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口は災いのもと

「なんだったの? 昨日のあれ……」


 千紘もあの映像を見たのだろう。

 栄太が殺された動画が、作り物でないことは、すでに分かっていた。敦の死について取り調べをしてきた二人の刑事が、本日もまた、僕たちを訪れてきたから。

 ……二日連続で『4X』のメンバーが殺されたことで、僕達への警戒も強くなったのだろう。先日とは比べ物にならない、「これって、ひょっとしたら、自白を強要しているんじゃないのか?」と疑いたくなるほど、強い口調で、僕は取り調べを受けたが――やはり、僕は何も答えなかった。

 ……志保はどうしたのだろう。昨日のことは言っていないと思うけど……。

 栄太が殺された翌日。

 正午過ぎ、僕達は駅前にあるカラオケ店に集まっていた。

 集まるときは、栄太の家に集まるのが基本だったが――もう二度と僕が行くことは無いかも知れない。

 画面は暗くなったままのモニターに三人の顔が浮かぶ。

 僕と志保は疲労が浮かんでいた。

 只一人、昨日参加しなかった千紘だけが元気だった。


「それより……。なんで、昨日来なかったのよ!」


 千紘の質問に答えるよりも先に、志保が責める。あれだけの重労働。一人でも多くいれば栄太は助かったかもしれないと言いたいようだ。

 本気の怒りをぶつけられた千紘は、こんな状況にも関わらずに――「ヘラリ」と笑った。


「え……? 志保、本気で言ったのか? 意外だわー」


 口調まで軽い。

 この男は仲間が殺されたことを悲しんでいないのか。


「当たり前でしょ? だって、彼氏が殺されたかも知れないんだよ? 『メリーちゃん』が殺したって言うなら、私は敦の仇を取りたいだけよ」


 昨日、僕に協力したのは彼氏である敦のため。

 それだけだ。

 僕の手伝いを――してくれたわけじゃない。

 ……分かってたさ。


「あっそ。じゃあ、殺されたのは俺の彼女でもなないから、別に行く理由はないよね」


 理由が『彼氏』というだけならば、千紘にとって敦は『彼氏』ではないし、殺されたのは千紘の恋人でもない。

 何一つ理由がないと、平然と言ってのけた。

 これまで何年も一緒にいたのにだ。


「でも、敦は……友達でしょ? 栄太だって……」


 真剣に言う志保がよほど可笑しいのか、にやけるだけでなく、手を叩いて笑った。


「いや、この年で友達って……受けるんですけどー。何歳でちゅかー? 幼稚園生かなー? つーか、(あいつ)のリーダー面も,栄太(ねくら)蘊蓄(うんちく)自慢にも、そろそろ、ムカついてたから――殺されて丁度良かったわー」


 千紘にとって敦も栄太も自分の欲望を叶えるための道具でしかなかった。敦のカリスマ性も栄太の知識も――すべては自分が楽して女性を手にするために使っただけのこと。

 自分より人気が高い敦。

 自分より頭の良い栄太。

 それだけで――本当は嫌いだったと、マイクに溜め込んでいた鬱憤を吐き出す。


「あんた……。こんな時に、良くそんなこと言えるわね、最低」


「こんな時だから言えるんだよ。普通に言えてたら、こんなストレス貯めてないっつーの。はっ。最低ついでに、じゃあ、この場で、一回してみない? 俺、こう見えても上手だぜ……?」


