無職3話 ボク、ナンパされちゃいました
さんさんと光照らす太陽が、真上を通り過ぎてやがては西に傾く。いや、ここは異世界。アレが太陽という名称ではないかもしれないし、そして東から昇って西に沈むとは限らない。
森を進み始めたときは始め、太陽(仮)が示す方面に進んだけど、ホント、ボクはどの方角に進んでいたんだろうね。ここが元の世界であったならば、南だけはありえないんだけど……。
「さてと……そろそろ頃合いかな?」
これまでの経験上、元の世界と同じ様に日が頂点に達した後は段々と勢力が弱まっていく。そして次第に気温は下がることになる。
やはり元の世界と同じ様に頂点に達してから少ししてからが一番暑いが、それは地面が熱せられているからだと思われる。ただ、地面が土だからそれほど変化はしないが。
ボクは体感温度が下がるなり草原を進んでいく。
ある程度進んだころ、視界に映るのは削られた大地。否、道らしき物が現れた。道ということは街と街を繋ぐラインに違いない。
ただ……どちらがここから近いかだけが問題であった。
「う~ん、どっちにするべきか」
既に習慣になりかけている独り言を呟く。どちらに向かうにせよ、食料的にあまり余裕はない。引き返すことは不可能と考えた方が良い。
そして考える時間が多ければ多い程、食料が無くなっていく。
棒が欲しい……。どちらに倒れたかで行き先を決めるという安易な手段――天に身を任せたかった。
でもボクは持っていない。森に戻れば枝くらい手に入るけど、流石にそれはゴメンだった。
ならば、と――。
ボクは足を振り上げた。おっ、思った以上に身体が柔らかい。
勢いよく振り上げた足は履いている靴をも振りほどき、ヒール足の靴は足を離れて空高く舞い上がった。要するに――、
あ~した、天気になぁ~あれっ!
そしてヒールが向けた方角はボクから見て右だった。
靴を回収してからボクは早速右の方角へと向かうつもりだったが、とある事情により休息を必要とした。
ケンケンして脹ら脛を釣ってしまった……。なんとも情けない。
再び歩き始める頃には空があかね色に染まり始めていた。
それから十数分歩いた所で、後方からパカラッパカラッ、と聞き覚えのある足音が聞こえ来た。そう、お馬さんの足音だ。
ボクは後ろを振り返りその正体を見極める。すると視線の先には馬が牽引した荷車――馬車が姿を現した。
その馬車は駆けるという程ではなく歩くという状態で荷物――いや、人を運んでいるようだった。なら、これに乗せて貰えば……と普段のボクならばそう思っただろう。でもこのときのボクは違う物に気を取られ、そんな事を考えている余裕など無かった。
――丸い。とてもまぁるい。まん丸い。
ハイヤーと手綱を引く人物の頭はお月様の様に丸かった。もちろん満月仕様ね。
とはいえ、ツルピ――ごほんっ、坊主頭だったという訳ではない。そもそも坊主は頭の輪郭がもろに出てしまうため、丸いと表現するには相応しくない。
なら何か? と問われればもちろん……Theアフロと答えざる得ない。っていうか答えるも何も目の前にいるんだけどね。
普通アフロといえば肌が黒い人がしているイメージだ。時に古典アニメで主人公を飾ってたりもするけれど、正直アレはどうかと思う。そして御者を務めている男はどちらかというと黒いだけで、言うなれば元の世界のボクと同じ様に黄色人種と呼んだ方がいいかもしれない。しかももやしのように、ヒョロヒョロっとしているから違和感がハンパ無い。
これが第一村人ならぬ第一異世界人とは……。正直なところ異世界舐めてた。パネェ。マジ異世界パネェ……。
そんなアフロヘアの御者だが、ボクの目の前で「ヘァ!」と馬を止め、ボクに向かってポーズを決めた。当然というか両手をアフロに掲げ強調させるポーズだ。マジウケるぅ~。
「ヘイ! 綺麗なお嬢さん。僕とお茶しませんか?」
ボクが笑いを堪えていると、腰をくねらせてより笑いを誘うようなポーズと共に話しかけてきた。
ちなみにボクにはこう聞こえた。「HEY! 綺麗なおJOさん。BOKUとおCHAしませんKA?」と。それがボクの腹筋を更に刺激してしまう。
今は話せない状態だからと、手のひらを向けてSTOPサインをアフロさんに向ける。
