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神殺しの遺伝子  作者: 神条 黒乃
第二部 魔の邂逅
22/27

第22話 妹奮闘の日

 翌日、グレアは一人大通りを歩いていた。自由時間といっても、特別何かしたい事があるわけではない。



 そんなグレアと対照的に、女性陣はそれぞれの目的に合わせて出掛けて行った。ノワールやフィオラは服屋に、リンは武具屋へ。リンに付いて武具屋へ行こうとも考えたが、さすがにこういう日くらいは別の事をしようと思い、武具屋を諦めた。




「何かメシでも食べに行くか・・・」

 街を歩けば野菜や魚が売られ、焼きたてのパンの匂いが辺りに漂う。丁度昼時、予定もないのだから、せめて美味い料理にでもありつこうと歩を進める。


 だが、そんな思いはすぐに打ち砕かれる事となった。



「グレアさん、ちょっといい?」

 己を呼ぶ声と共に右手を引っ張られ、思わず後方を向く。同じ目線に姿はなく、少し視線を下げると見知った顔がそこにあった。



「・・・フィオラ?ノワールと一緒にいたんじゃないのか」

「そうなんだけどね、お願いしたい事があって・・・」

 そう言うと申し訳なさそうに、フィオラは両手を合わせ舌を出して見せた。



「何だ、改まって」

 ノワールと共にいたはずのフィオラが頼み事に現れたあたり、正直良い予感はしない。だが、子どもの頼みを即座に断るほど、グレアも心が狭くないつもりだった。



「お姉ちゃんの誕生日が近いから、プレゼントを贈ろうと思ってるの。それで一緒にグレアさんに見てほしいの」

 それだけ告げると返事を待たずに、右手をぐいぐい引っ張る。グレアが頷く前に、思わず身体が動き出す。



「いや、リンに頼めばいいだろ。何をやれば女が喜ぶのかなんて、俺には分からんぞ」

「だいじょうぶー。そこはグレアさんに期待してないから!」


「・・・全然大丈夫じゃないだろ」

 正直何の力にもなれそうにないが、引っ張られるままに歩き出す。若干引っ掛かる部分を感じつつも、食事の事は一旦置いてフィオラに付き合うことにした。




「とりあえずあそこに行こ!」

 まだ数歩しか歩いていないフィオラが指差したのは装飾品店・・・安物ばかりの店ならまだしも、外からガラス越しに見える豪華絢爛な装飾品は、思わず入るのすら躊躇ってしまいそうになる。




「変に触って傷でも付けたら大変だな・・・」

「グレアさん、これ見てー」

 グレアの言葉も無視し、フィオラが見つけたネックレス。宝石が散りばめられているソレは、キラキラと輝きを放ち、安いか高いかだけで言えば間違いなく高い。こういうものに疎いグレアですら、高いだろうと想像した。



