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一般ファンタジー小説

妖精を助けた子供

作者: 藍上央理

「妖精を助けた子供」 



 子供は貧しい家で育ちました。

 貧しいのは家だけでなく、国も土地もみんな貧しかったのです。

 食べるものもほとんどありません。

 牛も羊も山羊も生きているものみんなやせこけていました。

 唯一、食べられるものがあるのは、森くらいでした。けれど森には狼がいて、熊がいて、迷子になってしまうほど広いので、みんな森の端っこで食べられるものを取っていました。

 大人のみんなはいいました。

 「呪われてるんだよ、きっとね」

 緑の平野は青々として木々は深く緑色に染まっていて、木の実なども大変豊かでした。嵐が起こるわけでも雨が降らないわけでもないのに、この国の森以外の土地では何もかもが育ちくくて生まれにくかったのでした。




 今年も食べ物がなくて、しようがないので子供は食べるものを探しに森に行きました。森の端っこで少しの木の実ときのこを見つけて籠に夢中に放り込んで行くうちに、うっかり奥へ入り込んでしまって、すっかり迷子になっていました。

 気がつくと日が暮れかけています。

 しまったなぁ・・・と思って周りを見回しました。

 こずえは高く茂りすぎて星も見えません。森は真っ暗で自分の手のひらだって見えなくなってしまいました。

 子供は途方にくれましたが、すぐに諦めてぺたんとその場に座りこみました。

 こんなにがりがりの子供なんか狼だって食べないでしょう。

 だから子供は開き直って大の字になってねっころがっていました。

 食べ物がなくて死んでしまうのも、狼に食べられてしまうのも、子供にとっては、とりあえず大問題ではなかったからでした。考えたりするのは何かが起こってからにしようと子供は決めました。




 うとうとしかけてまもなく、ポンッポンッと地面の下から音がするのに気がつきました。

 なにかがはじき出されているような音です。

 そして、ごにょごにょと、「食べるものがなくったっておいらにゃこいつがいるからな、しこたまミミズを出させてよ、いっつも満腹幸せだ」と歌っている声が聞こえます。

 子供は地面に耳を当てたままずりずりと森を這いずって声がもっと聞こえる場所を探しました。

 ほどなく大きな木のうろから、その鼻の詰まった歌声が響いてくるのに気付きました。

 しばらくすると、声は「満腹だ満足だ」とつぶやいて、いびきをかき始めました。

 満腹とはなんだろう、ミミズは食べたくないけれど、いったい誰が歌っているのだろうと子供は興味が湧きました。

 子供はするりとうろのなかに滑り込みました。

 真っ暗闇のうねったうろのなかをゆっくり伝って降りて行くと、ぽっかりとひらけた土の洞穴にたどり着きました。

 木の根っこがいっぱい天井から垂れているらしく、何度も子供の頭にかぶさりました。子供が腹ばいになってやっと通れる洞穴でした。ずんずんいびきの聞こえる方へ這いずって行くと、ぼんやりとした明かりが見えました。

 子供は少しだけ首を伸ばしてその穴を覗きました。

 子供はギョッとしました。

 穴いっぱいに大きな山ミミズと肥えてブクブクのモグラがいたのでした。

 そして、明かりだと思ったのは、木の根で作った籠に閉じ込められたかわいらしい妖精の放つ光だったのでした。

 妖精はすぐに子供に気付いてしーっと黙るように人差し指を口に当てました。

 子供はうなづきましたが、ぐいと腕を伸ばすと、籠をつかみ、驚いて声すら上げない妖精を抱えたまま這いずって木のほらから出て行きました。




 木のほらを出てみるとすっかり朝になっていました。

 子供は頭のてっぺんから足の先まで土だらけになっていました。

 木のほらを振りかえりましたが、モグラのいびきしか聞こえてきませんでした。

 子供が籠を見ると妖精はまだいました。

 じっとうずくまったままの妖精が不安そうに言いました。

 「なぜ助けてくれたのですか」

 妖精を助けたつもりのない子供は、素直に、「助けたんじゃないよ」と言いました。

 「でも、モグラが追っかけてきたらどうするつもりだったんですか」

 妖精はまだ不安げに言いました。



 子供は笑って答えました。

 「あんなに穴いっぱいに太ったモグラがあの洞穴を出ることなんて無理だもの」

 子供は妖精に訊ねました。

 「なんで、モグラに捕まってたのさ」

 「あたしが川縁でお魚の子供を増やしていたら、モグラが土の中から突然現れて、連れ去られたんです。それから毎日、ミミズの子供を増やさせられていたんです」

 子供は妖精を籠から出しました。

 「木の実やきのこや麦も増やせるの」と子供が訊ねると、妖精は答えました。

 「あたしは、生きているものしか増やせません。だから、生き物のいるところへつれて行って下さい」

 「自分の好きなところに行っていいんだよ」と子供が言うと、妖精は、「あたしは生き物を増やす妖精なんです。いろんなところでいろんな生き物を増やしたいんです」と頑固に言いました。

 それで、子供は自分の家に帰ると、痩せた牛の納屋に妖精を連れて行きました。

 「僕んちで生き物がいるとこはここだけなんだ」

 妖精はにこにこしながら、「牛を増やすのは久しぶりだわ」と言いました。




 しばらくすると、子供の家は牛小屋を大きくしました。そして、やがて広い牧地を手に入れて、その国一番の金持ちになりました。

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