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無意味な死

「……敦さんが首を千切られて死んでしまいました!」


 栄太から、その報告が僕の元に来るのに時間は掛らなかった。

 朝の7時、

 仕事に出る前には連絡がきた。

 仮に敦が交通事故で死んだのならば、僕の元に連絡が来ることはないだろう。

 だが、栄太は昨日のことを知っている。

 だからこそ――僕に連絡したのだ。


「…………」


 友人が死んだと会社には報告をして、昨日と同じく栄太の家に向かった。

 連日続けて訪れたからか、流石にもう戸惑いはしなかった。我が物顔で栄太の部屋にはいると、『4X』のメンバーが全員そろっていた。全員と言っても勿論、敦はいない。

 敦以外の3人が揃っていた。

 昨日のことを知らない千紘と志保もいた。二人にはまだ、『メリーちゃん』のことは話していない。敦があんな態度だったから、余計なことはしない選択をしたのだろう。

 僕は最初から連絡する気はなかったのだけれど。しかし、敦が実際に死んでしまったことで、二人に伝えないわけには行けないと、こうして二人を厚めあのだろう。

 彼氏が殺されて、酷くやつれた顔をしている志保。泣きはらした目。本当はここにも来たくなかったはずだ。ずっと敦の傍に寄り添いたいのか。

 対して千紘は、敦のことなんかどうでもいいように、ひたすらスマホを弄っている。千紘のことだ。もしかしたら、敦が死んで悲しんでいる女子達を狙っている可能性がある。

 相変わらず下卑た男だ。

 千紘はともかくとして、疲弊している志保に――ふざけたことを言うのは酷だろうが、しかし、本当のことだ。

 栄太は昨日のことを話し始める。


「……実は、敦くんが死んだのには原因があるんです」


「原因……? なによ、それ!? 敦は一体、誰に殺されたの?」


 敦が死んだ状況は『首が千切られた』としか教えて貰ってない。だが、『千切られた』という表現から、警察は明らかに他殺を疑っていた。

 志保も馬鹿ではないから、敦が誰かに殺されたのかも知れないとは思っていたようだ。すぐに「殺した」という単語が出てきたのがその証拠だろう。


「警察はなにも現時点では分からないって言ってたけど……? エイターはなにを知ってるの」


 千紘がスマホから目を離さずに言う。

 最後に会ったのは、僕達なので取り調べを受けた。昨日別れてから何をしたのか。いわゆるアリバイ調査だ。

 食べた物や何をしたのかは嘘を付くことなく真実を述べた。だが――僕も栄太も打ち合わせをしたかのように、あの『映像』のことは言わなかった。

 言えなかった。

 言ったら、次に自分が『メリーちゃん』に殺されてしまう気がして。我が身の保身に走ったのだ。

 それくらいで罰は当たらない。

 散々な目に遭ったのだから。

 骨が折れるほど殴られた。

 一人だけ、朝までカメラを構えて撮影されたこともあった。

 他にされたことを考えれば、それくらいは神様だって許してくれるだろう。

 警察が自力で辿り着いてくれればいいのだけれど。

 優秀な日本警察に期待しよう。

 だが、警察には言えなくても当事者である『4X』には言わなくてはならない。言わなくてはならないのだが、なんどやっても、昨日の映像は再生されない。ネットや電子機器に詳しい栄太ですら駄目だったのだ。

 それもまた、警察に言えなかった一員でもある。

 証拠がない。

 栄太のPCごと渡すという手もあるが、そのデータの中には、下手したら犯罪になるようなオイタが過ぎた『4X』の動画も保存されている。そんなものは警察に見せられない。

 栄太一人では、残りのメンバーに信じて貰えない可能性もある。だから、僕も呼ばれたのだろう。

 栄太が細めた目で僕を見た。

 ……。

 何を伝えたいのだろうか。アイコンタクトはそれなりに親しい人間だからこそ通じるのだ。故に僕と栄太の間では通じない。

 きょとんとした僕に伝えることを諦めた栄太は、


「これを……見て下さい。ついさっき……届いたんですが」


 栄太が『4X』のサイトにある動画から、一つを選択する。僕はそこでようやく栄太の視線の意味を理解した。また、『メリーちゃん』からの映像が届いたのか。ならば、二人に説明は簡単になる。

