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51話 うっかりは伝染します。

「ところで何を討伐するんだ?」

「アーマードフィッシュとランススクイッドだな」

 アーマードフィッシュは、鯛を大きくしたような魔物で、鱗が発達して鎧のようになっている水生魔物である。ウロコは防具の素材になるし、鱗(鎧)を剥がせば美味しい白身としてよく食べられている。

 ランススクイッドは触腕が槍のようになっているイカで、こちらも食用となっている魔物である。アーマードフィッシュは敵と認識されなければそこまで攻撃的ではないが、ランススクイッドは気性が荒く、よく船に穴を開けるので漁師に嫌われている。

「アーマードフィッシュは尾びれ、ランススクイッドは左の触腕が証明部位だ。ランススクイッドは陸地でもそれなりに動けるから確実に倒していけよ」

「了解」

「了解です」

 受付で依頼を受けて港へ行くと、似たような船が並ぶ場所に建てられた簡易な小屋へ向かうナストについて行く2人。ナストがそこで木札を見せると、割り当てられた船の船主に案内される。木札はギルドで管理されている物で、木札に書かれた記号でどの船に割り当てられているか決まっている。

「すみません、船に強化魔法をかけてもいいですか?」

「ああ、あんた魔法士か。金は出さないがそれでもいいなら好きにしろ」

「大丈夫です。では失礼して」

 ある程度の損傷はギルドが負担してくれるが、それ以上は自費で、ということなのでヒメカは少しやり過ぎな位に強化魔法をかける。『武器強化』の基礎ともいえる魔法なので難しくはない。

「…………詠唱はしねぇのか?」

「(面倒なので)しないですねー」

 詠唱に必要性を感じていないヒメカはいつもの調子で答えるが、船主は首を傾げるばかりである。何度か魔法士の冒険者を乗せたことがあるが故に、ヒメカが異端に思えてならないのだ。本人が魔法を使えるわけではないので、そういう魔法士もいるか、と適当に流した。

 強化魔法も施したので早速海へ出ると、ちらほらと似たような船を見かけた。一定の距離が開くように少し沖合まで来た。

「では魔法で適当に捕まえますね」

「ん???」

「よろしく」

「……頼んだ」

 慣れていない船主と慣れているユウトと慣らされたナストが三者三様に答えると、ヒメカは海へ向けて『探知』と『鑑定』の合わせ技を放つ。範囲は球体状なので水中であろうが空中だろうが問題ない。初めて相対する魔物なので精度はお察しだが、たぶんこれだと思う反応を水魔法で閉じ込め、そのまま手元に手繰り寄せた。

「ナストさん、これで合ってますか?」

 空中には魔物を閉じ込めた2つの水球が浮いている状態で確認。ナストのOKを貰ったことで魔力パターンを覚えて一気に複数を同じ方法で手繰り寄せる。その間にナストとユウトで魔物を絶命させてマジックポーチに収納し、次を待つ。後は流れ作業である。

「……なあ、これ船を出した意味があるのか?」

「「「あ」」」

 しばらく流れ作業した後、冷静になった船主の指摘。魔法の有効範囲内であれば捕獲可能なので別に船を出す必要はない。完全なるうっかりだった。

 結局、せっかくだしと討伐数を稼ぎ、ナストがそろそろいいだろうと言うまで続けて港へ戻った。



 ギルドへ戻って依頼達成と素材換金で予想以上に懐が温まったナストは、ホクホク顔で姉弟に夕食を奢ることを約束した。姉弟は、普通の冒険者の収入はこの位なのか、と学んだだけで反応は薄いが、奢ってくれるというならば奢ってもらう。

「まだ夕食には早いですけど、どうしましょうか?」

「買い物は午前中に済ませたしな。ナストは何かないのか?」

「別の依頼を受けるにも微妙だしなぁ……俺は特にないな」

「そうか……なら薬草採取だな」

「ん?」

「ほら行くぞ」

「んんん??」

 俺の言ったこと聞いてた? という顔をするナストを引きずって採取ポイントへ向かった。



「はー……稼いだ稼いだ」

「それは良かった」

 水生魔物だけでも充分黒字だが、鑑定を使える姉弟が一緒ならば採取はさほど苦にならない作業であった。しかも今は薬草が値上がりしている状況なので、ナストは採取した薬草をすべて換金してさらに懐が温かくなった。