アフロさんはいい人なのか、ナンパ師ゆえかボクが落ち着くのをじっと待ってくれた。馬車の中に人を待たせているというのに。
「すぅ~はぁ~。うん、もう大丈夫。お待たせしました。えっと……アフロヘアのお兄さん」
「ノンノン、僕のヘアは『アフロ』なんて名前じゃないよ。僕のヘヤは『ボンバーヘッド』さっ!」
歯をキラ――ンッと輝かせるような満面の笑みでそう答えてくる、サムズアップ付きで。
その瞬間、一度落ち着いた腹筋は再び襲い掛かる波に絶えきることも出来ずに決壊してしまう。うん、要するに爆笑してしまった訳で……。
ごめんなさい、アフロさん。あ、違った。ボンバーヘッドさん。
でも、せめてサングラスをしてください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ボクは現在、馬車の中で寛いでいた。
うん、つまりあのボンバーヘッドさんこと、ソウフさんのナンパを条件付きで承諾したんだよね。あ、ちなみに笑ったのは「ごめんちゃい」と可愛くいったら許して貰えた。うん、美人って得だよね。
えっ? 尻軽だって? いや、考えてもみてよ。あのまま歩き続けるならお茶の一杯くらい付き合って、街まで運んで貰う方が効率的だって。
それにだよ、ここはボクの知らない異世界だ。進む先の街まで歩いてどのくらい掛かるかも定かじゃない。ボクの足だし、きっと普通の人の何倍も掛かってしまう。そうなったとき食糧が尽きてどうにもならないかもしれない。
異世界テンプレにあるように、盗賊に襲われるケースも一考するべきだよ。ボクは物語の主人公とは違って特別な力なんて持っていない。この数日間でよく分かっている。
――こんな風にマイナス要素を上げていたらキリがない。分かるよね? ボクは正しい行為をしたんだ。
独り身で寂しいソウフさんに小時間くらい付き合ってあげるのも奉仕活動の一種だよ! むろん、お茶はおごらせるつもりさ。
ちなみにこの世界での「お茶しようぜ」は酒も入るらしい。要するに酒をついでくれないか? とソウフさんは言っていたのだろう。このときのボクはそんなことは知らなかったから安請け合いをしてしまうのだが――。
と、まあ、そんな打算の元に馬車に乗り上げたボクだったけど、ソウフさんとしては御者台の横に座って欲しかったんだろうな。乗り上げたとき『え? そこ? なんか違くねぇ?』という表情を浮かべていた。
ボクはそれを尻目に「クスリ」と笑いながら乗り込んだ。が、それは失敗だった。彼以上女に餓えた男ども――職業:冒険者と呼ばれる者たちが馬車の中に居座っていたのだ。
冒険者は歴とした職業であるらしく、物語の冒険者のように、プー太郎という訳ではないらしい。「無職なんですね?」と言わずに「それは素敵ですね、夢を持つなんて憧れますぅ」と言って正解だよ。
口は災いの元でもあるけど上手く利用すればちゃんとした武器になる。これにより口を軽くした男たちはいろんな事に答えてくれた。
そんな男たちだったが、やはりというかボクの身体に隙あらば触れようとする。ちょっと、お触りはダメよ、商売道具なんですから! ……というのは冗談だけど、つい先日まで男であっただけにその行為は少し気持ち悪い。だからボクはなるべく触れさせないような立ち居振る舞いをして男たちを翻弄することで場を凌いだ。
ここでも楓だったときの経験が役に立った。ビッチ、パネェ。
話は変わるが、私は田舎から出てきたしがない村娘という設定だ。
何処の村だよ、おいっ! って感じだよね。説得力の欠片もないよ。ボクの進行方向の逆から来たって事はその村の出身ってことになるし。
でも冒険者の男たちは疑問に感じなかったらしい。バカだな、コイツら。
そして日も暮れる頃、ボクが目指していた、近くの街ならぬソービ村へとたどり着いた。
転生五日目
ミヅキ「ア、アフロ? えっ、違う? ボンバーヘッド? 爆発の煙がそうだって?」
聞こえるかぁ……(聞こえるだろう……)遙かなぁBoomb!
ミヅキ「あれ? なんか空耳が……」
ぴろりろ~ん。職業○○○の条件を満たしたよ。転職は神殿で行ってね♪
ミヅキ「え?」
でろろろ~~ん。職業○○○の条件を満たし転職しました(ボソ
ミヅキ「え? ええ?」