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27話 終幕。

 曲線を描きながら、逃げる冒険者の頭上を通過した『魔法弾』は地面に突き刺さるように着弾し、一拍遅れて、轟音とキュクロープスの歩行以上の振動をもたらした。

 直接命中した魔物は地面と共に真上に打ち上げられ、着弾による衝撃で飛ばされた魔物等が後方に位置していた魔物にぶつかり、さらに被害を広げる。

 逃げていた冒険者は地面の揺れに足を取られそうになるが、魔物の群れ以上に命の危険を感じてどうにか走り続ける。恐ろしくて背後を見ることが出来なかった。

「……ふぅ。3割いったわね」

 ここで言う3割というのは、負傷した、ではなく、確実に倒した数である。

「えげつないな……」

「俺、魔物に同情したの生まれて初めてだわ……」

「これ、時間稼ぎじゃなくて殲滅出来るんじゃ……?」

 ナストと魔法士以外の3人が呆然と土煙を眺めながら言った。ちなみにナストは絶句して棒立ちに。魔法士は真っ青な顔で「おかしい……なんだアレ……どうしてあの距離が届くんだ……? それにあの威力……多重発動……無詠唱……」などとブツブツ呟いている。完全にキャパオーバーのようだ。

「引き返す様子はなし、か」

「そのようねー。あ、キュクロープスに踏みつぶされた」

 まだ辛うじて生きていた魔物は、お構いなしに歩を進めるキュクロープスによってとどめを刺されたのを『遠視』で見ながら報告するヒメカ。

「姉さん、それはいいけどポーション飲まないと間に合わないよ」

「……はい」

 使った分のMPを回復するためにマナポーションをあおる。2本3本と空瓶が増える度にヒメカの顔が苦しげに歪むが、ユウトは見ないふりをした。この状況で、ヒメカに魔力枯渇で倒れられたら困る。

「姉さん、次、魔法障壁」

「え」

「冒険者が間に合いそうにない」

 さらに大量のMPを使わせようとするユウト。視線の先には魔物の群れとの距離が徐々に狭まっている冒険者達の姿が。

「……ギリギリまで近づいて発動する。悠は付与魔法の範囲に入ったらあの人達に『俊敏性上昇』かけてあげて」

「了解」

 自分達に『俊敏性上昇』をかけて、群れへ向かって走り出す2人。取り残されたナスト達も一拍遅れてその後を追うが、魔法付与+ステータスの差で全く追いつけない。

「横300、高さ5mでいく。強度は期待しないで」

「こっちもまもなく範囲に入るから大丈夫」

 タイミングを知らせるために、指を鳴らす。

 冒険者に襲い掛かろうと飛び出していた、足の速いウォーリアウルフなどが透明な壁に阻まれた。

「キャウン!」

「足を止めるな! 『俊敏性上昇』をかけるからそのまま街まで突っ走れ!」

「すまん! 助かる!」

 大声で指示を出すとともに『俊敏性上昇』を全員にかけるユウト。逃げる冒険者の速度が急に上がり、ナスト達とすれ違う。

 ガンガンと体を見えない壁にぶつける魔物。幸い、足の速い魔物は攻撃力があまり高くない為、障壁が破られることはなかったが、遅れてやってきたオーガとミノタウロスが複数回武器を振り下ろすと、ヒビが入った。

「障壁が破れる。全員戦闘態勢! 姉さんは一旦下がって回復、全回復したら全員のフォローと雑魚を掃討! 多少の打ち漏らしは街の冒険者や騎士に任せる! Bランク以上の魔物は意地でも通すな!」

「わかった!」「おう!」「了解ってね!」「承知」「分かってる!」「私の負担が大きい」

 すっかり指揮権を掌握しているユウトの指示で、全員が動く。一部不満の声が上がるが、黙殺された。



「くっそ! 何でこんなに堅ぇんだよ!」

「『身体強化』と『武器強化』もかけてもらってるのに全然刃が通らない……!」

「ナスト、アラン! まずはこっちのオーガを片付けるぞ! 一体ずつだ!」

「「りょーかいっ!」」

 近接職が高ランク魔物を担当し、魔法士がその他を担当。シーフの男は魔法士の護衛をする。ユウトはパーティが戦っている魔物以外の高ランク魔物を切り伏せながら、パーティが1体に集中できるように高ランク魔物のヘイトを集めて位置を調整しつつ、全体に指示を出し、時には回復薬も担う。ヒメカは付与魔法や回復魔法で補助に回りつつ、接敵されないように攻撃魔法で雑魚の数を減らし、ユウトがカバーできない部分のヘイト集め。