 信じるかどうかは二人次第だが。

 僕は目を細めて、再生された動画を見る。

 見たくないような、それでも見なければいけないという感情の板挟み。僕は怯えた目を薄めて真っ黒な夜空が浮かぶ画面を見た。

 場所は昨日と同じ『裏野ドリームランド』にある『メリーゴーラウンド』だった。すぅーと影と一体になっていた『メリーちゃん』が姿を現した。

「ははは」と、声だけで笑い僕達に言う。


「……昨日は来なかったね。でも……本人が望んでたから。気にしないでね」


 薄目で顔は分からないが、金色の髪と声で、『メリーちゃん』だと認識できる。『メリーゴーラウンド』に突如として現れた少女に、千紘と志保は不審そうに首を傾げる。

 少女が何を言っているのかも理解できない。

 この映像に栄太はなにを怯えているのだろう。

 二人共、顔にそう浮かんでいた。

 千紘と志保。

 二人の疑問に構わずに『メリーちゃん』は淡々と話を進めていく。


「……じゃあ、今日は誰にする?」


 ……。

 やはり――今日もあるのか。

 いや、それ以前に『メリーちゃん』は敦が死んだことを知っているのか。昨日の話からして――やはり、少女が敦を殺したのか。

 あの人間離れした力を使って……。

 『メリーゴーラウンド』の馬のように敦の首も……。

 敦の首が折れ、血が噴き出し返り血を浴びて笑う『メリーちゃん』の姿を想像する。こういう時ばかり働く想像力だった。

 「誰にする」と『メリーちゃん』に聞かれても、その意味をしるのは僕と栄太だけ。

 さらに言えば僕は選択対象から外れている。

 唯一残った栄太は――「すっ」と、千紘を指差した。『メリーちゃん』に、千紘を今日の対象にするように指示したのだ。

 少しでも長く自分が生きるために、栄太は千紘を犠牲にしようというのだ。

 ……。

 所詮、敦のカリスマ性と暴力によって繋がれた絆。

 敦が消えればこうなるのは当然か。

 映像の中にいる少女は、意思のない視線を栄太が示す方へと動かした。そして、その人物を見て、ひとり小さく頷くと――、


「今日は……君だ」


 今日の対象者を宣言した。

 『メリーちゃん』が選んだのは――栄太だった。

 思わせぶりな『メリーちゃん』の態度に今日は生き延びたと安心した栄太。


「な、なんで、私なんですか!? さっき、千紘を見て……!!」


 白い顔を更に白くして、自身のパソコンを両手で揺らした。だから、昨日の敦が拳を使っても反応を示さなかったのだから、それくらいの振動で効果があるとは思わない。

 縋るようにして画面に食いつく栄太。

 千紘と志保はその形相に「キモっ」と呑気に笑っていた。


「もう一度、もう一度選び直してください!」


「私のいうことは絶対。私に指示したから、あなたを殺す。それだけなの……」


「そんな……。そんな理由で」


 対象者を選択したから、もう姿を見せる必要はなくなったのだろうか。映像が消え、栄太のパソコンにはいつも道理の背景が浮かんだ。

 『4X』のメンバーが楽しそうに笑ってお気に入りのポーズを取っている写真だった。

 ……。

 ちなみに、これを撮ったのも僕だった。

 これは……去年のこの時期くらいだったか。キャンプに行くということで僕も連れていかれた。一人でテントを張り、BBQをするときは、一人で火を起こして、ひたすら4人分の肉を焼き(結局、僕は残った野菜しか食べれなかった)、そして花火では僕を標的に打ち上げ花火を放ったりした……。

