40話 当たらなくていい予感ほど当たるのは何故なのでしょう。
最低限の挨拶だけすると、依頼主とギルド職員が入室したため、パーティ毎に固まる。男3人組が立ち上がってはいるが、ソファを占領しているのには、『深紅のはばたき』のメンバーが若干顔を顰めそうになっていたが、依頼主の前だからと我慢したようだった。
依頼主は白髪交じりの壮年男性で、数年前に商会を引き継いだ会頭である。脇には秘書のような執事のような、会頭よりも年上の男性もいた。
秘書(?)が参加者を一瞥すると、『ヴェルメリオ』を見て会頭にこそっと何かを話し掛けた。会頭もそれを聞いて小さく頷く。
「皆さん、今日はお集まりいただき感謝いたします。私が依頼主のハリソン・ポリティスと申します。こっちは秘書のヒューズです」
紹介されてヒューズが丁寧なお辞儀をする。礼儀作法は完璧で細身。品の良い老人にしか見えないが、鑑定の出来る姉弟は、ヒューズが双剣使いで、かつて見たSランク相当のステータスを持っているのが分かっている。
「『炎の槍』のリーダーをしているパテルと申す。こっちはメンバーのアルヴィーとギリアンだ」
真っ先に挨拶したパテル。『深紅のはばたき』が余計に面白くないようで、表情が崩れる。一触即発かと思われたが、まだ理性的だったらしい。『深紅のはばたき』も挨拶し、『ヴェルメリオ』も続いた。
あまりいい空気ではない中、護衛依頼に関しての話し合いが行われたが、事前打ち合わせが終わっていないのを察知したのか、ポリティス商会側は必要な情報のみを伝え、「詳細は明日の出発前に報せてくれればいい」と言って帰っていった。
残された冒険者達は、護衛の計画を話し合うために残っているが、依頼主がいなくなると同時に『深紅のはばたき』が『炎の槍』に喰って掛かった。
「おい! 何をリーダー面してんだよ!」
「はぁ? 何か問題でも?」
「あるに決まってんだろ!!」
ボスウェルの言葉に、パーティメンバーも炎の槍を睨みつけて援護するが、パテルを筆頭に『炎の槍』も負けずと睨み返す。
そこからはもう目も当てられないような嫌味や罵倒での遣り取りに発展する。
「長引きそうですねー」
「さっさと決めて帰りたいんだけど。ナスト、アレ、どうにかしてこいよ」
「アホか! あんなのに口を挟んだら火に油を注ぐようなもんだろうが!」
話を進めようとすれば、リーダー振るな! と言われるのが、簡単に想像がつく。だからといって放っておくわけにもいかないし、と手をこまねいている状態だった。
『ヴェルメリオ』としてみれば、どちらが指揮権をとってもろくなことにならなさそうだが、かといって自分達が指揮しても言うことを聞かなさそうなため、どうでもいい。ということで静観することにした。
「もういっそ商隊の前、中、後ろで分かれて護衛すればいいんじゃないか?」
「ふん! 貴様の提案というのは気に喰わないがもうそれでいい!」
2時間後、そろそろ言い合いもダレてきたのを見計らってナストが提案すると、疲れた2パーティも渋々承諾した。
「じゃあ位置はそっちで決めてくれ。俺達は余りでいい」
そう言うナストに、第2戦が始まるかと思ったが、2パーティはそれぞれ真面目に話し合いを始めた。護衛対象の馬車は7台。真ん中の馬車には依頼主であるハリソンと、秘書のヒューズが乗る。ちなみに、『ヴェルメリオ』が馬を2頭持っているのは伝えてある。
「おつかれ」
「お前ら、全部俺に押し付けやがって……!」
「まあまあ。夕食は私達が奢りますから」
「あ、それならアレ食べたい。肉にピリッと辛い黄色いタレが付いたやつ」
「手料理でいいんですか?」
「安上がり……」
「いや、ぶっちゃけ店より美味いし。ギルドの食堂で食べようぜ。あ、酒は奢れよ」
「「はいはい」」
欠片も話し合いに参加する気がない3人は夕食の話題で盛り上がる。ナストにしてみれば、連携が取れない相手との仕事なんて今までに何度もこなしてきた。時には失敗することもあったが、このパーティメンバーならば大丈夫だろう、と。
(慢心する気はないが……)
どう贔屓目に見ても冒険者には到底見えない2人の戦闘力は桁外れ。自身も、学はないが、Bランクに上がれるだけの腕はある。経験のなさはどうにも出来ないが、さっきまで言い争いをしていた、ナストよりも年上の奴らよりはマシだろう。(ナストは18歳)
(その分、パーティ間の打ち合わせは綿密にしておくけど)
ナストは大きなため息を吐いた。




