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26話 非常事態。

「悠は湧きについてどの程度知ってる?」

 口座を作った後、一旦冒険者ギルドでミーティングをすることになった。ヒメカの質問にユウトは首を横に振る。情報収集をしていなかったため、ほぼ無知に近い。

「そう……まず基本的なところからね。湧きには一日の中でも魔物が多い時間と少ない時間が周期的にあるの。ほとんどの冒険者は多い時間に狩って、少ない時間に回収をしているでしょうね」

「うん」

「そして期間。これは場所にもよるけれど、この街限定で言えば最短で5日、長くて2ヶ月続いたことがあるらしい」

「随分差があるんだな?」

「多いのは2、3週間ね。でも大体の期間は魔物の種類で分かるみたい。期間が短ければ短い程強い魔物が、長ければ長い程弱い魔物が多いの。今回は比較的強い魔物が多いらしいから期間は短めだというのがギルドの予測ね」

「なるほど」

 ギルド職員から得た知識をそのまま伝えるヒメカ。他にも、王都の図書館で得た知識もあるが、情報伝達速度や、書籍になっていない情報も多いので、こういうことはギルドに聞くのが一番手っ取り早いらしい。

「ところで何で今まで教えてくれなかったんだ?」

「『湧き』というキーワードもあったんだし、この位の情報なら少し調べれば分かる事だもの」

「…………」

 自分で情報を集めないのが悪い、とそういうことのようだ。命に係わるような情報ならばきちんと伝えるが、運が悪くとも、せいぜいBランクの魔物数体を一手に相手取る程度のことだと放置した。

 ユウトも自覚がある為、微妙な顔はするが言い返したりはしない。

「湧きで一番必要なことは、いかに弱点をついて最短で処理するか。重要なのは、他のパーティ、特に魔法士に注意すること。魔物ごとやられるわよ」

「……それは、うん。そんな気はしてた」

 魔法士は見ていないが、近接職、特に長得物を主体に使う冒険者の刃がぶつかっていたのは見た。近接職でそうなのだから、範囲攻撃を得意とする魔法士が人を巻き込まないわけがない。

「湧きの満ち干については、前兆があることはあるらしいけれど感覚的な話だったから今回『探知』で確認しながらにする。こればかりは経験ね」

 ヒメカは基本的に魔法職に専念するという。それから、位置取りもいつもより近く、連携を密にするスタイルで動くことに決定した。

「まあ、周辺警戒は私が担当するからいつも通り……は難しいでしょうけど、好きに動いてくれていいわ」

 はっきりとフォロー役を作るのは珍しいが、やってやれないことはない。

「そうと決まれば早速行ってみよー」

「楽しそうだな」

「狩りは楽しいものよ」



 平原へ出ると、やはり今日も冒険者が溢れていた。

「こっち」

 『探知』を使っているヒメカの案内で、少し離れているが、比較的人の少ない場所へと移動する。比較的魔物の少ない時間帯だったらしく、移動はそう難しくなかった。

「……静か過ぎる」

「そうなの?」

「昨日しか知らないからなんとも言えないけど、昨日よりも肌がざわつく感じ。あんまりいい気分じゃないな」

「なるほど。悠、正解みたいよ」

 あれ、と言って指差す方角には、一つ目の巨人、キュクロープスが林をなぎ倒しながら現れた。

 ブルーミスリルウルフと同じAランクの魔物であり、物理耐性特化で、弱点は遥か頭上の目という非常に厄介な魔物である。

 倒した魔物の回収に励んでいた冒険者達は、キュクロープスが歩くたびに揺れる地面にその手を止め、それを目視するなり、ほとんどの者が回収を諦めて一目散に逃げていく。

「デカいなぁ」

「そうね。大きいわね」

 そんな中でも2人は相変わらず2人だった。

「デカいなぁ……じゃねえよ! 何暢気にしてんだよ!! お前らも逃げろよ!!」

 そんな2人に、背後からツッコみが入る。

 2人が振り返ると、そこにはナストとナストのパーティメンバーらしき屈強な冒険者達がいた。

「そういうお前は逃げないのか?」

「ぅえ!? あ、お、おう……?」

 ユウトから普通に接されて動揺するナスト。その様子に、一瞬、場が和む。

「俺達はここの出身だからな。幸い、この時期は高ランク冒険者も集まってるし、あれが街に辿り着く時間を稼ぐ位はするさ」

 大きな盾と金属鎧を装備する大男。

「お帰り願うのが一番だけど、俺達じゃまず無理だしねー」

 軽装備で細身のシーフらしき優男。

「キュクロープスだけじゃなくてオーガやミノタウロスもいるのだが」

 詠唱短縮で『遠視』を使う魔法士の男。ローブに杖装備といかにもな格好をしている。

「AランクだけじゃなくてBランクの魔物まで出るとか、ホント異常だろ」

 長剣装備の剣士。この4人が正規のパーティのようだ。そこに剣士であるナストが加わる。

「姉さん」

「キュクロープス1、オーガ3、ミノタウロス2、その他諸々沢山。あれから逃げている冒険者13名。4人パーティ2組、3人パーティ2組。4、3、3がかたまってて1組が東にズレてる。街に向かっているからその内合流するんじゃない?」

「面倒くさいな……ここに到達するまでにどの程度減らせる?」

「雑魚を2、3割程度かな。冒険者達のせいで大規模魔法は使えないし、射程を延ばすために色々工夫が必要だし、それをするとコントロールがね。ある程度近づいたら冒険者の後ろに『障壁』を張る方法もあるけど、長くは持たないし範囲外まで迂回されたら意味ない」

「マナポーション」

「ぅ……在庫は充分。大きいのの後に大量摂取すれば……でも私、胃の容量、そんなに大きくないんだけど……」

「非常事態だし、頑張れ」

「ぅぅ……」

 目の前で淡々と計画を練る2人にナスト達は驚いている。普通、あれを見たら逃げるだろう、と。自分達も背後に故郷がなければとうに逃げ出している。

「ナスト、高ランク冒険者が来るまでどの程度時間が稼げればいい?」

「えっと……」

「もう少し早いとは思うが、四半刻と見ておいた方が良いだろう」

「了解です。ってことだから姉さん、俺の分のマナポーションも渡しておく」

「うえ~……もう分かったわよ。やるわよ。あと、手持ちで充分だからそれは悠が持ってなさい」

 嫌そうにしながらも、一歩前に出て魔法を発動。いつものノータイム攻撃ではなく、魔力の塊を打ち出す無属性魔法『魔法弾』を20発分用意し、一つずつに『加速』魔法を5重展開した。

「すみません、魔法士さん。土煙が上がるのであの冒険者達に『拡声』で伝えてもらえますか?」

「わかった」

 魔法士の男が伝えたのを確認すると、ヒメカは魔物の群れに魔法を叩き込んだ。

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