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2話 親切な人はどこにでもいるものです。

 数十分後、王都へ向けて歩いていた2人は馬車に乗っていた。

「まさか王都まで乗せて行って下さるお優しい方が現れるなんて、感謝してもしきれません」

「いやいや。目的地は同じですし構いませんよ。それにこんなに愛らしいお嬢さんが歩いて王都までなんて見過ごせませんからな」

「あら、お上手ですね」

「ユウトさま、ユウトさまは王都へ何をしに?」

「冒険者登録をするためです。それとあの、様付けはちょっと…そんな身分じゃないですし」

「ではユウトさんとお呼びしても? 私のことはアレッタと呼んでくださいな♡」

 出会ったのは2人が森から街道を出て数分と経たない時。馬車が2人を追い越すと、すぐに停車し、荷台から顔を出した商人親子に声を掛けられたのだ。何度か言葉を交わし、目的地を伝えると、是非一緒にどうですか、と誘われた。どうやら娘の方がユウトを気に入ったらしい。若干敵視の色を見せていたが、ヒメカが姉だと知った時の晴れやかな表情には父親である商人も苦笑していた。

「まあ、たしかに街道とはいえ魔物がいないこともないし、盗賊がいるから旦那に拾ってもらってラッキーだったな」

「そうですよね……無一文なもので歩いて行くしかなくて……」

「あんたら顔に似合わず無謀なことするなぁ」

 一向は普通に良い人のようで、明るい雰囲気のまま王都へと到着することが出来た。

 王都の入口で降ろしてもらい、しっかりお礼を行って別れた。娘さんは名残惜しそうにしていたが、ユウトはあっさりしたものだ。

 2人が真っ先に向かうは冒険者ギルド。冒険者登録して身分証を手に入れる為と、魔物を換金する為である。

「すみません。こちらで魔物の素材を買い取ってくれるって聞いてきたんですけど……」

「はい。買い取りはあちらの窓口で行っておりますよ。冒険者カードはお持ちですか?」

「いえ。これから作ろうかと。登録料が必要なら先に魔物を売りたいんですけど……」

 お金がないことを伝えると、受付嬢はすぐに事情を察してくれた。割とそういう人はいるのだろう。

「そういうことでしたら先にあちらへ行かれた方がいいですね。登録料は一人銀貨1枚です」

「分かりました。ありがとうございます」

 言われた通りに素材の買い取りをしてもらいに専用窓口へ向かう。丁度空いていたらしく、並ぶこともなくすんなり鑑定してもらえた。

「ブラッディベアが3体とフィールドラットが16匹な。じゃあギルドカードを……え!? あんたら冒険者じゃないのか!?」

「これから登録するんですけど今文無しでして」

「はー……苦労してんだなぁ」

「解体もしたかったんですけどナイフが……。ちなみに良心的な値段でいい武器屋があったら教えてもらえますか?」

 明言を避けつつ相手の想像にお任せな上で同情をひく作戦で情報を引き出していくヒメカ。ユウトは魔物の解体する職人さんの手元を見ながら勉強中。効率的に稼ぐためには金になる部位を残したまま出来るだけ綺麗に狩る必要があるのでそういうことも知っておかなければ。役割分担してあとで情報共有。なんとも合理的な姉弟である。

「んじゃあ、ブラッディベア3体が金貨5枚、フィールドラット16匹が金貨3枚銀貨9枚と銅貨7枚。合わせて金貨8枚銀貨9枚銅貨7枚。こっから解体料銀貨2枚引いて金貨8枚銀貨7枚銅貨7枚だな。冒険者になれば解体料は銀貨1枚になるぞ。勿論自分達で解体してもいいが傷なんかで査定額は下がるからな。んで武器屋だがここ出て左に進んだとこにある『グーグー』って店がおすすめだな。あそこの親父は気難しいが腕は良い。値段はピンきりだが初級者向けのも扱ってる」

「ありがとうございます。冒険者登録したら行ってみます」

「ありがとうございます」

 2人はサクサクっと冒険者登録を終え(途中、ヒメカも冒険者登録をするのかと驚かれたり、おすすめの宿の情報を聞き出したり、他の冒険者に話を聞いたりしたが)、向かったのは解体のおじさんおすすめの武器屋。

 一番の目的は解体用のナイフ。二人とも別段スプラッタが苦手なわけでもないし、魔物の肉は食用らしいので解体出来れば食事に困らない、というのが共通の見解のようだ。攻撃は最悪素手で殴ればいいことが判明したので後回し。

「…………らっしゃい」

 無愛想ながら一応挨拶はしてくれる店主。いかにもなガタイの職人気質の親父さんである。

「解体用のナイフを探しています。できれば実物を見たいのですが……」

「そっちだ」

 店主の指差した方にナイフのスペース。一言お礼を述べてそちらへ行くと、大小様々なナイフが置かれていた。

「耐久性と切れ味……どちらもとなるとやっぱり高いな……」

「金貨1枚くらいのものにしましょう」

「じゃあこれだな。すみません、これを頂けますか?」

 条件の中から一番良い物を選ぶ。鑑定スキル持ちなので迷うこともない。

「金貨1枚」

「はい」

 ユウトが金貨1枚を支払い、ナイフはヒメカのポーチへ収納。鞘はおまけしてくれた。

「…………武器はいいのか?」

「今はあまり手持ちがなくて」

「またお金を貯めてから来ます」

 この店主が腕の良い職人なのは勘もあるが、鑑定して分かっている。お金がない中で解体用のナイフに金貨1枚かけるのも痛手だが、実用最優先。お金をかけるべきところはケチらず、生活に困らない程度のバランスを考えての決断である。

