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48話 ポーションは大事です。

「あ」

 翌早朝。ユウトは一足先に起きたために、ポーションの補充をしようと自動ポーション作成魔法陣を起動させていた。MPは全快しているので問題なく可動していたが、材料が底を尽きてしまった。

「ん~……どうしたの?」

「ポーションの材料が切れた」

「……早起きして何してるのかと思ったら……」

 上体を起こし、大きく伸びをしながらベッドから降りるヒメカ。

 ヒメカもユウトが起き出した時に一度覚醒したが、眠気が勝ったので目を開けることなく二度寝して、起きたのが今。

「買いに行くとしてもたぶん昨日の今日だからどこに行っても割高か品切れじゃないかな。教会が確保すると思う」

「んー……効能的に精霊の泉に行きたいけどあんまり量が採れないし、いっそ王都に行くか……?」

「それなら昨日魚を買っておけば良かった」

 手土産に出来たのに、と残念そうにする。仕方がないので、少ないが昨日購入した魚を持って行く。ヒメカも一緒に行くなら、精霊の泉にも寄ろうという話になった。

「ナストさんはどうする?」

「今日は別行動ってことにすればいいだろ。夕方、商会へ行くときに合流すればいい」

「じゃあ言伝だけして出発ね。朝食の時に伝えればいいでしょう」

 身支度を整え、それでもまだ朝食までの時間があるので、紅茶を飲みつつ新たな魔法陣の構想を話し合った。



「皆様、どうかお力を貸していただけないでしょうか?」

「「「……」」」

 修道服に身を包む神官の女性が宿へやってきたのは、別行動を告げてすぐのことである。宿の従業員が呼びに来たので、もしかするとポリティス商会の人が来たのかと思って3人でついて行くと、来客用応接室へと通され、そこにいたのが目の前の彼女である。

 3人の姿を見るなり、勢いよく立ち上がって頭を下げる女性に、面倒事の臭いを察知してナストに押し付けようとする姉弟。そんな2人の首根っこを掴んで引きとめたナストはとりあえず椅子に座らせた。

「とりあえず話を聞かせて貰えますか?」

「はい!」

 相手が交渉の席に座ると同時に表情を明るくした女性は、用意していたようにつらつらと用件を述べた。

 要約すると、


 ・昨日の一件で使ったポーション類の効能が普通よりも高かった。

 ・冒険者がそれを求めてやってくるも、教会には普通のポーションしかない。

 ・あのポーションの製作者に直接聞けばいいのでは?

 ・あれだけ大量に持っていたということはお抱えの調合師がいるはず。


「つまり、ポーションのレシピを知りたい、と」

「紹介していただけるだけでもいいんです! 交渉は教会がいたしますので!」

「「「…………」」」

 どうするよ? と視線を交わすヴェルメリオの面々。まだ調合師がユウトであると知られたわけではないが、昨日使ったポーションは、ナルに教わったことを独自改良したものなのでナルを紹介するわけにもいかない。ナルの様にきちんとした身分があれば、教会も無茶なお願いをしにくいだろうが、出所不明の冒険者ならば、と思われるのも面倒であった。

「あの、随分対応が早いのは一体……昨日の今日ですよ?」

「怪我人や冒険者の方はいつでも受け付けていますので昨日の騒ぎが治まって教会へ戻った時にはすでに多くの問い合わせがありまして……それにこの町は漁業が盛んで朝の市なども開かれているので朝早くからいらっしゃる方も多くいます。勿論、深夜でも治療を受けられるように交代で待機していますし」

「ポーションをいくつかお譲りするのではダメなのでしょうか?」

 現物を渡すから研究はそっちでやってくれ、という意味で提案するが、首を横に振られる。

「実は、教会では決められたレシピでポーションを作っているだけでして、研究などは行っていないのです。ですので現物を頂いても解析できる者が……」

 レシピもここ30年以上変わっていませんし。という呟きが聞こえる。

((うわぁ……))

 思わず頭を覆いたくなる姉弟。この状態で製法を秘匿すれば、この町の冒険者達の不満は高まり続け、町の教会の権威が失墜、教会本部に連絡がいって、回り回って教会全体に恨まれる可能性が出てきた。教会が研究をないがしろにしたせいでもあるが、責任転嫁してこないとも限らない。

