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3話 冒険者始めました。

 翌日。宿で朝食を軽く済ませた2人はギルドへと来ていた。

 ギルドはランク制になっており、2人のランクは当然だが一番下のFランクからスタート。一番上はSでA~Fとある。二人の今日の目標は一つ上のEランクへと昇格すること。一番下のランクとはいえ、たった一日でランクを1つ上げるのは楽なことではない。ギルドの定めるポイントを稼ぐ必要があるが、Fランクの任務はそもそもポイントが低い。依頼を1、2個こなして昇格、とはいかないのだ。

「とりあえずこの辺の地図を買ってきたよ」

「じゃあ行先を決めましょう。せーの」

「「ここ」」

 テーブルに広げられた地図を同時に指差す。見事に同じ個所を指していた。

「決まった」

「じゃあ出発しよう」

(((((ええええええええ……………)))))

 親切心や下心、野次馬心など様々な理由で2人のやりとりを見ていたハンター達が心を一つにした瞬間だった。



「♪~」

 勘頼りで向かった場所は、驚くことに薬草の宝庫だった。

 依頼はメリム草の採取なので鑑定スキルを使ってメリム草をサクサク採取する。途中から広範囲鑑定が出来るようになり、作業ペースが更に上がった。途中で現れるフィールドラットは相変わらず即殺である。

「あ、これマナ草だって。MPを微量回復」

 メリム草と同じく採取依頼にあったマナ草。MPの回復アイテムであるマナポーションの材料となる。ちなみにMPは一晩ぐっすり眠れば自動回復する。

「こっちにもあった。メリム草と比べるとあんまりないみたいだな」

「メリム草10株に対してマナ草は5株で報酬1.5倍だったからね」

「そういえば調合って自分達で出来ないかな?」

「どうなんだろ? 王都だし、調べたら分かるかも」

 調べたい情報として頭に書き込む。王都というだけあって人は多いし規模は大きいし、色々分かるだろうと予想しつつ、2人は黙々と薬草を採取していった。



 太陽が真上に昇る頃、2人は採取にキリをつけて王都へと戻っていた。

「採取依頼の確認お願いします」

 人がまばらだった朝と違い、冒険者も職員も多い冒険者ギルド。王都の冒険者ギルドだけあって混雑具合は凄まじい。出来るだけ空いている窓口へと並び、依頼完了を確かめてもらうためにドサッとメリム草とマナ草を差し出す。量が量なので、メリム草は10株ずつ、マナ草は5株ずつを紐で縛って一纏めにしている。

 ちなみにその日はメリム草16束、マナ草12束を納品した。報酬はメリム草一束で銅貨4枚。マナ草が銅貨6枚である。

「す、すごい量ですね……」

「群生地だったみたいで結構すんなり見つかりました」

 偶然にも、対応したのは朝から出勤している受付嬢だった。まあ、つまりは2人の採取場所の決め方を知っている人なのだ。驚きはひとしおである。

「フィールドラットの依頼もいいですか?」

 討伐証明としてフィールドラットの額の赤い石を出す。その他は後で隣の買い取り窓口へ持っていく予定だ。

「…………(絶句)」

 小さな袋に入れられた赤い石はざっと見ただけでも50はある。受付嬢が固まるのも無理はない。昨日冒険者登録したばかりの新人中の新人がこれだけの成果を午前中だけであげたのだから。

「す、スゴイですね」

「薬草も多かったけど、フィールドラットも多かったんで」

「巣でもあったのかな?」

 ケロッとしている2人に何とも言えない受付嬢はどうにかプロ根性で乗り切った。滅多にないがゼロではないのがこの業界。受付嬢は、2人はそういう人種なのだと区別したようだ。スマートな仕事ぶりで手続きを終わらせる。

「お二人ともギルドカードを水晶にかざしてください。……はい。これで完了です。お二人のランクは一つ上のEランクとなりました。この調子でどんどんランクを上げてくださいね。フィールドラットは5体で銀貨2枚なので、メリム草とマナ草の分も合わせての報酬がこちらになります」

