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まんまるチョコル

作者: ながとみコケオ

 ありえない。

 俺が、最初に思った一言だ。

 何が、あり得ないって?

 そりゃあ、今俺の目の前に広がる光景だ。自分の家のリビングに、あってはならない山がある。

 朝、何時も通り起きて、寝室からリビングに移動した。扉を開けて一番最初に自分の視界に飛び込んできたのが、山だ。

 ここは、自分が借りて住んでいるマンションの一室の筈。

 呆然としたまま、床を見る。山の周りには、何故か空き箱となった段ボール達が、不規則に転がっている。リビングに配置していた筈のテーブルやテレビなどの家具類は、全て右端に並べられており、家具が配置してあった場所には、そびえ立つ山。山頂は自分の頭上で、天井に届いてしまっている。気のせいか、筍のように天井を突き破って伸びてしまいそうに思えた。

 誰だ、こんな物を俺の部屋に作った奴は。

 俺自身じゃないことは、確かだ。

 昨夜は仕事から帰宅した後、何時も通り早々にシャワーを浴び、コンビニで買ったつまみを食べながら三五〇mlの缶ビールを二本呑んだ。それから、日付が変わる頃までテレビを観ていたが飽きてしまった為、隣の寝室で就寝した。

 普段通りに寝たのだ。しかも、一人で。なのに、何で。

 周辺を見回わして、何もないことを確かめると山に近づく。山の正体は無数の菓子箱だ。それも、未開封。

 菓子箱は、無造作に積み上げられ、天井に達している。数える気力も失わせる、菓子箱の数。

 何の目的で、こんな山を作り上げたんだか。

 山からほんの数センチ、離れた床に転がっていた菓子箱を拾い上げる。赤いパッケージに、黒文字で書かれた「まんまるチョコル」に、無言のまま視線を落とす。

 この「まんまるチョコル」は、中心核となる部分が軽く、サクッとした食感の焼きチョコを、滑らかな舌触りで、口どけ抜群なチョコが包み込んでいるチョコレーレート菓子で、ビターチョコ、ホワイトチョコ、 アーモンドチョコの三種類が一箱の中に入っている。確か、売れ行きもまあまあ良かった筈。

 どうでもいい、小さく呟いてもう一度「まんまるチョコル」の山を見上げてみる。

 誰が、どうやって大量の「まんまるチョコル」を運び込み、山にして行ったんだ。

 玄関は、鍵がかかっている。帰宅時、扉を閉めると同時に鍵をかける習慣が身に付いているのだ。

 たった何時間で山を作るなんて、人間の仕業じゃない。

 では、幽霊? それ以前に自分にはみえない。妖怪も然りだ。

 宇宙人? 申し訳ないが、窓の鍵もかけたままで、物理的に侵入は無理な気がする。

 あとは、ない。

 しかし、この「まんまるチョコル」は、何処から持って来たんだ。

 大量にあるから、生産工場とか、大量購入したスーパーかな。今頃、なくなってるって驚いてんだろうなあ。警察にも通報してさ。

 ちょっと待て、俺、警察に通報されたら、窃盗犯になるんじゃないか。

 拙い、非常に拙い。俺、何もしてないのに、自宅に山積みされて窃盗犯で逮捕されんのか。冗談じゃない、警察に連絡して事情を説明しないと。

 慌てて寝室に戻り、置きっぱなしにしていた携帯電話を開ける。

 あれ? 電話かかってる。

 不在着信と、開いた携帯電話の画面に表示されていることに気付き、誰が電話したのか確認する。

弟だ。

 取り敢えず警察に連絡する前に、こいつに連絡して事情を説明しておこう。

着信履歴から電話をかけると、五コール目で電話が繋がる。

『おはよ、やっと電話気付いた?』

 聞こえる声は、昔から変わらない呑気な口調だ。こっちは、「まんまるチョコル」が山になってるお陰で、窃盗犯になりかけてるのに。

「はよ。何の用だよ」

『リビング見た?』

「見た」

 何でこいつが、リビングのこと知って。山、作ったのはこいつか。そう言えばと、弟に自宅の合鍵を渡していたことを思い出す。

『凄いでしょ、「まんまるチョコル」の山』

「凄いじゃねえ。何処から「まんまるチョコル」持って来たんだよ」

 今頃、数が足りないって大騒ぎだぞ。溜息混じりに呟くと、弟は何故か鼻で笑った。

『当たったんだよ、それ。あんまり多いから、兄貴にお裾分け』

 当たったって。どんだけ当ててんだ、こいつは。

『三年分当たったけど、そんなに食べらんないよな』

 三年分って。こら製造会社、どんだけ当てさせてんだ。せめて、一週間分にしてくれよ。

特大の溜息と共に電話を切った後、空き段ボール箱に山積みの「まんまるチョコル」を入れ、一週間近くをかけて、全ての「まんまるチョコル」を、同僚や知り合いにお裾分けしたのは言うまでもなかった。

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