 疲労には気合とポーションでドーピングである。

「まだ応援は来ないのかよ!」

 シーフの男が叫ぶが、残念ながらまだ応援は来ていない。魔法士やヒメカのおかげでDランク以下の魔物しか相手しなくて済んでいるが、数が多く、休む暇もない。

「障壁を張ります。今のうちに各種ポーションで回復してください」

「感謝する」

「マジ助かるわー……」

 魔法士がMP切れを起こす寸前、魔法士とシーフを『障壁』で囲い、安全地帯を作る。

「姉さん、キュクロープスの足止め出来ない?」

「やれるだけやってみる」

 足は遅いが一歩が大きいキュクロープスを止めるために、地面から太く頑丈な木を生やして足に絡みつかせる。一応動きは止まったが、キュクロープスの怪力にミシミシと音を立てる。

「うーん。長く持たないわね。悠、今のうちに目を攻撃出来ない?」

「さっきやろうとして腕でガードされた。魔法で斬り落とせない?」

「応援が来るか、その他を減らしてからじゃないと難しいかな」

「じゃあいいや」

 せめてキュクロープス1体だけならば強度最重視の魔法障壁で足止めできる。しかし、Bランクを含む魔物の群れ相手では分が悪い。むしろ、この人数で前線維持出来ているだけ上出来なくらいだ。

 そのまま膠着状態は続き、予測していた時間が過ぎた。

 ナスト達の防具はすでにボロボロ。近接職はメインの武器の刃が欠けたり折れたりして予備の武器に交換している。魔法士は若干命中率が下がり、MP切れを起こしやすくなっていた。

 ユウトやヒメカも、そんな5人をフォローしながら攻勢に出ることが出来ず、まだキュクロープス1体とオーガ2体、その他が2割ほど残っている。

「悠、まだMPポーションある?」

「あるけど……どうするんだ?」

「『障壁』で囲う。ポーションで回復しながら、応援が来るか、魔力切れギリギリまで」

「……俺、だと1分も保たないか……でもキュクロープスに物理が効きにくい以上、姉さんは残しておきたいんだけど」

「応援が遅いのが悪い。というか、未だ1人も来ないってどうなの?」

「全く以てその通り」

 ユウトは切れ味が悪くなってきたからと剣を収納し、オーガを素手でボコりながらそんな話をしている。何故そんなに元気なのかとツッコむことすら出来ないナスト達は、肩で息をしながら低ランク魔物を中心に少しずつ倒しては、ヒメカに障壁で守ってもらってを繰り返す。

「仕方ないか。姉さん、全回復出来るだけのポーションを残しつつ、意識をなくす直前までやっちゃって」

「はーい」

 ユウトの合図でヒメカが全体を囲うように『障壁』を発動。キュクロープスにはさらに単体で、身動きできないサイズの『障壁』で囲う。

「悠、ポーション頂戴」

「ん」

 次から次にMPポーションを摂取するヒメカ。しかし、摂取量よりも使用量が上回っており、ゆっくりとだがMPが減っていく。

「後は運次第だな」

「そうね」

 10分後、ようやく現れた援軍。冒険者だけではなく、軍も一緒での到着だった。

 援軍は連携の話し合いをしていたのか、統率のとれた動きで魔物を討伐していく。すでに限界だったナスト達は到着した冒険者によって運ばれていった。

「悠、あれの両手足切り落とすからあとよろしく」

「え?」

「はい、これ私の剣」

 今回ポーチに眠っていた自分の剣をユウトに渡すと、ヒメカはMPポーションを複数本一気に呷ってキュクロープスに向き直る。

(『強化』『強化』『強化』『強化』『強化』『強化』……)

 どんどんヒメカの魔力が練り上げられていくのを感じ、ユウトは顔を引きつらせる。皮肉にも、このタイミングで魔力感知を会得してしまった。

「来るのが!! 遅いのよ!!!!!」

 魂の叫びともいえる言葉を発しながら、限界ギリギリまで高めた魔力で『風刃』を4つ放つと、今まで手こずっていたのが嘘のようにスッパリと四肢が落とされた。

「悠!!」

「はい!!」

 四肢を失い、ゆっくり崩れ落ちるキュクロープスの目の前に『転移』し、ユウトは一閃。キュクロープスの討伐に成功した。

 一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声。キュクロープスの討伐が戦意向上へと繋がったのか、冒険者と騎士との複合軍によってオーガも討伐された。

 あとは、数の力で魔物を次々に片付けることが出来た。

 ちなみに、ヒメカは魔力枯渇を起こしてダウン。ユウトに運ばれて街へと戻るのだった。

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