剣士8話 ダンジョンに潜む闇
休息をとったとはいえ、固い地面で長く寝続けた身体は中々に疲れを取ることは出来ない。【快食快眠】があったとしてもそれは変わらない。
ボクたちは万全とは言えない状態で<マルサ>五層より脱出にあたって足を動かし続けていた。
皆それぞれ考えていることは違うようだ。
今回の稼ぎを推測してニヤニヤする者。早く帰ってベッドで寝たいと愚痴を零す者。暗い表情を浮かべぶつぶつと呟いている者。隙無く周囲を観察し、最後まで気を抜かない者。そして臭いに辟易しているボク!
アインさんを除きどこか緊張を途切れさせているものばかりだ。
それがいけなかったのだろう。
後から思えば、【警戒】スキルを持っているミーズリさんに活を入れなかった、リーダーたるボクの責任なんだろう。しかしこのときのボクは集中力を乱し、そんなことを考えているゆとりはなかった。
臭さに堪えかねて、かつ既におなじみとなっていたコースに差し掛かった故に、ボクが先頭で歩くという愚行を取っていた。
――謂わば油断。
このときのボクはダンジョン変な慣れ方をして、四層を抜けた三層ならば罠に掛からなければ奇襲されても大丈夫などと箍をくくっていた。相手が魔物だけだとは限らないのに……。
ヒュン。
飛来する一条の光。
それがボクの胸に吸い込まれる――ことなく、カキンッと音を立てて地に落ちる。
「敵だ!」
アインさんががなり立てながら武器を【ポケット】から抜き出す。それに遅れること数瞬、皆それぞれの獲物を構え気を引き締める。
「危なかった……! 【強化魔法】の熟練度上げの為にフィジカルガードを使っていなかったら……」
地面に落ちた矢を見つめ、ボクは小声で独白をする。
まさに不幸中の幸い。――いや、『直感』を持つアインさんがこれまで通り先頭だったならば、かつての<勇者>と同じ様に矢を弾いていたかもしれない。これは怠慢による結果だ!
ボクはそれに気を取られ、気を引き締めるのに仲間と一呼吸置いてしまう。
気付くと、アインさんは矢の飛んできた方面へじわりじわりと進んでいる。レティはミーズリさんを庇うように盾を翳している最中だ。マーレンに至ってはこれまで使いもしなかった盾を装備しているではないか!
皆既に戦闘態勢に移行しており、未だ準備が出来ていないのはボクだけであった。
剣に魔力を通し【魔力剣】を発動させる。
このまま突っ込みたい気持ちはあったが、相手が何者か定かじゃない。少なくとも武器を使ってきたことからただの豚野郎じゃないのは目に見えている。
――一体何者? いや、悩むのは後でも出来る。まずは体勢を整えなければ。
ボクは【強化魔法】を解除し、多方面に効果的なマジックバリアの詠唱を始める。
後手にはなるだろう。けれど何はともあれ、まずは相手を知らねばどうすることも出来ない。最初は亀のように籠もる!
詠唱を唱え終わったボクはアインさんに「戻って!」と声を掛ける。それに応じた彼の距離を計算するなり、直ぐさまマジックバリアを展開。全力行使だ。今のボクが出せる最大の範囲と硬度。指輪を媒介にそれを発動させた。
その直後、強い光がボクたちに襲い掛かる。衝撃のあまり、大地が振るえてるような感覚すらある。
「ぐっ!」
馬鹿なっ! 一撃でバリアにヒビぃ!? しかも前面全てに!? カリスさんの一撃でもここまでは……。一体何が……!
