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49話 姉は思いつきで行動します。

 一日教室を終えると、ヒメカは王都同様に教会関係者や治療に来た人々の信仰を集め、ユウトは年上を含んだ生徒達に尊敬されるようになっており、ナストは見目の良い神官や神官見習い達に「凄い凄い」と持て囃されてユウトの講義以外の力仕事も手伝っていた。

「いやぁモテる男はつらいなぁ」

 同じ男手であるにもかかわらず、ユウトは指導以外の全てを免除されている。むしろ、荷物持ちでもやろうものならば、すかさず人が現れて先を越されてしまう。

「…………良かったな」

 デレデレと顔を緩ませながら重い荷物を運ぶナストに、さしものユウトも空気を読んだ。

「俺は姉さんを迎えに行ってくるから適当に切り上げてこいよ」

 へいへーいと軽い返事で部屋を出て行くナストを見送ると、交渉役の神官が入れ違いで入ってきた。

「ユウト様、本日は無理なお願いをお聞き下さり、本当にありがとうございました」

「いえ。こちらも勉強になりました」

 教会ということもあり、直接的な表現は避けていたが報酬もきちんとあった。希少な薬草をいくらか譲ってくれたのだ。

「つきましては、司祭様よりお礼がしたいのでヴェルメリオの皆様方に夕食の席をご用意したいとのことなのですが……」

「(司祭様って確かあの時指示をだしてた人だよな……? 悪い感じはしなかったし断るのもな……)ではお言葉に甘えて、と言いたいところなのですが、一応メンバーに確認してもよろしいでしょうか?」

「勿論です。ではヒメカ様がいる部屋へ案内させていただきますね」

 こちらへどうぞ、と案内を買って出てくれた。

 この教会は治療院が独立していない為、廊下を歩いて行けばすぐであった。王都などの大きな教会でもなければ大体このような造りである。

 ユウトは案内されるままについて行くと、入れ代わり立ち代わり怪我人を診て治療してと、忙しくしながらも慌ただしさを感じさせないヒメカを見つけた。その姿は、柔らかい表情と声音で献身的に治療する『聖女』然とした様子であった。

「いつもこんなに忙しいのですか?」

「いえ、いつもはここまでではないのですが……」

 苦笑しながらちらりとヒメカを見る神官に、すべてを悟った。

 とりあえず一区切りつくのを待っていたが、あまりにも人が途切れないので最終的には交代要員を入れて少し強引に引き揚げさせると、それまで列をなしていた怪我人は波が引いたようにがガクンと減った。

(これが本当にモテるということだナスト……)

 案内役をしていた神官見習いに指示をだし、颯爽とヒメカを連れ去るユウトの鮮やかな手際に、それを見ていた女性のハートを鷲掴みにしたことには本人達は気付いていなかった。



 ようやく3人揃ったところで、夕食に誘われた旨を説明すると、2人とも快諾したので夕食をごちそうになる事になった。

「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私がこの教会の責任者を務めております、クラス・オーケルベリと申します」

 聖職者の服装を見事に着こなす美丈夫のクラス。しかし、仕草や雰囲気は神官というより騎士と言った方が似合っていた。

(先の事故での指示も冷静で的確だったし、もしかしたら本当に騎士だったのかも?)

 ヒメカはさりげなく確認するが、ステータスもそれなりに高い。ただし、日常生活には支障はないが足を怪我しているようだ。

「こちらこそご挨拶が遅れまして。きちんとお顔を合わせるのは初めてになります、ヒメカ・ホウライと申します。こちらがヴェルメリオのリーダーであるナスト。そしてメンバーのユウト・ホウライです。このような席には不慣れなため、お見苦しい点も多いかとは思いますがお目こぼしいただけると幸いです」

 出来ればナストが率先してメンバーを紹介した方が良いのだが、適材適所という冒険者の流儀に乗っ取ってヒメカがすることになった。ユウトはヒメカ同様にそつなく会釈をし、ナストは明らかに緊張した面持ちで勢いよく頭を下げる。

「これは我々からのお礼の席です。あまり堅苦しくならずに楽にしてください」

「ありがとうございます」

 表情や声から、それが建前ではなく本心なのだということが分かる。ヒメカが微笑んでみせると、ナストは明らかにホッとしていた。

(ナスト、顔や態度に出し過ぎだ)

(わ、悪い……)

 すかさず隣に立つユウトが釘をさす。ヒメカが話をしながら意識を逸らすが、おそらく筒抜けだろう。苦笑しながらヒメカの話に乗っていた。良い人である。



「ではオーケルベリ様は聖騎士様だったのですか?」

 テーブルには色とりどりの魚料理(魚自体がカラフル)が並び、姉弟は果実水、ナストとクラスは葡萄酒を飲みながらの食事会である。大分くだけたスタイルの食事だが、目の前で上品に食事をされては気後れしてしまうようで、ナストは緊張しっぱなしである。

