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ゲーム開始

「で、なんで千紘は来てないのよ……。あいつ……、面倒だからってサボったんだ。敦が殺されたっていうのに……信じられない」


 一昨日と同じ時間に『裏野ドリームランド』に僕はいた。

 どうせ一人だろうと思っていたのだが、意外なことに、志保が僕よりも先に『裏野ドリームランド』に来ていた。

 『メリーちゃん』が指定した時間は迫っているというのに、千紘がやってくる気配はない。志保が隣で連絡を試みるが、千紘が応じることはないようだ。

 ぶつぶつと文句を言いながら何度も、何でも電話を掛ける。

 鬼電だった。

……志保の顔が本当の鬼のように怒りで赤く染まっていった。


「まあ、いいわ。あんな奴いないほうがいいわ」


 千紘は可愛い顔をしているが、狡賢くて頭が廻る。

 故に自分に何も得することがないのであれば、無理して今日こなくてもいいと思ったようだ。どうせ今頃、また、どこかの女性と熱い夜を過ごしているだろう。

 僕だってこんな所に本当は来たくない。

 しかし、栄太が死んでも生きても、信じるに値する情報が手に入る。良く分からない映像と敦の死。それだけでも必要な材料は揃っているが、自分たちに何が起こっているのか。

 この目で確かめるのも悪くない。

 僕は志保と肩を並べて歩く。

 思えば幼馴染ではあるけれど、こうやって二人並んで歩くのは久しぶりだった。幼馴染であろうとも、特に会話は続かない。

 暗い静寂の中歩いて行くと、『メリーゴーラウンド』の柵が言えてきた。


「……今日は灯りは付いてないね」


 志保が言う。

 人を呼び出しておきながら、『メリーゴーラウンド』は光っていない。やはりあの映像は悪戯で、あの夜の出来事は、敦が僕たちを驚かすために一芝居打ったのではないかと考えてしまう。敦は生きていて、ネタ晴らしするのを一人ニヤニヤと笑っている。

 ……それだったらどれだけいいのだろう。

 柵を超えて、手にしていた懐中電灯で中を照らす。


「うっ……。キモっ……」


 暗い『メリーゴーラウンド』はいつも通り。

 だが、志保は口を押さえて呟いた。これまでとは違う光景が僕の目の前にあった。いや、普通に考えればこうなっていなければならない。

 だから――普通だ。

 馬の首は落ち、渇いた血がいたるところにこびり付いた白馬。純粋な白を保っている馬は一匹もいなかった。

 ……首が落ちているということは――『メリーちゃん』が言っていたことも本当なのだろう。だとすると――この落ちている首の中から、一つ正解を見つけなければならない。

 『裏野ドリームランド』の『メリーゴーラウンド』は二つの円から出来ていた。

 外側に13匹。

 内側に9匹。

 合計22匹の馬がいる。


「…………」


 僕はその難易度に頬を引きつらせる。

 正解が分かっていれば簡単だろうが、残念なことに僕は、誰がどこに座っていたのかも覚えていない。そんな状態で、地面に落ちて、グルグルとかき混ぜられた首を見つけなければいけない。

