Episode1 The Halloween Tricks of Mr.NightMare
ハロウィーンの一週間前、ここはヨルムンガンド王国ナイトメア辺境伯領ナイトメア邸。
その一室にて、紫の艶やかな髪を赤いリボンでサイドテールに結い、コウモリのような翼を持ち、赤を基調としたゴシックドレスを身に纏った紅いルビーの瞳の吸血鬼の『少女』が退屈そうに、豪華な装飾がされた椅子にもたれかかっていた。
この土地を治める若き(?)領主、レミリィ・ヴランドール=ツェペシュ・ナイトメア辺境伯である。
「ハァ…、暇ね。何かこう面白いことはないものかしら。なんかこう毎日退屈だと退屈すぎて死んでしまいそうだわ。」
「『お嬢様』、貴方は吸血鬼なのですからそう簡単に死ぬなんてことはありません。もしかしてご自身が吸血鬼であることをお忘れですか?」
と、レミリィの専属執事である咲魔・ルナムーン=ナイト・ダンピールがツっこむ。
「あっ、そうだったわ。なーんだ、私って永遠の若さと命を持つ吸血鬼なんだから暇すぎて死ぬなんてことなかったわ。」
(あ、これ絶対忘れてたやつだ…。)
「そもそも暇すぎて死にそうって言うことはあっても、暇すぎてマジで死ぬなんてこと吸血鬼どころか短命ですぐに死ぬ人間でもそんな事例聞きませんけどね。まぁ何処ぞの隣国ではネトゲのやりすぎで死んだアホな人間がいるくらいですので、私たちの知らないところで本当に極度の退屈が原因で死んだ人間がいるのかもしれませんが…。」
「ちょっ、そこで現実世界の話題を持ってくるのはどうなのよ…。あ、そういえば現実世界と聞いて思い出したことがあるわ。確か現実世界では吸血鬼はニンニクと十字架と流水と日光が苦手って思われてるみたいだけれど、ほとんどハズレよね。ニンニクは好んで食べないだけで生死に関わるようなことはないし、十字架は元々キリスト教徒(こっちの世界でいうクライエスト教徒)だった吸血鬼が自責の念に駆られる訳で私は普通に無宗教だし、流水も別にかかっても服が濡れるくらいで平気なのよね。全く何故現実世界ではあんなデマが広がっているのかしら。まあ日光に関しては私はお屋敷どころか特殊な結界で永遠に昼が来ないここから出たことがないからわからないけど。」
そう。この土地は何故か太陽の光を遮る不思議な結界が張られており、永遠に昼が来ないようになっているのだ。
ちなみに外の世界が昼の場合、太陽の光の影響によるものなのであろうか、何故か月が夜空を紅く照らすのだという。そのおかげで今が午前なのか午後なのかわからなくなることはないらしい。
「とにかく咲魔、私は今すっごく暇なの。どれくらい暇かっていうと、暇すぎて一睡もしないでパケモンの孵化厳選作業に丸一日費やせるくらいかしら。何か面白いことってないの?」
「そうですね。『お嬢様』、今日はハロウィーンの一週間前でございます。というわけで私はハロウィーンに向けてぼっちの『お嬢様』のためにある計画を考えました。」
「計画? いったい何かしら。あと地味に私をぼっち呼ばわりするのはやめてくれない?」
「だって貴方ぶっちゃけリアルで友達も彼j…いえ恋人も全くいないヒキニートじゃないですか。さて、くだらない話はやめてそろそろ本題に入ります。『お嬢様』、『女の子はお砂糖とスパイスと素敵なものから出来ている』という言葉をご存知でしょうか。私はその言葉から名案を思いつきました。ハロウィーンとは子供たちが魔女やお化けや怪物の仮装をして各家を回り、”Trick or Treat ! ”と言ってその家の人間から砂糖の入った甘いお菓子を集るイベントです。そこでこの私は、このハロウィーンのイベントを利用してガキ共からお菓子を奪いまくり、それらをスパイスと素敵なものと一緒に錬成鍋に入れて煮込めばぼっちの『お嬢様』の恋…いえご友人となられるお方を生み出せます。暇潰しと同時に貴方の新たなご友人も作れるという一石二鳥のアイデア、気に入っていただけましたか?」
「ふーん、面白そうじゃない。気に入ったわ! 実行は一週間後のハロウィーン! 計画準備の指揮は咲魔、貴方に任せたわ。あとお腹が空いたわ、いつものレミリィ・スペシャルメニューお願いね。」
「かしこまりました。『お嬢様』。(全く、あんなご飯にケチャップを大量にぶっかけた豚のエサのどこがいいんだか。オムライスやホットドッグならまだしもアイツは紅茶やケーキ、果てはチョコレートに至るまでなんでもケチャップを大量にかけまくるからなぁ、味覚イカれてんじゃねーのかコイツ。いっそのこと吸血鬼じゃなくて吸ケチャップ鬼って名乗った方がいいんじゃないか?)」
「今何か失礼なこと考えていたようだけど一つ言わせてもらうわ。ケチャップは森羅万象何にでも対応できるオールマイティアイテムなのよ!」
「はいはいわかりましたよ。レミリィ『お嬢様』。」
