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  番外編 とある教師の誤算



 俺は転生管理世界に生きる一教師だ。

 この世界は死後の世界。死んだ魂に仮初めの身体を与え、次に生まれ変わる世界へと適合させる役割を担っている。

 そんな世界で俺はその魂を矯正させる仕事をしていた。


 むろん、この世界の仕事はそればかりではない。

 魂とはいえ肉体を持っているため食事を必要としたり、生活の上で電気なども求められたりもしている。それら生活水準を上げるための職業も当然あったりする。


 わかったか? つまり何も教師がそういう仕事だということじゃない。

 『責任者』と呼ばれる立場に就く者が兼任してるだけに過ぎない。俺はその『責任者』の一人って訳だ。どっちが副業かは正直な話、俺にも分からねぇ。どっちも切り離せないからな。

 要は教師であり『責任者』でもあるのが俺なんだ。


 当然他の職場にも最低でも一人は『責任者』がおり、各職場に就職した(やつ)()は彼らの指導の元で転生を行う。そういった者は大体上役をやっており給料もいい。高給取りってやつだ。

 俺は一応ながら公務員という立場で給料はそれほどよくない。くそっ、顔なじみなんだからたまには酒の一杯でもおごれよ、チクショウ!

 あ、ちなみに俺たちは不老不死なんだぜ。これ重要。だから『責任者』は皆顔なじみなわけで。それと一度就いた仕事は変えられない。ゆえに協力し、融通し合うものだろう、なあ!

 ごほん、話を戻そうか。


 つーか、ぶっちゃげ、学生の身分で転生までぎ着けるやつはかなり珍しい。そういった(やつ)()は魂が老成していて手も掛からない。

 てな訳で、俺は生徒に教育という名の下に前世までに培ってきた倫理観の破壊と最低限の一般教養を教えるが主な仕事――要するにマジで教師やってるんだわ。

 だから他の奴等に比べれば暇と言えば暇である。その分給料が少ないのかもしれないな。だが、特別手当はくれても良いのよ?


 ――え? 転生させるのに勉強させても意味ないって? いやいや、ちゃんとした意味はあるんだよ、一応。

 魂とはニュートラルであるべきだ。生まれながらにして強欲や清純のどちらかに傾いているのはよろしくない。つまるところ、どちらにでも傾ける、びみょ~なラインで教養を施していく訳で。

 あと勉強もバカ過ぎても生きていけないから次の人生の素養程度は教えていく。


 当たり前のことだが、転生先にその様な知識は必要ない所もある。しかしながら現時点では何処どこに転生させるかも決まっていないし、知識はある程度フォーマットされるので再び習うまでは思い出すことはあり得ない。

 まあ、仮に聞く機会があった所で、それまでの努力がなけば何の事かも分からない仕様になっている。

 ……肉体が無いから消せるのかね、記憶。


 でも時折、一部の記憶を引き継いで転生してしまう場合がある。


 ――事故というケースで、な。



 話は変わるが、ここで『責任者』について少し語るぞ。重要だからな? よく覚えておけ。

 俺たち『責任者』は長く転生を繰り返し魂が疲弊して転生に耐えられなくなった者や、生きる目的を全て果たし未練の無くなった者たちが就く役割だ。

 俺の場合は後者だ。

 一夫一妻という世界で俺はハーレムを形成して、栄華をきわめてしまったのだ! あ、これ自慢な。テストに出すぞ、メモっとけ!

 だが疲弊しすぎてもいけない。魂が損耗しすぎると消滅してしまうケースもそれなりにある。というか、それが完全なる死……と言う訳だ。


 ……やっぱ覚えなくていいわ。俺が凄かったことだけ覚えておいてくれ。


 おっと、また話がそれてしまったな。

 こんな感じの死後の世界だが、前世の記憶など残っていないのでこの世界も十分転生先の世界と言えるかね。

 『責任者』は転生することはないが、他の者は魂が適合するまでは違う職業に就いていたりする。転生管理世界はそんな世界なんだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺は普段と変わらぬ生活を過ごしていた。

 いや、少し違うか?

 その日は仕事上がりで居酒屋にて酒を堪能していた。ああ、美味うまい! もう一杯! と偶にの贅沢ぜいたくをしていたんだ。なのに――俺の持つとある装置が『転生準備、転生準備!』と知らせてきたのだ。まったく、無粋なやつは誰だ!


