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神殺しの遺伝子  作者: 神条 黒乃
第一部 紅い眼の男
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第14話 新たな情報

「おーい、無事だったか!」

 峠を下ると、酒場のマスターが馬車を用意して待っていた。人が3~4人乗れば一杯になりそうなサイズで、それでも今の自分達には充分だった。


 グレアはともかく、リンはボロボロの状態だったので安堵の表情を浮かべた。この体力で街まで戻る気力はなかった。


「助かった……」

「気にするなよ。俺はこれくらいしか出来ないんだから」

 軽いやり取りを交わし、荷台にリンを乗せた後、グレアも横に腰掛けた。それを確認したマスターがルガルタに向けて馬を走らせる。



 リンは自分に応急処置を施した後、体力回復に努めようとしたが傷の痛みが邪魔をして休めずにいた。

 そんな彼女を知ってか知らずか、グレアは己の刀を抱いたまま眠りに落ちていた。その光景に思わず微笑んでしまう。



 しばらく馬を走らせ、マスターがその口を開いた。

「ほんとに倒してくれるとはな。すまなかったな」

 半ば冗談半分で言ったことが本当に実現するとは思っていなかったマスターは、リンの方を振り向くと軽く頭を下げた。


「いや、グレアが来てくれなかったら危なかった」

「その事なんだけどな」

 マスターはグレアが助太刀に来るまでの、酒場のやり取りを話し始めた。



「あんたが出た後、大変だったんだぞ」

「私が出た後?」

「グレア、だったか。料理注文したかと思ったら、すぐに平らげて俺に馬車を用意しろって言ってきたんだ」

「え?」


「いや、確かに辻斬りが出始めて客の入りが悪くなったさ。傭兵なんかは数が減ったからな。辻斬りを倒してくれたら俺も助かる。んで、倒してやるから馬車を出せって」

「じゃあマスターが待っていてくれたのは――」

「辻斬りの討伐依頼。報酬は街・目的地間の送迎。逆にこんな報酬でいいのかと思うけどね。これくらいのもんならいくらでも手配するよ」




 これはグレアがリンを心配して依頼として受けた、という意味にとれる。

 むしろリンは確信していた。自分を助けるために来てくれたのだと。逆に、それだけ心配をかけてしまっていたことを申し訳なく思った。


「何だかんだ、あんたら良いコンビだよ。言い合いしても、やっぱり絆があるんだろうな」


 その一言に自然と笑みが溢れ、何故か傷の痛みも引いていくような気がした。


「絆……か」


 今まで特別意識した事はなかったが、マスターに言われたその言葉の意味を、しばらく噛み締めていた。



 その夜、宿に到着した二人はベッドに入るとすぐに眠りに落ちた。ようやくまともな環境で寝れると、特にリンは満足そうに布団を抱き抱えて眠った。





 翌日、二人は酒場のマスターに会いに来ていた。というのも、グレアは彼にある事を依頼しており、その確認のために顔を出したのだ。


「マスター、頼んでおいた事はどうなった?」

 言葉を投げ掛けた後、二人がテーブルに座ると向かい合うようにマスターも腰掛ける。そして一枚の地図を広げた。


「頼んでいた事?」

「酒場にはいろんな情報が集まるからな。あの女の情報、噂でもいい。何か手掛かりになるものが見つからないかと思って、頼んでたんだ」

「一晩で集めろってんだから無茶苦茶だよな、いろいろと」



 眠い目を擦りながら話すところを見ると、まともに寝ていないのだろう。断ることも出来たが、マスターは辻斬りの件もあったので引き受けてくれていた。


「集めるには集めたが、あんまり期待しないでくれ」

 そう言うと、広げた地図を順番に指差し始めた。



「ここがあんた達のいたセリス。大陸の北東に位置してる。そのさらに北には港町ストラ。まぁここらへんは関係ない。で、セリスを少し南に下りたここがルガルタ」

「地図の説明ならいいぞ」

「最後まで聞けって。ルガルタをさらに南西に下ると王都だ。ここからなら大分距離がある。問題は、王都の西側にあるこの町エグラドと、王都の東にある海上都市レトリア。この二つは、過去一夜にして滅んでいる」



 その瞬間二人の表情が険しいものになる。一晩で滅んだ、その言葉でセリスの悲劇を思い出し、沸々と憎悪の炎が燃え上がっていた。


「原因は分かってるのか?」

「エグラドは確か女の子の魔力暴走って聞いたな。その子を残して町一つ消し飛んだらしい」

 その言葉に二人は違和感を覚える。魔力暴走で消し飛んだ、少なくともセリスはそういった事故の類いではない。

「とんでもない話だが、俺達の探してる奴とは少し違うな」



「そうだな。お前達の話にある、空に浮かぶ女とはまた違うだろう。で、もう一つのレトリアって都市だが、ここは都市中の人間が全員一晩で殺された。しかも全員がバラバラにされて、だ」

「全員!?」

 その言葉に揃って驚愕の声を上げる。


 恐らくセリスの町と比較してもレトリアははるかに面積も人口も多い。それだけに一晩で殺されたという話は現実味がない。


「ある者は足だけ残して、ある者は胴体だけ残して、ほんと見事にバラバラでまともに身体が無事だった者はいないらしい。無くなった部分は、殺された時に喰われたとか何とか」



 一通り話を聞いてみたが、全滅した事以外は似ても似つかないような内容ばかりだった。だが、何か繋がる部分があるかもしれない。ほんの僅かでも手掛かりが得られるなら労力を惜しみたくはない。


「……とりあえずは王都。んで、エグラドとレトリアを回ってみるか。マスター、ありがとな。情報助かった」

 グレアが謝辞を述べると、リンもぺこりとお辞儀をした。マスターはそれに手を振って答える。


「それにしても、せっかくの商業都市……ゆっくりしていってもいいだろうに」

「目的を果たしたらまた来る」

「しょうがないな」

 そう言うとマスターはテーブルの上に、どんと布袋を置いて見せた。丁度背中に背負えそうな大きさである。


「これは?」

 不思議に思ったリンが布袋を見つめて問い掛けると、マスターは笑顔で答えた。


「保存食だよ。食料なんていくらあっても困らんだろう?」

「ありがたいけど、これは受け取れない」

 さすがにそこまでしてもらうのは気が引ける。リンは断るつもりで布袋を返そうとした。


「いやいや、持って行ってくれ。俺もかなり助けられたからな。せめてあんた達の旅が上手くいくよう、これくらいはさせてくれ」

「じゃあもらっておく」

「グレア!」

 何の躊躇いもなく回収するグレアに、リンが待ったの声を出すが全く聞いている様子がない。


 そしてテーブルを立つと出口に向かって歩き始める。リンはその後を追いかけた。



「今度また顔を出す。そん時は、また似たような依頼があったらタダで引き受けてもいい」


「そうだな、タダ働きしてもらうぜ」


 グレアが去り際に残した一言に答えると、マスターはカウンターへと戻っていった。




 明朝の冷え込みを忘れさせるかのような陽射しの中、二人は王都を目指す。

 ルガルタの辻斬り騒ぎは、こうして終わりを迎えた。

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