「ありがとうございます」

 受け取った報酬は大事にマジックポーチに仕舞うと、すぐに買い取り窓口へモンスター素材を売りにいく。今回は自分達で解体したので解体料はなしだ。解体も綺麗だったから、ということでギルド職員が解体したのとほぼ同額で売れた。金貨12枚銀貨7枚銅貨2枚を手に入れた。



「思ったよりお金って手に入るんだね」

「物価はそんなに高くないのにな」

 目安としては銅貨3枚あれば普通に一日。5枚あればそれなりに美味しい物が食べられる。宿に金貨を支払うのは贅沢に他ならないが、2人の半日で稼ぐ額を考えると妥当かもしれない。普通の冒険者(Dランク以下)の一日の稼ぎは大体銀貨5~8枚なのだ。2人の異常さが分かっていただけるだろうか。

「目標は達成したし、午後は情報収集にしようか」

 昼食をギルド内の食堂で食べながら今日の予定を話し合う。遠隔での情報伝達が不可能な世界なのでこういう話し合いは必須だ。

「そうね。手分けした方が良いし、私は魔法関連、あとは市場にも行ってみるよ。物価に関しても知っておきたいし。宿は今日も昨日と同じ所だよね? 簡単なキッチンあったし料理したい。連泊したら安くなるみたいだし、五日分前払いしてもいい?」

「いいよ。……俺は何を調べよう。調合方法は知っておきたいけど……」

「特に決めなくてもいいと思うよ。街をぶらぶらして適当に買い物して……あ、武器と防具でも見てきたら? ランク上がったから、討伐依頼も増えるし必要でしょう?」

 2人が王都へ来る途中に討伐したブラッディベアの依頼はもう一つ上のランクの仕事なのは今日初めて知った2人である。あれだけ弱いのに? と首を傾げる2人だったが、2人はすっかり忘れている。自分たちのステータスが高いことを。

「じゃあ、そうしようかな」

「ん。じゃあこれお金ね」

 そう言ってヒメカは金貨を9枚、銀貨8枚を渡す。現在の所持金は金貨23枚、銀貨4枚、銅貨7枚である。そこから5日分の宿代金貨4枚を引いて残りの半分を渡した計算だ。

「集合は宿ね。この人の多さじゃ途中で合流も難しいだろうし」

「そうだな。じゃあこの後は別行動ってことで。くれぐれも気を付けて。姉さん舐められやすい外見なんだから」

「恐喝もスリもぼったくりもおつりの誤魔化しその他諸々返り討ちにするから大丈夫」

「ならいいけど」

 物騒な物言いだが、現実として可能なのが怖い。

 打ち合わせを終えると2人は別々の方向へ歩いて行った。



+ヒメカサイド+

 ユウトと分かれたヒメカは魔法に関係していそうなお店が集まったエリアへ来ていた。

 冒険者の中にはもちろん魔法士もいるわけで、事前に簡単な情報収集もしていたので、今日は魔法書関係を探しに来たのだ。

 無駄に高いMPを有効活用するためにも、少しでも早くたくさんの魔法を覚えたい。特に回復系。回復薬でもいいが大量に必要になりそうな気がするので魔法での回復を主体にしたいところだ。

 魔法士は後衛にいることが多いと聞くが、別にヒメカは前衛でも全く問題ないステータス。そこに魔法の素養もあるだけで、性格を加味するならば前衛である。攻撃は物理で回復だけ魔法、ということも可能なのである。高ランクになれば物理防御の高い魔物もいるらしいのでその時は攻撃魔法を使う予定ではあるが、優先順位としては回復魔法>補助魔法≧攻撃魔法といった感じだろうか。

 あとは魔法士自体についても知っておきたい。冒険者ギルドとは別に魔法ギルドなるものがあるらしい。正直ヒメカはそういったものに所属したくない。理由は単純に面倒くさいからだ。噂によると貴族が多く所属しているらしく、あまりいい噂を聞かない。というのが今日の収穫である。

(さて。魔法ギルドに目をつけられない程度にもう少し情報を集めないとね)