 これが反応すると言うことは、俺の受け持つ生徒の誰かが転生準備状態となった証拠だ。前世の記憶を元にシミュレーションゲームのごとく、夢の中で人生をやり直しているのだろう。

 やり直しても同じ結果となり意味はないかと思うかもしれないが、前世の記憶を失っていることと、この世界で今まで生きてきた経験を元に行動をするので、以前の結果とは全く変わったものとなるのが大半だ。

 HappyEndを迎えれば『責任者』となるのは前述の通り。けど人はGoodEndを目指すのが良いだろう。『責任者』など(ろう)(ごく)の一つだからな。


 この他にもTrueEndという『神ルート』もあるのだが、特殊条件が厳しすぎてほとんど神の位階に達する者はいない。もちろん、転生先における条件なのでやるべき事は人により様々だが……。


 さて、それは今は関係ないので置いておこう。

 現在重要な事は俺の数少ないお楽しみを邪魔してくれた、空気の読めない奴をどうしてやるべきかだったな。あ、違った。俺の生徒の転生を補助してやることだ。


 えっと……何々?

 俺の邪魔をした装置をいじり、誰がどういう状況なのかを確認していく。


 ――対称は矢萩観月やはぎみづき。現在第一の人生を進行中。


 ……なるほどね。

 どうやら観月の魂がこの次元に初めて生を受けたときの人生を繰り返しているらしい。

 こんなことを可能としている装置はこの世界のシステム的な何かで、長く『責任者』の仕事に携わっている俺ですら全容が分からない。ってか、分かっている奴なんているのか? まあ、コイツは端末だけど。


 そんな謎システムだが、コイツはすごいんだ。

 なんと! たった一晩で、これまで魂が歩んできた人生のシミュレートを全て進行することが可能なのだ。どうだ、凄げぇだろ? 人生って短いんだぜ?

 魂の記録を元に実行しているから可能って説があるが、正直よくわかんねぇ。俺にはもう関係ないことだし、気にする必要もないしな。


 と、そんなシステムに翻弄されている最中の観月だが……。

 本来、観月はまだ魂の存在値的に未熟で、もっとこの世界で歳を重ねてから転生することになっていたと装置には出ている。

 確かアイツは三回目だったな。ということはここに来たのは初めてか? だとしたらこれはあり得ない状況だ。


 三度転生を果たした後、初めてこの管理世界には召還される。これはある程度鍛えられないとここでの生活に耐えられないからだ。

 本当は二回で十分素養はあるらしいが、確実ではないため三回と設定しているらしい。あと三回程度なら魂が善悪に偏る心配もないってのが理由の一つらしい。

 この事は端末を通して神の一人システムに教えてもらった……が、裏事情などどうでもいいだろう。


 ううむ、だとするなら観月は……これまでのケースから考えて、おそらく魂を揺さぶる様な何かが起きたのだろう。


 そしてこの様な異常発生の場合は、転生先で何かしら問題が起こってしまうことがほとんどだ。

 たとえば身体の一部が欠損して生まれるかもしれない。言語機能が壊れた状態で生まれるかもしれない。最悪は死産……という可能性すらも……。


 やれやれ、面倒になったな。

 このまま何もせずに放置してやるのもまた人生。その時はまたこの世界の赤子として最初からやり直せば良いだけどのことなのだから。

 しかし教師という職業に長く就いているせいか、面倒を見てやれ! という脅迫概念にも似た感情が俺を翻弄する。

 どうすっかなぁ~。




 次の日の朝。

 起きた俺の手元には昨夜観月が行ったシミュレーションの結果があった。ああ、これな? これは俺の持っている装置が観月の魂とリンクしてるから観察した結果を出力してくれているんだ。

 対象が所属を変えるとき、リンクする端末が変わる仕組みになっている。


 ちなみにこの端末はこの管理世界の神の一人システムが生み出した物だからそんな事も出来るとしか言い様がない。ブラックボックスそのものだからな。


 ――にしても、ヒドイなこれは……。


 俺はプリントされた用紙を眺め頭が痛くなった。

 せめて予定通りこの世界に長くいれば問題無かったのだが。

 観月はここでは頑張っているらしく生活点が高い。

 もし魂が活性化しなければ高評価で転生出来たはずだった。けど……これじゃあまりにも……。


 はぁ~。仕方ないな。

 俺は『責任者』の特例を実行することに決める。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺は八つ当たりとばかりに観月を貶しめる事で憂さ晴らしをする。まあ、転生した時点で『責任者』とこの世界の神以外からは忘れ去られるので心配するなよ!


