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神殺しの遺伝子  作者: 神条 黒乃
第一部 紅い眼の男
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第3話 発端

 翌日、昨日の昼寝を邪魔されたグレアは再び町外れの大樹に向かおうと歩を進めていた。護衛や、賊討伐の依頼がない限りは特にすることもなく、今日ものんびりと昼寝を決め込むつもりであった。


 一方リンは雑務などを引き受け、毎日奔走している。グレアも全くしない訳ではないが、人助けに意欲を燃やすリンとの性格はほぼ対極だった。



「お前も何かしたらどうだ?」

 不意に後方から声がした。振り向くまでもなく、それがリンである事を理解するが歩を止めたりはしない。自分で決めてやるならともかく、リンに言われてするのは癪だ。



「そうしたいところだが、今日は休みだ」

 グレアがひらひらと手を振った。

「今日も休み、の間違いだろう」

「やる気のない人間が働いたってまともな成果は出ないと思うぞ」



 変に説得力のある発言で、リンもそれ以上声をかけるのを諦めた。呆れるあまり、大きな溜め息が一つ出た。


「また起こしに行くからな……ん?」



 ふと町の入口、門前が目に入る。大人数名が荷馬車の商人を囲んでいる。荷車には弓が突き刺さり、車輪はいびつな形に変形している。簡易的な処置なのだろう、商人も右手を包帯で巻いているが、その下からは血が滲んでいる。



 ただならぬ雰囲気を感じた二人は息を合わせたかのようにその場に向かった。





「ボロボロにされたな」

「おお、よく来てくれたの」

 声をかけると数名の大人たちが一斉に二人に目を向けた。その中にはマクガーもおり、ゆっくりグレアに近づく。



「またセリス峠に盗賊が出たようでな。この有り様じゃ」

 そう言って荷車を指し示す。商人が襲われるあたり、大方盗賊かなんかだろうと予測していた二人は、特別驚くことなく荷車を確認した。

「以前私達が撃退した盗賊とはまた別の?」

「ああいうのは潰しても潰しても出てきやがるな」


 今時盗賊など珍しいものではなかった。人気のない町外れの街道は、どの時代も盗賊たちにとっては狩場であり、戦う術を持たぬ者達は決まって餌食になっていた。


 しかし、それだけに疑問が残る。

「それにしてもあんた、傭兵でも雇えばよかったんじゃないのか。商人なら金もあるだろ」

 グレアが商人を睨む。盗賊騒ぎは今に始まったことではないし、商人なら護衛のため傭兵を雇うのが普通である。ましてや商品を運ぶ立場にあるなら最低限しておくべき事だった。


「いや、傭兵代も安くないし、距離も近かったから節約しようと思って」

 顔を背けながらごにょごにょと口をつぐむ。その姿勢に更に不快感を覚えたグレアだったが、その商人をかばうようにマクガーが一歩前に出る。

「グレア、過ぎた事はしょうがないじゃろう」

「何がしょうがないんだ」

「マクガーさん、盗賊達はどこへ?」

 まだ取り返せるかもしれない。そう思ったリンがマクガーに問いかける。



「それなんじゃがな、盗賊は近くのヴァルラン遺跡を根城にしている可能性が高い。盗賊達はその方面に逃げて行ったらしい。もしかしたら盗られた荷物もあるかもしれぬ」


「ここから近いですね……分かりました。私達が行きます!」

「おいおい…」

 即座に物事を理解したリンは意気揚々と声を上げ、グレアの声も無視して歩き出す。町の人間は二人の強さをよく知っていた。これまでもそういった類から、この二人に救われた人は数知れない。


 全員が安堵の表情を浮かべたその時。


「盗賊倒して商人の荷物を回収しろってことだよな?」

「ふむ……そうじゃな」

 グレアがマクガーに詰め寄る。その雰囲気を察して後ろに隠れていた商人がまた更に一歩下がる。

「荷物の事に関してはこいつの自業自得だ。襲われるリスクを考えた上で傭兵雇わなかったんだ。案の定襲われて、荷物取り返せだと?」

「お前の言う事も分かる。確かに自業自得じゃろう」


 しばらく沈黙が流れた。大人達は心配そうに二人を見つめる。グレアの言うことも理解できる。彼らは本来なら必要のない危険をタダで背負わされようとしている。見知らぬ者の為に。町のためならまだしも、商人のため、というのが気に食わないのだろう。


「リンはともかく、俺は無駄な事をする気はない」

「グレア、どのみち盗賊を放置していてはさらなる被害が出るじゃろう」


 リンはグレアの胸中も知らず、こちらを振り返って早く来いと手招きしている。


「ったく……あんたらの為に行くんであって、そいつの為に行くんじゃねぇからな」

「分かっておるよ。すまんな」

 渋々了承したグレアは一瞬だけ商人を見た後、リンを追った。このやり取りの間にかなり進んだようで、後ろ姿が小さくなっていた。ここから遺跡までは街道を逸れて30分程だ。平坦な道ばかりだからそれほど苦労はしないだろう。



 グレアがその場を去った後、商人は溜め息交じりに力なく呟いた。

「あー怖かった。あの男に睨まれるとぞっとする」

「紅い眼は珍しいからの。人によっては怖いかもしれんの」

 睨まれたせいか商人には深い血の色に見え、とてもおぞましく感じたが、これから世話になるのにさすがに失礼だと思い、それを口にはしなかった。




「遅かったな」

 いつもリンは人助けに関して微塵も疑問を持たない。今回の件にしても経緯はどうでもよく、助けようという一心で動き出していた。損得抜きで動くその感覚が、グレアには分からなかった。


「いろいろ話してたんだよ」

 納得しきれない部分はあるが、町に危害が及ぶのは防ぎたい。その思いで不満を飲み込んだ。

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