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神殺しの遺伝子  作者: 神条 黒乃
第二部 魔の邂逅
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第23話 爆炎商人

 アークロウでしばしの休息を得、一行は王都を目指して出発した。昨日の自由時間を満喫出来たのか、ノワールとリンの足取りも軽い。フィオラを間に挟み、手を繋ぎながら歩いている。



 ただ、グレアは一人納得のいかない表情ではるか後方に位置していた。

「・・・女ってやつは」

 フィオラの策に見事に嵌められ、リンに誤解を与えてしまった。冗談が通じないリンだけに、誤解を解かない間はずっとゲスとして見られるのだ。




 昨日の悪夢を思い出して、頭を掻きながら力なく呟く。さすがに真顔でゲス呼ばわりは精神的に堪えた。あれ以降、リンとはまともに口も利いておらず、弁明すら出来ていない。

「大体何で俺がこんな呼ばれ方されなきゃならないんだ。ただ買い物に付き合っただけだぞ」

 普段不満らしい不満を漏らすことがないグレアだが、兄妹同然のリンに本気で誤解された事は、心外以外の何物でもなかった。



 合流してからどう誤解を解くか考えながら、重い足取りで文句を垂れつつ歩いていた矢先。




「もしもし、そこの人」


 不意に己を呼ぶ声に気付き、足を止める。振り向くのも億劫だったが、無視するわけにもいかず。一応後ろを確認すると、中肉中背の男が一人、銅の胸当てを装備した傭兵が二人立っていた。



 その男は大きな荷物を背負い、荷馬車を引いていたので、商人とその護衛であるのだと理解するのに時間はかからなかった。このご時世、こういう組み合わせはさして珍しくない。



「何だ?物を買えって話なら期待に沿えないぞ」

 押し売りに捕まったか、そんな事を考えながら気怠そうに視線を前に戻す。そんなグレアを気にする様子もなく、商人は言葉を続ける。



「いえいえ、そんな事じゃございませんよ。つかぬことをお聞きしますが、あなたの前を歩く三人の女性。あなたのお連れ様ですかな?」



 その一言に足を止め、明らかな違和感を感じたグレアは刀の柄に手をかける。商人は卑しい笑みを浮かべ、手を擦り合わせながらグレアの返答を待っていた。一方後ろの傭兵達は、その間全く身動きせずにこちらを見ている。



「連れか。そう見えるのか?」

「あなたがあの三人の護衛なら、ここで仕留めておかないと面倒ですからな。無関係なら立ち去ってよろしい。ですが・・・あなたは前者のようですな」


「・・・町を出てから、お前らみたいなのには困らないな」




 その瞬間傭兵の一人が剣を抜き、グレアとの間合いを埋めていった。その動作は正直並だ。スピードなら遥かにリンに劣る。

「一人で大丈夫か、あんた。大して強そうには見えないが」

「充分だ。お前、いい得物持ってるが素人だろ!?見かけ倒しでそういの持ってる奴が多いんだよな!!俺達傭兵は戦闘のプロだ、下手に抵抗しないほうがいいぜ!!」


「随分汚いプロがいたもんだ」

――動きも並、体格も俺と変わらない。ほんとにただの傭兵か・・・



 傭兵は大声を上げて右手の剣を振り下ろすが、声ばかりで剣の威力も想定内であった。難なく攻撃を受け止めると、鍔迫り合いのまま刀を押し返す。

「受け止めたか!これくらいはやってもらわなきゃな!!素人かと思ってたが、なかなか動きやがる!!」


「うるせぇな。さっきから声ばっかり張りやがって・・・唾が飛んでんだよ!」



 声を上げる度に口から唾が飛び出してきており、血液ならまだしも、そんなもので自分の刀が汚れる事を許せなかったグレアは、力を込めて剣を跳ね返した。


「っうお!あぶねえ!」

「悪いが時間かけてる暇はねえ!斬空せ・・・」

「終わるのは貴様の方だ」



 仕留めようと斬空閃の構えに入ったところで、もう一人の傭兵の追撃に合い、その構えを中断した。即座に接近した相手の攻撃に防御が間に合わず、グレアは一旦後方に引いた。



「・・・こいつ」

――意識を完全に外した俺も悪いが、それを抜きにしても単純にこいつは速い!スピード、剣速だけ見たらさっきのとは段違いだ・・・



 仕切り直し、といった形でグレアが刀を構えなおす。相手も呼応するように二人合わせて剣を構えた。

「助かったぜ!ベリファー!」

「モルダー、舐めてかかるのが悪い癖だ」



「グレア!大丈夫か!?」

 呼吸を整え、どう出るか思案していた時、異変に気付いたリン達三人がグレアの方まで戻って来ていた。リンは彼の隣で刀を構える。

「先に行ってりゃよかったものを・・・」

「そうは行きません。ここまで助けられっぱなしですから、私も戦います」



 その想定外の意欲にグレアとリンが顔を見合わせる。確かにかなりの魔法を操るとは聞いているが、元来商人であるノワールに戦闘などさせたくないのが二人の本音だった。


「そのために戻ってきたんです」

「ノワール。魔法が使えるといっても、私達は商人である二人を戦闘に巻き込みたくない」

「だいじょうぶ!お姉ちゃん強いから」

 忠告も聞かず、フィオラが自慢げにノワールを見上げる。危険な目には遭わせたくない、そういう気持ちも汲んでほしいのだが。



「心配しなくても、まとめて殺してやるよ!!」

「ノワール、フィオラ!いいから後ろに下がれ!」

 この二人を近くに置いたまま戦うのはさすがに危ないと、グレアが二人に声をかけた瞬間、ノワールの周囲から魔力の奔流のようなものを感じた。全身をふわりと巡る、心地よい空気。



 暖かで、優しい風に周囲が包まれたかと思ったその刹那――




「爆炎を統べる灼熱の帝。その身を怒りに焦がして壊滅をもたらせ」

 詠唱の後、終わりは一瞬だった。



「ブレイズデストラクション」




 思わずグレアとリンは身構えた。全身を溶かし尽くしてしまいそうな熱気。その中で何とか視線を前にやると、溶岩でも噴き出してきたのかと思わせるほどの、爆炎が大地から天へ向けて放出されていた。


 平原の緑も、空の青も、そこにはない。あるのは紅に染まる世界のみ。



「お、おいノワール!何だこの魔法!?」

「大丈夫です。私達は・・・この魔法障壁を展開していますから。熱気も収まるはずです」


 その冷静な口振りとは裏腹に、眼前で繰り広げられる炎魔法による蹂躙。その威力は凄まじく、グレア達の障壁を越え、辺り一帯を炎で包み込んだ。




「こ、これほどの威力・・・グレア・・・ノワールは、私達より強いんじゃ」

「それにこの障壁、魔法の威力どころか熱気すら受け付けてない」

 敵の殲滅を確認してか、灼熱はノワールの魔力の収束と共に、徐々に消えていった。


 先程まで商人たちがいたであろう場所を見つめて、リンが畏怖や感嘆ともとれる溜め息を漏らした。あの三人の姿はどこにもない。先程までいたのかどうかすら、分からなくなっていた。


 一面、草木は燃え尽きて、大地は乾燥のあまりひび割れてしまっている。



「久しぶりに魔法を使ったので威力が不安でしたが・・・何とかなりましたね!」

「・・・むしろやりすぎな気がする」

「さあ、王都に向かいましょう!」

 もはや惨事と呼べるこの状況に、グレアとリンは唖然としながら、実はとんでもない実力者が仲間にいたのだということを認識したのだった。

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