 不可能だ。

 仮に全部を試した場合の確率は――考えたくもない。

 考えられないのであれば、身体を動かすまでだ。

 僕は、取り敢えず、行動に移そうと馬の首を掴んで持ち上げようとするが――馬の首は見た目に反して重かった。

 手触りはプラスチックだが、重みはコンクリでも詰まってるようだ。

 辛うじて胸の高さまで上げるが、真っ直ぐに歩けない。

 となると、運ぶには引きずるしかない。

 持ち上げるのは苦労するだろうが、一人で運べない重さではない。ゲームとして成立するよう、ギリギリのラインで調整されていた。

 なるほど。

 命がけの『ゲーム』。

 絶対クリアできないわけではないらしい。


「良く触れるね……」


 躊躇いもなく作業を試す僕に志保が言う。確かに女子だったならば、白馬に付着している血痕など触りたくもないだろう。

 乾いてはいるので不快感はない。

 ただ、手が触れた部分から、乾いた血がはがれていく。

 少しの作業で僕の手には赤いカスが張り付いていた。

 僕だって喜んで触りたくない。

 触らないと人が死ぬのだ。

 例え殺されるのが『4X』だろうと、守れるのであれば守りたい。

 我儘は言っていられない。

 試しに運んだ首を、近くにいた馬にくっつけようと、持ち上げた。腕の筋肉が痙攣するが、ここで落としたらどうにもならない。

 こんなことならば、もっと筋トレをしておけばよかった。

 自分の怠け加減に嫌気が差しながらも、首が着いてたであろう高さで固定した。数秒、その状態で呈した後に、手を離すと、僕のつま先目掛けて、首が落ちてきた。

 やはりというべきか、胴体とは張り付かなかった。

 そもそも、一度切れた首を、接着することなど、何の道具もなしに出来るのか。

 僕の不安に答えるように志保が声を上げた。


「ちょっと……これ」


 志保の手にはスマホが握られていた。また千紘にでも連絡しているのだろうか。来ないと分かってるんだから諦めればいいのに。

 そんな暇があるなら手伝ってくれと思いながらも、志保が差し出した画面を見る。

 志保が見ていたのは『4X』のサイトだった。

 まさか、こんな時に思い出に浸っているんじゃないだろうなと、僕は眉をしかめるが、直ぐに違うことが分かった


〈見てる……?〉


 と、金髪の少女が移っていたから。

 もはや見慣れてきた『メリーちゃん』ではあるけれど、しかし、その背後の景色はいつもと違っていた。

 見慣れていると言えば、この『メリーゴーラウンド』よりも見慣れているのだけれど。『メリーちゃん』がいるのは、『裏野駅』だった。

 夜中ということも有り、ピーク時に比べれば人は少ないが、決していない訳ではない。それなのに、金髪の少女の横を通る人は興味も示さない。

 視界にすら入っていないようだった。

 まるで――この世に存在しないような。

 そんな感じだ。


〈私はこれから二人目を殺しに行くね。あ、そうだ。首は正解すれば自然につくから、なにもいらないよ〉


『メリーちゃん』がそれだけ言うと、ぷつりと映像が切れた。どうやら、僕に対するアドバイスらしい。

 アドバイスする位なら助けてくれればいいのだが、少女にそんな気はない。


「『4X』の更新があったから、エイターかと思ったんだけど――」


 どうやら『4X』の面々は、動画が公開されると、その通知が届くシステムになっているらしい。どれだけ自分達が好きなんだと、僕は言いたくなる。

 しかし、今はそんな余裕はない。

 志保に呼ばれて、止めていた手を動かし始める。

 短い距離ではあるが、首を引きずって移動し、首を同じようにして、隣の馬に付ける。

 ボトリと地面に落ちた。

 これも外れ。

 ……。

 たったの二回試しただけで、僕の腕は笑っていた。

 やはり、これだけの数を、ヒントもなしに試すのは僕にはできない。そうなれば、まずは、栄太がどこに座っていたのか辺りを付けなければ……。

 一匹に集中して首を運ぶ。

 僕は栄太がどこに座っていたのか、思い出そうとするが、白馬の胴体はどれも同じで特徴もない。


「……ちょっと、いつまで考えてるの!」


 志保が目を瞑る僕を叱責する。

 しかし、そのタイミングで、


「また……、更新された」


 『4X』のサイトから通知が届いた。

 僕は志保の場所に移動する体力も惜しんで、自分のスマホから映像を見る。『メリーちゃん』がいる場所は、『裏野駅』から、徒歩5分の所にあるコンビニだった。


「『メリー』って言うだけあって――、栄太の家に近づいてるってこと?」


 志保が僕に聞いた。

 『メリーさん』

 それは、怪談話の中でもかなりポピュラーな話の一つだろう。徐々に対象の人間の元に近づいて行き、最後は「後ろにいるの」で終わる怪談噺。

 どうやら、『メリーちゃん』はそれを真似ているらしい。

 確かに――この道は、『裏野駅』から、栄太の家に行くときに通る道だ。ならば、徐々に栄太に近づいていることになる。それまでがタイムリミットという事か……。

 今回の映像は一言もしゃべらずに終わった。

 ……電話と配信映像の違いか。

 こんな怪談染みた所にも、電子機器の進化が関係してくると思うと笑いたくなるが、勿論、実際に笑うことは出来なかった。

 僕は映像が消えた『4X』のサイトを閉じようとするが――ふと、僕はあることを思いついた。

 もしかしたら、誰がどこに座っていたのか分かるかも知れない。

 僕は急いで志保の元に駆け寄ると、その思い付いたアイディアを話す。すぐに何が言いたいのかを理解してくれたようで、栄太に電話を掛けた。


〈なんだ! 僕は助かったのか!?〉


 電話口から栄太の荒い言葉が聞こえた。


「まだよ……」


〈早くしてくれ。あいつが……近づいている〉


『メリーちゃん』が迫っているのは栄太にも分かったのだろう。

 ヒステリックに叫ぶ栄太に、僕の考えを志保が説明した。一緒にいたのが志保で良かった。栄太は志保が気になっているのが丸わかりだ。

 敦についていたのも、志保に近づくため。そして、あわよくばお零れを貰おうとしていたから。

 ――頭がいい癖に考えることすべてが俗に(まみ)れていた。

 低俗だった。

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