 俺は装置とプロジェクターを連動し、装置が採点した部分の動画を再生する。

 第一の人生は予定通り観月を嘲笑あざわらってやった。けど……第二の人生は――。

 うわ、何これ……。やべぇ……。

 正直、甘く見ていた。文字で見るのと映像で見るのは印象が違いすぎる。うわ、怖えぇぇぇ。俺の金○がギュっと今縮んだぞ!?

 それだけに第三の殺伐とした人生をほのぼのとした物だと感じられてしまった。


 そして授業の終わりに、観月に放課後進路指導室に来るように命じた。



 さて、ここからが俺の仕事だ。本番ってやつだな。

 本来の転生は、シミュレートした人生と管理世界で得たポイントから自動的に転生先に適合するように使用される。頭をよくしたりとか身体を頑丈にしたりとか、生まれの環境改善とかに、だ。

 生まれたばかりの魂は強度的に貧弱なので、なるべく良い状況で生まれ落ちる。そして次の人生は()(こく)というのは大体決まっている。

 だから観月のあの人生の転落は割と良くある状況だ。ただ、あそこまで男を震撼しんかんさせる出来事は少ないが。


 というか、本来の観月は高城守たかしろまもるのとき、一流大学を卒業することも出来なかったし、一族の中の優秀な嫁をもらって影ながら過ごしていた。明石楓あかしかえでの場合は高校でのいじめで自殺してしまった。だから第三の人生で意志の薄いスライムに生まれ変わった訳で……。

 あ、ちなみに観月のスライムはキングスライムにならずに、普通に殺されていたぞ?


 また、初めての管理世界のため、この世界で死んだ時に転生を果たすはずだった。にもかかわらず、強制的に転生を果たしてしまうので100ポイント中の判定が84ポイント判定となってしまっている。

 流石さすがにこれは不味まずいと俺も思った訳だ。だからこそ面倒と思いつつも介入することに決めたんだ。特殊条件まで取得しちゃってるしなぁ……。


 俺のやることは簡単だ。

 まず、社会適正テストと言う名の転生先希望調査表を元に、なるべく後から巻き返しが利く世界を選び出す。出来うるならば才能が後から身につく世界を。

 次に、児童に割り振られるポイントをある程度任意に操作が出来る様に施すだけ。


 ――といった感じだった。



 俺はやって来た観月に追試という名のポイントの割り振りをさせ、端末を操作し観月を転生させた。


 ――願わくはいい人生を。



「さてと……。今日こそは時を忘れて酒でも飲むか。あ、でも金があまりねぇ……」


 俺は暇を持てあまして居るであろう金づるの『責任者』を呼び出しておごらせる事を決意する。今日は飲むぞ!






教師「クソッ! 俺のお楽しみ時間を奪いやがって……!」

観月「おいっ! だからってボクを貶める必要はなかっただろ! 八つ当たりイクナイ」

教師「ふんっ! そう言うことは俺にビール券を持ってきてから言うんだな。『どうぞお納めください』ってな」

観月「おい……教師。何、袖の下要求してるんだよ。失格教師にもほどがあるだろ」

教師「うっせぇ! 人徳詰まなくなって良いんだから好きにしたって良いだろ! 俺をクビにできる物ならしてみろ! 俺は転職してーんだよ! あ、ちなみに――」


 高城守→『種なし』で雄と種子植物不可。無性生殖か雌体のみ

 明石楓→『ビッチ』と『吸精』で夢魔か吸血鬼系

 スライム→『無差別』と『躊躇無し』で精神的ペナルティの解除


教師「――後は追試の選択式でサキュバスに決まった感じだな」

観月「……」

教師「え? ネタバレすんなって? まあ、いいじゃないか。タグやあらすじに書いてあるし」

観月「(んなこと言ってねーよ)」

教師「何か言ったか? 言ってない? そう、ならいいんだ。何にしても記憶が維持出来たのも俺のおかげだ、感謝したまえ。具体的にはビール券で!」


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