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神殺しの遺伝子  作者: 神条 黒乃
第一部 紅い眼の男
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第9話 闇に潜むモノ

「こうしてるとほんとに何もなかったかのように平和だな」

 賊の襲撃などもなく、順調に平原を通過した二人はルガルタ峠に差し掛かる。以前は観光客がそれなりに歩いていたこの道も、ここ一か月はまともに人が通っているのを見たことがない。小さな獣なら群れで横切ったりはするものの、人間の脅威となるような存在ではなく、むしろちょこちょことついて来たりした。



 この峠は商業都市ルガルタと観光地セリスを繋ぐ道であり、ただ越えるだけなら何の問題もないのだが、昨日の様に賊がいつどこで出てくるか分からない。


 峠は道が狭く、木々が邪魔になるため戦闘には不向き。手練れの賊に急襲されれば体勢を整える間に身包みを剥がされるだろう。

 鳥や動物達の鳴き声が、いつ人間の悲鳴に変わるか分からない。二人は今までも護衛の為に何度か通り、賊の襲撃を経験していた。



 しばらく歩き続ける二人の耳に、どこからともなく川の流れる音が聞こえてきた。ほとんど歩きづめの二人はその瞬間同じ事を考えていた。


「ここらへんには川があったよな」

「そこで休憩しよう。私もさすがにしんどい」

 一旦休憩をとるために二人は山道を逸れ、川のせせらぎが聞こえる場所へと向かって行った。



 草木をかき分けるとやがて少し開けた場所に出る。澄んだ流れの中に、小さな川魚が泳いでいるのが見えた。

「少しだけ魚を取るか。さすがに腹が減った」

「なら私が火を起こそう」


 二人は結局そのままこの場所に拠点を構える。ルガルタまではまだ距離があるため、ここで体力を回復させようと考えての事だった。





 完全に日が暮れた。時折風が吹くたび木々のざわめきが聞こえる。幸い雲一つない空だ、月が煌々と辺りを照らし、川面にその姿を映している。そのおかげで、焚き火がなくても何とか視界は確保出来そうだ。

「で、どちらが最初に寝ずの番をするかだな」

「大丈夫だろ。明日に備えて早く寝るぞ」

「いや、一応見張りを……」

 適当に相槌を打つグレアに半ば呆れていたが、自分が心配しすぎなのか、リンは一人悩んでいた。

「二人して寝てしまったら、お化けが出た時逃げられない……捕まるぞ……」

 しばらく睡魔と戦っていたが、思ったより疲労は蓄積していたらしく、やがてリンも深い眠りに落ちていった。





 漆黒の闇が二人を包んだ頃、息を殺し、身を潜めながら近付く者がいた。闇に身を隠すような黒いコートで全身を覆っているかと思えば、その右手には鈍く輝く剣が握られている。音もたてずに近付くその様子は、暗殺者の様に見えなくもない。


 そして獲物を仕留められる距離を確保すると、その刃を高々と振り上げた。


 静寂を切り裂くように金属音が辺りに響き渡る。振り下ろした剣は、差し出した鞘によって容易く防がれていた。

「何……!」

「何、じゃねえよ。気を張ってて正解だったな。おいリン、起きろ!」

「んっ」

 その声に覚醒したリンが、目を擦りながらのそのそと刀を手にする。


「ふ、不覚……」

「ほんと寝入ったら起きねぇな。ほれ、客だ」

 二人が体勢を整え黒衣の男に向き直る。不意打ちを防ぎはしたものの、その立ち姿からはただならぬ雰囲気を感じていた。

「オマエ、今の一撃を防ぐとは。ただ者じゃないな」

「人の寝込みを襲うお前もただ者じゃねーよ。リン、コイツは俺がやる」

 嘲笑うかのように、ククッと男が喉を鳴らす。長髪をたなびかせながらゆらゆらと立つその姿は、夜の闇と相まってより一層不気味に見える。


「で、俺達に何の用だ?」

「用はない。ただ死んでもらうだけだ!」

 同時に、男が懐に忍ばしていた短刀をグレアに向かって投げつける。これも不意打ちだったが、即座に反応したグレアが短刀を弾き落とす。が、その隙に乗じて男は間合いを詰めていた。それも超至近距離、剣を振れば中腹が丁度グレアの腹を裂く間合いだ。


「お前のデカい太刀はこの超至近距離では役に立たん!今更振るったところで、威力のある斬撃は生み出せんし、かわせん――」

「最近は不意打ちが流行ってんのか」


 剣がグレアの腹を抉ろうと迫るその刹那、男の側面を凄まじい衝撃が襲った。一瞬視界が真っ白になったかと思うと、すぐに暗転。先程まで目の前にいた紅い眼の男との間合いが開いている。黒衣の男は自分が吹き飛ばされたために間合いが開いたのだと、すぐに理解が出来なかった。


 それほどまでの衝撃だったのだ。



 吹き飛ばされた男は偶然一本の木に激突し、ずるりと根元にうなだれた。

「はが……が」

 男の右肩からは出血しているが、その量が半端ではない。月光が照らしたその先には、深く抉られた傷が露わになっている。



「くそっ!」

――何だ、今の剣速は!?剣を振った俺の後から、俺より威力のある太刀を振るうとは……

「くっ!」

 男はすぐさま体勢を立て直すとこちらを一瞥したあと、再び夜の闇に姿を消した。リンは後を追おうとしたが、グレアがそれを制止した。


「グレア! なぜ追わない! あんな得体の知れない奴を野放しにしておくのか?」

「あの傷じゃ何も出来ねーよ。それに、こんな暗闇で変に深追いしたくはない。追いたいならお前が行けよ……暗いけどな」

 何事もなかったかのように、再び寝ようと横になったグレアを尻目に目線を前に向けるが、先程の強烈な殺気はとうに失せ、今や焚き火の火種がパチパチと燻っている音しか聞こえなかった。


 消えかかった焚き火に新しく火をくべながら一時間ほど座っていたが、やはり何の気配もないため、グレアの隣で就寝することにした。



「何だよ、近いな」

 リンがグレアとの間隔を詰めた事に気付いてグレアが覚醒する。異常に近い。横を向いているグレアの背中に腕が当たっている。

「いいか、お化けが出たらお前が何とかするんだぞ。さっきの奴が来たら応戦はする。だがお化けは任せた」

「知るか。お化けに何しろって言うんだ」

「お祓いしろ!」

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