14話 そういうの、良くないと思います。
翌日、朝からジャイアントディアを狩りに森へ来ていた姉弟は、森へ入る直前からずっと背後に気配を感じていた。
(ストーカー?)
(獲物を横取りしようとしてるのかも)
(えー……でも夕食に使うからなぁ)
(いや、夕食に使わなくてもダメだろ)
(んーじゃあどうしようか? 振り切る?)
(それが一番いいかもね)
結論として振り切ることに決めた2人が頷くと、不意に声を掛けられた。
「あ、あの!」
「「…………」」
スタスタスタ(無視)
「ぅええ……無視しないでくださぁい(泣)!!」
茂みから姿を覗かせたのは、ヒメカと同い年くらいの少女。ただし、精神年齢はかなりの差がありそうだ。
(……何この人?)
(話だけでも聞く?)
(え~……面倒事の予感しかしないんだけど……)
(とりあえず聞いてから判断したら?)
(……………………わかった)
「私達に何の用ですか? 用がなければもう行きたいのですが。なさそうですね。では失礼します」
「えええ!? まだ何も言ってませんよぅ」
「…………では簡潔にどうぞ」
彼女は面倒事一択である。出来ればこのまま見逃してほしいところだ。
「あ、あのぅ……私もご一緒――」
「嫌です」
「えええ!! もうちょっと考えてくれても!」
「私達は2人で充分事足ります。あなたを連れて行くメリットがありません」
「はぅ!」
正論がグサグサと刺さる。
「護衛目的ならギルドに依頼を出したらいかがですか?」
「わ、私も冒険者ですぅ……」
「だったらパーティメンバーを募るなりなんなりしてどうにかしてください」
「あ、だったら私をメンバーに――」
「2人で充分だとさっき言ったと思います。話を聞いていただけていなかったのですね。残念です」
ニコリと笑いながらつっけんどんな物言いのヒメカの態度に、ユウトが少しだけ口を挟む。
「貴方は何故俺達と行動したがるんですか?」
「ま、まともな返答……!」
「…………もう行きますね」
ユウトも面倒だと思ったらしい。さっと体の向きを変えた。
「すすすすすみません! どうか! 話だけでも聞いてください!」
いいからさっさと答えろ、というオーラを発する姉弟。
「あのですね。私は冒険者をしているミオといいますぅ。ですが、その、私、あまり強くないといいますか……ぶっちゃけ弱くて……。そのせいでパーティを組んでもすぐ追い出されてしまうんです。 なので、この森でちょっといい感じの魔物を討伐して箔をつけたいと申しますか……」
一通りミオという少女の話を聞いた結果、
((くだらない……))
結論は一致した。
「そうですか。それでは頑張ってください」
「俺達はこれで」
にっこり笑顔で立ち去ろうとする2人。しかし、そういう勘はいいのか、ミオは2人にしがみついた。
「ままま待ってくださいぃぃ!! 私もう後がないんですよう!! お2人に見捨てられたらもう飢えて死ぬしか……!」
姉弟は視線を交わし、盛大に溜息を吐いた。
「実力に見合わない箔をつけてもすぐにバレるでしょう。ランクの低い依頼をたくさんこなすか、冒険者は諦めて無難な職についたらいかがですか?」
「うぅ……正論が突き刺さるぅ……」
そう言いつつも解放する気配はない。のんびり口調だがこの人メンタル強い。
2人と1人の攻防は5分以上続き、ついに焦れたヒメカが通告した。
「これ以上妨害を続けるならばギルドへ報告しますよ?」
「そ、それは困りますぅぅぅ!!」
「ならこの手を放してください」
「嫌ですぅぅぅ」
埒が明かないと先に諦めたのはユウトだった。
(姉さん、一旦ギルドへ戻ろう)
(この人どうするの?)
(転移で振り切るのは?)
(そうね。……はぁ……何でこんな目に……)
ユウトの意見に賛成した。ヒメカは少女を残してすぐさま王都へ転移した。
まったく酷い目に遭った。
と、ヒメカが珍しくうんざりした顔をしていた。
こんな表情、性質の悪いストーカーにひと月以上振り回された時くらいか。この世界へ来てからの姉さんは自分に正直になっているし、表情も豊かになっている。まあ、前の世界でもさりげなく自由にしていたけど。とユウトは独りごちた。
「これからどうする?」
「まだお肉調達出来てないし、ギルドに報告したらもう一度あの森へ行く」
「あ、報告はするんだ」
「当たり前でしょう」
そうと決めたヒメカの行動は早い。ギルドで受付嬢に事情を説明し、手持ちの紙に人相書き(上手い)して名前も伝えると、受付嬢も思い当たる人物がいたらしく、ギルド側から厳重注意してくれるという。注意した上でまたしつこい勧誘を続けるようならランクの降格も考えるそうだ。最悪資格の取り消しもありうるとか。
「対応していただきありがとうございます」
いかにも困っています、という表情を一貫して通すヒメカ。元々細身で守ってあげたくなる容貌もあり絶大な効果をもたらしたようだ。あと餌付け。無事、ギルド職員を味方につけた。
そして再び訪れた森。今回は違うルートを通ったので、無事、件の女の子に出くわすこともなく目的の魔物を狩る事が出来た。
ジャイアントディアは肉も美味しいが、毛皮も角も需要が高い。サクサクと解体を済ませて森を出た2人は、またも運悪くミオに出くわしてしまった。
((うわぁまだ居たんだ……))
この森を利用する冒険者はそこまで多くない。むしろ、わりと穴場的な狩場である。そんな場所に何時間もいるとはなんと暇人な。
「ああ―――――!! やっと見つけました!!」
ズンズンと近づいてくるミオに、姉弟は瞬時に判断する。
((逃げるが勝ち))
王都へ転移した。
「ただいま―――!!」
「おかえりなさい、ギル君」
「おかえり」
「おかえり。肉は今から焼くから手ぇ洗ってきな!」
「はーい!!」
今日も元気なギルは手を洗いに行った。
ヒメカはナタリーの隣でソース作りと、スープを温め直しながら今日あったことをナタリーに話していた。
「あー……まあ、私が現役だった時もそういう輩はいたよ。まったく。自分の食い扶持くらい自分で稼ぎなってんだ!」
「それでランクを上げて良い事ってあるんですか? 仲間がいなければ高ランクでも下位ランクの依頼をすることになるわけですし……むしろ評価は下がりません?」
「ああいうのは次々にパーティを乗り換えるんだよ。パーティ組む時は自分と同レベルか上の奴と組みたいからね。ランクは高けりゃ高い程いいのさ」
「成程。あ、ソースの味見お願いします」
「あいよ」
あっさりしたものでヒメカとナタリーは料理の話題に。
ナタリーの料理の腕は日々めきめきと上達している。元々冒険者だけあって調理の基本はあるし、美味しい部位にも詳しい。手間を加えることも苦にしない。ただ調理法という調理法がこの世界にはなかったところをヒメカが補填しているだけだ。
「美味しいです……ナタリーさんの腕ならお店が開けるんじゃないですか?」
「いやいやいや。ヒメカが開くんじゃないのかい?」
「私は今の所、冒険者を引退するつもりはないです。せっかく冒険者になったんだから色んな所を見て回りたいですし。とりあえずすべての国に行ってみたいです」
無邪気に笑うヒメカは、年相応に愛らしい笑顔で目標を語り、ナタリーもつられて笑った。