 散々ひどいことをされたものだ。

 それなのに栄太は――、


「なあ、行ってくれますよね……? そうしたら、君が欲しいものをなんでも買ってあげますから……。だから、だから助けて下さい」


 栄太の泣きじゃくって僕に助けを求める姿に、千紘と志保の顔が引きつる。「マジでキモい」と今は笑ってもいなかった。

 だが、「お願いします。お願いします」と何度も僕に土下座をする栄太を見て、映像に興味を示したのか、千紘が栄太に聞いた。

 ……こんな時でも千紘は僕に質問をしなかった。

 こんな無様な姿を晒していても、栄太の方がマシというわけか。自分が売られたことも知らないのにいい気なものだった。

 千紘の言葉に、少し落ち着きを取り戻したのか。

 眼鏡の位置を直して栄太は座り直して、小さな声で説明を始める。


「……先ほどの少女は、『メリーちゃん』と名乗りました。そして、僕たちにこういったゲームを申し込んできたんです」


 栄太がPCを操作すると、画面に昨日のルール説明がそっくりと浮かび上がる。

 どうやら、栄太は自身の記憶を頼りに復元したらしい。

 これと僕たちが撮った映像があれば、最低限の説明は出来る。栄太の説明は、今しがた死の恐怖に取り乱したとは思えないほど、順序だてた説明だった。 


「それ……本当なの? じゃあ……敦は」


 だが、どれだけ分かりやすかろうが、元が簡単に信じられない話なのだ。馬鹿にされずに聞いて貰えただけ良かったと思うべきか。

 完全には信じきれていない志保。それでも、敦を殺したのが『メリーちゃん』なのかと栄太に問いかけた。


「……僕は本当だと思ってます。じゃなきゃ……、敦は……」


「僕は栄太を信じたほうが良いと思うな」


「千紘……」


「信じられないけどね……」


「うん。でも、信じられないことはもう一つ、あるかな。その話が本当なら、栄太は僕を生贄にしようとしたってことだよね?」


「それは……」


「それによっては、僕も考えなきゃいけないからさ」


 ……千紘のいうことは正しい。

 栄太は自らの命の代わりに千紘を自ら差し出したのだ。そんなことがバレたら、『メリーちゃん』に殺される前に、千紘に半殺しにされる。

 栄太は自分の犯したミスに僅かに「しまった」と顔を歪めたが、直ぐに取り繕う。


「……実は、昨日、敦くんも志保さんを同じように庇ったんです。そしたら、やはり同じように……選ばれました。だから……私も、自分を……、本当です」


 この男……屑すぎる。

 よくもまあ、ここまで口が回るものだ。人を売っておきながら、逆に自らの行為の正しさ、優しさをアピールする。

 だが、所詮は出まかせ。

 僕は昨日素おば似たのだから、その事実を知っている。栄太が僕を睨む。だから、アイコンタク尾が通じる中ではない。

 と言いたいが、流石に、このタイミングで睨まれれば察しは付く。

 何もしゃべるな。という事だろう。

 もっとも、取り繕った嘘が上手くても最初から無理がある構築なのだ。

 その穴は直ぐに見つかるだろうが――、


「栄太。ありがとう……。僕のために、自分を犠牲に……。栄太は僕のヒーローだ」


「……千紘くん」


 千紘が涙ぐんで栄太のかあを掴んだ。ままさか、その場しのぎの出まかせがここまで通じるとは思っていなかっただろう。これを機にとばかりに、栄太は二人に提案育下。


「では、今日の夜、彼をサポートしてあげてくれませんか? もしも、『メリーちゃん』の言う通り、ゲームが始められるのなら、その光景を目に出来る筈です。そこで三人で動けば、私の生存率は上がります」


 栄太は更に自分が殺されない様にと予防線を張る。こんな提案、だれも乗らないだろうが、今日の意紘はおかしかった。まさか、本気で栄太の言葉を信じたのか。


「分かった。栄太の為だったら、僕は何でもするよ。今日の夜、『裏野ドリームランド』に行けばいいんだね!」


 千紘は乗り気だった。

 ……僕も、仮になにかするにしても、一人よりは三人の方がいい。

 志保と千紘。

 敦がいなければ、そこまでひどい事にもならないだろう。先陣を切って僕を痛めつけた男はもういない。

そう思えば、このゲームをやってみてもいいかもしれない。

 ……助ける権利は僕にあるのだから。

 脳の片隅に浮かぶ邪悪な発想。

 本気で見捨てるなんて思ってもいない。でも考えるだけなら自由だ。


「そうと決まれば、僕は防犯対策を取ります。君たち、夜は任せましたよ」


 自らを案じる栄太に、僕は見捨ててもいいかも知れないと本気で思った。

 何故なら、彼は僕が助けるのは当たり前だと――そう思っているようなのだから。


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