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1話 異世界に来てしまいました?

 眼前に広がる一面の草原。腰ほどの高さの草は柔らかく、遠くには森が見えるが、建物の類は全くない。

 そんな大地に立つのは、食材や調味料各種の入ったエコバッグを担ぐ姉弟だった。

「歩きながら寝たのかな?」

「だとしたら器用だな」

「あ、悠もいたんだ」

「一緒に買い物してたからね」

 彼らは、まあ、持ち物を見て分かる通り買い物帰りである。よく利用するお店でいつものように買い物をし、いつも通りの道順で家へと歩いていた。それがどうしてこんな場所へ? と聞かれても2人には皆目見当もつかない。

「……現実逃避はやめよう。それにしても見事に草以外何もない場所ね。無駄に広いし」

「道もないから人がいそうな方角も分からない」

「まあ、ここにいても何も出来ないから適当に歩いてみるしかないかー」

「……他に方法もないし、仕方ない、か……」

 はぁぁぁぁぁと長い溜息を吐いた弟は荷物を担ぎ直して、すでに森へと歩き出した姉の後に続いた。いや、もっと慌てろよ、と思うかもしれないがこの場にツッコミ属性はいなかった。



 しばらくすると、2人は森の手前まで来ていた。

 そこへ辿り着くまでにいくつかの出来事があった。

 まず、見たことのない動物(?)に襲われたが、なんというか、2人とも強かった。

 草むらから、額に赤い石が埋め込まれたイタチのような生物が数匹、一斉に襲い

掛かるが、蹴りで一掃。文字通り蹴散らした。そして、その時の反応がこちらである。

「これって動物虐待になるのかな?」

「動物なのか、これ?」

「ゲームに出てくるモンスターっぽいよね」

「じゃあ大丈夫じゃない?」

≪おぬしら少しくらい困惑せんか!!≫

「ん?」

「何だこの声?」

 耳から聞こえてくるというより、頭に直接響く声。だが、それでも2人は動じない。

≪落とし子の気配がして神であるワシがわざわざ来てやったというに、おぬしら先ほどから全く慌てとらんな! 無駄に強いし!! ピンチに颯爽と手を貸してやろうとしたワシが阿呆じゃないか!≫

 声は若い女性。口調とのギャップや、2人の危機を待っていたような発言もあるが、当たり前にスルーされている。

「そう言われても……」

「あれだけガサガサ音をさせて襲い掛かられたら普通返り討ちにするでしょうに。それより落とし子っておそらく私達のことですよね? ここはどこなのでしょうか?」

≪………………おぬしらに普通のリアクションを求めても無意味なことはわかった。……仕方ない、説明に移るとするかの。落とし子というのは言葉通り異世界からこちらへやってきた者達の総称じゃ。こちらの世界とそなた達のいた世界が交わった時にその交わった地点にいる人や物が界渡りするんじゃ。まあ、世界が交わるなんざ滅多にないし、ピンポイントでその場に立っているなんてそうそうある事ではないがの≫

「元の世界へ戻る方法はあるんですか?」

≪おおう……いきなりズバッと聞くのぅ≫

「帰りたいですし」

≪率直に言うが、正直わからん。あくまで落とし子というのはイレギュラーな存在なのじゃ≫

「「……………………」」

≪ふ、二人してなんじゃその目は! 神にだってわからんことくらいあるわ!≫

 どんな目をしてたかって? そりゃあ勿論、こいつ使えねー、って顔です。2人とも正直すぎる。

「……ちなみに今までの落とし子とやらはどうしているんですか?」

≪それなら分かるぞ! 皆この世界で生を全うした! 今生きている者はおらん!≫

 ようやく分かる事を聞かれて、自信満々に胸を張っているのがありありと分かる声で返って来る。

「ふーん。じゃあどうしようか? 帰れないんじゃこの世界で生きていくしかないよね?」

「前の落とし子達はどうやって生きていたんだ?」

≪大体が冒険者をしておったな。ある程度金を溜めて結婚して子孫を残したものもおるし、商人になって一財産築いた奴もいたのう≫

「じゃあ私達も冒険者とやらになりましょうか」

「他に方法がなさそうだし、それしかないかな」

≪ふっふっふっそんなおぬしらにはこれをやろう!≫

 ピロン♪と軽快な音がしたかと思うと、2人の目の前に半透明の板のようなものが浮いていた。


【ヒメカ・ホウライ 15歳 異世界の落とし子

 職業: ――

 HP:1358

 MP:980

 攻撃力:1320

 防御力:652

 俊敏性:2103

 スキル:鑑定

持ち物:異世界の食材 異世界の端末 異世界のお金 ・・・】


【ユウト・ホウライ 14歳 異世界の落とし子

 職業: ――

 HP:1630

 MP:141

 攻撃力:1147

 防御力:860

 俊敏性:1780

 スキル:鑑定

持ち物:異世界の食材 異世界の端末 異世界のお金 ・・・】


≪うおう!? おぬしらステータスが高すぎるぞ!? 特に姉の方! 魔法の素養まであるとかチートか!≫

「ちなみに平均値は?」

≪(スルーされた)……一般人は100あればいい方じゃな。どれか一つでも1000あれば余程の馬鹿ではない限り騎士団に入団できるレベルじゃ。冒険者になるなら500は欲しい所じゃがおぬしらは全く問題ないのぉ≫

