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剣士6話 <マルサ>五層に向けて





「ふぅ、これで何匹目だ?」


 フレッシュゴーレムの肉体から白魔石を抜き出したボクは、汗を拭い終わるなりつぶやいた。それを聞いていたミーズリさんが答える。

 その口調は打ち解けたこともあり、随分とフレンドリーなものへと変わっていた。


「今ので23匹目かな?」


「うーん、1日目にしては稼げた方なのかな? 三層までの素材と魔石……といってもクズが多いか」


 アインさんは悪くない結果に表情を緩めている。妊娠した妻のためにも色々と入り用なので助かるといったところか。

 ボクはこれまでの戦績――稼ぎを反芻はんすうする。


 豚野郎オークが辛うじて白魔石を残す程度だった。二層までは大した金にならない、とアインさんがぼやいていたのでぎ取り作業はせずに放置して先を急いだ。連携の確認のために索敵してまで倒したオークは、反省会と休憩がてらに話ながら採取したが、三層までは自重しなかった。そもそもメインは四層の予定だったし。

 先を急いでいたボクたち……いや、ボクはサーチ・アンド・デストロイならぬ見敵必滅ばりに、マジックアローで瞬殺して進んでいた。むろん、道なりに邪魔となる魔物だけだが。なので、ボクたちの通った後には手付かずの死体が転がっていることだろう。

 アインさんが言うには、その死体は駆け出しが採取してるとのことだが。まあ、【解体】する権利を放棄しているので、乞食こじきプレイに文句はあろうはずもない。


 しかし、その豚野郎オークにしたって全部が全部白という訳じゃなく、灰魔石持ちも中にはいた。というよりクズ持ちの方が明らかに多かった。

 豚野郎オークの強さや大きさで変わるのかと思いきや、そんなことはなかった! まったくのランダムだった。理不尽にもほどがある!


「さて、そろそろ戻るか」


 アインさんのその声に、随分と考え事をしていたと気付く。

 休憩はもう十分とった。帰るだけの体力は回復したと判断したようだ。

 ボクたち『欲望を貪るものデザイア』は今日の稼ぎに満足してきびすを返すのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ダンジョンに潜るのは二日おき。

 ダンジョンアタックを初日とすると、次の日は休憩、三日目はリフレッシュと事前に決めていた。これをサイクルにして、とりあえず三ヶ月こなす契約でボクたちはまとまっていた。

 その後、再更新するかは各々に任せる形だ。

 アインさんの奥さんが大変な時期になるだろうし、少なくとも彼だけは抜けると僕は見ている。使用人を雇うという手もあるが、ダンジョン<マルサ>の稼ぎでは少々心許こころもとない。それなら自分で世話をした方が安上がりとなる。

 金目的のミーズリさんも同様だ。つい先日のダンジョンアタックで「目標金額がまったわ」とほくほく顔だった。

 で、残るはマーレンさんだけ。戦闘しか能のない3人ではとてもダンジョンに潜れるわけもなく、解散するかはさておき、残ったメンバーで現状を維持する事は不可能だ。

 続けるにしてもせめて地図が欲しいところ。


 そう実感したボクは、アインさんに作成した地図を売ってもらうべく交渉に臨む。けど、【地図作成】で作り出した地図は本人にしか読み解くことは出来なかった。ぶっちゃけラクガキよりもひどく、何が何だかちっとも分からないものだった。

 おそらく暗号みたいなものなのだろう。ボクはそうにらんでいる。まったく<ワーカー>さんは変なところにこだわりを持ってるなぁ。楽をさせたくないって感じか? そんな拘りはして欲しくなかった!


 これは蛇足になるが――。

 どうしても地図が欲しかったボクは、後日の探索の最中に地図を自作しようとした。が、これが不興を買ってしまう。移動速度が鈍くなる。そういうのは休日に個人でやってくれ。やるだけ無駄。と、レティを除きみんなは実に辛辣な言葉で突き刺してきた。まったく、ケチ臭い奴等(やつら)だよ……。



 さて、そんな利害関係以外には芽生えなかったボクたちだが、これまでに五度ほど<マルサ>にアタックしていた。

 一度のダンジョンアタックにつき『欲望を貪るものデザイア』は金貨3、4枚の稼ぎを出している。四層メインでこの稼ぎはすごいことらしい。駆け出しのマーレンさんはおろか、ベテランのアインさんまで目を$マーク(欲に駆られた物)にしていた。ミーズリさんに至っては日々増える銀貨を数えて楽しんでさえいる。


 まあ、ボクに掛かればこの程度の稼ぎ、魔法があれば大したことないっていうか余裕ヨユー。

 そう褒めたたえる冒険者組合の"買取(かいとり)窓口"係員に、内心はともかくとして「それほどでもない」と謙虚に答えていた。

 むろん、ボク一人の活躍って訳じゃない。実際にアインさんは凄かった。【罠感知】や【地図作成】だけでなく、ちゃんとした戦力として申し分なかった。頼りになる兄貴って感じだ。クソ、イケメン爆発しろ!