「それにしてもお前らの魔法ズルすぎるだろ。一瞬で帰って来れたし」

「魔法は総じてそういうものではないですか?」

「…………そうでした」

 『鑑定』は魔法ではなくスキルだが、姉弟は面倒そうなのでそういうことにしておいた。魔法とは便利な言葉である。

「ところで2人は何を頼むんだ?」

「そうですね……そろそろ肉の味が恋しくなってきたので肉料理にします」

「俺も」

 調理方法が極端に少ない世界でそう何食も同系統のものは食べていられない、というのが本音だろう。久しぶりの魚だからと毎食毎食焼き魚を食べるのは姉弟にはツラかった。

 それに、肉料理ならばいくらかソースを作り置きしているので、飽きたら別の味にして食べることもできる。

「でも本当キッチン付きの家を借りたいところね」

「ヴィーゼで借りた家は良かった」

 立派なキッチンとお風呂、そして調合できる作業台があり、それぞれが好きなことを好きなように出来る広さの家など早々見つかるものではない。特に、都市部は広さに対して人が溢れている状態なので、一軒当たりの広さはお察しである。都市は城壁で囲まれているので、今以上、土地を広げられないので仕方がないことではある。

 かといって田舎の方へ行くと、そういう家が建っていることがほぼないと言ってもいい。ヴィーゼで借りた家が特殊なのである。

「お前らの場合、家を建てた方が早そうだよな」

 どういう家がいいか、と条件をぽんぽん出していると、ナストが呆れたように零した。

「家の管理が面倒なので、現在は考えてないですね」

「人を雇うのも落ち着かないし、そもそもそんな頻繁に使うかどうかも分からない」

 ナストの提案はサクッと却下された。

 ナストも借家住みなのであまり人の事を言えないが、そもそも家事はほとんどしない人間なので姉弟とは相容れない部分は多いだろう。ちなみにナストの家にはキッチンも風呂場もない。食事は外で、風呂は井戸か公衆浴場である。

 タイミングよく店員が注文を取りに来たので話はそこで終わった。



 翌日。夕方には顔合わせがあるので、午前中は討伐依頼をこなして午後は昼食を食べたらゆっくりしよう、ということに決めていたヴェルメリオの3人。

 昨日の反省を生かして船は手配せず、ヒメカの魔法で魔物を岸に打ち上げつつ、残りの2人が始末する。途中でヒメカとユウトが交代したりしながらも、午前中だけでかなり稼ぐことが出来た。ナストも欲が出たのか、もう少しだけ、と、空腹を感じるまで作業を続け、結局3人が昼食を食べたのはランチタイムの客が引いてからだった。

「半日で2、3日分の稼ぎってやっぱりおかしい」

「魔法士が優遇されるのも頷ける」

「いや、お前らほどの使い手は早々いないから。そもそも魔力切れ起こさない時点でおかしい。マナポーションは高いから一度の稼ぎが大きくなっても結構カツカツらしいし」

「世知辛いですねぇ」

 MP量も桁違いでマナポーションも自作できてしまう姉弟だからこそ、稼ぎはほぼそのまま懐に入るわけで、普通はそうではない、とナストは力説する。しかし、当の本人達は経費が浮いていいじゃないか、と、楽観的に考えている節がある。

「なあ、マジでウルプスを拠点にする気はないか?」

「ないな」「ないですね」

 ナストはかなり短期間でランクを上げていっている成長株の冒険者であるだけあって、瞬時に役割を理解して立ち回る事の出来る、パーティ向けの資質の持ち主である。高度なチームワークを必要とする場合にその真価を発揮する。活動範囲が限られているため、現在はソロ中心で活動しているが、馬の合う仲間と固定パーティを組めれば一気に飛躍する可能性を秘めている。

 ただし、そのナストがパーティを組みたがっている相手は、現時点では一か所に留まる気がなかった。

 ナストが軽い口調で誘ってみるも、あっさりと返って来る二重の否定。とはいえ、ウルプスに寄った際にはまたパーティを組んでもいいかな、と思う程度には姉弟もナストを認めている。

「ま、いいや。それよりこの後ちょっと買い物に付き合ってくれ。孤児院に土産を買っていきたいんだ」

「何を買うんだ?」

「俺にセンスがあると思うのか? (訳:任せたぞ。お前ら)」

「「…………」」

 とりあえず、院長には異国のスカーフ、孤児院の子ども達には食料と本を数冊買うことにした。

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