 値段を確認しようと、グレアが値札に恐る恐る手をかけてみると――



「一、十、百、千、万、十万・・・百万!?」

 とてもフィオラのような子どもの手に届く額ではないだろう。無論、グレアもそんな額とは無縁なのだが。


「ちょっと高いね。お姉ちゃんだったら買えたかなぁ。こないだも買ってたし・・・」



「・・・え?」

 あまりの高さにフィオラも諦めて他の装飾品を物色し始めた。かなり衝撃的な発言を聞いたが、確認すれば後悔しそうだったので聞いていない事にした。





 それから2時間。元々明確に何を贈るか決めていなかった事で、何を見てもなかなか決心がつかず、時間だけが過ぎていった。


「どうしようかな・・・」

「妹にもらえれば何でもいいんじゃないか」

「うーん・・・グレアさんなら何もらったら嬉しい?」



「刺身」



「そうそう、新鮮なお刺身がケーキの隣に・・・って、そんなのプレゼントに渡す人いないよ!ふざけすぎ!」

「結構真面目に答えたんだけどな。それに、お前もノッてきただろ」



「う・・・じゃあ、リンさんは?何が欲しいと思うかな。堅そうに見えて、実は可愛い服とか下着が欲しかったりして」


 フィオラとしては、最も関係が近いリンの事なら理解した上で、何か良いものを的確に言えるのではないかと思っていた。



 だが、やはりグレアは求めている答えを出しはしなかった。

「そんなもん要らんだろ。まぁ、一日みっちり鍛練に付き合ってやれば喜ぶだろうが」

「えっ!?なにそれ?」

「あいつ、いつも鍛錬の相手を探してたからな。贈り物なんかよりよっぽどいい」


「・・・今さらだけど、変わり者コンビだよね・・・」

 フィオラが苦笑いをしながらグレアに呟いたその時、グレアが唐突に立ち止まった。



「おい、あれなんかどうだ?」

 グレアは花屋の店先で綺麗に咲き誇る花を指した。ノワールの欲しいものが分からない以上、下手に小細工するより、こういう物の方がよっぽど良い気がする。



「綺麗に咲いたものなら嬉しいんじゃないか?」

 グレアにしてはまともな意見だったと思うが、実は買い物に付き合わされるのがしんどくなってきて、目に入った花を推薦したなどとフィオラは知らない。



「花かぁ・・・どうしようかな」

「お前が選んでやった花なら、喜んでくれるさ。こういうものは気持ちが大事だと思うぞ。何本か、買っていったらどうだ」



「・・・うん!花にする!」

 一瞬悩んだかのように見えたが、グレアの後押しもあってフィオラは何本か花を買うことにした。



「まあ、こういうのも悪くないか」

 結果的にグレアの自由時間は全て潰れたが、フィオラの満面の笑みを見て、付き添いも悪くないと思っていた。





「お姉ちゃん!はい、これ!」

「綺麗な花・・・まさかフィオラ、私のために?」

 宿屋に帰ってくるなり、妹から差し出された花束に、ノワールは動揺していた。まさか自分のために妹が贈り物を、などと考えていなかったのだろう。


 一方のフィオラは嬉しそうに受け取るのを待っている。



「そうだ。ノワール、お前のためにフィオラが今日一日――」

 まだ受け取ろうとしないノワールに、グレアがプレゼントを受け取るように催促した直後・・・



「私からじゃないよ」




「え?」

 思わぬ一言に二人がフィオラに目を向ける。ノワールはフィオラからのプレゼントだと思っており、グレアはあくまで付き合いでしかなかったはずだった。


 一体何が違うのか、二人がそれぞれ思案していると――



「この花はね、誕生日を迎えるお姉ちゃんにグレアさんが用意してくれたの」

「・・・グレア様が!?」

 そう聞くなり嬉々とした目をグレアに向けるノワール。


「おい。全く話が違うぞ」

「何がいいかなぁって聞いたら、気持ちを込めた花を贈ろうって。あ、グレアさんはお刺身がいいらしいよ」

「そんな・・・グレア様、私のために?」

「いや、一緒に買いには行ったがフィオラが買いたいと・・・」

「嬉しい!」

 差し出された花束を奪うように手にすると、全身全霊の飛び込みでグレアにダイブした。


 それに全く反応出来なかったグレアは床に押し倒され、背中は両手でギリギリと締め付けられている。

「ぐはっ!」

「あぁ、今死んでもいい!」

「は、離れろ・・・それに言ってる事が重い・・・」

「普段冷たいくせに、ツンデレなんですね」

「だ、誰がだ!俺からのプレゼントじゃねぇって言ってるだろ!」

「またまたぁ」


 そのやりとりを見て、フィオラは一仕事終えたように深く息を吸うと、ノワールに向かって良かったねと声をかけた。


 フィオラにやられた。そう確信してグレアが何とか引き剥がそうとしている最中。



「みんなもう戻ってきているのか?」

 不意に部屋の扉が開き、リンがその異様な状況を確認する。一瞬フリーズした後・・・


「・・・ゲスめ」


 露骨に嫌そうな顔で言い放ち、ゆっくり扉を閉めた。


「リ、リン!待て!違う!」

 閉め際に残した、リンの言葉が深く心に突き刺さる。何とか誤解を解こうと手を伸ばすが、無情にも扉は二度と開かなかった。



「グレア様~~!」


「は、離れろ!!俺の自由を返せー!!」

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