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追試という名の……




 ここまでの流れから言ってボクはめられたのだろう。

 この教師がボクに催眠術を掛けたか、睡眠学習を施したに違いない、どうやってかは知らないが。

 そんな装置や手法なんてボク、聞いたことないんだけどね。


 そんなことを思っている内に『化け物としての人生』が始まっていた。

 やっぱりそうだ。これはボクをおとしめるための陰謀に違いない!

 が、今度は動画を止めることなどなく、最後まで通しで見続けた。あれ? ツッコミはないの?


 ・スライム種族として頂点に立ちました。

 ・大変よくたべました。

 ・加点をあげたいくらいです。


 バンバンバンと雑にチョークを動かして黒板に白を刻んでいく。

 はっ!? よく考えたらさっきから書いてあるアレ、ボクの答案に書かれてる物と同じだよね。動揺しすぎて気付かなかったっ! ボク、焦りすぎ~。

 というかそれ以前にこの答案用紙、ボクは答えを書いてないのに何で採点されてるの?


 その時教室が拍手で包まれる。え? 何? どういう状況?


「いやぁ……。先生感動した! 前二つの人生とは違い、種族の頂点をきわめるという偉業! 壮大スペクタクル! よっ! スライムの鏡!」


 涙を流し、ハンカチで拭っている。

 褒められているけど……、『よ、お前、スライムとして最高なヤツだな』とか言われてうれしいと感じる人などいるもんか!


「生存本能から怠け者になったのか、最初からどうしょうもない怠け者だったかは議論する価値がありそうだな。でもまあ、所詮観月の前世だ。語っても面白くも何ともないな」


 おぉぉぉいぃぃぃ! 全部言っちゃってるよ。もう、何この教師。夜道で刺してもいいよね? ていうかってやるぜぇ!


「それじゃ時間もないし、そろそろ本当の答え合わせをするぞ」


 そう言って教師はこの時間に本来やるべき、数学のテストの答え合わせに移った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 全ての授業が終わり、今は放課後となっている。

 ボクは先程ボクをさらし者にした教師に呼び出され、進路指導室へとやって来ていた。


「何の用ですか、先生?」


 ボクはこの教師の名前を覚えていない。これまで興味が無かったのかな? しかし殺す相手ともなると名前くらいは覚えても良いのではないかと思う。まあ、殺すは本気じゃないけど……殴るくらいいいよね?


「ああ、よく来たな。観月、こいつを見てくれ」


 ボクに座るように促すと、教師は一枚のプリントを差し出してきた。

 え~っと……。何々……?


 10点(3)

 美形/不細工

 細め/太め

 ・

 ・

 ・


 何だこれ?


「先生、お前の将来が不安でな。ついお節介だとは思ったがお前のために追試を用意した」


 ――これが追試って……。


 見たところとてもテストの体裁を取っていない。というより意味が分からない。


「……追試って、これどうやるんですか?」


 赤点でもないのに追試を行うのはこの際置いておく。


「ああ、それは選択式でな。さっき返却したテストの点から消費していく形式だ。これ、作るの大変だったんだぜ? 食事の時間が三〇分減っちまったし」


 それは大変とは言わないだろう。一食抜いたくらいで努力したとか冗談キツイ。いや、そもそも抜いてもいないのか。


「……こんなのが追試なんですか?」


 殺意を抱いた相手であっても仮にも教師。敬語を崩さないボクを褒めてくれ!


「まあ、だまされたと思ってやってくれ。お前の持ち点は53点だからな」


 一々言わなくても分かってるってーの。

 ボクは再び渡されたプリントに目を落とす。



 ======================================


 10点(3)

 美形/不細工

 細め/太め

 言葉に苦労したくない/ちょっとしたい/めっちゃしたい


 5点(4)

 吸気/吸魔 

 自由/束縛

 突出/埋没

 唯一/遍在


 1点(3)

 <金メダル> <銀メダル> <銅メダル>

 <日本刀> <鋼のやり> <石斧せきふ> <木の弓> <鉄の盾> <革のむち>

 <パン・水> <フルーツ> <お菓子>


 ======================================


 正直な話、選択式と言われてもやはり意味不明だ、問い掛けがないし。もしかしたら連想問題なのかもしれない。

 なので、ボクは印象の良い言葉を選ぶことに決めた。


 まず10点のところからか。

 美形か不細工かと問われたら、当然美形だろう。おそらく顔の好みを聞いているとボクは考える。

 次いで細めか太めだが……。さっき顔の事だったからこれは眉毛のことだな。ボクはぶっといゲジ眉を想像し、細いを選ぶ。

 そして『言葉に苦労したくない/ちょっとしたい/めっちゃしたい』という文字が目に映る。ははぁん、わかったぞ! これはボクが望む交際相手の心理テストだ! 言葉が通じない相手なんてボクが対応できる訳ないじゃないか。当然、苦労したくない、だ!