 自然と口角が上がる。スリルがある方がやる気が出る。ヒメカはそれを楽しめる部類の人間だった。



+ユウトサイド+

 ユウトは観光も兼ねて街をブラブラしていた。姉を心配するような発言はしたが、実際にはそこまで心配していない。見た目の割に存外しっかり者で交渉力も高く、人を見る目もあるのだ。

 立ち並ぶ店舗をチェックしつつ、のんびり歩いていると、鍛冶屋『グーグー』の前まで来た。

(コレのお礼と防具を見せてもらおうかな……)

 腰に下がる剣に触れながらふらりと立ち寄ると、どうやら今日は別の客がいるようだ。昨日来た時は自分達しかいなかったが、客がいるのはいいことだ。それが良い客だったら、の話だが。

「だから! ちょっとまける位いいだろ!」

 値段の交渉をしているようだが、冒険者らしき男の提示する金額は交渉とも言えない位に馬鹿げた値段だった。

(それじゃ親父さんの腕が悪いって言ってるようなもんだろうが……)

 この店で買ったナイフは金貨1枚とは思えない位に優れていた。そんな店主の腕が悪いとはどうしても思えない。

 しばらく静観しようとそっと防具のある方へ移動し、耳だけはカウンターへ傾ける。

 そうして聞いていると、それなりに冒険者歴のあるCランクの中堅冒険者で、次の討伐依頼をこなしたらBへと上がれるらしい。その前祝いに良い物を買いたいが、金は抑えたいのだそうだ。

(それならきちんと支払えよ。その剣にはそれだけの価値があるんだから)

 商人的な感覚は姉ほどではないが、鑑定せずとも見れば良い物かどうかくらいは分かる。

(そういえばこの店、ちょいちょい値段設定がおかしい物がおいてあるよな……)

 ソレ以外の値段設定は適正な気がするのに、ソレだけが異常に安い。金銭感覚がまだ掴めていないユウトは疑問だけで済んでいる。後に、それが店主の篩なのだと知るが。

「払わねえならさっさと帰れ」

「ああ゛!? それが客に対する態度かよ!!!」

 感情的になって剣を振り上げた男。ユウトはスルリと(他の者には一瞬に見えるだろうが)男に近づき、振り上げた手を掴んだ。

「…………」

「は、放せ!」

 どうにかユウトの手を振りほどこうとするが、びくともしない。ステータスの差故だが、それを知ることが出来るのは、この場でユウトだけである。男も店主も、まさか細身な青年が中堅冒険者の動きを完全に封じるとは思っていなかったようで驚いているようだ。

「その剣には値段相応の価値がある。どうしてもあんたの提示する金額がいいなら金額に合ったレベルの物を買えばいい」

「ぐっ……………放せ! チッもうこんな店二度と来ねえよ!!」

 ようやく諦めた男は剣を乱雑に放り、声を荒げて出て行った。

「申し訳ありません。差し出がましいことをしてしまいました……」

「別にかまわん。あいつには売る気がしなかったしな。……今日は連れが一緒じゃないのか?」

 わずかに店主が心配そうにしているが、ユウトは何でも無いように答える。

「姉とは別行動中です。王都には初めて来たもので色々見て回っています」

「ああ、あんたら姉弟だったのか」

「そういえば言ってませんでしたね」

 似ているとも言えないが、似ていないとも言えない。そんな姉弟である。鈍感力はそっくりだが内面的なことなのでまだバレていない。

 その後、お茶を出してくれた店主にユウトは色々と教えてもらうのだった。



 夕方、宿へ到着したユウトは、受付の男性に声を掛けるとすぐに部屋へと案内してくれた。

 部屋の扉を開けると、美味しそうな匂いが漂ってくる。扉を開けるまで全く匂いがしなかったのは、ファンタジーな理由だろう。

「あ、おかえり。もうすぐ出来るから少し待って」

 宣言通り、少しして出来上がった夕食を食べつつ、本日、得た情報を交換する。

「まずは俺から。グーグーの親父さんに色々教えてもらった。まずは調合。これは道具と材料さえあれば出来るらしいけど、効率よく勉強するには誰かに師事するのが一番だって。街に出回っている回復薬やマナポーションなんかはほとんど『教会』が作ってるらしい。まあ、自力で作ってる冒険者もいないこともないけど、数は少ないらしい」

