11話 解体してもらいました。
宿へ戻ったヒメカは王宮でのことを余すことなくユウトに報告させられていた。
「問題を起こしてなければいいよ」
「今回はそれなりに頑張ったのよ? 『用がないならもう帰っていい?』とか途中思ったけど言わなかったし」
「やめろ」
「言ってないってば。それよりそこにギルド長もいたから帰りに声を掛けられてね。ブルーミスリルウルフを解体するなら一度声をかけるように、ですって」
ちなみに、神官長にも呼び止められて感謝された。多額の寄付金が寄せられたのだ。嬉しくないわけがない。
「あーAランク指定の魔物だしな」
「うん。Dランクの私が持って行ったら騒ぎになるだろうから、ギルド長が選定した解体師が個別に扱ってくれるんだって」
「それは助かるな」
「ね」
王宮での一件で、ギルド、少なくともギルド長が王族に意見できる御仁であると分かって少しだけ株が上がっている。勿論、そこに打算があることも理解している。
「もー、王都を出なくて済んで助かったよー。上位回復魔法も教えてもらってないし、悠も調合勉強中だし」
「ああ、俺なら別に大丈夫。一通り教わったから後は繰り返し作って成功率上げるだけ。素材と道具さえあればどこでも出来る」
「そうなの? うー、私も早く上位回復魔法教えてもらわないと」
悠には負けてられない! と拳を握るヒメカである。ユウトにしてみれば、ヒメカの方が余程先に進んでいるように感じているのだが。
知っている魔法はとうに覚えているし、複数の魔法を組み合わせてアレンジまでしているのだ。複数魔法の同時発動は天性のものがある、とだけ記述しておこう。
「俺、明日は自分の調合道具を買いに行こうかと思ってるけど姉さんはどうする?」
「うーん。ギルドで解体してもらうのは決定として、料理でもしようかな。買ったは良いけどまだ使ったことがない食材に挑戦してみる」
「いいんじゃない? ずっと働きっぱなしだったし、明日は休養日ってことで」
なんだかんだ働き詰めだった2人は、ようやく休みらしい休みを満喫することにした。
翌日、ヒメカは朝食を食べてすぐに再びキッチンへと向かっていた。
「じゃあ、俺、買い物行ってくるな」
「いってらっしゃい。お昼はどうする?」
「たまには外で食べようかな」
「はーい。私、午後はギルドへ行ってるから」
「分かった」
ユウトを見送ると、食材を取り出して並べてみる。とりあえず一口食べてみて味を確認。
この世界の食材は日本の食材の代用が結構出来る。全く未知の味もないこともないが。そういう意味では種類は豊富である。
それらはヒメカの好奇心と探究心をくすぐるのだった。
「わー壮観!」
所狭しと並べられた料理の数々に、ヒメカは大満足。まだ研究の余地はあるものの、普段食べるものとしては上出来である。
「でもこうなるとオーブンが欲しくなる……」
ヒメカは自作プリンを食べながら愚痴る。一応こちらの世界にも存在するらしいが、少なくともこの部屋にはない。(宿なのだから当たり前。むしろキッチンがあるだけ御の字)
「……まあ、ないものは仕方ないか。ギルドへ行って来ようっと」
料理はすべてポーチへと収納し、ギルドへ向かうことにした。
「すみません。ギルド長に面会したいのですが」
「あ、はい。ホウライ様ですね? お話は伺っております。少々お待ちくださいませ」
受付のお姉さんはヒメカのギルドカードを確認し、すぐに上階へと上がっていった。
「お待たせしました。ご案内しますのでこちらへどうぞ」
戻ってきた受付嬢の後をついていき、案内されたのは三階の一室である。
「おお、よく来てくれた。まま、座ってくれ」
にこやかに客用の椅子に促すギルド長。執務机には大量の書類がある。
「失礼します」
解体するなら一階の方がいいのでは、と思わなくもないが、促されるままに椅子に座ると、ギルド長も正面の椅子に腰を下ろす。
「あの、ギルド長は甘い物はお好きですか? よろしければこちらをどうぞ」
さすがに手ぶらは不味かろう、と、先ほど作ったプリンを二つほど取り出してギルド長へ差し出す。
「甘い物は嫌いではないが……なんだ? これは」
「プリンといいます。タマゴとミルクと砂糖で作った甘味です」
「ほほう。では早速頂こう。………!!! 美味い!! 美味いぞこれは!!! この下の茶色い液体はほんのり苦甘いが上の部分と一緒に食べると最高だ!!」
「お口に合ったようで何よりです」
あっという間に二つとも食べてしまい、チラチラと視線を寄越す。ヒメカは苦笑してさらに3つ程追加で取り出した。これ以上はない、と伝えて渡す。ユウトの分はしっかりキープ。
「おお! 催促したようで悪いな!」
追加分もすぐに消えてしまいそうだ。
ギルド長が食べ終えるのを待ち、本題を伺う。