レミリィは極度のケチャラーで、いつも食べ物や料理にケチャップを大量にかけ、『レミリィ・スペシャルメニュー』と称して毎日食べているのである。
しかしケチャップが合わない食べ物や料理にまでケチャップを大量にかけ(本人にとっては美味しく感じるらしい)、しかも相手に勧めたりすることもあるので余計にタチが悪く、周囲からはレミリィ・スペシャルメニューは豚のエサと呼ばれており不評である。
咲魔は屋敷に仕えている召使のコープスメイド達を総動員し、早速来週のハロウィーンに向けた計画の準備を始めさせた。
そして自身は主への食事の支度をしにキッチンへ向かう。
咲魔が去った後、レミリィはスカートのポケットから黒い液体の入ったガラスの試験管を取り出し、窓に映った紅い月にそれを照らしながら独り言を呟やいていた。
「ふん、どうせレミリィ・スペシャルメニューの美味しさ・素晴らしさがわかるのは世界広しといえどもこの私だけなのよ。・・・・・・そういえば咲魔が言ってた私の新たな友達ってのは新手のホムンクルスのことかしら。この間Tamazonでこの『ケミカルY』っていう面白そうな薬があったから買ってみたんだけれど、その薬を入れてその友達を作れば面白いことになりそうね。うふふ、今年のハロウィーンは私たちの大きな悪戯のおかげで今までにない最凶のものになりそうね。来週が楽しみだわぁ♪」
そして一週間後の夜、ナイトメア邸の屋上にて、
「今日は待ちに待ったハロウィーンね! さぁて、それでは計画実行と行きますか。咲魔、アレを用意してちょうだい。」
「かしこまりました。『お嬢様』。異次元ホールミサイル、撃ち方、用意!」
咲魔の命令で召使のコープスメイドたちがミサイルを備え付けた発射台を押し運び、発射台を上空へ斜め四十五度の方向へ向けた。
異次元ホールミサイル。MSAの力で造られた上空に巨大な異次元の穴を生み出すミサイルである。
「ところでこれ、お菓子とかスパイスとか素敵な物以外の余計なものまで吸い寄せるなんてことになっていないわよね? もしそうなったらあの転送装置がぶっ壊れて大変なことになるわよ。」
「その辺はあらかじめ製造段階でこのミサイルによって上空にできた異次元ホールはお菓子とスパイスと素敵な物のみを吸引するようにこのスマホでプログラムしてありますのでご安心を。」
異次元ホール技術というのは、MSAの発展により生み出された、異空間を利用した転送技術である。
普段ならば開放された異次元ホールはあらゆるものを吸い込んでしまい、そうなると転送装置が破壊されてしまう。
しかし、マジックコンピュータやマジックスマートフォンのプログラミングアプリを使えば吸引するものを指定することができ、転送装置の破壊も防ぐことができるのだ。
プログラミングアプリは様々な場面で使われており、物をとある場所まで動かす場合や機械を特定の条件下において特定の動作をさせる場合に使われる。
「よかった。それじゃあ早速始めてちょうだい。」
「かしこまりました。撃て!」
ポチッ
ドーン! シュボボボボボボボボボボボ……
ミサイルは勢いよく飛んでいき、遂には結界をすり抜け、ヨルムンガンド王国王都アースガルドの上空1,000メートルで爆発。その場で異次元ホールが開かれた。
この日、国中のお菓子とスパイス、そして宝石や玩具等が突如上空に現れた異次元ホールにより盗まれ・・・いや吸い込まれた。
子供たちはその日魔女やお化け、狼男、フランケンシュタインなどの仮装をしてカボチャ型の提灯ジャック・オー・ランタンを持ち歩き、各家々を回ってたくさんのお菓子を集めていたが、上空に異次元ホールが現れた瞬間集めたお菓子が全て上空の巨大な穴に吸い込まれてしまった。
もちろん泣き出す子供は大勢おり、遂には国中に「ハロウィーン中止のお知らせ」が出されるほどであった。
しかし国中の非リア充たちが望むのはあくまで「クリスマス中止のお知らせ」であるため、このお知らせに喜んだ者は一人もいなかった。
「ハァ…、何で俺って彼女できないんだろうなぁ…。やっぱりこの見た目だから職場の娘たちに女だって思われてんのかなぁ…。それとも左手が鉤だから?」
ここにもそんな非リアが一人。名前はシグルス・ヴァルキューレ・ヨルムンガンド。いつもはメイド喫茶の一メイドとして働き、裏では怪盗ヴァルキリーとして世間を騒がせている十五歳の少女・・・いや少年である。
彼はメイド喫茶のバイトから帰った後、そんな愚痴を叩きながら自棄酒を呷っていた。(ちなみにヨルムンガンド王国は飲酒・喫煙の年齢制限がない。)
「さてと、暇だからテレビでもつけてみるか。ポチッとな。」
床に落ちていたリモコンを拾い、テレビをつけてみる。
「臨時ニュースです。先程、王都の上空1,000メートルに突如巨大な異次元ホールが現れ、多くの菓子類や宝石等の物品が異次元ホールに吸い込まれるという事件が起こりました。これにより先程、『ハロウィーン中止のお知らせ』が発表されました。警察はこの事件の原因を調べると同時に…」
