第2話 異空間の扉
本の冒頭には、
『章の最後まで読んで理解した上で
自己責任において実行してください』
と記載してあった。
用意する物
1 .逢いたい人の写真
2 .紙と鉛筆
3 .自分の鏡
4 .付録の”逢わせ鏡”
さて、その内容とは
『逢いたい人の写真を自分の鏡に映して
それを付録の逢わせ鏡へ反射させると
異空間の扉が開いて願いが叶う』
って事なんだけど。
なんかウサン臭いなぁと思いつつ僕は実行に移した。
まず、スマホで撮った彼女の写真をプリントする。
わざわざプリントする理由は
『撮影機器の画面が反射して鏡と同様の効果を出し
逢わせ鏡に誤作動を起こす為』
……らしい。
要は、鏡以外に反射するものは全て厳禁って事だ。
次に、会っていたい時間を紙に書く。
5分間だけなら、「5分」と書く。
会っている時間は現実世界には影響せず
たとえ逢わせ鏡の世界で1年間会っていても
現実世界には『会いに行く直前の”時”』に戻れるらしい。
なかなか便利で都合が良いね。
彼女が占いに夢中になってた感覚に近いのかな?
僕は不確かな物に期待とワクワクを感じていた。
自分の鏡も用意したし、後は『逢わせ鏡』内の滞在時間を紙に書くだけだ。
「初めてだから、5分滞在することにしよう」
僕は紙に「5分」と書いた。
よし! 準備完了!
あ、最後の注意書きを読んでなかった。
「厳守してください?」
1 過去に大きな変化をもたらさない事。
2 鏡以外に反射する物は、たとえガラスの欠片1つでさえも
決して逢わせ鏡に映さないでください。
予想外の事態が発生します。
「……ずいぶん脅かすなぁ。 さ、深呼吸して……」
僕は、時間を書いた紙を写真と一緒に自分の鏡に映して
それを更に逢わせ鏡へ反射させる。
「さぁ、どうだ?」
ワクワクしながら暫く待ったが何も起こらない。
写真の中の彼女は僕に笑いかけたままピクリとも動かない。
全くそのまま。
僕が写真を単に見ている状態と変わらない……。
やっぱり、何も起きなかった。
やられた。 がっくし…。
(首をうなだれるって、こういう事を指すのか)
「あぁ~あ!! バッカじゃね? 俺」
「あ、また ”俺” って言った」
「俺が ”俺” って言って何が悪いんだよ」
「一樹君は、僕って言った方が似合うって!
中性的な感じなんだから。
BL小説に出てきそうって言うかぁ……」
彼女はテヘっと笑う。
「アホくさ……」
……
……
え?
僕は慌てて周囲を見渡した。
「ここ、どこ?」
「何言ってんの? 大丈夫?」
「みずき……」
僕は写真の中に入り込んでいた。
そして彼女が目の前に……
悪戯っ子の笑顔で僕に話しかけていた。
「みずき……」
僕の目の前に立つ彼女を見て
僕は馬鹿みたいにポカンと口を開けていた。
「どうしたの? あーんして欲しいの?」
「は! いやっ、違う! だからっ……」
周囲は確かに、”カップル道路”の風景。
この道にいるのは僕達だけでなく他の生徒達もいた。
ちり紙交換の車が僕らの傍らを通過していく。
「みずき、あの……」
僕は言葉を詰まらせた。
「あ、お土産ね。 はい♪ 」
小さな石がついた携帯ストラップを手渡された。
みずきには申し訳ないが
先日どこかへ落っことして無くしたヤツだ。
再び手渡されるなんて……。
僕の目線がストラップから彼女に移った時
滞在時間が終了し、元の僕の部屋に戻った。
時計の時刻も日付も元のままだ。
「あ……」
僕の手の中には
彼女がくれたストラップがあった。
……また涙だ。
「逢いたい……みずき!」
僕は、すがる思いで彼女の写真を再び鏡に映した。