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逢わせ鏡  作者: 祭月風鈴
第1章 少年の思い
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第1話 一冊の本

 今日の帰りも、僕は通学路とは別の道を通って駅へ向かっていた。

それは通称 ” カップル通り” と呼ばれる道。

何だかイマイチな呼び名だけどこの道は

先生達が高校生の頃に名付けられた歴史ある道……。

基本、カップル通りを歩ける学生は付き合っている者同士だけ。

僕のように単体で歩く奴はいなく、まして男同士で歩いた日には

それこそ相当の事態を覚悟しなけりゃならない。

 この道のメインは駅のホームから”まる見え”の5 0m程の距離。

線路と道路を隔てる金網の向こうから学生や社会人や主婦らが暇つぶしに

楽しく歩く高校生カップルをジッと眺めている。

眺めている方は、羨ましいか興味津々らしい。

でも眺められている方はハリウッドスターが歩く赤い絨毯の上を歩くような

ある意味誇らしげな気持ちだ。


 彼女とは高校1年の7月初め図書室で自主学習してる時に知り合った。

本来なら今日で付き合って1年目になるはずだった。

彼女は、このカップル通りで亡くなった。

アクセルとブレーキを踏み間違えた車に撥ねられたんだ。

あの時の事はよく覚えている。

だって、一緒に歩いていた僕の目の前をポーンと飛んで行ったんだから。

たった1歩だけ、彼女は僕の前にいた。

悪戯っ子が見せる笑顔で僕を見て話していた。

たった1歩だけ先に歩きながら……。

 また涙が出てきた。

『ナンだよ! 哀れむように見るんじゃねぇよ! くそっ!』

周りの奴らは僕のいきさつを知っている。 

嫌な気分だ。

それでも、この道を歩く僕も僕だけど。

いつまでも死んだ彼女の事を想い続けていたら

彼女が成仏できないって仲間も大人も口を揃えて言うけど

そんなモンじゃないんだ。

あの時、僕が彼女の手を引いて駆け出していれば……。

 ちょうど電車がホームに到着するところだった。

乗り損なえば、次の電車まで1時間待ちだ。

だけど、彼女ともっと一緒に居たかった僕はわざと乗り遅れようとしていた。

もし、あの時……彼女の手を引いて駆け出していれば。

 後悔は僕の頭の中をぐるぐる回る。



プルルル。 



 電車が発車する合図の音がした。


「マジかよ! ヤベっ」


 僕は慌てて走ったけど、全然間に合わなかった。


「あーあ。ゆっくり歩き過ぎたな」


 思わず独り言。 

都会に住んでる奴らには分からねぇだろ?

1時間に1本あるかどうかの田舎駅で乗り損ねた虚しさ。

しょうがない。

そこの本屋で立ち読みして時間を潰すか。

僕は駅前の古ぼったい本屋で1時間粘ると決めた。


「いらっしゃい……」


 どうせ買わねぇんだろ、と言わんばかりの本屋のオヤジ。


(大当たり~)

心の中で祝ってやった。


「さて……と」


 僕は何故か真っ直ぐに占い本ばかりを陳列してるコーナーへ行った。


『う……なんでココに来るんだよ自分。めっちゃハズ』


 他のコーナーへ移動しようしたが足が動かない。


『え!な……何なんだ?』


 僕の手が勝手に一冊の本を掴む。


「逢わせ鏡……?」


 妙な題名の本。

だけど、もっと妙なのは僕の手だ!

何度も読まれたらしく角がヨレヨレになったこの本を

僕の手が、僕の意思に反してパラパラめくる。


『おい! 何なんだよコレ!』


 そして、あるページで手の動きが止まった。

僕の手は僕の意思に関係なくパラパラとページをめくっていく。


「13章 死んだ恋人との再会の方法……?」


 僕の手は、このページで止まった。


『嘘だろ? 気味悪いな……』


 その時、本屋のオヤジがハタキを持ってやってきた。


「学生さん、困るなぁ! 商品をそんなにボロボロにしちゃぁ!」


 頭から決め付けて僕に怒鳴りつける。


「えっ!? 違う、違います! 僕は……」


 情けない……困惑してしっかり言い返せない。


「責任持って買ってもらうぞ! 

それとも学校へ通報されたいか!」


 萎縮する僕を見て、本屋のオヤジは更に調子づいて怒鳴り散らした。

威圧する態度でジリジリと僕を店内の最も奥の本棚まで追い詰める。

客がほとんど来ない隅のコーナーだから動くと床埃が立つ。

とうとうオヤジは僕の胸ぐらを掴みやがった。


『クソッ! 俺がやったんじゃ……

いや、”僕”がやったんじゃねぇっ!!

でも少し気になるなぁ、この本。

よし、決めた。めっちゃ値切り倒してやる!』


 僕は反撃に出た。


「僕が見た時には既にボロい状態でしたけど

おじさんがそこまで言うなら安く買っても良いですよ。」

「何だと!」 


 オヤジは額に青筋を立てて顔を真っ赤にした。

おいおい、逆ギレかよ……


「僕は店内に入ったばかりです。

そこの駅員さんも隣のタコ焼き屋のおばさんも

店内に入る僕を見てましたからね。 

証明してくれますよ……で、店内に入ったばかりの僕が

こんなにも本をボロボロにできますかね?

よく読み込まれていて、ほら、側面に薄茶色の染みが出来てるじゃないですか。

大人が学生に言い掛かりをつけて売るなら僕の方こそ通報しますよ」


 僕の勝ち。 

気味悪いけど気になるこの本をなんとタダで手に入れた。


「逢わせ鏡か……」


 本の後ろに袋が付いていて

その中には1枚の四角い鏡が入っていた。

僕のスマホが鳴った。 

相棒からだ。

あ、忘れてた。 

一緒に狩りに行く約束をしてたんだ。


「小菅、悪ぃ。モンハン、また今度にしてくれな。 

急用……できちゃってさ」


 小菅こすげは僕の狩り仲間。 

モンスターや目的に合わせて様々な武器を

使いこなす頼りになる相棒。

彼女をモンハン仲間にしたくて誘った時も

いろいろ応援してくれた気のイイ奴。

だけどマジ、今回だけはゴメン。 

この気味悪いけど気になる本が優先だ。

電車に乗り遅れた分

いつもより1時間遅れて家に着いた僕は

姉貴の苦言を適当に受け流してさっさと自室へこもった。

途中邪魔されない様に鍵をしっかりかけて、カーテンも閉めた。

スマホの電源もO F F 。

手に汗を握りながら、自分の意志で13章を開いた。

物凄く緊張しているのがわかる。 

心臓の音が室内に響いてるような錯覚になった。


「用意するもの。 1 、逢いたい人の写真。 2 、髪と鉛筆…」


 バカみたいだが、声に出して読みながらじゃないと

準備できないほど僕の頭の中は白くなっていた。



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