ピッ
「何ィ!? ハロウィーン中止のお知らせだと!? どうせならクリスマスを中止にしろよこのボケナス!! ハァ…、今年も煌びやかなネオンの下で道行くカップルを横目に見ながらゲンタッキーのフライドチキンをかじるのかぁ…。嗚呼、もう本当リア充死ね! 爆発しろ!」
シグは急に怒り出したかと思うと、その場でがっくりとうなだれてしまった。
「ん? 待てよ、今はこの異変の原因を調べて黒幕を倒すことが先じゃないか? よし、クリスマスをどうするかはひとまず後にして早速事件の調査と行くか。宝石までなくなったということは僕の盗む物がなくなってしまったわけでもあるし。」
しかし彼はそう言ってすぐに立ち上がり、上空の異次元ホールをマジックスマートフォンの写メで撮る。
そして、異次元ホールの発生源をスマホで検索してみる。
「無・『アクセス』。この画像に映し出された異次元ホールの発生源を画面に示せ。」
スマホの画面に映し出されたのは、夜空の下にそびえ立つ大きな洋館であった。
「ん? なんだこの屋敷は? 一体この建物はどこにあるんだ? とりあえず地図開いてみるか。何々? ヨルムンガンド王国ナイトメア辺境伯領? これまた随分と遠くから来たな。ハァ・・・、面倒だけどあれ使いますか。ワープ魔法は結構魔力使うから魔力切れになったら困るし。」
シグは懐から魔力増強薬を飲み干した後、
「無・『ワープ』!」
と唱え、その場から一瞬で姿を消した。
そして行き着いたワープ先はナイトメア辺境伯の屋敷、ナイトメア邸であった。
「ここか…、今回の事件の黒幕がいるのは。さて、早速中に潜入するとしますか。」
そう言ってシグは屋敷の大門の扉と門番をしていたコープスメイド一人を愛刀のサーベル『グラム』で斬り捨てると、そのままナイトメア邸の敷地内へ突入した。
そして屋敷の扉の前で宅配業者に変装し、持っていたダンボール箱の中に爆弾を仕込んだ後、玄関のインターフォンを押した。
ピンポーン
「はいはい、ただいま参ります。」
扉を開けて出てきたのは透き通るような長い銀髪で、頭頂部に立った二本の大きなアホ毛が特徴的なサファイアのような瞳の青年、この屋敷の執事である咲魔・ルナムーン=ナイト・ダンピールであった。
「あ、こんにちは、ナイトメア様のお宅ですね? こちらTamazonからのお荷物が届いております。ここにサインかハンコをお願いします。」
「あ、はい。いつもいつもどうも。ではサインをしますね。」
咲魔は懐からペンを取り出し、サインをする。
「どうもありがとうございます。ではお荷物をお渡ししますね。」
(ふっ、かかったな。全くちょろいもんだぜ。)
シグは中に爆弾の入った荷物を咲魔に手渡し、そのまま屋敷の外に出て扉を閉める。
しばらくすると…。
ドガーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「おっぽいぽ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!」
どこかのギャグ漫画のような独特な悲鳴とともに大きな爆発音が扉の向こうから聞こえてきた。
「はっはっはー(笑)。引っ掛かった引っ掛かった(笑)。さてと、それではお邪魔しまーす。」
シグは宅配業者の衣装から普段の格好に戻り、扉を開けてナイトメア邸の中へと入っていく。
中には、爆発した箱の破片とうつ伏せに倒れている咲魔の姿があった。
だがシグにとってはそんなことは御構い無しであった。
彼にとっては厄介な敵を一人倒したにすぎないのだから。
ところが彼が倒れている咲魔の前を通り過ぎると、突然足を掴まれたような感覚に襲われた。
「おいテメェ、さっきのは一体何なんだ?」
足元を見ると、咲魔が足を掴んでこちらをにこやかな顔で見上げていた。
「チッ、生きてたか。」
「生きとるわボケェェェェェェ!!! それに俺は吸血鬼と人間のハーフだからそう簡単には死なないんだよ!」
そう叫んで咲魔はシュタッとその場から立ち上がる。
足を掴んだまま立ったので、今度はシグがその場で足を引っ張られ、顔から思いっきり転倒した。
「あ痛ぁ! おい何すんだ! 僕の美しい顔が歪んでしまったらどう責任取るつもりなんだ!?」
そう言ってシグが咲魔の方を振り返ると、彼は大きなガンブレードの刃をシグの首筋に向けていた。
「調子に乗るなよ小娘・・・。貴様なぞこの咲魔・ルナムーン=ナイト・ダンピールにかかれば一瞬でその細い首を刎ねて殺すことができるのだからな・・・。」
しかし、シグはそれに怯むことなく彼を女だと勘違いした執事に反駁する。
「あんた、勘違いしてるな?」
「何だと?」
「僕はこう見えて男なんだよ? それに顔が女っぽいのはあんただって同じだろ?」
「は、はぁっ!?」
