31話 勉強会をします。
「とりあえず問題集を見せてくれ」
「おう」
ナストから受け取った問題集をパラパラとめくり、最後まで目を通したユウトは微妙な顔をした。
(何だこれ)
「どうした?」
「いや、うん。じゃあ早速やろうか」
それもそのはず、問題集には「金貨○枚と銀貨○枚はいくらになるでしょう」から始まり、後は簡単な四則計算ばかり。基礎知識を問う問題も、多少の暗記は必要だが冒険者をしていたらそう難しくはない。識字能力は問題文が読めるか、ということのようだった。
ユウトはちらりとヒメカを見るが、にっこりと笑みを浮かべていることからどうやら知っていたようだ。
(じゃなきゃ教えろとか言わないよなぁ……)
王都でギルに見せてもらった教科書の方が余程難しい。ユウトは頭を切り替え、目の前でそれに悪戦苦闘しているナストを鍛えることにした。
「だー!! 疲れた!!」
「お疲れ様。今日はこの位にするか」
「え、今日「は」って……?」
「明日もやる」
しばらく計算問題を解きながら、雑談まじりに基礎知識の内容を話しながらまた計算。ナストはといえば、知識は全く問題ないようで、計算、特に乗算除算はボロボロだ。
「まじかよ…………てか、お前、ちゃんと教えてくれるんだな。最初嫌がってただろ?」
「やると決めたならきちんとやるよ。というか、お前、足し算すら間違うってどうなんだ?」
「うっせー、全く出来ない奴もいるんだからむしろ俺はマシな方だ」
パーティに1人、簡単な計算が出来る者がいれば充分、とそう考える冒険者も少なくないらしい。
「でもお前基本ソロだろ? 分け前を誤魔化されたりしたらどうするんだよ」
「そういう奴は見れば分かるし職員に聞けばすぐにバレる。それに、一度でもそんなことした奴はすぐ噂になるからな。そもそも組まねえよ」
「……なるほど」
つまり、計算の必要性がほとんどない、とそういうことらしい。普段の買い物はどうするんだと思わなくはないが、正確な計算は出来ずとも、大体どのくらいになるというのは分かるため、余程の水増しをしない限りは問題にならないようだ。
「リックさん達は全員出来るんだよな。Bランクだし」
「まあ、教会に行けば教えてくれるしな。俺はせんせーに教えてもらったけど」
お勉強の時間になると脱走して大変だったのよーと、ミランダの声が聞こえてくる。
「そういうわけでミランダさん。明日もここを借りていいですか?」
「勿論よ。ぜひお願いします」
巣立ったとはいえ、やはりナストもここの子。というわけでミランダは快く了承した。ユウトは教え方も上手だし、子ども達の中にも、2人の様子が気になっている子もいたので次回から生徒が増えることも決定した。
「姉さんも時々手伝って」
「勿論よ」
翌日、ナスト達が問題を解いている間暇だからとユウトは調合の許可を取り、同じく魔法の訓練をするヒメカ。そしてそれに興味を持った子ども達とで、自然に勉強科目が増えた。
「なあ、お前のその頭の良さは何なんだよ……」
「調合に計算は必要不可欠。調合比率を間違えたら材料が無駄になる」
まさか異世界から来たからとは言えず、適当に誤魔化す。そしてそれで誤魔化されてくれるのがナストの良い所だ。
「ひりつ」
「言っておくが、魔法の方が学問としては余程複雑だからな」
暗に姉の方が凄い、と、目の前で魔法の理論を説明しているヒメカを指し示す。今まさに調合で起きる反応を魔法に組み込んで最適化する、というようなことを教えているところだ。
(ん? あれ? ちょっと待て。あれを使えばポーションの自動生成が出来るんじゃ……?)
「姉さん、ちょっといい?」
「何?」
「これ使ってみていい?」
地面に描かれた魔法陣に、ポーションの材料を配置、起動してみる。
「……失敗か。姉さん、少し書き換えても大丈夫?」
「どうぞー」
ヒメカが興味深そうに眺めている中、ユウトは一部書き換えて再び起動。今度は成功した。
「なるほど。マナポーションはどうやって作るの?」
「基本は一緒だけど、マナ草から魔力抽出して調合師の魔力と混ぜ合わせて均一化する必要があるからこれは使えない」
「それならこれは?」
そういって地面に新しい魔法陣を書くヒメカ。それを見てユウトがいくつか指摘して直して、と何度か繰り返したら実験。こちらも何度か繰り返すうちに成功した。
「魔石を組み込めば自動生成可能になったな」
「魔石を組み込む式はすでに確立しているから書き足すだけでいい。帰りに専用の布を買いましょうか。この街にも魔道具のお店があるからそこで手に入るわ」
置いてきぼりになったナストはポカンと口を開けたまま間抜けな面で2人を見ている。子ども達はイマイチ凄さがわかっていないのか、すごい! すごい! と素直に賞賛している。
「俺、何でこんなやつと張り合おうとしたんだろ……」
微かに残っていたナストのプライドはものの見事に砕け散った。




