表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逢わせ鏡  作者: 祭月風鈴
第1章 少年の思い
5/5

最終話 鏡に反射したモノ


 その後、ズルズルと彼女との下校を楽しんだ。

道端の小さな花が可愛いと立ち止まる彼女。

「子猫がいる」と言って駆け寄り

道端に生えているネコジャラシを引き抜いて

子猫と戯れる彼女。 

「電車来るぜ」と声をかけても

「もうちょっとだけイイ?」と

可愛くお願いしてくる彼女……。

最初の気合は何処へやら。

僕は、彼女との道草に夢中になっていた。

今までになくとても穏やかで幸せな時を

一つ一つ噛み締めている。

彼女の髪が風になびくだけで

こんなにドキドキしたこと……あったっけ?


「みずき……」


 どこかの家の塀の影。 

通りから少し奥まった場所。

彼女の手を引き、物陰へ隠れる。

ブロック塀に彼女の背を押し当てて

じっと見つめた。

彼女の目が大きく見開き

頬がほんのり赤くなってくる。


「一樹……?」


 僕は彼女を抱きしめていた。 

胸が一杯で張り裂けそうだ。

押さえきれない僕の気持ちを

すべて彼女にぶちまけた。



    ずっと一緒に歩きたい。 


    ずっと一緒に笑っていたい。 


    ずっと一緒に話していたい。 


    ずっと傍にいたい。 


    ずっと……


    これからも一緒に……!



「ぼ……僕は、みずきと……」


 あの日、僕の目の前で息絶える彼女。

もう二度と見たくない。

僕は決めた。

この世界に、みずきと一緒に生きる。

彼女を守り抜いて、一緒に生きる!

逢わせ鏡のペースなんて

もう、どうでもいい。

目の前に彼女が生きてるじゃないか。

やり直せる。

こっちを本当の世界にすればいいだけさ。

もう、あんな思いは……したくない。


「一樹、何か光ったよ」

「え?」


 彼女と一緒に、青空を見上げた。


「な……なんだろうね」


 彼女が不思議そうに、まだ青空を見ている。

目が澄んでキラキラしていて、吸い込まれそうだ。

彼女の頬に手を添えて自分の方へ向かせた。

2人だけの時間が流れる。


「ずっと、このまま……僕と一緒にいないか?」


 けたたましいクラクションが遠くに聞こえた。


*


 それは突然の事だった。

暴走した車が僕らに向かって迫っていた。

僕は彼女を突き飛ばし

その場から逃がすだけで精一杯だった。

バンッという音と衝撃と共に

僕の視界に映る景色は

彼女から空高い青空へと変わった。

甲高い悲鳴を上げる彼女の声が辺り一面に響き渡る。

そんな彼女の声を聞きながら

青空の向こうにあるモノを僕は見つけた。

それは、薄白い月のように見える巨大な僕の顔。

ギョッとしたけど

現実の世界で『逢わせ鏡』を映している

僕の姿だと理解した。

現実の世界の僕は、目から涙を流している。


あぁ、これが『逢わせ鏡』に反射して

予想外の事が起きたのか…


なんで、僕は涙を流したんだろう。

そうか……彼女と逢えて

とても幸せな時を過ごせたからだ!

本の注意書きにも書いてあったな。

鏡以外に反射する物は映すなって。

予想外の事が起きるから……だっけ? 

なんだか、もう忘れた…

まぁいいや。 

これで彼女は死ななくて済んだ。

心底嬉しいって……

こんな感じなのかな……?


*


 俺は、アイツの彼女とカップル道路を歩いている。

今日だけ特別だ。 

なぜなら、今日はアイツの一周忌。 

花束を現場に供えに行く途中だ。

アイツは大切な自分の彼女を

暴走車から守るために身を挺して助けた。

代わりに自分が死んじまったけどな。

俺の一番の親友だったのに……。


「小菅くん、一樹のお姉さんから貰ったものがあるんだけど」

「え? 何?」

「この本、読む?」

「何コレ……『逢わせ鏡』?」

「一樹、すっごく読んでいたんだって! 部屋に閉じこもっちゃうくらい」

「ふ~ん」


 俺はペラペラ捲ってみた。

何だか良くわからない事がズラズラ書いてある。

これの何処がアイツを夢中にさせたんだ?

全くガラでも無い。

アイツはモンハンの攻略本愛好者だぜ!?

俺は、「くだらない」と言いそうになった口を無理やりつぐんだ。

すると彼女は唐突に言った。


「もしよかったら、小菅くんにあげるよ」

「え? みずきは読まないの? 恋人との会い方とか書いてあるみたいだぜ」

「いいの、もう」

「だけどさ……」

「とにかく小菅くんがこの本を受け取って! 親友だったんでしょ」

「あ、あぁ……」


 俺がアイツの彼女とこんな会話をやりとりしていると

遠くから黒い車がやってきて俺たちの前を塞ぐように止まった。

  

「なんだ? この車……」


 俺が警戒して、彼女を俺の背後に隠した時

運転席の窓が開いて中から男が声をかけた。


「あ、先輩! ここまでありがとうね、小菅くん。それじゃ♪ 」

「お、おい! みずき! 待てよ!!」


 彼女はアイツの本を俺に渡して

さっさと車に乗り込み行ってしまった。

アイツに花束を供える前に……だ!

 残された俺は1人で現場に向かった。 

そして、今では何事も無かったように

静かなその場所へ花束を放り投げた。


「一樹、お前馬鹿だよ。あんな女に……」


 俺は悔しくてたまらない。

叶うなら、アイツに会ってはっきり言いたい。


「さっさと、別れちまえ!」


 思った事が口をついて出てきた。 

今更言ったって遅いけどな。


「逢わせ鏡……か」


 アイツが部屋に閉じこもるほど読み込んだ本。

ハハハ、側面に薄茶色の染みができてら。

……俺も読んでみようかな、『逢わせ鏡』。

俺はポンと本を叩いた。

今日はアイツの一周忌。 

花束を供え直した俺は真っ直ぐ家に帰り

本を開いた。



※少年編・完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