その事実に咲魔は驚いて思わずガンブレードの刃をシグの首筋から離してしまった。
「だが、貴様は怪盗ヴァルキリーだろ? 怪盗ヴァルキリーといえば王都アースガルドを中心に活動する神出鬼没の凄腕女怪盗だと聞くが・・・。まさか貴様も『お嬢様』と同じ口だったのか!?」
「え? 何? 僕って王都の外の連中からそういう風に思われてるの? そう思ってるのは王宮に仕えてるお偉い連中くらいだと思っていたんだけど。まあ見た目的にそう思われても仕方ないか。あと今、『お嬢様』も同じ口だと言っていたが、あんたの主人も男の娘なのか?」
「ああ、レミリィ『お嬢様』は実は昔から自分のことを女の子だと思い込んでいて、胸が成長しないのを恥じてパッドを付けたり女物の服を着たりしていたんだ。あ、だけど別に性癖に関してはノンケだから男に対して性的な目で見てくるようなことはないから安心してくれ。あと俺はこんな顔してるけど普通に男だからな。」
「いや、それはわかってるけど・・・。(あんたの主人って自分の事女だと思ってる男なのにそこは普通にノンケなんだ・・・。)」
「さて、無駄話は終わりだ。お前たち、こいつを片付けろ!」
咲魔は話を切り上げると、突然何人ものコープスメイドたちをけしかけてきた。
しかしシグは、それをもろともせずに、魔法やサーベルで次々と片付けていった。
十分後。
ナイトメア邸に仕えているコープスメイドたちは全てシグに倒されてしまった。
「な、なんたる実力…。あれほどの大人数を、しかも全ての属性の個体を揃えた我がナイトメア家のコープスメイド部隊を十分程度で片付けてしまうとは…。」
「僕は全属性の魔法が使える。それに剣の腕だって並みの連中では到底かなわない程度の実力と、首を落とされても死ぬ前にそれに気づかない程の超神速の抜刀術を操る技量は持ち合わせているんだよ。僕を甘く見すぎたな咲魔。」
「チッ。ならば俺が直接お前に手を下してやる! 貴様の飛○○剣流と俺の牙○、どちらが先に相手を切り裂くかな?」
咲魔はそう言ってガンブレードをビリヤードの要領で構え、シグに向かって突撃する。
「怪盗ヴァルキリー! その首、貰ったぁ!」
しかし、
「ふん、お前なんかそのガンブレードの刃さえ折ってしまえばフ○エノキ○ミで十分なんだよ!」
シグはすかさず咲魔の牙○ガンブレード式を愛刀『グラム』で受け流した。
こうして、シグと咲魔の一騎打ちは始まった。
キン、キンと刃をぶつけ合う音が屋敷のホールに鳴り響く。
「そういえば怪盗ヴァルキリー、貴様何故この屋敷に立ち入った。」
「愚問だね。お前たちが王都中から盗んだ大量のお菓子やスパイス、宝石等を『盗み』に来たのさ。」
「生憎だがお前の求めているものはすでに錬成鍋に入れて今『お嬢様』が調理しているところだ。残念だったな。もう少し早く来ていれば奪い返せたものを。」
「何!? それを早く言え!」
シグはサーベルで相手のガンブレードを弾き飛ばすと瞬時に納刀し、大急ぎで大きな階段の方へ駆け出した。
しかし、いつの間にか階段の前にはガンブレードを構えた咲魔が立っていた。
「何・・・だと・・・?」
「どうしたヴァルキリー、まだ戦いは終わっていないぞ? ははーん、さては恐れをなして逃げ出したか? でも残念、お前は戦いが終わるまでここから逃げることなどできないのだよ。」
「チッ、ならこれでも喰らえ! 炎・斬刃『カグヅチフレイムソード』!」
シグがそう唱えながら抜刀した瞬間、サーベルの刃は次第に高熱を帯び、遂には焔を吹き出し纏い始めたのだった。
そのまま居合いの要領で、焔を纏った灼熱の刃を使い咲魔に斬りかかる。
「ならばこちらも、氷・斬刃『アイシクルソードブリザード』!」
それに対抗するように咲魔も魔法を唱えた。
すると、ガンブレードの刃が冷気とダイヤモンドダストを纏った。
咲魔は極低温の刃でシグを迎え撃つ。
双方の刃が互いにぶつかり合った時、蒸気が大量に吹き出し、そして_____________遂に咲魔のガンブレードの刃が焔の熱で溶け切れてしまった。
「ふっ、勝負ありみたいだね。それじゃあ先にいかせてもら・・・おっとこれはまずいな。」
ふと見ると、刀の刃が結構ボロボロになっていることに気づいた。
先ほどの技のぶつけ合いによる温度差で脆くなってしまったのだろう。
普通ならば修復不可能な程に刃が壊れてしまっていた。
だが魔法を使えばこういうものも修復できるのでシグにとってはさほど問題ではなかった。
「無・修正『リペア』!」
無属性魔法リペア。
どんなに壊れた物でも一瞬で治してしまう魔法である。
そんなわけでボロボロになった刃は一瞬で治った。
「さて、刃が折れた今お前はもう戦えないだろう。じゃあ今度こそ先に…。」
パァン
シグがそう言いかけた途端、自分の髪が一房何かに射抜かれた。
見てみると、長めに結っていた右側の髪の長さが短めに結っていた方の左側の髪と同じ長さになってしまっていた。
