21話 とりあえずプリンが食べたい。
「さて。なんとか宿の確保も出来たし、この後はどうしましょうか?」
「まさか湧きの季節と重なるなんてな」
周期的に、爆発的に魔物が増える期間を湧きという。ここも間もなくその期間に入るらしく、いつも以上に冒険者が押しかけている状態で、宿はどこも満室。防犯上の理由でそれなりに高めの宿を探す2人でさえ、6軒目にしてようやく部屋を確保できたほど。
ヒメカにはこの宿にミニキッチンがついていないのが不満なようだが仕方がない。
「それだけ稼げる時期なのでしょうね」
「そういえば討伐依頼の報酬も少し高めだったな」
「兵士だけでは対処できないから、多少報酬を上乗せしてでも数を減らしてもらいたいのかもね。ただ、どうしても人がそちらに流れてしまうから、街の中の依頼が溜まっていて困るって聞いたわ」
宿情報をくれた受付嬢から聞いたのだろう。街中の依頼というのは雑用が多く、報酬も低いしギルドポイントも微々たるもの。なりたての冒険者くらいしか受けない。しかし、新人ほど金に困っているため、報酬の良い依頼があれば飛びつくものだ。
「私はそちらを中心に活動しようかと思っているのだけど、悠はどうする?」
お金に困っていなくて、元々多芸ながら魔法で更に強化されたヒメカにはぴったりの依頼でもある。街の人との顔つなぎにもいいし、ギルドの心象も良くなる一石二鳥の依頼だ。
「俺はできれば討伐中心がいい。姉さんとポイント差が開いちゃったし、そろそろランクアップ狙うのもいいかな、と」
「いいんじゃない? リーダーである悠のランクが上の方が対外的にも収まりが良いだろうし」
「別行動になるけど」
「王都でもそうだったし、偶に一緒に依頼を受けるくらいでいいんじゃない?」
ヒメカが人脈を広げるのも、ユウトがランクを上げるのも、お互いにプラスになることだから問題ない。
「あ、でもCランクに上がるときは一緒にしましょう。試験があるらしいから」
「え、そうなの?」
ユウトは初耳なようで、つい聞き返す。
「とはいってもあまり難しくはないらしいけど。基本的な実地試験だって。この時期なら討伐任務に指導員がつく位じゃない? ちなみにBランクに上がる時にもあるわよ。そっちは少し面倒らしいけど」
「具体的には?」
「私が聞いたのは、基礎知識と識字・計算能力を見る筆記試験、純粋な戦闘力を計る実技試験に、実地試験、最低限の礼儀作法の確認。実地試験はパーティシャッフルでどこかに数泊して対応力等を見られるとか? ただ試験内容は時々で変わるらしいから絶対じゃないわ」
ユウトは、鍛冶屋『ドードー』で見かけた、間もなくBランクだと豪語していた男を思い出した。
(あの人、試験落ちてそうだな…………まあいいか)
「とりあえず了解」
「じゃあ、食堂へ行きましょうか。この宿はご飯が美味しいらしいから楽しみね」
「いや、この世界の料理基準だと……」
「そこは言っちゃダメ」
食にうるさい日本人2人の口にも、それなりに満足できる味でした。
翌日。朝から冒険者ギルドに来ていた2人は、それぞれ別の依頼を受注。特にヒメカは一日の流れを綿密に計画し、実現可能なものを限界まで引き受けていた。担当した受付嬢が2度ほど確認していた。
「じゃあ、私はもう行くわね」
颯爽と一件目の依頼へ向かったヒメカを見送ったユウトは、街の様子を見学しながら門へ向かう。ヒメカと違って普通の討伐依頼を一件しか受けていない。
(姉さんのことだから任務失敗はないだろうし、俺はポイント稼ぎ頑張りますか)
討伐依頼のついでに適当に魔物を倒して納品依頼もこなす予定。解体は諦めて、多少手数料はかかるがギルドに任せるつもりである。