「あ、それなら私も報告。低位の回復魔法は属性さえあれば出来るけど、中高位の回復魔法は上位ランカーの回復役か『教会』の人しか使わないから情報が出回ってないみたい。光属性は聖属性ともいわれていて、希少。だから、教会へ行けば無償で回復魔法をしてくれるんだって。教会は中規模以上の街にしかないから回復薬は必須だって言われた」

 自分達に光属性があることは伏せて情報を収集していたヒメカがそう報告した。

「『教会』には一度行ってみたほうがいいのかな……俺達に光属性があることがバレて、無理矢理教会に所属させられたりとかは?」

「その心配はないかな。教会の収入のほとんどは寄付金によるもので、国の補助金+寄付金で余裕があるから給料がいいとは聞いた。人数も少ないしね。ギルドの人にも聞いてみたけど、回復魔法持ちの小遣い稼ぎに教会のお手伝いがあるんだって。いつも見ていた掲示板から少し離れたところに常時依頼として依頼書が張り出されていた。Cランク並の報酬、だったかな。むしろ、面倒なのは魔法ギルドの方。学院って呼ばれる国立の養成学校の魔法科卒業生のほとんどが所属するらしいんだけど、貴族が多いらしくてあんまりいい噂はないのよね。一応魔法や魔道具の研究を主にしているらしいんだけど、基本は貴族思想の階級重視。そのくせ魔法士はすべからく魔法ギルドに所属すべし、みたいなこと言っているから平民出身の魔法士が多い冒険者からは嫌われてる」

「じゃあ、魔法を使うのは控えた方がいいのか?」

「んーん。冒険者ギルドがある程度守ってくれるみたい。まあ、それもあって魔法ギルドと冒険者ギルドは仲が悪いわけなんだけど」

「じゃあいいか。じゃあ、その他の報告として―――――」

 ユウトの報告は生活するための情報が主であり、自分達の稼ぎが異常であることを確認させられるものだったと言っておこう。ヒメカは魔法に関することと、市場で流通している大雑把な品目、物価の安さを再確認。袋を両手に抱える位(実際には抱えないが)大量に買って銀貨2枚もしなかったのだとか。

「この世界って調味料がほとんどなくて味付けは基本塩。お米はないけど小麦はある。こしょうと砂糖は高いけどあるよ。この世界に飛ばされたときに色々持っていて良かったー。魔法で複製できないか試したら出来たから今後困ることはないかな。ただこっちの世界の物は無理みたい」

「ああ、たしかに。この世界の料理って素材そのままだよな。肉は焼いて塩だけとか、野菜は生か茹でるだけ、果物は丸かじりが基本」

「調理器具もほとんど売ってなかったー。まあ、それでも作れないわけじゃないからいいけどー」

 料理に関してはユウトも出来なくはないが、ヒメカの方が圧倒的に得意なため、そちらへ一任する。ヒメカも了承しているので全く問題ない。

 一先ず、明日の予定は、午前中で終わりそうな討伐依頼をこなし、午後は教会へ行ってみることにした。中位・上位回復魔法はあった方が良いし、何より教会からの依頼は良い小遣い稼ぎになりそうだからだ。

「明日の討伐依頼は出来れば魔物が多い場所がいいな。正直ランクに合わせてたら体が鈍って仕方がない」

「それは同感。移動速度上昇魔法も覚えたから少し遠出してもいいかも。さらに『地点登録』しておけばいつでも行けるし」

 簡単に話題に出た魔法の説明も付け加える。

「つくづく魔法って便利だな」

「他にも便利そうなものは大体覚えたよ。『洗浄』とか『地図化(マッピング )』とか。『洗浄』は悠も覚える? お風呂に入れない時に重宝する生活魔法だよ。MPの消費も2だけだし」

「それなら覚えようかな」

 その後は、プチ魔法講座の運びとなった。余談だが、食べ終えた食器類は魔法の練習で新品同様に綺麗になった。

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