床には撃ち抜かれた髪が一房落ちていた。
「戦えないだと? 甘いな。俺の得物はガンブレード。剣以外にも銃としても使えるんだよ。」
「チッ、やっぱりしつこい奴は嫌いだなぁ!」
そう言ってシグは咲魔に斬りかかるが、その隙を突かれて足に被弾してしまう。
「ふん、こんな弾丸ごときに殺られる僕では…あれ、なんだか足の感覚がおかしく…。」
「俺の銃弾の中には毒の炎を吐くモンスター・火吹きコブラの毒が仕込んであるのさ。そいつに当たった奴は傷口から毒に侵され感覚神経も麻痺し、やがて患部が腐って全身もまともに動かせなくなるって訳だ。安心しろ、俺は毒でじわじわ相手を殺そうとする程鬼ではないさ、一思いに逝かせてやる。さて、本番はここから! 闇・弾符『ダークブレット』!」
咲魔がそう唱えると、闇色の弾丸が次々と銃口から射出され、シグに襲いかかる。
シグは弾丸をなんとか刀で受け捌いていくが、足に受けた弾丸のせいで動きが遅くなっており、遂には何発か食らってしまい、その場でヘタれこんでしまった。
「どうしたもう終わりか? やはり毒が回ってきてはまともに戦えないか。ならば何もできない状態で何もできないまま逝けばいいさ。魔眼『ディー・ヴェルト』!」
魔眼。
それは特定の者が生まれつき持ってる特殊能力であり、本人の任意で発動させることができる。
ちなみに咲魔の魔眼、『ディー・ヴェルト』は発動者が『時間停止解除』というまで時間を止めることができるという強力なものだが、使いすぎると時間停止の影響を自分が受けてしまい、一定時間動けなくなってしまうという欠点もある。
「闇・弾刺『ダークランサーブレット』!」
そしてガンブレードから闇色の槍のように尖った弾丸を無数に射出し、念力でシグの周りに配置する。
「時間停止解除。」
咲魔がそう言った瞬間、シグに無数の槍の弾丸が襲いかかった。
「ふっ、くたばったか。所詮怪盗ヴァルキリーも大したことなかった訳か。さーて、怪盗ヴァルキリーは片付いたし、シャ○バでもやるか。」
咲魔は武器を懐に仕舞い、ゲームをやろうとスマホを取り出した。
ところが、
「ふーん、さっきの瞬間移動はお前の魔眼能力でそう見せかけただけって訳か。」
そんな声が聞こえたような気がしたと思った瞬間、気付けばスマホの上半分がなくなっていた。
正面を見ると、いつの間にかスマホを一刀両断にし、刀を鞘に収めたシグが立っていた。
「か、怪盗ヴァルキリー!? お前は今ここで俺に倒されたはずだが・・・? てかスマホ弁償しろ! 今までの俺の努力が一瞬で水の泡じゃねえか!」
「知るかそんなもん。お前が余裕こいてスマホゲームやってんのが悪いんだろ。そんなことより、お前なんかに全属性の魔法が使える僕が倒されるか。さっきは無属性魔法の『イリュージョン』を使ったのさ。まあこんな攻撃を避けるのなんて、東萌のエクストラステージのル○ティックモードをクリアするよりは全然簡単だけどね。」
「じゃ、じゃああれは…。」
「偽物に決まってるだろ。」
そう言ってシグが指をパチンと鳴らすと、身体中に槍の弾丸が突き刺さったシグの偽物はパァンと弾けて消えてしまった。
「そ、そんな…。」
「じゃあさっきのお返しをしてやるよ。喰らえ! フタ○ノ○ワミ、アッーーーーーーーーー!!」
シグは右腕の拳を咲魔の顔面目掛けて思いっきり喰らわせた。それを喰らった瞬間、咲魔は屋敷の扉の向こうへ吹っ飛ばされてしまった。
「よし、やっと片付いたか。さっきあいつが隙を見せてくれたから体力の回復はなんとか追いついたが今残ってる魔力でこの館の主を倒せるかどうか…。一応念のため魔力回復薬を飲んでおくか。」
魔力回復薬を飲んだ後、急いで階段を駆け上がり、屋敷の奥へと駆け出す。
その頃、レミリィは屋敷の狭い一室にて王都中から巻き上げたお菓子や宝石などを錬成鍋に入れ調理している途中であった。
「よし後は、このケミカルYを入れるだけ…。」
レミリィが鍋に薬を入れようとした時、バンッと勢いよく厨房の扉が開かれた。
「きゃっ! ああもう、薬を鍋の中に落としちゃったじゃない! なんなのよもう!」
そう言って後ろを振り向くと、金色の長い髪と左腕の鉤が特徴的な、目の周りを仮面舞踏会用のマスクで隠した少女のような少年が立っていた。
「ああ、貴方怪盗ヴァルキリーね。ここに何しにきたわけ? もしかして私たちが王都中から盗んだものを盗み返しにきたわけ? でも残念、この通りもう全部鍋に入れて調理中よ。まあ後は出来上がるまで暇だから、貴方の相手ぐらいこのレミリィ・ヴランドール=ツェペシュ・ナイトメアがしてあげなくもないけど? おいで、『カラニビエリ』!」
レミリィは手にカービンライフルと思わしき銃を顕現させ、銃口をシグに向けた。
「だったら出来上がったものを魔法で戻して奪い返すだけだ!」
シグもすかさず愛刀『グラム』を抜刀した。
しかし、ここが戦闘をするにはあまりにも狭い場所だということに今更気づいた。
