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19話 御祈りを捧げましょう。

「なんだか騒がしいですね?」

「そうですね……」

 乗客たちは緊張がゆるんだのか、すっかり落ち着きを取り戻したようで窓から様子を窺う。外では倒れた馬車の近くにしゃがみ込む人が数人と、立って相談をしている冒険者2人がいた。

 すると、冒険者の男が駆けてくるなり叫んだ。

「悪い! この中に上級ポーションを持ってる奴はいないか!?」

「何があったんですか?」

「横転した馬車で両脚が潰れたらしい。等級外ポーションで一時的に血は止めたが上級じゃないと治療は不可能だ。中級だと後遺症が残っちまう」

 等級外ポーションの有用な使い道で、それなりに経験のある冒険者がたまに使う方法である。下級ポーションよりさらに効果の低い等級外ポーションで応急処置をして時間を稼いでいるようだ。下手にポーションで治療すると、冒険者の言うとおり、後遺症を残すことになる。しかし、自身や仲間が携帯していない場合、上級ポーションを携帯している人間や、同等の治癒魔法が使える人間が通りかかる可能性は低い。シビアだが、それほどまでの大怪我ならば諦めも必要である。聞いてきた男もダメ元だ。

 だがここにはユウトがいた。

「これどうぞ」

「へ? あ、持ってんの???」

「はい。知り合いからの貰い物ですが。それより急がなくていいんですか?」

「そうだった! じゃあありがたく使わせてもらうぜ!」

 ユウトからポーションを受け取った男が慌ただしく出て行った後すぐに歓声が上がった。

「良かった。治ったみたい」

「さすがナルさん謹製。効果が抜群だな」

 だがしかし、その場にいた人は皆、唖然としている。

 それというのも、上級ポーションなどただの冒険者がポンと出せるような品物ではないからだ。

 技術的に作成可能な調合師の総数が少なく、有用なレシピは秘匿される傾向にあり、調合するにしても希少素材を何種類も用意しなければならないし、それらをクリアしたとしても、失敗する可能性もゼロではない。つまり、ほとんど流通していない。

 高ランク冒険者でさえ、いくら金を積んでも手に入らない希少品で、一生お目にかかれないことも往々にしてある程だ。

 出立の挨拶回りの折にナルが調合レシピと共に、数本まとめてポンとくれたため、2人にはその価値が分からなかったのだ。

((あ、これはやらかしたな))

 こうなったら開き直るしかない、と、2人は妙に冷静な頭で決断した。



 横転した馬車は無事撤去され、乗合馬車の乗員が3人ほど増えた。

 助けられた若い男、同じく若いその妻、そして男の弟の3人は床に額をこすりつけるほどに礼を言い、なけなしの金銭を差し出そうとするが、貰い物だからと断った。3人はあまり裕福というわけでもなく、食うに困らない程度に稼いでは商品を仕入れて街を移動しながら売って回る生活していたそうだ。

「本来なら命を差し出しても足りないくらい貴重な物なのに……!」

「いや、それ本末転倒……」

 正直命など差し出されても困る。ならば奴隷にといわれても生活の保障をしなければならなくなるし(奴隷にそんなものは不要だとはいうが)、荷運びも世話係も必要ない。なにより姉弟のペースに着いて来られるとは思えなかった。

(姉さん……)

(はぁ……仕方ない)

 アイコンタクトの後、ヒメカは精一杯の慈愛の表情で言葉を紡ぐ。※()の中は飛ばしてお読みください。

「どうかお顔を上げてください。あなた方が心苦しく思う必要はありません。我々が行ったのは人助けという名の神への奉仕なのです(思ってないけど)。私は(依頼で)教会(正確には治療院)へと足繁く通い、街の人々に微力ながら治療を行ってきましたが(魔法の練習)、今回、私の力が足りず、手を差し伸べることが叶いませんでした(上級回復魔法出来ません)。しかし、偶然にも怪我を癒す薬を手にしていた(ナルさんに貰った)。これは神のお導きに他なりません(たぶん)。感謝したいというのであれば、是非神にお祈りください。私もあなた方を救えたことを神に感謝し、祈りを捧げたいと思います(気が向いたらね)」

 治療院へ通っていたので何となくお祈りの作法は見て覚えていたため、出来る限りそれっぽくお祈りを捧げるヒメカ。偶然にも森を抜けた馬車。窓の側にいたヒメカを包み込むように光が差し込んだことでそれらしい雰囲気は整うのだった。

 祈り()が通じたのか、行商人3名は目に涙を流しながら必死に神へ感謝を捧げる。何故か他の同乗者達も一緒になって涙を浮かべながら祈りを捧げていたが。御者はさすがにお祈りが出来ないため、すすり泣く声が聞こえるだけだった。

(え……なにこれ効果覿面過ぎて怖い)

(いや、……うん。今回は俺のせいでもあるから何も言わないでおく)

 ヒメカが顔を上げてしばらくしてもお祈りは続いた。

 この後、世間知らずさも相まって神の御使いだなんだと崇められそうになったが、どうにか否定することに成功。ただし、敬虔な信徒として下車するまで振る舞い続けることを余儀なくされたのは言うまでもなかった。

 さらに、怪我が部位欠損まで至っていなかったために、中位回復魔法でも後遺症を残さず治療が可能だった事実が判明。

 唯一の救いは、それ以上トラブルが発生することもなく、順調に目的地に着いたことだろうか。

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