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神殺しの遺伝子  作者: 神条 黒乃
第一部 紅い眼の男
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第5話 悪魔開眼

――さて、どうするか。


 その場にいる四人がお互いの出方を伺っていた。誰が先に動くか、誰が誰を狙ってくるか・・・

 予め決められた2対2ではないため、戦略も何もない。変に混戦になるのだけは避けたかった。



「レイピアと鎖鎌、まったく違う特性の武器なだけに厄介だな」

「それでも……私とお前ならやれるだろう?」

 そう言うと、リンは微笑んで見せた。それはグレアに寄せる信頼の証と同義だった。


「当たり前だ」

 その笑顔に相槌で応える。お互いの実力を理解しているからこそ、どんな強敵と対峙しても不安はない。


「それにしても鎖鎌か……間合いを取れば鎌、近付けば分銅の間合い。鎖で相手の動きを封じることも出来るし、斬撃と打撃が使い分けられる。苦戦するかもな」

「威力も間合いも、刀を上回るという事か」


 鎖鎌の間合いと刀の間合いを比べた時、そこには圧倒的な差がある。グレアの太刀も150cmという巨大な刀身をしているが、鎖鎌の間合いは物によっては2mから4mにも及ぶ。


 単純に間合いだけを比較するなら、刀の方が不利なのである。



「で、あっちのレイピアも少し面倒だ。刀に比べると細長く刺突に特化してるが、間合いはそれほど変わらない。問題は突きだな」


 レイピアは剣、刀に比べると刀身が細い。故に斬撃を行ったところで、刀身が曲がったり折れたりする可能性が高い。だが突きに特化した武器だからこそ、その突きに厄介な部分がある。


「突きがしなる、ということか」

 リンはグレアの言おうとしていることを瞬時に理解した。

 その刀身故の特性。一口に突きと言っても、しなやかな刀身により、剣筋に変化が起きる。


「ああ。だがその剣筋を見極められれば……」



「作戦会議は終わったか?」

 突如としてリン目掛けて鎌が飛来する。不意打ちにも関わらず、それに反応すると後方に飛び退け、同時にレイピアの使い手はグレアとの間合いを詰める。どちらも動作に無駄がなく、この盗賊達が戦闘に関して熟練していると理解するのには充分だった。



「こいつは私がいいらしい。グレア、そっちは任せた」

「ったく、嬉しそうな顔してんじゃねーよ」



 レイピアの使い手はフードを被った下にさらにスカーフのようなものを口元に巻いていた。ほとんど顔は見えていないが、唯一目だけは視認出来る。生気のないその目に感情はない。そのため、より一層不気味な様相を醸し出していた。



「俺の相手はお前か」

「悪いが……すぐに死んでくれ」


 グレアが攻撃に備え、その場で構える。間合いでは大太刀であるこちらの方が圧倒的に有利だが、何せ完全に初見の武器。無闇に攻撃に出るのは得策でないと判断しての事だった。



「俺の攻撃は必ず当たる……」

 一瞬その言葉に嫌な予感がしたものの、それでも集中力は極限まで高められていた。


「っ……斬撃!?」

 その時、グレアが目にしたのは、突きではなく袈裟斬りだった。体重を乗せて勢いよく振り下ろしているが、剣や刀に比べたら脅威をさほど感じられない。



――突きじゃない……だが使い手なら自分の得物の特性は理解してるはず。何か意味があるなら、不用意に斬り返すのは危険か!?


 様々な思考が浮かぶが、一旦間合いを取る。それがグレアの答えだった。防御も頭には浮かんだが、身体は咄嗟に回避行動を選んだ。


「…それで正解だ」

 男が右足で大地を力強く捉え、踏み込む。一歩踏み込むと同時に袈裟斬りだったはずの軌道は途中で突きへと急激に変化した。踏み込みの分間合いが急激に詰められようとしている。

「そういう事かよ…!」

「レイピアのキモは、刺突にある……だろ?」

 あくまで無機質な声質だったが、その声からはおそらく嘲笑しているであろう表情を読み取ることが出来た。相手は確信しただろう。その瞬間を。

 切っ先が容赦なく風を切り裂き直進してきていた。全身の意識を即座に回避に集中させる。


 しかしその刹那、鋭い痛みが肩を突き抜けた。

「くそっ!」

 レイピアが左肩を貫いている――そう理解したグレアが引き抜こうとするよりも速く、男はレイピアを引き抜き即座に後方へと間合いをとる。



「っ……この野郎」

 貫かれた肩から血が流れている。やがてそれは上腕を伝い、指先の方に滴ってきていた。


 それでもグレアはまともに食らったものの、胸部や腹部でなくて良かったと思っていた。そこらに受けるより、遥かに出血量もマシだ。もちろん避ける事が出来れば最善ではあったが。



「……最初は化け物だと思ったが、一対一に持ち込めば勝てない相手じゃないな」

 少々付着した血液を振り払うと、次は心臓を貫くと言わんばかりにレイピアを突き出してくる。



「俺もまだまだって事か」

 静かに、だがそれは燃え盛る炎のように心の奥底で躍っていた。戦いに楽しさを感じる本能、隠し切れない闘争本能そのものであった。彼の顔に自然と笑みが零れる。


 その光景に男は思わず言葉を失った。それに見合う言葉が見つからなかったとでも言うべきか、目の前の脅威を指し示す最適な言葉が。


「何だその眼は…!?」

 紅い眼がギラギラと輝いているように見えた。その色はまるで、血を欲する心の色を写しているかのように。冷気にあてられたかのごとく、肌が冷たく、震え始めた。


 何故同じ人間でありながら、ここまでの恐怖を抱くのか。


「今度は俺の番だな」

 ゆらりと動き始めたグレアが一瞬で間合いを詰める。男にはその迫り来る様が、黒いオーラを纏った紅い眼の悪魔に見えていた。

「速い……バカなっ!」

 今まで無機質な反応しかしなかった男が割れんばかりに声を張り上げる。再度突きを繰り出すが、それは敵を殺すためではない、距離をとるための、敵を近付かせないための連続突きだった。すでに男は本能的に危険を察知しており、その危険を回避するための行動に出ていた。


「さっきの一撃、返すぜ」


 鋭く振り抜いた斬撃は、まるで美しい閃光のように見えた。

 レイピアが突き出されるその瞬間に合わせて、横から叩き斬るかのような斬撃を加えると、刀身は綺麗にへし折られ宙を舞った。

「お、俺のレイピアが……」

――何だこいつは、訳分からん……弓は受け止め、レイピアはへし折る、そしてこの気味の悪い血色の眼……


「ちょっと待っ――」



 ポツリと呟くと同時に、重みのある鋭い斬撃の前に男が倒れる。そして墓標になるかのように、折れたレイピアの刀身が頭元に突き刺さる。


「悪いな、俺も負けてられねえからな」

 巨大な刀身を鞘に納めながら言い放つ彼の瞳からは、先ほどのおぞましい輝きは失われていた。

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