「あ、でもここ狭いから一旦外に出た方がいいんじゃないかしら。」
「そ、そうだな…。」
二人は部屋を出て廊下に出る。そして、廊下にて戦闘は始まった。
「闇・弾符『ダークブレット』!」
レミリィはカービンライフルをシグの方向へ向け、闇の弾丸を何発も撃った。
しかし、シグは全ての弾丸を素早い身のこなしで避け、サーベルで受け捌いていった。
「チッ、なかなかやるわね。じゃあこれでどう? 魔眼『ロード・ドミネーション』!」
そう唱えてレミリィが目を赤く光らせたかと思うと、シグは自分の体が思い通りに動かせなくなっていく感覚に襲われた。
そして何故か体が勝手に弾丸の方へと歩みを進めてしまい、結局何発も弾丸を食らってしまった。
「な……なんで体が言うことを聞かないんだ!?」
「ふふっ、私の魔眼で貴方が自ら私の技の方へ向かっていくように仕向けたの。」
「な、なんだって…?」
「私の魔眼、『ロード・ドミネーション』は対象物をを私の思い通りに操ることができるの。だから貴方は自分の思い通りに体を動かすことができないってわけ。」
「おい、あれか。弾が当たらないからってそんな魔眼使ったのか。それズルくね!?」
「ふん、たとえ卑怯な手を使おうが使わなかろうがこの勝負、やったもん勝ちなのよ。」
「実際俺もそういう考えの持ち主なんだけど、自分がやられるとこうもムカついてくるのはなんでだろうな…。」
正直ここまで釈然としない気分になるのも初めてなので、ここは徹底的に痛めつけてやりたいとシグは思ったが、体が思い通りに動かせない状況では正直どうしようもない。
そんな何もできないような状況の中順調に攻撃を食らい続けた結果、遂にシグはその場で倒れこんでしまった。
「あら、もうおしまいかしら? じゃあこれで止めね。闇・串槍『ダークエッジランサー』!」
レミリィがそう唱えると、床から一本の巨大な闇色の串槍が現れ、一瞬でシグの体を貫いた。
「ふん、まるでゴミのようなやられ方ね。この気高くも強いこの吸血鬼の私にただの人間である貴方が刃向かったのがそもそもの間違いね。さーて、そろそろ可愛いホムンクルスたちが出来上がってる頃かしら? 」
そう言ってレミリィが錬成鍋の部屋へ入ろうとした時、
「誰がただの人間だって?」
そんな声が背後で聞こえたかと思うと、
ズバッ
突如レミリィは自分の首から下の感覚がなくなるのを感じた。
そして頭が地面に当たったかと思うと、何故か自分の足が目の前にあることに気付き、そのままスッと意識を手放した。
床には紅く濁った目の生首と、首から血を吹き出して倒れた胴体が転がっていた。
シグはそれらを一瞥すると、サーベルの血を振り払って鞘に収めた。
「身代わり魔法『イリュージョン』と透明化魔法『トランスパレシー』がここでも役に立ったか。まずあいつが魔眼を発動させた瞬間に身代わりを貼り、僕自身は透明になってずっとあいつの背後に隠れて隙を伺ってたのだけど…、こうもあっさり殺られるとは吸血鬼も大したことないな。あ、そもそも死んだことにすら気づかないか(笑)。」
今度はシグが錬成鍋の部屋へ入ろうとすると、
「あーもー、首がすっごく痛いんだけど! どんくらい痛いかっていうと、箪笥の角に小指思いっきりぶつけた時くらいかしら? 本当不死身ってこういう時に嫌だね!」
足元でそんな声が聞こえたかと思うと、
パァン
鈍い痛みとともに、左肩付近に銃弾を食らっていることに気がついた。
背後を振り返ると、何故か首のないレミリィがその場でカービンライフルを片手で構えて立っていた。
「な、なんで首がないのに生きているんだよ!?お前は吸血鬼と偽り、実は愉快なデュラハンだったかZOY!?」
レミリィはシグの足元に転がっていた自分の首を拾い上げると、それを元の場所に戻し、包帯で固定しながら驚きを隠せないシグの質問に答える。
「あのね、私はそもそも不老不死の吸血鬼なの。そりゃあ人間は首を落とされればそれこそ即死もんよ。だけどね、私は一度首を落とされても心臓と脳がやられない限りはすぐに生き返れるの。まぁこうやって固定でもしない限り首はずっと取れたまんまだけど…。というか正直驚いたわ、人間風情が身代わり魔法と透明化魔法を同時に使いこなせるなんてね。まさか貴方の偽物を掴まされるとは、一発してやられたって感じだわ。ただ、残念ね。貴方は千載一隅のチャンスを逃した。このような機会はもう二度ど来ることはないわよ。」
そう言ってレミリィはもう一度シグにカービンライフルの銃口を向けた。
(クソッ、せっかくあの吸血鬼を倒すチャンスだったのにそれを棒に振ってしまった。心臓と脳を同時に叩けば勝てるのだが、レミリィの言う通りその隙ができる保証は全くない。というか吸血鬼自体強大な力を持つ魔物だから、そいつが本気を出せば流石の俺も命が危ない。一体どうしたものか。ん? 吸血鬼…? そうだ!)
