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28話 報酬を分配します。

 ヒメカを宿のベッドへ寝かせると、ユウトも自分のベッドに倒れ込む。

(疲れた……)

 1時間も戦闘していないはずだが、1日中狩りをするより疲労が溜まっているのを感じた。

(あとでポーションの補充、しない、と……)

 まぶたが重く、体がベッドに沈み込む感覚。ぼんやりする視界には、ヒメカがかすかに胸を上下させているのが見えた。

(素材……まだ、あったかな…………)

 完全に目は閉じられ、微かに残っていたユウトの意識は深い眠りの中に沈んだ。



「…………ん……」

「あ、起きた?」

「もう夕方か……」

 ユウトの意識が浮上したのは空が赤く染まる時分。上体を起こし、軽く伸びをする。疲れはすっかり回復したようだ。

「運んでくれてありがとね」

「それはいいけど……あの時、まだ魔物が残ってたんだから危険なことはやめなよ」

「援軍の人数とステータスはチェック済みだったし、問題ないと思ったから」

「ならいいか」

 苛立ってはいたようだが、冷静さは失っていなかったようだ。

「それと宿のおかみさんから伝言。目が覚めたらギルドへ来るように、って職員が言いに来たらしいわ」

「それは仕事熱心なことで」

「そういうわけだからさっさと片付けてしまいましょう」

 ユウトは昨日の査定報酬も受け取りに行く用事もあったので、仕方なく簡単に身支度を整えてギルドへ赴くことにした。



「よう」

「もういいのか?」

「まあな。バラドさんはまだ寝込んでるけど他の人達は起きてきてるぞ」

 ナストが後ろを指差すと、テーブルで飯を食べている見知った人達。魔法士の人だけがいなかったので、バラドというのがその人なのだろう。

「もしかしてそっちもギルドからの呼び出しか?」

「ああ。とはいえ、報酬に関して話し合いも必要だし、お前らが来るのを待ってたんだよ」

 出来れば明日以降にしてもらいたかったが、と一言文句をつけ足すナスト。ユウトとヒメカも同感であるため深く頷いた。

「バラドさん? はいいのか?」

「交渉はリーダーに任せるとさ」

「ふうん」

 それを聞いたユウトは、パーティ間の交渉はヒメカに一任しようと決めた。隣に立っていたヒメカはテーブルの方へ近づいて行ったので、問題なさそうだ。

「つーか、お前普通に話せるんだな」

「突っ掛って来なければ普通に返す」

「あー……そりゃ悪かったよ」

「……やけに素直だな??」

 信じられないものを見る目でナストをまじまじと凝視するユウト。ナストは居心地悪そうに頭を掻きながら、Cランクに上がったばかりで調子に乗っていたのだと告白した。

「とりあえず飯の途中なんだ。ユウトも一緒にどうだ?」

「ご相伴に与るよ……というか姉さんがすでに交ざってるし」

「マジか」

 ユウトの指す先には、テーブルになかったはずの料理が並び、楽しげに話しながら食事をしているヒメカの姿があった。濃密な戦闘をして、なおかつ昼食を食べていないため、ユウトも早くあちらに行きたい。

「姉さんの料理はおいしいから早く行かないとなくなる」

「そ、そうか……それは楽しみだな……」

 数十秒後、ユウトの言っていた意味を実感するナストだった。



「はー食った食った!」

「ヒメカちゃん、料理上手すぎでしょ。ね、ね、お店開かないの? 俺、毎日通っちゃうよ?」

「まだ引退する気はないですねー」

「勿体ない……」

「ナストはまだ食べるのか?」

「お前は食べなさすぎだろ。冒険者は体が資本だぞ?」

「いつもより食べた」

「え……あれでか……?」

 わずか7人で前線維持を担った2パーティは、まだ半日と経っていないがすでに旧知の仲と言えるくらい和気藹々と交流を図り、腹が落ち着いたところで受付に出向く。

 パーティ間の報酬割合は食事の合間に行われ、人数割りでいいというヒメカ&ユウトサイドと、そんなに貰えないというナスト達パーティサイドで意見が割れ、結局、パーティ単位で半々にすることで落ち着いた。それでもまだ貰い過ぎだとごねようとした4人は、ヒメカが無言の圧力でねじ伏せた。