「あの、それで私は何故こちらへ呼ばれたのでしょうか? 解体をするならば一階の方がいいのでは?」
「それもそうなのだが、少し話をしたくてな」
「話、ですか?」
軽く頬に手を添えて首を傾げる。
「ああ。君がブルーミスリルウルフを狩ったというのはいささか信じがたくてな。あの王宮騎士団副団長が虚偽の報告をするとも思えんが、それが本当ならば君のランクを考慮しなければならない」
「……確かに最終的に一撃を加えたのは私ですが、第五部隊の方々に足止めをしていただきましたから」
「それも聞いている。しかし、Dランクの冒険者がどれだけ良い武器を使おうと、ブルーミスリルウルフの首を一撃で切り落とすなど不可能だ」
「そういわれましても。魔法を何重にもかけて放った一撃ですし、武器に関しては弟が用意してくれたものなので詳しくは知りませんが、魔法と相性がいいように感じました」
「ほう。君は魔法士だったのか」
一応驚いている風を装っているが、どうにも怪しい。こちらの様子を窺っている雰囲気を感じたヒメカだが、気にしても仕方がないので特に言及しない。
「回復魔法が使えるのは知っていたが……だが、魔法も含めて君の実力だ。ならばこのままDランクにしておくのは勿体ない。ギルド長権限で君にAランク昇格試験を受けることを許可する」
「いえ、遠慮します」
「!? な、何故だ! Aランクになれば報酬は跳ね上がるし、色々と便利だぞ?」
「倒した魔物を売れば稼げますから。それにAランク以上になれば緊急招集に応じなければならないと聞きます。ですから、今の所、Bランクまでしかランクを上げる気はありません」
はっきりと意思表示するヒメカに面食らうギルド長。昨日のヒメカが大人しかっただけにその衝撃は計り知れない。
「お前、昨日と性格違い過ぎないか……? 昨日のたおやかな姿は何だったんだ?」
「あの場に見合った振る舞いをしていただけです」
これでもまだ取り繕っている方だ。日本にいた頃はさすがにもっときちんとしていたが、異世界で冒険者となった今、そんなものとうにかなぐり捨てている。教会の依頼の時は、それも仕事の内だから、というMyルールに乗っ取った振る舞いである。
「…………それで、ブルーミスリルウルフの解体はいつしていただけるのでしょうか。別のギルドで、というならばそうしますが?」
「ま、待て。解体はウチでする! すぐしよう。そうしよう!」
これ以上話しても無駄だと理解したギルド長は、ヒメカの言葉に慌てる。ギルド長が内々に話を持ちかけた解体師は、ブルーミスリルウルフの解体が出来ると聞いて大喜び。それがギルド長のせいで出来ないともなれば……
すぐに場所を移し、解体師を呼びつける。
「ゾル。例の冒険者を連れて来たぞ」
「おっ待ってました! 準備は出来てるぜ! ……て、噂の『聖女様』ってのは嬢ちゃんだったのか!」
「こんにちは」
ゾル、と呼ばれた解体師は、ヒメカとユウトが王都へ来て、初めて持ち込んだ魔物の解体と素材鑑定をしてもらった人だった。その後も、魔物の素材を売る際に何度か顔を合わせていくらか世間話をする位の間柄である。
「知り合いか?」
「ああ。といっても二週間前に素材の解体をしてからの付き合いだがな」
「素材を売りに来た時にお話する仲ですね」
「嬢ちゃん達が持ってくる素材はいつも綺麗に解体してあって助かるわ。他の冒険者じゃ、あそこまで綺麗に出来ねえよ。うちで雇いたい位だ」
「ほう……お前がそこまでいうんだ。相当な腕前なんだろうな」
解体の腕を褒められてわずかに嬉しそうなヒメカと、滅多に仕事で人を褒めないゾルに驚くギルド長。もう少し話を聞きたいところだが、一旦打ち切り、早速魔物を見てもらうことにした。
「お願いします」
マジックポーチからブルーミスリルウルフの胴体を取り出し、続いて頭も取り出す。
「こりゃあ凄えな……」
「断面も綺麗だし、他に傷もねえ。ちょいとサイズが小さいが文句なしの一級品だな」
ギルド長は断面からヒメカの力量を計り、ゾルは素材の美しさに感嘆の息を漏らす。
「若い個体でしょうか?」
「かもしれねえな。つっても俺も見習いの時に一度見せてもらっただけだから比較できるもんでもねえが」
「へぇ。希少な魔物なんですねぇ」
「嬢ちゃん、知らずに倒したのかよ!? ……とんでもねえ新人だな」
「ん? 彼女はDランクだろ? 新人というのは少し言い過ぎじゃないか?」
「え!? 嬢ちゃん、もうDランクに上がったのか!?」
両者別の事に驚いているが無理もない。一般的にDランクに上がるのは少なくとも1、2年は冒険者をしている者達である。Fランクは肩慣らし、Eランクは冒険者見習い、そしてDランクからようやく冒険者扱いされる、というのが一般的な感覚なのだ。