(姉さんのペースだと、一件のポイントが低いとはいえ、あまりうかうかしてられなさそうだし)
塵も積もればなんとやら。ユウトのポイント稼ぎが遅れれば待っていてくれるだろうが、それはユウトが嫌だった。逆ならば全く気にしないのだが。
その日、昼前にギルドへ戻って依頼を完了し、午後にも一件終わらせて納品依頼もこなしと結局6件の依頼を片付けたユウトだった。
それから数日は、同じような一日を繰り返す日々。
その日も、ユウトは一人街の外で魔物を狩ってはマジックポーチに放り込む作業をしていると、すっかり頭の中から抜け落ちていたナストと出会った。
「おい、パーティ組んでるんじゃなかったのかよ?」
明らかに悪意のこもった言葉を投げかけてくる。
「…………」
「あ、もしかして振られたのか?」
相手をするのも面倒で、ばっさばっさと魔物を屠りながら回収作業を続けるユウト。ユウトが無言なのをいいことに、肯定と受け取ったナストは相変わらず話し続ける。ちなみに、そんな発言をしているナストも一人である。
「…………」
「俺の誘いを断らなければ一人寂しく狩りなんてしなくてよかったのになー」
「…………」
「俺は心が広いから今お願いするなら組んでやってもいいのになー」
「…………」
「……お前の母ちゃんオーク(ぼそっ)」
「…………」
「…………」
「…………」
「だー!! 無視すんなよ!!」
「…………(いい感じに狩れたしそろそろ戻るか)」
あまりにも無反応でナストがキレた。そんなナストすらも無視して、剣を鞘に納めたユウトは、街へ向かって歩き出す。
「なあ、聞いてる? 俺の事見えてる?」
「…………(今日の夕飯何かな?)」
「無視するなよぉ」
「…………(宿の料理も悪くないけど味が単調でそろそろ飽きてきたんだよなぁ)」
「おい! 聞けよ!」
「…………(こればかりはキッチンがないから仕方がないんだけど。とりあえずプリンが食べたい)」
「あーもう! なんなのお前!!」
「(怒ったり落ち込んだり忙しい奴……)…………うるさい」
「! な、何だよ! 聞こえてんじゃねーか!」
ようやくユウトが反応したことが嬉しいのか、言葉に反して顔に喜色を浮かべている。気を良くしたナストの一方的な会話は、結局、冒険者ギルドまで続いた。
翌日。今日は姉弟で依頼を受けようと、いつもより少し遅めの時間に2人揃ってギルドへ来ていた。
「お、お前……パーティ解散したんじゃなかったのかよ!!」
「そうなの?」
「いや、そんなこと一言も言ってない」
わなわなと震えながらユウトを指差すナストの言葉に、ヒメカは首を傾げ、ユウトは即座に否定する。
「どうせ今日も一人だろうから一緒に着いて行ってやろうと思ったのに……!! 裏切られた!!!」
「……コレは放っておいてさっさと行こう」
「いいの?」
「いい」
膝から崩れ落ちて悔しがるナスト。そんなナストをコレ呼ばわりの上、置いて行こうとするユウト。
「いや、良くないだろ!? 何、本当に置いて行こうとしてるんだ!?」
逃がすまいと、ユウトの目の前に手を広げて立ち、行く手を塞ぐ。俊敏な動きはさすがCランク冒険者。
「邪魔」
「どぅえ!?!?」
綺麗な足払いが決まり、奇妙な鳴き声を上げたナストが呆然としている間に立ち去った。
その場にいた冒険者達は、あまりにもあっけなく地面に転がされたナストよりも、予備動作もなく、いつ仕掛けたのかも分からない攻撃をしてみせたユウトに呆然としたのだった。
この一件で、ユウトの強さが広まった結果、(一部を除いて)不用意に絡まれることはなくなった。




