「仰向けの蝉。」
月替わりした瞬間に
朝晩冷え込む。
まるで
「今月から秋です!」みたいな。
…寒さで目覚めた。
今日の現場は遠いから
早めに出なくちゃ。
トラックに乗り込んで
カーナビを検索して
現場を確認する。
コンビニでタバコとコーヒーと
サンドイッチを買う。
あ、昼の弁当、
忘れるとこだった。
サンドイッチは
いつも卵ばっかりだから、
今日はハム卵にした。
…あんま変わらん。
高速道路のPAの
ETCレーンから進入、、、
…入れたー。←笑
今の俺にとって
ETCレーンを通過するのは
ドキドキだ、、、
とある事情で金が無くて、一時、
クレジットカードが止まったから
ETCカードも
止まってんじゃねーか?
…みたいな。笑
仲間に聞いた話では
ETCカードは、
よっぽどじゃねーと
止まらないらしい。
支払いが一月遅れたぐらいで
使えなくなったんじゃ
いちいちゲートが渋滞するし
危ねーから。
でもETCを通過する度に
博打を打つ気分で
一か八か進入してくのは
心臓に良くないわー。
…そんなこんなで
今日も日中は普通に暑くて、、、
既設工場の一部を改修する工事。
昼になって午前中の約束で
応援に来てもらった
仲間を見送り、木陰を探して
コンビニ弁当を食う。
ジジッて鳴き声がして
首筋になんか違和感、
(キモっ!!))))
ゾワッとして
首筋に手をやると
コロンと何か落ちた。
羽が透明で体が黒い。
…蝉。
地面で天を扇いで
力無く足を動かす。
羽をバタ付かせても
起き上がる力は無く。
横目に見ながら
弁当を食う。
暑さで食う気もしながったが
食い出したら意外と食えた。
敷地内禁煙の現場だから
仕方無く、
とぼとぼ歩いて敷地外へ出る。
他の業種の職人も
タバコをしていた。
「あちーねー。」
って言われたから
「たまらんねー。」
と、返す。
「てか、この現場、
敷地内禁煙って有り得んら?」
「工場の従業員は喫煙所で
吸ってるじゃんねー?」
「大方、ゼネコンが自主的に
って事じゃね?」
「施主に媚びてる?笑」
「あんた、もう一人の人は?」
って聞いて来るから、
「他の現場行った。」
「え?午後から一人け?
だって、あれ、重いだら?」
「電動チェーンブロックを
梁に掛けるから大丈夫。」
「そんな細い体で一人で
よくやるねー?
ちゃんと飯、食ってんのけ?笑」
敷地外とはいえ
工場の入り口の歩道で
しゃがみこんでタバコを
吸うのは、あんまり、、、
一気に2本吸って
トラックに戻る。
さっきの木陰で地面を
ふと見ると
あの蝉は、まだ力無く
足を動かしている。
オレンジ色の腹を見せて。
…蟻が少し集まってる。
(生きてーのか?)
って聞いたら
ジジッって鳴いた気がした。
拾い上げて
木の枝に載せてやった。
勿論、蟻は落としてやったさ。
…帰りも無事にETCレーンを
通過する事が出来た。
ETCレーン通過を
こんなに喜んでいる
自分が笑える。
帰り道、少々、
雨に降られはしたが
何とか無事に地元へ戻った。
コンビニで
ビールとタバコを購入して
自動ドア抜けて店を出た瞬間、
足元に?
(げっ!)
って立ち止まると
…蝉。
あれ?
腹がオレンジ色…、
お前、まさか
昼間の蝉と同一人物?、
いや
同一蝉物じゃねーよな?
んなとこ寝てたら
誰かに踏まれちまうぞ?
そー言や、昼間のあの蝉、
どーなったかな、
見てくんの忘れたな、
店の明かりに照らされて
濡れたタイルの上に仰向けの蝉。
弱々しく
足を動かしてる。
拾い上げたが
適当な木が無い。
最後の力を振り絞って
俺の手から逃れようと
羽をバタ付かせる。
お前は充分に生きたか?
今日で何日目なんだ?
…「八日目の蝉」とかゆー
話が有ったな。
ちと考えて、
雨上がりの夜空に
思い切り投げてやったら
かろうじて、、、
なんとか飛んでった。
でも余命は幾らも無いだろう。
ふと気付くと
その一部始終を
親とコンビニに来ていた
小さなガキに
見られていた様だ。
コンビニ入口の真ん前に停めた
エンジンを掛けたままの
ワンボックスカー。
運転席の後ろの
チャイルドシートから身を捩り
水滴の付いた
ガラスに張り付いて
空を見上げてる。
もう見える訳ねーのに。笑
その車のナンバーは
偶然にも
今日の日付だった。
あ。
そか、
そーゆー事か。
あいつの月命日だわ。
すっかり忘れてたわ。
墓地公園で
蝉の話をしてやった。
なぁ、
お前が蝉を使って呼んだんだろ?
俺が忘れてたから。
もちろん
返事は無かった。
ただ
…秋の虫の声だけ。
、
もう扇風機は
タイマーを掛けて寝るべき。