22話 勝負? いえ、お構いなく。
「勝負だ!」
先日の一件以来、ナストはユウトが一人の時を見計らって勝負をふっかけてくるようになった。
「すみません、この依頼受けます」
「あ、はい。かしこまりました」
受付嬢はナストに気付きながらも、淡々と仕事をこなす。隣のカウンターの受付嬢がナストを小さい子を見るような目で見ているのにユウトは気付いているが、黙っておく。一言でも声を掛ければ何故か勝負を受けたことにされるからだ。そうでなくとも勝負していることになっているが。
「勝負内容はどっちがより多くの魔物を狩れるかだ!」
「…………」
一方的に言い放つと、ナストは一目散にギルドを飛び出した。あえて言うが、ユウトは勝負を受けていない。
そして、ナストの一方的な勝負の度に賭けが行われるが、4回目の賭けである今回のオッズはユウトに傾いている。今の所、ユウトの全戦全勝だからだ。そして今回もユウトの勝利に終わる。
「くっそー! 何で勝てないんだ!!」
「そりゃお前、相手はマジックポーチ持ちだぜ? そんな奴相手に討伐数で勝負って……」
一体を屠る速度はひとまず置いておいて、倒した魔物をポーチへ投げ込むだけでいいユウト。対して、ナストは討伐証明部位を回収する必要があり、さらに荷物はどんどん嵩張っていく。せめて回収係兼荷運びを雇えばいいのだが、一対一の勝負だからと雇わないのだった。
(((((こいつアホだなぁ……)))))
知り合いの冒険者たちが呆れ交じりの生温い目をしても仕方がない。
「つーか、まだ湧きは来ないのか?」
「ギルドの予測だとあと2、3日って言ってたぜ」
「お、明日武器のメンテナンスが終わるし丁度いいな」
「まーた壊したのかよ……お前、もういい加減頑丈な武器でも買っとけよ」
「今回の湧きで稼いだら買うさ」
興味は湧きに移り、いかに稼ぐかという話題に。
「ナストの勝負も一旦お預けだな」
「さすがに湧きになりゃあの嬢ちゃんも参加するだろうしな」
「ナストもちゃんと武器の手入れはしておけよー」
床に四つん這いになっているナストの肩を軽くたたきながら、一言ずつ声を掛けて解散していく。
「ナストさん……」
「あ……」
集まっていた冒険者が全員解散し、最後に残ったナストに、女性の柔らかい声が掛けられる。ナストが顔を上げると、そこにはナストが淡い恋心を抱いている、このギルドでも指折りの美人受付嬢が微笑んでいた。
「そこにいられると迷惑ですから、続けるならあちらでお願いします」
慰めてもらえると期待したナストの心はポッキリへし折られたのだった。
「姉さん、そろそろ湧きだけどどうする?」
宿へ戻ったユウトは、夕食の席でヒメカと今後の話し合い。ポイント調整と人脈作りをするヒメカと行動を共にしても問題ない程度に、ユウトのギルドポイントも貯まったはずだ。
「どうしようかしら? まだまだ街中の依頼は溜まっているみたいなのよねー」
そういって先日、受付嬢をした話を振り返る。
その日、ヒメカは、荷物の配達と民家の草むしりと街の清掃の依頼完了を報告しに来ていた。次は教会の炊き出し手伝いの依頼を受けようと依頼書を手にしていた。
「ヒメカさんがどんどん依頼を片付けてくれるから本当助かります。いくら湧きの季節だからとはいえ、こういう依頼が溜まると多方面からせっつかれるんで」
実は割と深刻だったらしく、ギルド内でも問題になっていたと告白する受付嬢。
「結局一人が頑張ったところで、というのはありますけどね」
「こういうのは頑張ってくれている冒険者がいる、というのが大事なのです。副ギルド長も胃痛が和らいだって言ってました! それでですね、街中の依頼に貢献度ボーナスとしてギルドポイントを少しだけ上乗せすることが決定しました」
残念ながら報酬は変わりませんが、と苦笑。報酬を決めるのは依頼主なので仕方がないところだろう。
「それを知れば引き受ける人もいるのでは?」
「そうだといいんですけどね……本当に微々たるものなのでやはり討伐依頼の方が報酬もいいですし、残念ながら」
「そうですか……」
「後は、気質的にそういうことが苦手な方が多いのもあります。街中の依頼は冒険者じゃなくても出来るものばかりなので」
「えっと……すみません、否定できません」
「いえ、本当の事ですから。それに、依頼を受けたとしても問題を起こす方もいて、悩ましい限りです。……って、すみません。愚痴ばかり言ってしまって。つまり何が言いたいかといいますと、当ギルドはヒメカさんに感謝しています。何かお困りの際は出来る限り対応させていただきますので遠慮なくお申し付け下さい」
いきなりの申し出にきょとんとするヒメカ。ギルド職員からの覚えがめでたくなってきたのは気付いていたが、顔見知りが増え、コネも出来つつあるだけですでに満足しているので、それ以上どうこうというのは考えていなかった。まさか、高ランクでもない、一冒険者を優遇すると宣言するは思わなかったのだ。
「正当な報酬を頂いているわけですし、別にそこまで気にしなくていいですよ? あ、この依頼お願いします」
「評判なども含めて、ギルドへの貢献度としてはポイントの上乗せでは足りないですから。ここだけの話、協力的な方にはそれなりに評価させていただきますよ、と周知する意味合いが強いのであまり気になさらないでください。……はい。確認しました。ギルドカードをお返ししますね」
「ありがとうございます。ではいってきます」
「いってらっしゃいませ」
「――――というわけなのよ」
「ちょっとまって。その話聞いてない」
「今言った」
悪びれることもなく言い放つヒメカ。ヒメカ自身、今の今までまったく気にしていなかった事項だったために伝え忘れていた。そのおかげでユウトは計画を練り直す必要が出てきたが。
「え、てことはもう少しポイント稼いだ方がいいってこと?」
「もう試験を受けられるくらいまで貯めてもいいんじゃない? というか、何故か私のことが噂になっているみたいでギルドからの圧が、ね……というわけでしばらく街中の依頼をこなすことになりそうです」
指名依頼というほどはっきりとしたものではないが、「あの人良かったからまた来てくれないかな」くらいのお言葉を添えて依頼されるらしい。受付嬢に出来るだけでいいので受けて欲しいと、平身低頭でお願いされたヒメカとしても、特に困ることはないしいいか、と無理のない程度に引き受けていた。
「道理で毎日朝早くから出掛けていくと……。一緒に活動するのもこの街へ来て一回しか出来てないし」
「ごめんね。でもギルドに恩を売っておくのもいいかと思って」
この街で何かあった時の保険をかけておく。ユウトもヒメカの弟ということで多少受付嬢からの覚えもめでたい。ナストと同視されて問題児扱いを受けていないのも、そのおかげだった。
「そういうことなら、しばらくは一人で活動するよ」
「お願いねー」
「体を壊さない程度にな」と忠告しようかと思ったユウトだが、か弱い見た目と違って風邪一つ引いたことがない姉に言うのもな、と夕食と一緒に言葉を飲み込んだ。




