第3話 どっちが現実の世界なんだ!?
「一樹くん!」
振り返ると彼女がいた。
悪戯っ子の笑顔で僕に笑って見せた。
『逢わせ鏡』は本当に、死んだ彼女と逢わせてくれた。
僕はその後、彼女へ会いに何度も何度も逢わせ鏡の中へ行った。
持ってる限りのいろんな写真をプリントして
いろんな出来事をもう一度楽しんで。
現実の世界は1秒たりとも進んでいないのに
逢わせ鏡の中では半年くらいは軽く過ぎていた。
再度、同じ状況を繰り返すとある事に気づかされる。
僕のゲーム仲間の小菅。
アイツも ”みずき” が好きだったんだ。
だからアイツは僕とみずきの仲を応援したんだ。
彼女に嫌われない為に…。
だけど、僕から彼女を奪おうとチャンスを狙っていたワケではない。
僕との友情も壊したくなかったんだ。
カップル道路を”今度も”一緒に歩いていた彼女は
僕に可愛くネダッてきた。
「一樹ぃ、あした買い物に付き合ってよ」
「え……?」
「だって、いっつもカップル道路だけじゃない?
一緒に歩いている所ってさぁ……学校以外でもさ、一緒に歩かない?」
僕は返答に困った。
なぜなら、当時は彼女のお願いを断ったからだ。
もしも『行く』と返事をしたら過去を変える事になる……。
本の注意事項を破るのは避けたい。
どうしようかと迷い焦っているうちに
制限時間になって元の世界に僕は戻った。
「多少だったら、大丈夫の内に入るよな……」
僕は、本の13章を何度も読み返し
”過去を変えることは絶対ダメ” と書いていない事を懸命に確認した。
-結論-
逢わせ鏡を使用する事により、多少過去が変わっても
最終的に大きな出来事に変化が無いのならば
それは許容範囲である。
例えば、東京から大阪へ向かう交通手段を
電車から自動車に変えたとしても最終的には大阪に到着するならば
手段の変更は許されるって事と同じだ。
「よっしゃあ! 彼女の買い物に付き合うぜ!」
僕は1人でガッツポーズをして大声で咆えた。
ドアの向こうから姉貴が「うるさいっ!」と蹴りを入れていた。
*
多少の事なら過去と異なる事をしても大丈夫。
そう確認した僕は現実世界では断った『彼女の買い物の付き添い』を
逢わせ鏡の世界では付き添う事にした。
彼女は楽しそうに話しながらショッピングモールの中を見て回る。
この場所へ到着する為に何本か電車を乗り換え、更にバスに乗って来たのだが
2人だけの時間に僕は夢中になってはしゃいでいた。
あっという間に時が過ぎ、彼女の帰宅する時間になった。
「楽しかったね。ありがとう、一樹」
「え……ああ」
駄目だ。 照れて目が合わせられない。
「あ……」
彼女は僕の右頬に軽くキスした。
触れるか触れないか程の。
「本当、ありがとう。またね」
彼女も僕も、耳まで顔を赤くして別れた。
逢わせ鏡の制限時間がきて僕は元の部屋へ強制送還された。
「や……柔らかかったな」
僕は軽く右頬に触れた。
へへっとだらしない笑い声が出た。
「ちょっと、一樹! うるさいって言ってんでしょ!」
ガンガン部屋のドアを連続蹴りする姉貴。
そうか。 よっしゃぁ!って叫んだ時のままなんだ。
現実世界では……。
バン! と姉貴がドアを蹴破った。
「うわっ! 何だよ姉貴!!」
「あ、勢い余った」
「出てってくれよ、姉貴!」
「あんたが騒ぐからでしょ! やだ……何やってんの、あんた」
ポカンとする姉貴。
「何が?」
「鏡みながら、自分でキスマークつけるなんて……
あぁ、虚しすぎて……笑っちゃう! ぎゃはははは!!
だめ、笑い止まんないッヒヒヒ」
「うるせー! 出てけよ!!」
「大丈夫、大丈夫」
むかつくなぁ!
ドアを閉めたけどまだ姉貴の笑い声が聞こえる。
……キスマーク?
僕は右頬を鏡で見てみた。
「あ!」
彼女がつけていた淡いピンクの口紅がうっすら頬についていた。
ストラップといい、キスマークといい
何処までが現実で何処までが過去の再現の世界なんだ?
僕は改めて混乱した。
*
僕は現実の世界で夕飯を食べ風呂に入り、自室に戻った。
手をつけていない宿題に取り掛かる。
でも……なんか変な感覚だ。
(今が今日なんだっけ?)
カレンダーを見る。
(アレ? 今日って何日だっけ?)
リビングへ行ってテレビをつけてみる。
とりあえずNHK。
別にどのチャンネルでも構わないんだけど
自分がどうかしちゃった感覚では
普段は見もしない国営放送が頼りになりそうな気がした。
「一樹、やっぱしアンタ何か変よ。
アンタがそんな番組見るなんて!
ねえ、おかあさーん、一樹が……」
姉貴が余計な節介を焼く。
「何でもねえって!」
僕はボソッと言って部屋に戻った。
そのままベットに寝転がり、仰向けになって天井を見た。
みずきとの1日を思い返した。
「どっちが本当の今日なんだ?」
今いる世界には、みずきが存在しない。
それが現実…現実?
本当はこっちが偽りなんじゃないか?