47話 アムニスに到着しました。
「着いたー!」
港町、アムニスへと到着した一行は、まずポリティス商会の支部へと馬車を停車させる。その後に依頼書にサインをもらい、この町の冒険者ギルドへ提出しに行く手順である。
「出来れば『ヴェルメリオ』の御三方には帰りもお願いしたいです。日程としては4日後の早朝に出立となります。時間は出発した時と同じ時間です」
「了解です。こちらこそよろしくお願いします」
予定よりも1日早く到着した為、滞在日数が1日伸びたが、ナスト達は全く問題ない。ヒメカとユウトはむしろ喜んでいる位だ。この町にいる間は護衛が必要ないそうなので観光と魚料理を堪能する気でいる。
『深紅のはばたき』と『炎の槍』はといえば、護衛は片道のみとされたようで、商会に借りていた馬を返却し、一足先に片道分の報酬を貰いにギルドへと向かったらしい。
「では4日後に」
「はい」
ポリティス商会を出た3人は、手配してくれた宿へ一度チェックインしてから冒険者ギルドへと向かった。セキトバとスイは商会が預かってくれるというのでお言葉に甘える形でおまかせすることに。
冒険者ギルドの手続きもすぐに終わり、宿に戻るには早い時間だったので少し町を見て回ることにした3人。
「悠、悠、魚介類がいっぱい!」
「買おう」
「待て待て待て!」
意気揚々と店に突撃しようとする姉弟を止めたのはナスト。あまりにも落ち着きがなくなった姉弟に、一抹の不安を覚えたためである。
「何ですか? 魚が私を待っているんですが……」
「今買っても持って帰るときには腐るだろ!」
「大丈夫。氷漬けにして保管するし、すぐ食べるから」
「おまえ、いつになく生き生きとしてるな!?」
「もう何か月も魚を食べてないんだ。俺の体は魚を欲している」
「調理場はポリティス商会さんに借りるので大丈夫です!」
「だーもう! いいから落ち着け!!」
「「…………」」
ナストが声を張り上げると、ピタリと動きを止め、一瞬で冷静な表情になる姉弟。あまりの変わり様に注意したナストも動揺した。
「ど、どうした……?」
「いえ、ナストさんに落ち着けと言われて冷静になりました。ありがとうございます」
「え?」
「悪い。俺達は魚介類を渇望するあまり冷静さを欠いていたようだ」
「???」
あのナストに落ち着くように言われてはおしまいだな、と、冷水を浴びせられた気分で、目が覚めただけである。
とりあえず、猛省して落ち着きを取り戻した姉弟は、今度は取り乱すこともなく、立ち並ぶ店を物色し始めた。訳が分からないのはナストだけで、いつもの調子に戻ったしいいか、と、黙って姉弟について行ったのだった。
「見たことがない魚ばかりで悩ましい……」
「今日はいっそ勘で決めるか……?」
「それも手ではある」
ナストに注意された手前、全種を買うわけにはいかずに吟味することになってしまった姉弟の目は真剣そのもので、どこの料理人かと問いたくなるほどに鋭い。ただし、最終的には勘頼りというなんとも言えない着地点に話が転がっていく。
「なあ、まだ決まらないのか?」
「「ちょっと待って」」
店主の薦めで、ある程度選択の範囲は狭まったがそれでも悩む。姉弟の魚への情熱は、落ち着きはしたが消えてはいないのだ。
(せーの)
「「これ」」
姉弟は同時に同じ魚を指し示す。王都で薬草摘みの依頼を決めた時と同じ方法である。
「決まりね。すみません。この魚を6尾ください」
種類が決まれば話は早く、これとこれとこれ、とおいしそうな魚を選んで購入。異世界の知識と鑑定のタッグはいいものを選定するのに便利である。
「嬢ちゃん達、目が良いな」
店主も苦笑しながら、指示された魚を選り分けて渡した。
「魚はめったに食べられないのでつい……ありがとうございます」
お金を手渡しながら受け取った魚を収納。
「まあ、たしかにこの国だと海は東側にしかないしなぁ」
「王都にいたんですけどほとんど見ませんでした」
「輸送が難しいからなぁ。大抵、大店に買われちまうだろうな。ま、この町に来たんだ。存分に海の幸を堪能してくれや」
そう言うと、店主はおまけをつけてくれた。ヒメカは満面の笑みでお礼を言ってお店を後にした。
「なあ、魚ってそんなにうまいのか?」
「ナストは食べたことないのか?」
「川魚なら何度かあるけどあんまり美味いと思ったことはないな」
ナストが食べたのは釣った魚を焼いただけの下処理も何もしていないものだった。塩は貴重なのであまり使わない。依頼で遠出したときに、食料確保が出来なかった時に食べたそうだ。
「それなら安心しろ。美味いのが食べられるから」
そんな風に話しながら宿に戻ると、ポリティス商会の使いの人が来ていた。
「ヴェルメリオの皆さん! よかった。入れ違いにならなくて済みました」
「どうしたんですか?」
「実は漁港で大きな事故がありまして、ホウライ様はたしか回復魔法をお使いになられるのを思い出しまして。大変恐縮なのですがご助力いただけないでしょうか?」
「すぐに行きます」
「俺も行く。ナストはどうする?」
「行く。力仕事がいるかもしれないし、邪魔にはならないだろ」
「あ、ありがとうございます!」
すぐさま宿を飛び出すことになった3人は、案内されるままに漁港へと急いだ。