「少しパーティで話し合ってもいいですか?」

「はい。勿論です」

 よく分かっていないナストを引き連れて一度応接室を出て緊急会議。声が漏れないように『防音』魔法も展開する。

「さて、どうしようか」

「? 普通に教えるんじゃだめなのか?」

「ナストさん、私達がポーションを魔法陣で作っているのは知っていますよね? それを公開するリスクは大きいです」

 もし教会が製法を教会以外禁止したら、とか、魔法士ギルドの領分を犯すことに、とか、思いつく限りのリスクを列挙するヒメカ。ナストはつらつらと述べられる理由を聞いて、どんどん顔が青くなっていく。

 料理レシピの時に思いつけよ、と思わないでもないが、検索すればいくらでもレシピを閲覧できる世界で暮らしてきたために意識が低かっただけで、今回の件は世界中に影響力のある他社に企業秘密を暴露するようなもの、という思考である。

「とにかく話すことをきちんとした決めたほうがいいだろうな」

「教えるなら陣を使わない製法ね」

「魔素水(仮)に関してはどうする?」

「黙っておきましょう。すべてのポーションに使っていたわけじゃないし、確立した方法はまだ出来てないから」

 伝えるべきことと伝えるべきでないことを話し合う。ナストは、自分がここに居る意味はあるのだろうか? と姉弟の話を聞いていたが、急に姉弟に視線を寄越されてビクリとする。

「……交渉は私が。調合の説明は悠に任せるから」

「……その方がいい、か」

「…………」

 ダメな子扱いされている気がするが、その通りなのでナストは沈黙した。元々交渉事は苦手である。

(というか無理)

 こちら側の話し合いは終わったので再度入室して神官の向かいに座った。

「お待たせしました。結論から言わせていただきますと、可能です」

 不安に揺れていた瞳がパッと明るくなる。

「ただし、条件がいくつかあります」

「条件、ですか?」

 また不安げな顔に戻る。そこからはヒメカの独壇場で、調合師がユウトであることをこの場では隠しつつ、優位に交渉を進めた。商人を相手にするよりも断然簡単に事を進めることが出来た。



 その日は一度お帰り願い、当初の予定で姉弟は精霊の泉と王都で薬草を可能な限り入手して昼過ぎにアムニスへ戻った。

 王都では、ユウトはナルに事の経緯を説明し、レシピを公開することを伝えると、あっさり了承を得ることが出来た。むしろ、自分にもレシピを譲ってもらえないかというので、実際にその場で作成し、紙に書いたものも渡した。

 その間にヒメカはザライ家に行ってお土産と手紙を渡し、少しだけゴーシュやザライ一家とも話をすることが出来た。

「ギル君が悠に剣を見てもらいたがっていたわ」

「今日はバタバタしたからな。今度はゆっくり時間を取って王都へ行こうか」

「そうね。今回は置いて来ちゃったけどセキトバやスイも紹介したいし」

 普通は何週間もかけて行き来するというのに、魔法というチート技で、一瞬で王都を行き来できるから忘れている姉弟である。

 ナストと合流し、王都まで行ってきたと伝えた時の驚愕の表情は面白かった。

「もうお前ら冒険者じゃなくて運び屋でもすればいいんじゃないか?」

「「考えておく」」

 夕方、ポリティス商会で帰りの日程について説明を受け、4日後の朝出発ということで、前日の夕方にこちらで募った護衛の顔合わせをすることを聞いた。それまでは宿代も出すし馬の世話もするので自由にしてもらって構わないそうだ。



 翌日、教会へと出向いてパーティ名を名乗ると、交渉にやってきた女性が慌てて出てきた。昨日、調合師を連れて行くと言っておいたので、3人しかいないことに首を傾げたが、応接室でユウトが調合師であることを伝えると驚かれた。

「昨日、師匠に許可を貰ってきました。こちらの都合により、今日か明日のどちらか1日だけ指導しますが、どちらがいいですか?」

「では今日早速ですがよろしくお願いします」

 昨日の話し合いで指導は1日のみ、代わりにレシピを紙に書いて渡す、という約束を交わしていたので問題なかった。薬草は出来る限りかき集めたらしく、早速ユウトは調合室へと案内された。調合室で準備をしていると、その日、比較的手の空いている神官や見習い総動員でポーション作りをすることとなった。1日しか時間が取れないということで、その表情には緊張が見られたが、レシピの手順はそこまで違うわけでもないので、コツや見極めのポイントを出来る限り丁寧に教え込むことが出来た。後は繰り返し練習あるのみ。途中、休憩を挟みながらも、夕方までみっちり調合教室が開かれたのだった。

 その間、ヒメカとナストは何をしていたかというと、ヒメカは教会の治療の手伝いを申し出て、ナストはユウトの補助という名の雑用係に。あまりにも自然な流れで雑用係にされたナストがそのことに気付いた時にはすでに日が傾いていた。

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