラゴンが見えた、と。
(姉さんは2年間あらゆる知識を動員して筋肉をつけようとしたが全くつかず、代わりにやたらと人体に詳しくなったからな。ちなみに、俺の5つ上の叔父には効果覿面で、筋肉自慢してはよく腹パンを喰らってた。姉さんは内臓に影響がなく、かつ確実に痛みを与える腹パンのプロだ)
(ヒィッ!)