「イギル、お前まーた資料読んでねえだろ。嬢ちゃんは2週間前に冒険者登録したばかりのド新人だぞ。あん時は冒険者でもねえのにブラッディベアを3体も持って来て驚かされたもんだ。まあ、それだけの腕がありゃあすでにDランクなのも頷けるか」
「に、2週間……!? それにブラッディベアだと……!?」
「最近じゃ、リザードマンやデビルディアなんかも持ってくる時があるな」
「!?」
リザードマンもデビルディアもBランクの魔物である。普通に行けば馬で片道2日かかる場所に生息している魔物だが、ヒメカは移動速度アップと地点登録を使ってすぐに行けるので、金稼ぎ目的で狩ってくる魔物である。
「デビルディアはおいしいので近々取りに行きたいですねー」
「出来ればギルドにも少し回してくれや。デビルディアの肉は高値で売れるからな」
「勿論ですよ。お金稼ぎも兼ねているので。そういえば、デビルディアを調理したものが手元にあるのでゾルさん持っていきません? 酒のつまみにいいと思いますよ」
「お、いいのか? いやぁなんだか悪いなぁ」
とかなんとかいいながら嬉しそうに(自慢げに?)ギルド長をちらちらと見ているゾル。ギルド長は悔しそうに歯噛みしているが、後で意趣返しに先ほど食べたプリンの話をしてやろうと心に決めた。どちらも大人げない。
「いつも色々教えてもらっているので」
ゾルはヒメカにとって貴重な情報源その①である。ちなみに、ギルド内には他にも受付嬢や、冒険者の中にも情報をくれる人がいる。本人にその気はないだろうがヒメカにしてみれば貴重な情報である。帰りに会えれば、午前中に作った物をおすそ分けして回る予定である。普段素材の味そのものを味わっているこの世界の人間に、手の込んだ(ヒメカにとっては普通の)料理は、それはそれは喜ばれることだろう。特に女性にはキャラメルアップルケーキもどきを用意してある。
まあ、そんなこんなでゾルがブルーミスリルウルフを解体していくのを見学するヒメカ。何故かギルド長もその場に残ろうとしたが、仕事が溜まっていることをゾルに指摘されて渋々出て行った。
「嬢ちゃんはいつも解体を見てるが暇じゃねえのか?」
「いえ。とても勉強になります。ところでブルーミスリルウルフの肉って美味しいんですかね?」
「うーん。ウルフ系の肉は臭みもあるし筋張ってて食用には向かねえんだよなぁ。だから正直あんまり冒険者も依頼外では取って来ねえ。その分、皮が売れるから出来ればもうちょい売りに来てほしいところだが、まあ仕方ねえ」
「そうなんですか……(筋……おでん……赤ワイン煮込み……臭みはどうにかして消すようにして……今度挑戦してみようかな)」
「そういえば、こいつは売りに出すのか?」
「毛皮は防具にしようかと。それ以外は売ろうかと考えています。あ、でも肉は一応1ブロック貰っておきます」
「なるほどなぁ。それなら頭はそのまま貰ってもいいか? 貴族の中には魔物の剥製が好きな蒐集家もいてなぁ。こんだけ綺麗で、さらにブルーミスリルウルフともなれば喜んで大金出すだろ」
「構いませんよ。魔物の剥製とか趣味ないんで」
「魔石もいいのか? 質の良いのが取れるとおもうが……」
「大丈夫です。……そういえば魔石って何に使われるんですか? 私、使っている所を見たことがなくて」
「一言でいえば魔力の代用品だな。小さいやつでも値は張るし、実際に使ってるのは、魔法士以外は良いとこの家か、高級宿くらいなもんだろ。あとは魔法ギルドだな。一般家庭で使ってる奴なんざいねえよ」
魔法は便利だが、その分魔力量に依存する。それを補うためのアイテムが魔石である。魔法士の必須アイテムともいえるが、ヒメカ程の魔力総量があれば自前で充分だし、マナポーションで回復すればその方がお手頃、というわけだ。
解体と鑑定が終わった時はすでに夕方。ヒメカは毛皮と肉以外として、金貨236枚を手に入れた。白金貨(=金貨100枚)や大金貨(=金貨10枚)よりも金貨の方がいいだろうということで、全て金貨でくれた。
「あ、結構いきましたね。毛皮を売らなかったのでそこまでじゃないと思ったんですが」
「半分以上は魔石の値段だな。こっちとしちゃ助かるが、本当にいらないんだな?」
「問題ないです。……今日はありがとうございました。これ、約束のディア料理です。夕食にでもしてください」
デビルディア以外にもつまみ系料理をメインに渡す。ゾルには特に情報を貰うことが多いのでその分増量である。けして、2人分しかいらないのに大量に作ったから余り物を詰めたわけではない。けして。
「お! ありがとな! また何かあったら解体してやるから持ってこいや」
「ありがとうございます。その時はお願いしますね」
作業場を出たヒメカは、おすそ分けを配って回り、宿へと戻った。




