ゲーム終了
……いつからだろう。
僕はいつから『メリーちゃん』という幻想に浸っていたのだろう。初めて『裏野ドリームランド』に訪れた時だろうか。
あの時から、僕は『メリーちゃん』という空想人物を作り上げ、如何にも彼女のせいで殺していると自分に言い訳をして――僕は毎日人を殺した。
『メリーちゃん』となって。
敦はこの『メリーゴーラウンド』に呼び出して殺した。『光っていた現象を突き止めた。他の噂も本当だった』なんて言ったら、一人でホイホイやってきた。
『裏野ドリームランド』のゲートを潜った敦の背中を刺した。
それでも抵抗しようとしたから、足の筋を切って歩けなくした。入り口付近では人に見られると怖かった。
だから、この『メリーゴーラウンド』に移動した。
移動しても、やっぱり、敦は喚いて五月蠅かった。
落ちてた瓦礫で口を潰した。
「ホガホガ」言ってておかしかった。
しばらく、見てたけど、そのうち飽きて喉を裂いた。
血が出た。
『メリーゴーラウンド』が赤く染まった。
次の日。
僕は栄太を殺した。
殺すのは簡単だった。
敦に家の合鍵を預けていたから、鍵を使って、寝込みを襲った。最期に僕を買収しようとしたけど、お金なんていらなかった。
お金で買えない命を僕は奪った。
必死に叫んで助けを求めた栄太だけど、お金持ちで防音の家なんて買うから、誰にも届かなかった。
……可哀相に。
一応、敦に罪を擦り付けるために、色々、証拠を残してきたけど、どうだっただろう。警察にはバレたのかな?
バレないといいな。
そんな不安から、取り調べを受けた想像をしちゃったのかな。
僕は心配性だな。
まあ、今、捕まってないからいいか。
次の日。
千紘が僕を怪しんだ。
証拠もないのに警察に連れてかれそうになったから殺した。本当はこの『裏野ドリームランド』で殺したかったけど、来てくれなかった。しょうがないから、指紋を潰して歯を砕き、少しでも身元の特定が遅れるように細工しといた。
効果があるといいな。
そして今日。
僕は志保を呼び出した。
敦を殺した犯人が分かったと僕は呼び出した。
そして教えて上げた。
嘘はつかなかった。
僕だと。
お前に敦が殺せるわけないと馬鹿にされたが、死体を見せたら信じてくれた。志保は僕につかみかかって来たけど、志保は女の子。
今まで敦に守られていたという事実を忘れていたようだ。
僕は志保を倒して、自分の欲望をひたすらぶつけた。
細かく優しく指示を出してあげた。
僕の指示に従えば生きていられと勘違いしたのか、なんでも聞いてくれた。
自分からしてくれた。
……志保が生きていれば、僕の子供を産んでくれたかも知れない。自分の遺伝子を持った人間が、この世にいるのは嫌だから、志保もろとも殺して良かった。
『4X』は全員殺した。
途中、何ども挫折しそうになったし、罪悪感に負けそうになったけど、これは『ゲーム』だと思えば実行できた。
だから、ここで自分を殺すことも簡単だ。
うん?
自分を殺す?
あれ?
僕は一体何をしているのだろう。
『メリーゴーラウンド』の上部にある、頑丈そうな支柱に縄を結んで、僕は自分の首を通そうとしていた。
馬の頭を踏んで。
首を吊ろうとしていた。
……おかしいな。
『4X』を殺したからって、自分まで殺すつもりはなかったんだけど。
僕は自分が無意識に死のうとしていたことに笑い、馬から降りようとするが、すんでのところで踏みとどまった。
……いや。おかしくないのか。
僕は少女に殺されそうになった。
だから死ぬ。
でも、『メリーちゃん』は僕の妄想で――いるわけがない。
自殺なんてしたくない。
そう思うはずなのに、僕の体は動かない。それどころか、縄を掴んで、首を更に深く輪の中に収めようとしていた。
僕の首が完全に輪っかに収まったところで――『メリーゴーラウンド』が廻りだした。
その振動に僕は足を踏み外した。
首が閉まる。
息が出来ない。
苦しい。
必死に縄を腕で掴み、足を動かすが、馬の頭がない。
首が落ちていた。
意識が遠のく。
……。
消える意識の中――金色の髪をした少女が『メリーゴーラウンド』の外にいた。
楽しそうに僕に手を振る。
僕は少女に笑って両手を振った。
……ああ。
彼女は本当にいるのだろうか。
幻想なのだろうか。
どちらにしても、僕が言えることは興味本位に『噂』を試しちゃだめだ。
ここに来なかったら――僕は『4X』を殺すことはしなかっただろう。
――全部、『裏野ドリームランド』のせいだ。
僕の死を祝うように――『メリーゴーラウンド』に光が灯った。