「まずいな……。魔法を使う奴がいるぞ」
ボソリと呟いたアインさんの言葉がボクの耳に届く。焦りの色を帯びた声だ。常に余裕を持って行動していた彼の初めて聞く声音にボクは動揺を禁じ得ない。
「打って出る! 援護は頼むぞ!」
そう言うなりアインさんは、マジックバリアの範囲から抜け出て疾走した。目指す場所は敵がいるであろう、曲がり角だ! 後方に逃げて誘き出したほうが……と一瞬頭に過ぎったが、地形的に無理と判断したのだろう。
しかし援護と言われても何をするべきか。
……にしても、攻撃魔法を使う敵とか初めてだな。
どのように戦えばいいかは分からないが、位置的にボクたちの方が不利だ。魔法の攻守――魔力量では負けるとは思わないが、矢と併せて魔法で攻撃されたらいずれ防御を突き抜けてしまうはず。
安易にマジックアローで弾幕を張ることも考えたが、敵には魔法使いがいる。しかもボクの障壁を崩壊寸前まで追い込んだ奴が。きっと<魔術師>だろう。【下位魔法】は効かないと見る方がいい。
――ならばあれだな。
ボクはバリアの体裁を保てなくなった【下位魔法】を解除し、彼に続き走り出す。むろん、次なる詠唱を始めて……。
曲がり角を抜けると、そこには3対1で防戦を繰り広げるアインさんの姿があった。マーレンさんと同じく盾まで持ち出している。
明らかにボクたちがたどり着くまでの時間稼ぎ。実力が無ければこんな無謀な事は出来やしない。こんなときまでイケメンか! とツッコミを入れたくなったが、実に理に適った行動だ。それに今はそのような事をしている時ではない。
敵は6人。残る3人は杖、弓、盾を構えアインさんに攻撃を仕掛けようと前衛の隙間を狙い、チャンスを窺っていた。
杖は口をもごもごとしている。呪文を唱えているのだろう。弓は先制攻撃をしかけた奴で、盾はヒーラーと見るべきだな。
誰が何の役割かを一瞬で判断したボクは、まず倒すべき敵に向けて魔法を発射する。
「――マジックランス!」
敵を差した指が光り出す。
刹那、その光が盾を目掛けて解き放たれる!
選んだのは貫通効果。ホントはマナバーストで一掃したいところだったが、アインさんを巻き込むわけにはいかない。そこで複数攻撃が可能なマジックランスだ!
放たれし殺意の込められたマジックランスは、男――アインさんに攻撃を仕掛けていた1人――の横腹を一瞬で突き抜け、標的を目掛けて飛び続ける! ヒーラーらしき男は前衛を貫通するとは思わなかったのか、既に回避は手遅れという状態。間に合わぬと判断したのか男はとっさに防御姿勢を取るも、ボクのマジックランスは情け容赦なく盾ごと貫き、洞窟の彼方へと消えていった。
敵に一瞬の動揺が生まれる。
アインさんはその隙をつくべく動き出す。狙いはマジックランスで負傷した男! 飛びつくようにしてそいつの目に剣を突き刺した。
頭を貫通してしまった剣を諦めたのだろう。アインさんは大きく後退して【ポケット】から新たな剣を取り出した。
これで2対4。いや、もうじきレティたちが来る。それで逆転だ!
しかし油断するわけにはいかない。敵には未だ魔法使いが健在なのだから。
当然それが念頭にあるボクは魔法を放った直後から駆け出している。唱えるはスピードアシスト。もはや大技はいらない!
それからまもなくして魔法が完成する。
ブーストが掛かったボクは猛烈な勢いで魔法使いに迫る。
それに気付いた杖持ちの男。彼は呪文を再開すべく口を動かし始める。クッ、間に合いそうもない! 一歩が届かない!
そう判断したボクは剣を捨てて跳躍する。それと共に腰に手を伸ばし、腕を勢いよく振るった。
ビシ――ンッ!
「ガァッ!」
鞭に【魔力剣】を使う暇はなかった。だが十分であったらしい。男は腕を強打され、杖を、魔力媒体を離すと共に苦悶の声を上げていた。
そこへ更に鞭を振るい男の首を締め付けてやった! 魔力を流し込み【魔力剣】を発動させ鞭を強化する。
力不足故に絞め殺すことは不可能だが、もはやその男が詠唱をすることは叶わないだろう。杖も手放してしまっているし。
そう判断したボクはスピードアシストを解除し、新たな詠唱を始める。
視線をアインさんの元へ飛ばす。
見るとレティたちが合流して五分の戦いを演じていた。
転生三二九日目
ミヅキ「日課にしてて良かった……」
レティ「暇と魔力に余裕があれば【強化魔法】使ってましたものね」
アイン「本当は温存すべきなんだけどね。でもそのおかげで助かったよ」
マーレン「あれ? アインさんなら躱せたのでは?」
アイン「いや、躱せるけど……ね。でも避けたらミーズリに当たってしまうコースだったよ、あれは。だから弾くしか無かったんだ。けど、ね。成功する確率は低かったと思うよ?」
ミヅキ「(カリスさんなら弾けるけど、アインさんには無理って事かな)」
ミーズリ「……。あのぅ」
レティ「はい? どうしました?」
ミーズリ「浮かれててごめんなさい! 私が気を抜かなかったら……!」
ミヅキ「いや、まぁ無事だったし……ね?」
アイン「そのとおりだ。そもそも私以外はみんな似たようなものだったし」
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再開は盆明け以降。