「チッ、こうなったらもう…これしか方法がない!」
シグはしばらく考え込んだ後、即座に鞘から刀を抜き、レミリィが持っているカービンライフルを真っ二つに叩っ斬った。
そして、
「逃〜げるんだよォォォォーーーーーーッ!」
その隙に納刀し、この場からダッシュで逃げ出した。
「あ、コラ待ちなさい! どこへ行くというのだね!?」
レミリィも背中の翼を羽ばたかせ、シグの後を追いかける。
しばらく屋敷内で壮絶な鬼ごっこが続いた後、レミリィは疲れ果てて遂にホールの階段の上で立ち止まってしまう。
「ハァ、ハァ、いったいどこに行ったのよもう。怪盗ヴァルキリー! 三分間待ってやる! 早く出てきなさい! さもなくばこの屋敷ごとあんたを爆発魔法で吹っ飛ばしてやるわよ!」
そして待つこと三分。
「時間よ! 早く出てきなさい!」
「はいはーい。」
そう言ってシグが目の前に現れたかと思うと、屋敷内に飾ってあった鎧を持ち出し、仮面を外してサングラスをかけ、その鎧と手を合わせた。
その一連の謎の行動にレミリィが首をかしげると、
「光・閉落『バルス』!」
とシグは叫んだ。
その瞬間、シグと鎧の手の間から強い光が溢れ、その強い光を裸眼で直視してしまったレミリィは、
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 目がぁ~、目がああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
目を押さえつけ、大声で叫び泣き喚きながらその場で倒れ込んでしまった。
「ふぅ、陽光石を持っててよかった。どうやら吸血鬼は太陽の光に弱いってのは本当だったみたいだな。なんか想像してたやられ方とは違ったけど。」
その時、
ボン!
突然奥で大きな音がした。
「ん? 何の音だ!?」
急いで奥の錬成鍋があった部屋へと向かう。
勢いよく部屋を開けてみると、______________________________
「「「「え?」」」」
そこには何故か裸の少女が三人いた。
髪色と瞳の色はそれぞれ赤、青、緑。
シグは思いっきりその柔らかそうな大きな乳房とその先に付いた桃色の果実、そして下腹部にあるほのかにピンク色に染まった割れ目を直視してしまい、顔を真っ赤にさせて鼻血を大量に出してしまい、気を失ってしまった。
「______________おい、怪盗ヴァルキリー、起きろ! 目を開けろ!」
名前を呼ばれたような気がしてハッと飛び起きる。目の前には咲魔がいた。
「あれ? 咲魔なんでお前が…。」
「お前はあの部屋の前で気を失っていたんだ。どうやら女体への耐性が全くないようだなお前は。」
「まさかお前たちが作ろうとしていたのが女の子だったとはね…。なんでまたそんなものを…。」
「半分は王都中の菓子類やスパイス・素敵なものを盗み出すというハロウィーンの悪戯、もう半分は『お嬢様』の友達兼彼女作りだな。『お嬢様』は昔から屋敷に引きこもっていたからずっとひとりぼっちだったんだ。だから『お嬢様』の寂しさや心の隙間を埋めてくれる人物を探そうとはしたんだが中々上手くいかなくてな…。だから今回の方法で『お嬢様』の寂しさや心の隙間を埋めてくれる人物を生み出そうとしたんだ。怪盗ヴァルキリー、一つ頼みがある。彼女たちを元に戻そうなんてしないでくれ、『お嬢様』がぼっちを卒業できるいい機会かもしれないんだ!」
咲魔の頼みにシグは少し悩んだ後、
「はぁ、仕方ないなぁ。わかったよ。あの娘たちはそのままにしておいてあげる。それにホムンクルスを元に戻すってのもなんだか気が引けるし。」
と答えた。
「本当か? ありがとう!」
お礼を言う咲魔にシグは少し申し訳なさそうにレミリィのことを切り出す。
「それで、話は変わるけどレミリィは今どうしてる?」
「どうもこうも、ベッドには寝かせたが何度呼びかけても目覚めないんだ…。」
どうやら気絶と同時に完全に失明してしまったらしい。
「仕方ない。ここはひとつ回復魔法をかけてやるか。咲魔、レミリィの部屋に案内してくれるか?」
「ああ、わかった。」
二人は急いでレミリィの部屋へ向かった。