 後はギルドがどういう対応をするのか、ということだが、全員微妙な気分である。

 討伐した魔物の回収を全く行っていないことで、後から来た連中に手柄の大部分を取られるのではないか、と。ギルドの対応が遅かったことに対して不信感もあるし、軍が絡んでいるだけに下手な事も言えない。

「なあ、やっぱり帰っていいか?」

 リーダーであり、盾職のリックが眉間に皺を寄せながら言う。

「リーダーのお前が帰ってどうするんだ」

「大丈夫だ。うちにはトランがいる」

「え!? ちょっと、俺最年少!」

 軽戦士でシーフ、情報収集も行う優男風のトランがつっこむ。

「残念だが、臨時とはいえ現パーティの最年少はナストだ。そして7人だと更に上がる」

「剣バカのくせにこういうときばっかり口が回りやがる!」

 剣士であり、トランの兄であるアランが指摘する。

「バラドを叩き起こすわけにはいくまい?」

「大人しくリーダーが交渉役をすればいいだろ」

 直前になってギャーギャーと騒ぐいい歳した大人達に、年少組は呆れながら少し距離を取る。結局、最後はギルド職員の女性が呼びに来て大人しくなった。



 来客用の部屋へと案内された6人は、高級そうなソファに座って大人しく待つ。リック達はソワソワと落ち着かない様子だが、ヒメカとユウトは出されたお茶を飲みながら寛いでいた。

「お前らの心臓には毛でも生えてるのか……!」

「結局相手の出方次第だし、慌てても仕方がないだろ」

 悪態をついて落ち着こうとするナストに、ユウトは何処吹く風と聞き流す。無視しないだけマシなのだろうが。

 結局落ち着かない連中は落ち着かないまま、ギルド長と副ギルド長が入ってきた。

「お待たせして申し訳ありません」

「まだ後処理が残っているんでな。悪いが早速本題に入らせてもらうぞ」

「ではまず初めに、貴方方のおかげでほとんど被害を出さずに街の防衛が出来ましたことを感謝いたします」

「逃げ遅れたやつが数人いたが、それだけで済んだのはお前らのおかげだ。話は聞いたぜ? なんでもすげー魔法の使い手らしいじゃねーか」

 明らかにギルド長の視線はヒメカに向いている。

(キュクロープスの手足を落としたアレだろうな……超遠距離魔法は誰だったかまでは見えてないはずだし)

 ユウトは表情に出さずにそう分析した。

「まあいい。で、だ。今回の報酬についてなんだが、規模が規模なもんで正確な報酬を算出するのが難しい。だから勝手で悪いがこちら側で決めさせてもらった」

 おい、と声を掛けると、扉が開き、大きめの袋を台に乗せて持ってきた職員が入ってきた。

「こちらが報酬額の合計と算出の根拠を記したものになります」

 副ギルド長から一枚の用紙を受け取って全員で内容を確認すると、多少の誤差はあれど、上前を撥ねられることなくほぼ正確な報酬額が算出されていた。

「さらに、ここにいる全員にはランクアップ試験の受験資格を与えます。Dランクのお2人は元々のポイントを加味しまして、試験に合格しましたら、さらにBランクへ上がるためのポイントの半分を付与させていただきます」

「「「「な……!?!?」」」」

「随分大盤振る舞いですね。数字もかなり正確なようですし」

 にっこりと笑顔を目の前の2人に向けるヒメカ。しかし、さすがはギルド長と副ギルド長。動じる様子はない。

「職員や協力者の士気も高く、街の人達の協力もありましたので」

「それなのに軍から高ランク冒険者に強制命令が出ちまって、出発が遅くなっちまってなー。外どころか内からも突っつかれてこっちは大変だったぜ」

 ほぼ暴動だったぞ、あれは。とギルド長はうんざりした顔で言う。一体どんな突き上げがあったのだろう。とりあえず、援軍が遅くなった理由は判明した。

「それに、規模はウチのお抱え魔法士達が確認してたからな。ちょい無茶させちまったがあれもいい経験だな。…………ところで報告の中に‘普通ならありえない距離と威力と数の攻撃魔法’ってのがあったんだがあれはどうやったんだ?」

 あの時点で魔法士を配備するなど出来ないだろうに、かなり確信をもって質問するギルド長。このギルド長は手練れの魔法士のようであるし、おそらくは自分の目で見たのだろうとヒメカは推測した。

