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神殺しの遺伝子  作者: 神条 黒乃
第二部 魔の邂逅
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第27話 己の正体

「謁見? 無理無理!」


 相手は王族、こちらは貴族でもなければ騎士団に所属している訳でもない、ただの田舎者。城門で追い返されるのは目に見えていた。ギルドを出て城まで直行した二人に、呆れた様に騎士が手を振ってみせる。

「じゃあ、いつならいいんだよ」

「いつって・・・王はお優しい方であられるからな。何もなければ市民が謁見出来る事もあるが、今は無理だ。お前達も知っているだろう、セリスの町から人が消えた事件を。その対応でお忙しいのだ」

「私達はそのセリスからやってきたんだ! その事で王に謁見したい!」

 リンのその言葉に、甲冑で身を固めた騎士は目を細めて視線を送った。正直、滅んだ町から生き残った人間がいるなど、それこそ王国騎士団でも掴めなかった情報だ。疑いの目を向けてしまうのは騎士にとって当然の事であった。


「そうか。言いたいことは分かった。だが、噓つきは泥棒の始まりという言葉を知っているか? 早く帰れ!」

「し、信じてくれ! 私達は泥棒じゃない!」

「おい、否定するとこが違うぞ」

「・・・騒々しいな。何事だ」


 三人がそんなやり取りをしていると、純白の城から威厳と風格を纏った壮年の男が現れた。

「エ、エルター殿! いえ、この二人が王への謁見を望んでいるのですが、あの滅んだセリスの出身だと嘘まで騙る始末で」

「ふむ。セリスか」

 騎士から経緯を聞いたエルターは、しばらく顎に手を当てて考えた後、ある疑問を口にした。


「・・・一つだけ気になることがある。紅い眼の君、どこかで会ったかな?」

「いや、会った事も見た事もない」

 故郷でも見たことがなければ、エルターという人物の存在すら今初めて知ったグレアは、迷う様子もなく即答した。一方のエルターはそれでもグレアから視線を外さなかった。

「エルター殿、この男を見たことがおありで?」

「私の勘違いでなければ、会った事があるはずだ。すまないが二人の名前を聞いてもいいか?」

「俺はグレア・アーヴァンダイン。こっちのはリン・フィアスだ」

「アーヴァンダインとフィアス!? お前達もしや・・・ふむ。ゼルガイン王への謁見を許そう」

 名前を聞いたエルターは驚き、一瞬の思考の後にすぐさま決断を下した。が、全くその意図が読めない騎士は慌ててエルターを説得しにかかった。


「いいんですか、こんな得体の知れない奴等を!? 今は王国も忙しい大変な時期ですよ!」

「大丈夫だ。グレア、リン、私の後に付いてくるといい」

 二人は状況も飲み込めないでいたが、とりあえず城に入れてくれるというところは明らかなので、エルターに促されるまま門を抜ける事にした。





 その後、謁見の間まで通されたまではいいが、少し待てと言われ玉座の前で二人は立たされていた。玉座の奥では二人の重厚な装備の騎士が扉を守護しているのが見える。


 グレアは謁見の間にある装飾品などを一瞥した後、退屈そうに何度も欠伸をしている。何となく隣を見ると、不安そうな表情でこちらを見るリンと目が合った。

「何だ、もっと気楽に構えろ」

「無理だ! 相手は一国の王だぞ。何か粗相でもすれば最後、公衆の面前で吊るされてあられもない姿にされた後で・・・はぁああ」

「お前、変なとこで妄想力豊かだよな」


 うなだれるリンに呆れていると、玉座の奥からエルターと共に一人の男が現れ、そのまま玉座へと腰かけた。その威厳ある立ち振る舞いは、現れた瞬間から二人に極度の緊張をもたらした。緊張していなかったグレアですら、その人物の風格に思わず息を呑んだ。



「待たせてすまなかったな。私がラグレトナ王ゼルガインだ。グレア、リン・・・そう気を張らずとも良い。楽にせよ」

「・・・じゃあ遠慮なく。一つ気になるんだが、何故王は俺達を知っているんだ?」

 いきなり態度を崩したグレアをさすがに失礼だろうとリンが睨み付ける。だがそれも気にせずゼルガインの返答を待った。

「何故、か。それは私がお前達が赤ん坊の頃に会っているからだ。お前達は・・・私の最も信頼していた直属騎士、レグリア・アーヴァンダインとロクス・フィアスの子どもだったのだから」

「私とグレアのお父さんが騎士!?」

 さっきまで黙っていたリンの上げた声があまりにも大きく、今度はグレアがうるさいと視線を送った。当然の事ながら、グレアの忠告を気にしている様子はない。


「そうだ。しかしグレア、お前は赤ん坊の時からそうだが相変わらず綺麗な紅眼をしておる。ギラギラと燃え滾る紅蓮の炎、まさにそれを体現しているかのようだ。そしてリン、凛々しく佇むその姿・・・強く美しい女性へと成長したようだな。積もる話もある、堅苦しいのは無しにしよう。エルター、この二人を私の部屋へ案内しろ」