 その一方、戦闘を期待していなかったミーズリさんも【警戒】を使って敵の接近はもちろん、時にはアインさん見落とすようなわなも発見してくれた。


 どうやら【罠感知】で反応するのは物理的な、それも"物"限定によるらしい。魔法的な罠――魔物召喚陣や魔物による誘導はアインさんにも感知することが出来なかった。

 そこで反応したのが【警戒】。その効果は自身が危険、怪しいと思うところを探るもので、なんとなく危険だから止めようという感覚的な職業ジョブスキルであった。

 それによりミーズリさんが大声を出して、そういった罠を何度か回避することに成功していた。いや、まあ全部は回避出来なかったけど……。


 その他にも彼女が作る即席料理だってすごく美味おいしい。

 ボクより【調理】が高いのは間違いないね。ぶっちゃけ期待以上だ。アインさん以上に掘り出しものだったと今は思っている。


 二人の活躍もさることながら、レティの活躍も凄かった。さすがヒーラー。ボクたちが大きな傷一つ無く過ごせているのは彼女のおかげといっても過言じゃない。

 何よりも判断力が凄いの一言だ。味方が危なくなったときはすかさず前に出る。普通ならば【癒しの光】を優先したい。そういう気持ちに駆られるであろうタイミングですら彼女は違った。

 その見極めが天性のものと言われてもボクは信じてしまうね。才能――職業ジョブスキルじゃ鍛えられない感性だし。


 マーレンさんは……。うん、よく頑張ってるよ。実に真面目にやってくれている。誰かがコバンザメだと批難したら、「ちゃんとしたパーティメンバーだ!」とボクが太鼓判を押して上げよう。

 アレンさんの指示にはいち早く動くし、自身が休憩時間の際でも少しでも役に立とうと色々気を配ってくれる。正論を言うならば休憩時間は休め……って事ではあるのだが、気配りがこまめな女の子って素敵だよね? ボクは好物です。パーティを解散する前に是非ともベッドに連れ込みたいです!


 そんな彼女だが、稼ぎを使って冒険者7つ道具を買っていた。その使い方をアインさんに習っている姿を時折見かける。その入れ込み具合には異常を感じてしまう。

 思うに、それが<冒険者>の習得条件ではないだろうか?

 きっと早く習得してもっと力になりたいと思っているに違いない。彼女は頑張り屋さんなのだから。



 まあ、出足は好調といったところだろうか。

 しかし、これで満足するボクたちではない。というか、いまだメインの五層で狩りをしていないのだからまだ始まってすらいない、と言っていいだろう。それも昨日までの話だ。今日からは<マルサ>の五層を目指すつもりなのだから。

 五層ともなれば行くだけで大層な時間が掛かってしまう。なので、本日からはダンジョンにお泊まりすることになる。

 むろん、野宿をするとあらば野営の準備が必要。食料をより多く積む必要がある。【ポケット】だけでは少々不安もいいところ。

 そこでリュックサックを背負ってダンジョンを潜ることにした。

 他にも何が必要なのかをリストアップし、全てを用意し終えたところでボクたちは再びダンジョンへと臨む。


 こうして『欲望を貪るものデザイア』の6回目のダンジョンアタックが始まる。






転生三二三日目

アイン「ようやく五層か」

マーレン「すみません、私の所為で」

ミーズリ「そんなことないよ」

ミヅキ「そうだね。というか3回目のダンジョンアタックで行こうと思えば行けたような」

アイン「うん、確かに。行こうと思えば行けたね。けど、数日ダンジョンに潜るのは精神的に来る・・からね。私以外は経験者もいないこともあって、少し用心した感じだな」

ミヅキ「(チッ、イケメンめ!)さすがアインさん。そういうのを"臆病"と見られる風潮があるのに、さすがとしか言いようがないよ」

アイン「(何か、毒を感じたような? ……いや、気のせいか?)ははは、私は死ねないからね。臆病なくらいがちょうどいい」


※付録※

<冒険者>

条件:戦士・運び屋・解体屋

技能スキル:【道具使用習熟】【小隊編成】

限定:『ポケット拡大』

習得:七つ道具を効率よく使えるようになる。

備考:俺らは夢を求める生き物だ。男なら冒険しろ!


※七つ道具

縄・火付け石・包帯・テント・水筒・たいまつ・非常食


『ポケット拡大』

効果:【ポケット】の積載料が一時的に増える。

備考:これで少しは余裕が出来るかな?


【道具使用習熟】

効果:道具の使い方が少しずつ上手になっていく。

備考:無駄なく使ってるか? ただ使えばいいって訳じゃないんだぞ。


【小隊編成】

効果:(パーティー効果)5人までならなんとなく連携タイミングが分かる。

備考:ただ闇雲に攻撃すればいいって訳じゃないんだぜ、坊主。


レティ「マーレンさんが練習してたのはやはりそういう理由だったのですわね」

マーレン「はい。もうじき条件を満たすと思います。火付け石で火をおこすのはもう大丈夫ですし、後は非常食と水筒の中身の消費を抑えることだけですね。今回のダンジョンアタックで転職したいと思ってます!」

アイン「ああ。マーレンは頑張ってたからな。絶対に今回で終わらせるぞ! 教えた通りにやれば大丈夫だ」

ミヅキ「(チ、既婚者の癖にラブコメオーラ出しやがって! 流れをぶち切ってやるっ!)準備はいいみたいだな? いくぞみんな!」

レティ「はい。準備は万端ですわ、ミヅキさま」

マーレン「あ、はい!」



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