「マジで最低……」


「残念……。ま、いいけど。お前程度の女はいくらでもいるしね……。で、『メリーちゃん』は捕まったわけ?」


 捕まえられるわけがない。

 昨日の映像を見ていれば、相手が異常なことは直ぐに理解できるはずだ。というか、この流れで普通に会話が成立すると思っている千紘が怖かった。

 撮影をしているときの、仕切りをしている男と同一とは思えない。

 猫を被っていたのか。

 被る必要がないから、すぐ捨てた。千紘にとってそれだけのこと。


「えー。折角、教えてあげたのに、警察って無能だねー。あんなガキんちょすら捕まえられないんだ」


 まさかとは思うが、千紘は警察に『メリーちゃん』のことを話したのだろうか。

 志保も僕と同じことを感じ取ったようで、話したくないと態度で示しつつも、不承と話しかけた。


「え……? 勿論。志保は言わなかったの? うわー。マジもんじゃん」


 志保が急にやる気になっていることにワザとらしく驚いた。


「一途な乙女なんだね」


 馬鹿にする千紘を睨むが、僕からしたら、志保も同じ最低な人間だと僕は思う。彼女は、昨晩殺された栄太について、一切触れていない。

 栄太が死んで悲しいと。

 敦、敦とそればっかりだ。

 今日、二人の話を聞いていると、栄太は僕と差はあっても、それなりに冷遇されていたのだろうかと思えてくる。

 ……そうか。

 だから、『メリーちゃん』にしたように、金を使って心を買おうとしたんだ。『4X』の中でもそんな立ち位置だったから。

 栄太も栄太で必死だったんだ。身を守るために。

 なんて、分かったところでどうしようもないけど。

 あいつも僕にひどい事をした。

 その罪は消えない。

 ――殺されてもだ。

 千紘の言葉に、志保は一人で帰っていく。


「あーあ。体と顔はいいから遊びたかったのになー。でも、いっか。そこまでタイプって訳じゃないし」


 こいつはどこまで下種なのだろう。

 人気を手に入れると、ここまで心が醜く変化するのか。


「ちぇー。こんな根暗といても気が重いから、俺も帰ろっかなー」


 手を後ろに組んで僕を睨んだ。

 そして、ガンと足を踏む。

 小さい体ゆえに、やる行為も小さかった。

 僕は痛みに耐えて、足がどくのを待つが中々解放しない。帰るならば早く帰ればいいのに、こいつは一体に、何がしたいのだろう。

 しかし、自分から文句を言えない僕は、只々、黙って千紘から解放されるのを待った。

 今は我慢だ。

 その姿勢のままに、一分が経過した。

 一向に離す気配がないので、「痛いので退けて下さい」と、謝ろうかと思った。器が小さいから、粘着質なのだろう。僕が悪くなくても謝らない限り離さないつもりなのか。

 理不尽なやつだ。

 しかし、僕が謝る前に、千紘のスマホが振動した。

 ……。

 このタイミング。

 まさかな。

 僕は嫌な予感に体中の血液が冷えるが、


「お、レナちゃんかなー。昨日のお礼かな……? じゃあ、今日もデート、しちゃおうかな!」


 千紘は心が躍っているようだった。

 なるほど。昨日、『裏野ドリームランド』に来なかったのは、レナちゃんとやらとデートをしていたかららしい

 仲間を見捨ててデート。

 想像はしてたからいいけどね。

 だが――、


「うんだよ。また変な映像かよ。今度は俺は何を見れば言いわけ?」


 やはり――『メリーちゃん』だった。

 期待していた人間からじゃなかったからか、千紘は直ぐに映像を切ろうとするが、僕は止めた方がいいと、千紘の腕を掴んだ。

 掴んでしまった。


「あ……? お前何してるんだ?」


 僕みたいな人間に、勝手に触れた千紘は僕に顔を近づけて睨む。そして、踏んでいた足に更に力を込めた。

 僕は痛みで掴んだ力を弱めた。

 ……本人は、敦さながらにメンチを切っているつもりなのだろうが、いかんせん、迫力不足である。

この程度の睨みであれば、昨日の少女の殺人の方が断然怖い。

 ……いや、まあ、よくよく考えれば、自分のスマホから見れば良かったんだ。しかし、今更手を離したところで、千紘の怒りは収まらないのだろうけど。

 だが――千紘よりも怒っている人間がいた。

 人間と数えていいのか、自分でも分からないけれど。

 そう――画面に映る『メリーちゃん』だ。


〈人に話した人間がいる。私はそいつを殺す〉


 ……千紘が警察に話したことを怒っているようだ。昨日の無表情で栄太を選んだ時とは打って変わって、明らかに――怒っていた。


「なに? もう、君の元に警察が行ったのかなー? もう直ぐ逮捕されちゃいますねー」


 だから、なんでこいつは、こんな挑発するようなことを言えるのだろうか。なんかもう、可愛そうになってきた。

 昨日の栄太を見て、自分が殺されると言われているのに――何故、挑発できる?

 お調子者すぎる。

 これならば、敦、栄太、志保の方が断然ましだ。

 千紘は薄すぎる。

 大体、警察に話すにしても、昨日の映像が本当かどうか、確認してからにすべきだ。因みに、昨日、『裏野ドリームランド』から、自宅に戻る際に僕は栄太の家を見に行った。

 ……『メリーちゃん』に壊されたはずの扉は、普通に扉としての仕事を全うしていた。そのことを不審に思った僕は、今日の朝一番、日の出とともに『裏野ドリームランド』に向かった。

……そこにあったのは血まみれの惨劇ではなく――只の廃墟となった遊園地だった。

『メリーゴーラウンド』も寂れてはいるが、首の落ちた馬は一匹もいなかった。

 栄太が殺された現場も、僕たちがゲームに参加した遊園地にも――証拠は一つも残されていない。

 そんなことを警察が信じるわけもない。

 だが、何故、『メリーちゃん』は感情を露わにしている?

 警察に言われることで――なにか、問題があるのだろうか?


(これはゲームとは関係ない。ただ――殺す)


 『メリーちゃん』が千紘に言った。


「……はいー? 何言ってんのー?。君みたいなお子様に僕が殺せるのかなー?」


 ……この男はどこまで馬鹿なのだろう。

 言っていることが敦と同じだった。

 敦はそうやって殺されたんだ。だからこそ、『メリーちゃん』に逆らわないほうがいい。余計なことをしないほうがいい。

 栄太も志保も、この男に教えなかったのか。

 ならば、『4X』の絆も大したことがないな。

 結局、誰もが自分のことしか考えていないじゃないか。

 しかし、僕は逆にこの状況になって良かったと思う。

 仮にこの状況で『ゲーム』が行われたとしても、千紘を救う為に、本気でゲームに臨めたとは思えない。

 僕は千紘に嫌われているが――僕も嫌いだった。

 助けようとも思わない。

 せめて、最後まで猫を被れればいんだけど。

 ……無理そうだった。

 精々、ゲームに挑戦できる回数が減ったことを嘆くしかない。残された志保を助けるために、データを集めたかったが、まあ、仕方ない。

 千紘の挑発に、無表情に戻った『メリーちゃん』が一瞬で消えた。

 映像が終わったらしい。

 真っ黒に染まった画面を見て、スマホを軽く振る千紘。それでも映らない。試しに電源を入れると通常時と同じような立ち上がりの画面になった。

 電源が切られたらしい。

 スマホが壊れていなかったことに安心した千紘が言う。


「ま、いいや。向こうから来たら、犯してあげようかなー」


 ……こいつらは、そういう行為しか頭にないのだろうか。

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