 これで10点問題は終わりだな。というかどれが正解なのか分からないけど……。

 ボク心理テストとかは心をのぞかれるようで好きじゃない。たまに空気が読めずに心理テストを仕掛けてくるヤツがいるが、頭が沸いているとしか思えない。知り合いの心を覗き見るなんて、ゲス過ぎるだろ。

 でもまあ、この程度の心理テストなら恥ずかしくないから好みをさらけ出せるかな?


 続いて5点問題を見る。

 ……。


「あの、先生。ろくな言葉がないんですが?」


「それは仕方ないだろ。先ほどのテスト結果を基に作った物だからな。お前の言う碌な言葉がないのは、お前の前世が悪い」


 にべもなく告げられた。何が前世だよ。

 仕方ないのでやはりフィーリングで選んでいく。


 吸気と吸魔は明石楓の映像から『吸気』という言葉に拒否反応が起こる。消去法から吸魔を選ぶ。

 自由と束縛は当然自由だ! 何が悲しくて束縛されなきゃいけないの。

 突出と埋没は悩ましい。突出は無謀なイメージがあるし埋没は姑息こそくあるいは無能を連想させる。悩んだ末にボクは突出を選んだ。

 唯一と遍在だが……やはりオンリーワンは譲れない。


 そして最後の1点問題だが、先程の10点5点問題とは形式が違っており、ことさら意味が分からない。


「先生、最後の1点問題は――」


「それは好きな言葉を残りの点数で選べ。お前の場合は三つだぞ」


 最後までしゃべることもなく教師はボクの質問に答える。人の話は最後まで聞くようにって教わらなかったのかね、先生。


 再び視線をプリントへと戻す。

 これまでの選択肢とは違い、抽象的な物ではなく物の名称が記載されている。

 段が分けてあるって事は一つずつ選べばいいのかな?

 それを教師にいたけど「好きな物を好きなように選べ」と無愛想に答えられた。

 もうちょい愛想良くしないと人気れないぞ。教師だって今は人気商売だろうに……。

 ボクは気持ちを切り替えて問題に臨む。


 やはり同じ言葉は避けるべきかな。

 最初は面倒なので先頭から3つ選んでやろうと思った。金銀銅とそろい踏みで悪くないし。

 けど、ボクは考えを改めた。そう、ある文字が目に入ったのだ。


 ――革の鞭


 これ、すごく……欲しいです。

 これを手にして目の前に居る教師をビシバシと打ち据えてやりたかった。なのでボクは革の鞭を選ぶ。

 金メダルは当初の予定通り選ぶとして、こうなると銀メダルという選択肢はない。一番下の段も選ばないと綺麗きれいでないしね。

 そう思ったボクは悩んだ末、フルーツを選ぶことにする。これは何となくだ。深い意味ない。何故なぜかと問われても答えられない。


 ボクは全てを選び、教師へとプリントを返却する。


「これでいいんだな? 観月」


 意味深に教師は問い掛けてくる。

 これでいいも何も意味わかんないし。ボクは手を払うようにして言葉に出さなかった。

 ボクのその態度に何かしらの感情を覚えたのか、教師は眉をひそめた後に俯き「承認する」と呟いた。


「よし、お前の進路は決まったぞ」


 いきなり変な事を口走ってきた。


「はっ?」


 教師に対する口答えではないが許して欲しい。ボクの処理能力を超えた言葉だったのだから。

 当然の権利だよね。勝手に進路を決められるなんて。

 だけど教師はボクの反応に気にすることなく、言葉を続けていく。


「本当はもっと後になるはずだったんだがな。でも、お前の身体が人生体験プロセスに入っちゃったからな。まあ、諦めてくれよ」


 人生体験プロセス? 何を言っているのですか、あなたは?

 というか諦めろって何よ、ソレ。教師が言って良い言葉じゃないでしょう!

 当然ボクは反論しようとした。でも出来なかった。

 なぜなら――。


《キャラクターメイキングを終了しました。これより転生プログラムを開始します》


 という言葉がボクの耳に届く。


「は?」


 いきなりのことにボクは口をだらしなく開け、声に出してしまう。


《社会適正テストの結果、アナタは転職に忌避感を持っていないと分かりましたので、転職神<ワーカー>の治める世界に再構成します》


 ああ、そんなものもあったね。適正テストって何も書かれてなかったし、すっかり存在を忘れていたよ。

 そしてボクの意識は少しずつ薄れていく。けれども脳裏に響く声は途絶えることはなかった。



《自由・唯一を確認しました。

 身分、および種族階級を決定します。

 美形・吸魔を確認しました。

 種族階級の中から該当する種族を選出します。

 性別エラー発生………………種族にあわせた性別に変更します。

 言葉に苦労したくないを確認しました。

 祝福ギフトを決定します》



 ――と、頭に響いたのを最後に、ボクの意識は完全に沈んでしまった。






観月「うわぁぁぁぁぁぁああああっ!」

教師「いってらっしゃーい。しばらく戻ってくんなよ~(ニヤニヤ」

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