 穏やかな表情で昔を懐かしむ王を眼前にして、二人は何か少し胸に暖かいものを感じていた。自分達の家族、そして幼い頃の自分を知っているという事実が、二人から徐々に緊張感を取り除いていった。





「ふむ。セリスの町壊滅の報せはあったが、お前達が生き残りであったとは」

「俺達は町を壊滅させた奴を倒すために旅をしてきた。ギルドにも行ったが手がかりは無い。王、何か手がかりがあれば教えてほしい」

 ゼルガイン王の私室へと通された二人は、これまでの一連の出来事を大まかに伝えた。と言っても、持っている情報は町が壊滅したときの状況くらいのものだが、ゼルガインは目を閉じてしばらく思考した後、ゆっくりと目を開いた。


「まず前提に、それほどのことが出来る人間はおらん。魔法の可能性も考えたが、そんな魔法は禁術を含めて存在しない。私の推測では・・・可能性があるなら魔族だ」

「魔族? それって、昔人間と戦争したって奴らだろ。もう滅んだんじゃないのか?」

「ラグレトナ王族に伝わる書物によると、魔族は滅ばず、やがて復活するだろうと言われている」

「魔族はまだ生きてるって事か!?」

 魔族という言葉に動揺を隠せない二人を見て、ゼルガインはもう一つの真実をすぐに告げた。

「そうだ。魔界にはまだ魔族がいる。そしてその魔族を打ち破る可能性のある人間・・・それはお前だ、グレア」

「・・・いや、さすがにそれは違うだろ」

 咄嗟に自分がそんな大それた存在であるはずがないと思ったグレアは、半ば呆れつつゼルガインに返答した。しかし、ゼルガインは全く動じずに言葉を続けた。



「よく聞け。かつて魔神を封じたのはグレリア・アーヴァンダイン、お前の先祖だ。そして紅い眼は彼の子孫である事、唯一魔神に対抗出来る人間である事の証明なのだ」

「グレアの先祖が!?」

 その話に喰いついたのはグレア本人ではなくリンの方だった。一気に湧き上がる疑問をグレアの代わりにと言わんばかりに畳みかける。

「それに唯一とは? 紅い眼はこの世界にグレアの一族しかいないという事ですか?」

「そうなるが、この事を知っているのは王族だけで、さらにその王族の中でも限られる。だからお前達はそこまで特別だと思わなかったろう?」

「ああ。確かに紅い眼を他に見た事はないが、それを特別だと思った事はなかったな。それよりリン、お前俺が聞きたいこと全部聞いてくれたな・・・」

 頭を掻きながらやれやれと声をかけるグレアに、リンは頷きながら笑顔で応えた。別に褒めた訳ではないのだろうが。


「グレア、お前は自分が英雄の子孫だと言うのに反応が薄いな。ある程度予測しておったのか?」

「・・・いや驚いてる。ただそれよりも実感がない。確かに凄い事実だが、何と言うか・・・別にこの眼も普通だと思ってたし、そんな遠い昔の英雄なんて言われてもな」

「実感がないか。だが経験があるだろう。お前の一族は多少勝手が違う。父であるレグリアも並外れた戦闘力と回復力を持っていた。それこそが唯一魔族の神に対抗しうる力なのだと思っていたが、お前もそれなりに戦えるのだろう?」

「いや、俺はまだまだだ」

 不意に今日ギルドで戦ったレリィの姿が脳裏に過ぎる。勝てない相手ではなかったと思うが、楽に勝てるような相手でもなかった。少なくとも、ゼルガインが認める自分の父親のような実力はまだないだろう。自分はまだまだ弱い、そう理解した瞬間に自然と出た言葉だった。


「謙遜しているのか? まあいい。とりあえず今日は疲れただろうしゆっくり休むといい。今後のことは明日話そうではないか」

 そう言ってゼルガインは部屋の外に控えていたエルターに声をかけた。


「ああ、助かる」

――こないだオルナに抉られた首がすぐに回復したのは、そのせいか? 今まで気にしなかった事も、そういう風に見れば思い当たる節はある・・・だがこの回復力は治癒魔法でもない限り異常だ・・・俺の先祖は何者なんだ? 本当にただ強いだけの人間だったのか?



 ゼルガインは気付かなかったようだが、己の首に手を当てるグレアが戸惑いの表情を浮かべているのをリンは見逃さない。そしてその戸惑いを振り払わせるかのように、リンはグレアの手を握り部屋を出た。

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