「少し待て。………………お古でいいならこれを持って行け」

 奥へ引っ込んだかと思うと、剣を片手に出てきてユウトへ渡す。スラリと鞘から抜いてみると、確かに年期は入っているが手入れの行き届いたものであることが分かる。

「これ……良いんですか?」

「ああ」

 愛想がないのはかわらないが、どうやら2人のことを気に入ったようだ。まあ、本当の事をいうならば、二人の選んだナイフは金貨一枚とするには性能が良すぎる一品で、客の鑑定眼を試すものだった、というわけである。即座にそれを選んだのも高評価。

 2人は改めて礼を言うと、お世話になった商人のお店で生活必需品を購入し、今夜の宿探しへと向かった。とはいえ、大体の目星はつけてあるのだが。

「たぶんこの辺だと思うんだけど……」

「あれか?」

「あ、そうそう。……うーんでもなー」

 ヒメカが些か不服そうにしている。それというのも、この宿は安宿ではなく、それなりの金額(一泊二名で金貨1枚)であること。本当に安い宿ならばその1/4もしないのだ。目安としてはBランク以上の冒険者が泊まるレベルの宿である。

「姉さんは少し危機感を持った方が良いと思う」

「えー」

 まあ理由は2人の(特にヒメカの)容姿。

 ヒメカの日本人離れした白く艶やかな肌やぱっちりとした目に長い睫毛、ぽってりした花唇がバランスよく配置された顔立ちは、この世界の美的感覚でもかなり評価が高い。華奢ながら女性らしいふくらみもある体格や、157㎝という、この世界にしては小柄なのも庇護欲をそそる。

 ユウトはその弟だけあってかなりの美形。ただし、ヒメカが童顔なのに対して、ユウトはすっと通った鼻筋や幼さの残る涼やかな目元、あと数年もすれば完成されるだろう年齢故のアンバランスな色気に181㎝の体躯はしなやかな筋肉がついていて魅力的。

 貴族と比べても遜色ない艶やかな黒髪だけでも、目をつけられるには充分な理由となるため、それなりにちゃんとした宿でなければ危険なのだとか。ヒメカにしてみればどうせ冒険者業やなんやで外では野宿するわけだし襲われても返り討ちにすればいい、という脳筋思考なので、出来るだけお金は節約したいようだ。

 ユウトは不服そうなヒメカを説得し、一部屋しか借りない、というヒメカの提案を飲まされた。思春期にそれはあんまりな仕打ちだろう。しかし、それもそうかと納得してしまうあたり、この2人、姉弟である。

 宿へ着くなり、途中の辻店で購入した夕食を食べ、軽くこれからのことを話し合う。

「今後の課題としては、まあ、なにはともあれお金を稼ぐことだよな」

「私の方は+魔法を覚える、かな。回復魔法を覚えれば費用削減にもなるし。広範囲の状態異常系を覚えれば良質なモンスター素材採取できるし、遠距離攻撃も出来た方がいいよね」

「俺も魔法は覚えておきたい。さすがに魔力消費の大きなやつは姉さん任せになるけど。……いうのはいいけど、魔法って覚えられそうなの?」

「んー。コツは聞いてみたからちょっと試してみるねー」

 ヒメカが人差し指を立てると、ポッと小さな火が灯る。中指、薬指、と順番にすべての指を立て、そのすべてに小さな火が灯り、手を振ると火が消えた。

「出来たな」

「ね」

「ところでコツって?」

「魔力の流れを感じて後はイメージする。魔力の流れというより気の流れ? とにかく体の中を流れるエネルギーみたいなの。今のはそれを指先にほんの少し集めて燃焼するイメージ」

「あ、それならなんとなく出来そう」

 言うが早いか、ユウトもまた同じように人差し指に火を灯してみせた。ちなみに教わったのは『点火』という火系の初級魔法で、けして無詠唱で教わったわけではない。今の説明もヒメカのオリジナル解釈である。いきなり成功させた上に無詠唱とか世の魔法士達に謝れといわれても仕方がない。

「後はステータスの詳細を確認して自分の使える属性を把握した方がいいよ。回復魔法は光属性が必要」

「どんな属性があるんだ?」

「光・闇・火・水・風・土の6個。光と闇は結構レアだって聞いた。ちなみに私は全部ある。あとは無属性もあるけど、魔法適正があれば使えるから属性の分類外なんですって」

「……俺は光・火・水・土の四つだな。回復魔法は使えるみたいだな。良かった」

 ささっとステータス確認を済ませ、再び話し合いを続ける。

「明日は依頼受けてランクを1つ上げよう。余裕があれば情報収集、で、どう?」

「それでいいと思う」

「ん。じゃあ今日はさっさとシャワー浴びて寝よう。せっかくのふかふかベッドなんだし堪能しないと損だもん」

「姉さん先にどうぞ」

 一応、目途は立ったのでその日は早めに就寝することにした。

人族の成人女性の身長は165~175㎝位が多い。男性は幅広いが、181㎝は高身長ではないが低身長でもないです。

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