3人が漁港へ着くと、たくさんの怪我人がひしめいていた。
案内してくれた人によると、一隻の船が別の船にぶつかり、そのまま港へ乗り上げたのだとか。乗組員やそこで作業していた人、直接仕入れに来た商人なども巻き込み、被害が大きくなったらしい。
港町として発展しているとはいえ、回復魔法が使える神官などの数も限られていて、冒険者で回復魔法が使える者も多くないため、治療が追いついていない状況なのだそうだ。
「私はとりあえず重傷者から順に片っ端から治療するわ。悠は指示を出している人の所へ行って状況確認。把握出来たら教えに来てくれる? ナストさんは事故現場へいって救出する人がまだいないか確認してきてください。あとは各自判断で」
言うが早いか、ヒメカは怪我人が寝かされているところへ飛んでいき、治療に当たった。
「ナスト、ぼうっとしてないで行動」
「お、おう!」
ユウトとナストはそれぞれ別方向へ駆けて行った。
ユウトはざっと周囲を確認して指示を出している人を探す。人が入り乱れてあらゆるところから声が飛び交っているため把握が難しいが、なんとか探し出すと声を掛けた。
「すみません、回復魔法が使える人を連れてきました。中位回復まで使えます」
「何!? じゃあこっちへ来てくれるか!? 重傷者の治療が遅れているんだ!」
「わかりました。もう1人いるんですぐ連れてきます」
「それは助かる!」
怪我の度合いで大雑把にエリア分けしているらしく、重傷者のエリアを確認してヒメカの元へと走る。
ヒメカは複数人同時回復をしながら、どんどん治療を済ませては次の怪我人を治療していて、MP切れを起こしている回復魔法士にマナポーションを渡していた。
「姉さん、あっちに重傷者のエリアがある」
「了解。すみません、こちらは任せます」
神官見習いらしい少年にマナポーションをどさっと渡してユウトと合流するヒメカ。ユウトの先導で重傷者エリアへ移動し、再び治療を開始した。
「悠、中級ポーション」
「姉さん、こっちの人お願い」
「治療が終わった人は場所移動させてください」
「等級外で応急処置しろ」
2人は魔法とポーションを上手く使い分けてMP管理もきっちりしながら、的確に指示を出す万能ぶりで、教会から派遣された神官達はすっかり指揮権を譲って治療に当たっている。神官達は基本的に教会での治療しかしないため、こういった場当たり的な判断が苦手な者も多かったのでそのまま乗っかった。それでも反発する者はいたが、姉弟はすぐさま邪魔者を思考から消した。
「中級ポーション切れそう。姉さん、何個?」
「47」
「頂戴」
「はい」
MPが枯渇する(倒れる)前にユウトはポーション治療に切り替え、後は回復魔法に慣れているヒメカに任せる。ヒメカも手持ちのポーションを全てユウトに渡し、マナポーションを受け取る。口数は少ないながらも意思疎通は問題なく行われている。
そうしてひたすら治療をしていれば、現場はだんだん落ち着いてくる。
「後はまかせても大丈夫、かな?」
『洗浄』に回すMPすら惜しかったために血塗れの服のまま、清潔な布で手を拭きながら周囲を見回すヒメカ。
「ヒメカさん」
「ハリソンさん」
「応援に来ていただいて感謝します。怪我人の中には知り合いの漁師もいたもので、ふとヒメカさんのことを思い出しまして……」
図ったかのようにタイミングよく声を掛けてきたハリソンに、ヒメカは愛想よく返す。
「いえ。私に出来ることは限られているので…………随分大きな事故だったようですね」
「そうですね。幸い、ウチの者は全員無事でしたが、遠目から見ただけでも凄まじいものでしたからね」
ヒメカにだけ聞こえるように声を潜めて、「王都で噂の聖女様が来てくれて助かりました」と続けた。
反射的に驚きを表情に出してしまったヒメカに、ニコニコと笑顔のハリソン。
「随分広い耳をお持ちなようですね」
「王都には伝手がありまして」
「さすがポリティス商会様ですね」
「恐縮です」
アムニスはこの国一番といっていいほど大きな港である。さすがに生鮮食品は無理だろうが、異国からの品も取り扱っているポリティス商会が王都に伝手があっても全く不思議ではなかった。
「姉さん、ここはもう大丈夫だそうだ。あ……お話し中失礼しました」
「いえいえ。こちらこそお忙しい中話し掛けてしまって申し訳ありません。あと一つだけ。ヴェルメリオの皆さんに今後の日程についてご相談したいので明日の夕方、商会まで来ていただけますか? この事故の影響で予定がズレる可能性があるので」
「了解しました。リーダーにも伝えておきます」
「よろしくお願いしますね」
また使いを出しますので、と、その場を後にしたハリソン。その後ろ姿を見送り、現場責任者に一言挨拶してヒメカ達もナストと合流して宿へと戻った。
「疲れたぁ……」
「温泉行く?」
「んー……もう宿のお風呂でいいかな」
「ん。いってらっしゃい」
宿は2人部屋と1人部屋の二部屋、廊下を挟んだ向かいの部屋を用意されていた。ナストは1人部屋を使ってもらい、姉弟が一緒の部屋に寝ることにした。ポーションの補充をする予定だったが、バスルームから出てきたヒメカは即行で就寝。ユウトもまた疲れていたのか、姉と同じ道を辿った。