「『魔法弾』に『加速』を五重掛けして距離と威力を出しました。膨大な魔力と緻密な魔力操作が必要な上に、指向性は魔法士に委ねられるので実用には向かないかと」

「…………だよなー。つか、俺でも無理だわ。そうなるとお前さんは120の魔法を同時発動して完璧にコントロールした上で精密射撃したことになるんだが」

「イメージとしては一発分を複写して方向は固定、ですかね。計算を間違えなければ多少楽できます」

「それはお前だからだろ……普通の魔法士は二重展開さえ出来ねえっつの。『魔法弾』にしたのは使用魔力の関係か?」

「そうですね。それと同じ無属性なので――」

 話がどんどん逸れていき、魔法式はーだの魔力効率がーだのいう話を始めようとする2人を副ギルド長とユウトが止めた。

「ギルド長、仕事が山積みなんですからそういう話はやめてください!」

「いやぁ、話の分かる奴でつい……」

「他人事のようにしてるけど姉さんもだからな」

「えー、でも冒険者の魔法士ってイメージ先行で魔法理論が通じる人が少ないのよ?」

「だよな!」

「ですよね」

「「こら!」」

 閑話休題。

「で、だ。問題は魔物の素材に関してなんだが、キュクロープスとオーガ2体、ミノタウロス2体はお前らで問題ないんだが、その他がなぁ……」

「さすがに回収した者達にも分け前を渡さなければならないため、すべてをお渡しすることはできないのです」

 ギルド側の言い分はもっともである。報酬をもらって満足していた6人はすっかり頭から抜け落ちていた。

「ところでキュクロープスって……」

「ん? ああ、お前さんら見てないんだっけか。嬢ちゃんが魔法で四肢を落として坊っちゃんがとどめの一撃で倒したんだよ。だからキュクロープスはお前さんらの取り分だ」

「「「「マジか……」」」」

 呆然とする4人をよそに、マイペース組は話し合う。

「姉さん何か欲しい素材ある?」

「キュクロープスの皮だけでいいかな。物理防御が欲しい」

「たしかに。金属鎧は重いから俺達向きじゃないし」

「というわけで私達キュクロープスが欲しいです」

「あとはリッツさん達で」

 結論が出たようで、姉弟はさっさと帰ろうと立ち上がる。

「待て待て待て」

「もっとあるだろ! ほら、魔石とか良い値で売れるぞ!?」

「たしかにキュクロープスの防具は魅力的だけど!」

「あ、じゃあキュクロープスは半分ずつに……」

「「「「そうじゃないだろ!!」」」」

 即座にツッコミを入れる4人。頭痛が痛い、みたいな表情である。

「お前らそれでいいのか!?」

「何が?」

 心底何を聞かれているのか分かっていない顔のユウト。ナストはその場に脱力した。

(なんだよこいつら!! 金持ちになるチャンスだろ!? なんで自ら放棄するんだ!?!?)

「あーまぁ、お前ら一旦落ち着け」

「「「「だってこいつらが!」」」」

「「?」」

「だから落ち着けって。どうしても決まらないならこっちが決めてもいいぞ」

 どう見ても平行線になりそうな2パーティに、ギルド長が提案する。

「もう……それで、いいです……」

「構いません」

「じゃあとりあえず嬢ちゃんらはキュクロープスが欲しいってんでいいんだな?」

「防具が作れればいいんで皮を半分でいいです」

「リッツ達もそれは構わないんだな?」

「キュクロープスは彼らが倒したので分け前は要りません」

「了解だ」

 ギルド長は副ギルド長と相談し、キュクロープスは姉弟に、オーガ2体とミノタウロス2体はパーティで1体ずつ。残りは換金して3割を協力者に分配、残りは折半ということで片付き、討伐報酬を等分して解散となった。

「なんで俺達こんなに疲れてるんだろうな……」

「普通、あっちがほとんど貰ってこっちの取り分を主張する、みたいな流れになるはずなんだがな……」

「事前にパーティ単位で折半って決めてただろ……! 何で報酬を受け取るよう交渉しないといけないんだよ……」

「あいつらがおかしいんですよ……」

 キュクロープスとその他で釣り合いが取れると思っての発言だったのだが、あくまでキュクロープスは姉弟だけで討伐した(目撃者多数)のでまったく分けたことにならなかった。つまりは認識の差。

 帰りにそのことをバラドに報告すると、そんなに貰えるのかと喜ぶ姿を見て、心底羨ましいと思った4人だった。

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