「はい。お恥ずかしながら任務中に大きな怪我を負ってしまい、治療も間に合わず。普通に生活する分には全く問題ないのが幸いでした」

 緊張しているナストと、元々口数が多くないユウトはほとんど会話に参加しないため、ヒメカとクラスばかりが話しているが、食事の席自体は和やかな雰囲気だ。

(足がちぎれたわけでもないのに治療が間に合わない……? あ、そういえばこの世界の人達ってMPがそんなに無いんだった)

 自主的にステータスチェックをする場合、気になった人にしかしないため必然的に目にするMPも高い傾向がある。その上、自身や、ユウトでさえ桁違いの魔力量なのでどうしても思考から抜けてしまうヒメカであった。治療の際にも『鑑定』は使っているが、大体が怪我や病気が治っているかの確認なので、詳細なステータスは頭の片隅にしかなく、思い出そうとしなければ忘却の彼方である。

「あの、もしよろしければ食事の後に一度診せていただいてもよろしいですか? お嫌でしたら無理にとは言いません」

「それは構いませんが……」

「ありがとうございます」

 何かがヒメカの琴線に触れたようである。ユウトは呆れと少々の好奇心を含んだ目でヒメカを見た。



 食後、休憩を挟んでからクラスの古傷の診察を始めたヒメカ。下準備として、ユウトと協力して光の魔素を多量に含んだ魔素水を桶に用意する。まだ定着は出来ていないため、状態維持が出来るマジックポーチの中に入れておいた。

「では失礼しますね」

 ヒメカは問診をしてから『鑑定』で傷の詳細を調べる。

(『鑑定』もだけどスキルって使えば使うほど成長している感じなのよね~)

 その事に気付いたのは実は王都を出る前である。以前は基本的なステータスしか分からなかったが、現在はさらに詳細が分かるようになっていた。王都の治癒院で治療をする時は必ず『鑑定』をするようにしていたので、ユウトよりも頻度は高く、スキルにも差が出ているのが先程確認して分かった。

 光の魔素水を取り出し、魔素が抜ける前に古傷を覆うように状態固定。魔素の抜ける方向を傷へ誘導し、さらに『鑑定』で様子を逐一観察しながら変質した細胞を正常な細胞に入れ替えるイメージで回復魔法をかけていく。

(思ったより魔素の馴染みが良い。これなら何度か繰り返せば……)

 水から魔素が抜けるタイミングで次の魔素水を用意し、繰り返すこと数回。かさぶたが剥げるように古傷がポロッと剥げ落ちて治療は完了した。

「…………」

 上位回復魔法で失くした部位を補えるが、それは怪我を負って1時間が限界だった。治療が遅れれば遅れるほど、魔法の効きが悪くなり、後遺症を残すこともある。それだけに、一度定着してしまった傷は治せないのが常識だった。その常識をあっさり覆したヒメカに唖然とするしかなかった。

(ふむ。異常はなさそうかな)

 確認のためにもう一度『鑑定』をして、特に問題はなさそうだったため、ヒメカが顔を上げた。

「一応終わりましたので少し動いてみてもらってもいいですか?」

「は、はい」

 クラスは立ち上がると、ユウトに剣を借りて聖騎士時代に幾度となく練習した動きを繰り返してみる。ブランクはあるものの、踏ん張りが聞かなかった利き足は以前の様に動かせるようになっていた。

 じんわりと汗が滲むくらいになるまで夢中で剣を振ると、驚きや喜びの入り混じった様子で拳を握って打ち震えた。

「……もう二度と剣は握れないと思っていたのに……ヒメカさん、本当にありがとうございます」

「いえいえ~」

 言葉が見つからないほどに感激して眦に涙を浮かべるクラス。しかし、ヒメカは回復魔法の延長ないし変化形としか思っていない。両者には埋まらない差があった。

 その光景を見せられていたナストは、たぶん何か凄いことをしたんだろうな、と、よく理解できないまま受け入れ、ユウトはヒメカのしたことを考察しつつ、疑問点を洗い出してもっと効率化出来ないか考えていた。

(姉さんのMPが大分減ってる。やっぱりオリジナル魔法は魔力消費が激しいな……魔力操作は姉さんの方が得意だから俺がやるとなるともっと消費するだろうし、姉さんがどのレベルまで視えているのか……魔素水の有用性も上がったし定着出来れば更に楽になりそうだし、本腰入れて研究するか…………)

 ちなみにヒメカもユウトと同じようなことを考えていて、問題点や改善策を思案している。こういうところは本当に似たもの姉弟である。

 盛大にやらかしたことに気付かないまま、3人は宿へ戻った。

 この件の報告を受けた教会本部が騒然としたのは、結局3人の預かり知らぬところであった。

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