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23話 幸運で不運な一日でした。

 翌日、ユウトは湧きの前に、一度、武器のメンテナンスをしようと、ヒメカに紹介された鍛冶屋に来ていた。

 そこは、この国でも指折りの名工である、ランスという親方と、その弟子達が経営する大きな店舗で、わざわざ経理の為に人を雇っている盛況ぶり。特に今は湧きの前ということで、店内にはたくさんの冒険者の姿がある。

「すみません、ランスさんはいらっしゃいますか?」

「紹介は?」

「ヒメカ・ホウライという冒険者なんですけど」

「ああ! 彼女か! ちょっと待っててくれや。おい、親方呼んできてくれ! 彼女の紹介だと! ……ところで兄ちゃん、嬢ちゃんとどういう関係で?」

  レジに立っていた男は下働きの少年を使いに遣り、ユウトに向き直ると威圧してくる。ヒメカは着々と味方を増やしている様子で、男もまたその一人のようだ。

「弟です」

「なんだ! そうか! いやぁ俺ぁそうじゃないかと思ったんだ! はっはっは!」

 どの口がそれを言う。先ほどの威圧は何なのかと言いたくなるほどの変わり身の早さである。弟じゃなければ一体どうなっていたのやら。※店の奥に連れて行かれて職人達にボコボコにされます。

 親方を呼びに行った少年が戻ってくると、工房の方で話をするというのでついていく。レジの男が「問題なしだった」と伝えていたのを聞いたユウトだったが、あえてスルーさせてもらう。

 案内されたのは工房の一角にある簡素なテーブル。すでに親方らしきガタイの良い男が座って待っていた。

「おう。来たか」

「ユウト・ホウライです。姉の紹介でお伺いさせていただきました」

「嬢ちゃんの紹介とありゃ断るわけにはいかねえからな。ま、腕には自信があっから安心して任してくれや」

 眼光は鋭いが、話してみるとなかなかに気さくな人のようで、ユウトは好印象を受けた。

「あの、つかぬ事を伺いますが、姉が何か……?(主にやらかした方面で) 最近は別行動が多くて街中の依頼をこなしていたこと位しか知らないのですが」

「ん? ああ。別に間違っちゃいねぇよ。ただ、嬢ちゃんほど良く働いてくれる冒険者はそうそういねぇからな。ウチの若いのでさえ嫌がりそうな仕事も率先して引き受けてくれるし、手が空いたら依頼外のことでもやってくれるし、かゆい所に手が届くっつーか、とにかく物凄く評判いいぞ」

 ウチの経理連中も喜んでたぞ、と教えてくれるランス。はたして冒険者に経理の仕事を振るのかとユウトが疑問に思っていると、依頼は店の在庫数チェックだったらしい。

 時間で依頼を出していたらしいが、予定より早く終わったから何か手伝いを、と。こんなに早く終わるはずがないと店の者が確認に行くと、在庫を積んでいた倉庫も綺麗に整理整頓され、数えやすくなったことで確認も早く終わり、数字もピッタリと合っていた。

 さらに言えば、提出された手書きの在庫管理表は分かり易く、ならばと経理をさせてみれば、即戦力どころか能率を上げる方法を次々に伝授していったとか。

「ウチの職人は鍛冶に関しちゃ手は抜かねえが、そういうのはからきしでな。大助かりだったわ」

「(姉さん、そういうの気になるタイプだからなぁ)姉がお役に立てたようでなによりです」

「むしろまた来てほしいくらいだ。……と、それで、今日はどういった用向きだ?」

「これのメンテナンスをお願いします」

 マジックポーチから取り出したのは、ドードーの親父さんに貰った片手剣である。ヒメカの魔法強化で普通より刃こぼれは防がれていたし、定期的にメンテナンスはしていたが、最近の戦闘で少しガタがきていた。

「こりゃぁ随分使い込んでんな。…………悪いことは言わねぇ。新しい剣を買うか作るかした方が良いぞ」

「直りませんか?」

「直せねえこたねぇが、正直、これはお前さんの技量と釣り合ってない。何なら俺がお前さん専用の剣を鍛えてやるからもっと良い剣を使え」

 じっくり剣を調べたランスがそう断言する。名工ランスに、直々に剣を鍛えてもらえるとは破格の申し出。だが、ユウトは少しだけ考える。

「…………わかりました。では新しい剣と、繋ぎ用に既製品を一振りお願いできますか? その剣の直しもお願いします」

「直しもするのか?」

「冒険者になってすぐの頃に鍛冶屋の親父さんにいただいたものなので手元に置いておきたいんです」

「了解だ。よっしゃ。じゃあ早速剣を選びに行くか」

 剣を大事に扱ってくれる者は誰であろうと良い奴である。剣を見た時に感じた技量の高さといい、ランスはすっかりユウトを気に入ったようだ。

「忙しいじゃないんですか?」

「ウチの弟子は優秀だから大丈夫だ。それに俺が鍛えたやつだと値段が付けづれぇってんで溜まる一方でな。安く売ったら組合がうるせぇしよ。最近じゃ決まった奴らにしか売ってねえ」

 おかげで弟子に食わしてもらってる気分だぜ、と豪快に笑う。名工というのもなかなか大変らしい。

 案内されたのは、店売りの在庫がある倉庫ではなく、ランスが鍛えた武器が置かれている部屋だった。店売りと混ざらないための配慮だが、たまにわざとそちらに置いておくこともあるそうだ。

「そうでもしねえとあっという間に部屋が一杯になっちまうからな。あ、組合には内緒だぞ?」

「言いませんよ」



「んじゃ、こんな感じで作っておく。一週間後にまた来てくれ」

「わかりました。よろしくお願いします」

 鍛冶屋を出たユウトは、おそらく湧きの間お世話になるだろう新しい剣に慣れるために、早速依頼を受けて門外へ。

「……凄いな」

 ユウトが剣を握ったのはこの世界に来てからだが、元々の身体能力の高さと勘の良さで剣の腕前はメキメキと上がった。故に、剣の良さを感じられる程度には成長しているのだが、自分に合わせた武器というのは、これほどまでに扱いやすいのかと感心するばかり。

 いつも以上にあっさりと依頼分を討伐し終えてしまった。

「……もう少しやってから行くか」

 つい新しい得物に夢中になってしまったユウトは、うっかり門の閉まる時間ギリギリまで狩りをし続けてしまった。

 運の悪いことに、ギルドで達成報告をした後ナストに捉まってしまい、面倒なことに頭に血が上ったナストが他の冒険者を巻き込み、ナストとその冒険者とで掴み合いの喧嘩を始め、さらにそれが飛び火して場内大乱闘に。騒ぎが大きくなったことでギルド側からお叱りを受けたユウトは罰として片付けを手伝わされた。完全にとばっちりである。

 ようやく片付けを終えて急いで宿へ戻るも、おっとり微笑みを浮かべるヒメカが待ち構えていた。夕食は一緒に食べるという決め事をしていたため、ヒメカはまだご飯を食べていなかった。

「私、今日は1日、食堂で給仕をしていたの」

「(…………?)」

「賄いを作るついでに厨房の一角を貸してもらえてね。その時に悠の好きなプリンも作っておいたの」

「え」

「そういうわけだから、プリンは一人で食べるわね」

「ごめんなさい!!」

 プリン抜きの刑は、事情を説明して素直に謝ったことで免れたのだった。ただし、2個貰える筈だったプリンは1個に減らされた。

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