部屋の中に入ると、天蓋付きの大きなベッドにレミリィが寝ていた。
シグはレミリィの目に手をかざすと、
「無・『ヒーリング』。」
と唱える。
すると、
「ふわぁぁ、あれ? 私一体どうなったんだっけ?」
レミリィは何事もなかったかのように目覚め、ベッドから起き上がった。
「『お嬢様』! 心配したんですよ! もう二度と目覚めないかと思って!」
咲魔が喜びのあまりレミリィに抱きつく。
「ちょっ、咲魔! 苦しいって!」
レミリィが半ば強引に腕を振りほどく。
「も、申し訳ありません。あまりに嬉しかったもので。」
「もう、私の専属執事なのにはしたない。」
レミリィが咲魔をたしなめる。
その時、
コンコン
「「「失礼します。」」」
ノックの音とともに、先ほどの三人娘が入ってきた。
どうやら咲魔が服を着せてくれたらしく、三人とも服を着ていたので、シグはホッと胸をなでおろした。
「貴方達ね、あの鍋から生み出されたホムンクルスは。私はレミリィ・ヴランドール=ツェペシュ・ナイトメア。今日から私が貴方達の友達としてこの世界に関することとか色々教えてあげるわ。どう? 仲良くしてくれるかしら?」
「「「はい、もちろんです。」」」
「うーん、なんか個性がないわねぇ。やっぱりそこはホムンクルスってわけか。というかケミカルYって個性をつけるための薬ではないのね。」
「「ケミカルY!?」」
シグと咲魔が同時に叫んだ。
「え? 私何かまずいことでも言ったかしら?」
「『お嬢様』、ケミカルYとは飲ませた相手に究極の魔法の力を与える劇薬です! つまりこの方たちは今や強大な魔力を有しているということになります。今回はまだ大丈夫でしたがもし使い方を間違えってしまえば大変なことになっていたんですよ!? まぁ与えられる魔力の属性が限られるのが救いですが。それに彼女らはホムンクルスなので個性は後から『お嬢様』が教育の過程で後付けしていけばよろしいですし…。」
「ふん、そうね。生まれた時は個性の欠片もないっていうのはつまらないけど、ホムンクルスの個性や性格は後付けできるからいいわ。でもケミカルYの効果に関しては面白そうじゃない。強力な魔力を持つなんて、私にぴったりの友達ね。」
「友達っていうより彼女じゃね。君達、レミリィは実はおと…ムグッ」
三人娘に向かって何か言おうとするシグの口をレミリィは無理やり押さえこむ。
「ちょっ、あんたそれを一体誰から!? いい? 私を回復してくれたことには感謝するけどそれを言うのは絶対に許さないから! 私がお〇〇だってことは忘れなさい! さもないとあんたの血液全部吸い取ってやるわよ!」
「わ、わかったから離せって! お前の秘密を知ってしまったお詫びに僕の秘密も教えてやるから!」
そう言ってシグはレミリィの拘束を無理やり振り払い、仮面を取って見せる。
「僕の正体はヨルムンガンド王国元第一王子、シグルス・ヴァルキューレ・ヨルムンガンドさ。でも安心しな。王子とはいえ僕は今怪盗として王国から指名手配されてる身だから、この娘たちもそっとしておいてやるし今回の事件も僕がやったってことにしておいてあげる。お前たちの事情も知らずにあんなことをしてごめん。」
「そ、そんな。悪いわよそんなの。元はと言えば私たちが悪いんだし。」
「気にするな。僕は王宮のへっぽこ兵士たちに捕まるほどヤワじゃない。じゃあ僕はもう退散するから。」
「ちょっと待ちなさい。」
立ち去ろうとするシグをレミリィが呼び止める。
レミリィはシグにホイッスルのような笛を手渡した。
「これは仲間呼びの笛。今回の事件の罪をかぶってくれるお礼に私たちがシグ、貴方の仲間になってあげる。困った時はこれを吹いて。咲魔と一緒に駆けつけるから。」
「ありがとう。それじゃあまたね。」
そう言ってシグは屋敷の窓から飛び出し、夜の闇へと消えていった。
「「「「「さようなら!」」」」」
残された五人はそう言ってシグを見送った。
こうして怪盗ヴァルキリーに新たな心強い仲間が増えたのだった。
ちなみにこの時誕生した三人娘が後に普段は普通の女子高生として高校に通いながらも、その裏で異世界から襲来してきたモンスターたちを強力な魔法で倒していく魔法少女となるのはまた別のお話。