「つまり、これだけのステータスなら冒険者になってもある程度稼げる?」

「生活に困るのはちょっとねー」

≪こんなことなら鑑定のスキルを与えずとも良かったのう(ボソッ)≫

「そんな。こっちは右も左も分からなくて困っているというのに」

≪全く困っておらんだろう!? ……ゴホン。鑑定というのはステータスを見るためのスキルじゃ。試しにその辺の草に使ってみるのじゃ≫

「はーい」

 良いお返事をしながらその辺の少しヨモギっぽい草を鑑定してみる。

【メリム草

 HPを微量回復できる】

「メリム草だって。HPを微回復?」

≪回復薬、ポーションともいうが、の原料でもあるらしいのう。冒険者になってすぐはそういう薬草の採取なんかもするようだから不便なスキルではないだろう。人に向けて使えばその人物のステータスが見える。ちなみにそのスキルは落とし子の特典のようなものじゃ。稀に相手のスキルを見抜くスキル持ちもおるが≫

「なるほど」

≪もう一つ特典じゃ。ステータスの持ち物欄を確認せい≫

 言われた通りステータスを確認すると、持ち物欄にマジックポーチと表示されていた。違和感を覚えた2人が腰を見ると、いつの間にか簡素な袋が括り付けられている。服との落差でさらにボロく見える。

「マジックポーチ? って何ですか?」

≪持ち主のMPに準じた大きさの収納アイテムじゃ。収納したアイテムは時間経過しない便利機能付きじゃぞ。言っておくが買おうと思えばめっちゃ高いぞ≫

「いきなり現実的だな。それにしてもMP依存か……」

「基本は私の方に大きいものを入れようか」

「だな。とりあえずこの荷物入れてもらっていい?」

「ん」

 エコバッグをそのまま袋へ。明らかに口の広さが合わないのだがどうやら伸縮自在らしい。ゲーム知識に乏しいが故か、それはそういうものなのだと、やたら順応している気がしなくもない。

≪ついでにさっき倒した魔物も入れておけ。冒険者ギルドではモンスター素材の換金もしておるようだからな≫

 素直に頷いて言われた通りに収納する。

≪まあ、ワシから伝えられるのはこの位かの。目の前の森を抜けたら王都へ続く大きな街道があるから北へ進め。街道に出れば人通りもそれなりにあるだろうから道にも迷わんだろう。森の魔物はソレよりも強いがおぬしらなら撃退できるだろうさ。油断はせぬように。ではな≫

「「ありがとうございます」」



 まあ、そんなこんなを経て森の手前まで進んだ2人。途中で出くわした魔物をワンパンで倒しつつポーチへ収納するのも忘れない。

「日が暮れる前に森を出たいし、少し急ぐ?」

 まだ日は高い。しかし、なにぶん、森の広さが分からない。

「途中で魔物と戦うかもしれない、というか出来れば一晩泊まる位のお金は欲しいし、いけそうなら戦闘はする方向で」

「じゃあ魔物を見つけて勝てそうならさっさと仕留めて先に進むってことで」

 そういうと、ヒメカはカーディガンをマジックポーチへ収納、ひらひらしたスカートは縛っておく。ここで残念なお知らせ。彼女はショートパンツ着用でした。

「俺の上着も入れてもらっていい?」

「うん」

 準備を終えて2人は森へと足を踏み入れた。



「姉さん、あそこ」

 森へ入るなり、軽々と木を駆けあがり、枝から枝へと飛び移って移動する2人は少し先に魔物を発見した。

「えっと……【ブラッディベア】? ……手甲みたいなのが見える。角の生えた二足歩行の熊か……」

「イタチもどき(フィールドラット)よりは強そう」

「降りてみようか。今怪我しても治療出来ないし、いざとなったら逃げよう」

 ヒメカが地面に落ちていた木の枝をそっと拾い上げる。

 目で合図すると、ヒメカはさながら忍者のように音もなく木から木へと飛び移り、ブラッディベアの正面上へ位置取る。その隙にユウトが気配を殺してブラッディベアの背後へ距離を詰める。

「えいっ」

 タイミングを見計らって木から飛び降り、軽い声に似合わず、木の枝をフルスイング。木の枝はしなりながらブラッディベアの両目を直撃した。

『グガァアアアアア!!』

 突然の激痛にブラッディベアは雄叫びを上げ、手で顔を覆うその隙に、ユウトが一気に距離を詰め、勢いそのままに掌底を食らわせると、ブラッディベアの体は曲がってはいけない方向に曲がって吹っ飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がって速度を落とし、最終的に太い木の幹にぶつかって制止した。

「え? 弱くない?」

 ブラッディベアのステータスを見て、HPが0になっているのを確認してから近寄った。

「掌底で一発とか。ないわー……」

「姉さんの持ってた枝、木端微塵だな」

「しなった方がいいかと思ってこれにしたんだけど。でももっと丈夫なのが良かったかな?」

「撲殺出来そう」

「どうしよう。否定できない」

 マジックポーチにブラッディベアの亡骸を収納しながら物騒な会話をする。実はこの森で一番手強いのがこのブラッディベアだったりするのは、現時点で姉弟の知るところではない。

「とりあえず熊くらいなら簡単に倒せるみたいだからこの調子で行きましょう」

「……そういえば魔物の肉って食べれるのかな?」

「どうなんだろう? …………んー普通に食べられるみたい。本当、鑑定って便利だね。まあ、ナイフがないから捌けないけど」

「それもそうか」

 あったらできるのか。



 それから、魔物に出くわすものの、一撃でさっさと退治してポーチに収納し、を何度か繰り返していると街道に出た。

 この世界へ到着した時、真上にあった太陽は少し傾いているもののまだまだ明るい。

「街道に出たはいいが、王都までどのくらいかかるんだろうな」

「まあ、最悪一晩くらい野宿でもいいんじゃない? とりあえず進もう」


読んでくださってありがとうございました。

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