表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/53

剣士5話 ダンジョンアタック!





 一層に現れたのはゴブリン。ボクより背の低い130cmくらいの子鬼という話だったのだが、ブルドッグの額に小さな角が生えたような魔物だった。それが1~3匹で隊を作り哨戒しょうかいするように動き回っていた。

 雑魚なので特筆すべき事はない。<遊び人>に成り立ての子供でも倒せるだろう。


 二層はキャタピラー。率直な感想は……うん、虫だな。デカイ芋虫だ。全長が2m近くで、すごくぶっといやつだ。

 その身体でピョンピョンと跳躍することには驚いた。うえっ、何だソレ……って。それを利用して押しつぶすのがメインの攻撃手段だった。この他にも一応攻撃手段を持ってはいるが……正直残念な攻撃と言わざるを得ない。

 最初見たときは、その巨体を硬直させ、あからさまにめのポーズを取っていたので警戒した。まさか……転がって来るのでは、と。

 しかし、だがしかし……。放ってきたのは一条の白。たった一本の糸だった。しかも直線にしか進まない。

 もうね、それ程早い訳でもないしどうぞ回避してください……って言っているようなもん。

 確かに粘着力はある。うん、あるにはあるんだ……。が、簡単に切断できる。更に言うなら時間と共に硬化、そして風化。その間1分。あっという間に解放されてしまう。

 つまり跳ね回っていた方が脅威で、糸吐きはぶっちゃけすきだらけになるので逆にチャンスって感じだ。

 こいつらは1~2匹で行動していた。銃の斉射みたいに数が居れば脅威なのかもしれないけど……。

 まあ、敵が弱いことには越した事がない。敵が残念というのは良い事なのだ。


 で、現在ボクたちのいる三層が豚野郎オークどもだ。3~5匹の集団で現れる。

 ここまでの階層では武器を使うような魔物はいない。ダンジョンの外では武器を使う事で知られる、ゴブリンやオークですらもここでは無手。

 大海をしらぬなんとやらとでも言うべきか。ダンジョンが生み出す魔物は知恵が発達する前に戦場にかり出されるため、武器を使うという能がないのだろう。

 刈り尽くされるために生まれたダンジョン生物の宿命。あわれなり。

 いや、ここは厳しい世界を生き抜いている外の魔物を褒めて、脅威と見なすべきだな。やはり養殖より、天然物の方が凄いというのは何処どこの世界でも変わりないのだろう。


「そろそろ四層にたどり着くぞ」


 周囲を警戒するミーズリさんの脇で、アインさんが地図を確認しながらそう言った。以前別のパーティで<マルサ>を潜ったとき、【地図作成】で以て作ったそうな。


「ここからが本番ですわね」


 二人に続く場所に位置するレティ。声を出して、ぬるい戦いはこれまでだと仲間に喚起する。いや、マーレンに対し、完全にフォローして上げられるのはここまで。自分たちも本気で戦い始めるよ、という確認だろう。

 皆、同意のようで、表情を引き締め一度うなずいた。危険度が増すマーレンは特に顕著だった。


「見えたぞ。あれが四層に至る転移装置だ」


 アインさんが指さした箇所には空中に浮かぶ明滅する球体があった。

 これと同様の物に触り、ボクたちは三層まで進んで来た。【小隊編成】で結成しているパーティの場合は一人触れば全員で移動できる。

 ダンジョンの奥地、それも難易度が高い場所ではこれに擬態する魔物が存在するらしい。が、ここ、<マルサ>にはその魔物は出没しない。何せ下から数えた方が早い難易度だし……。


「出た先に魔物がいないとは限らない。気を引き締めるんだ。さて、行くぞ!」


 宣言するや否や、アインさんはマーレンさん転送球を触わるように、と顎で指示を送った。ボクたちはそれを中心にして円陣を作り、油断無く武器を構える。

 本来ならばこれはヒーラーの仕事だ。けどレティは防御の要でもあるので、戦力外とまではいわないが一番弱い彼女に仕事が割り振られていた。

 そのマーレンさんが転送球に触れると、【ワープ】を使ったときのように周囲の空間はゆがみ出す。その数瞬後、景色は一変。見たことのない場所へとボクらは転移していた。

 とはいっても、同じ洞窟内なのであまり代わり映えはしないが。


「周囲には魔物の気配はありません」


 ミーズリさんは仕事を果たす。

 見渡す限りには敵はいないが、念には念を入れて【警戒】で近辺の気配を探っていたようだ。


「よし、先に進もう。この辺りにはわなの気配もないし、じゃんじゃん稼ごう!」


 【罠探知】で安全を確かめたアインさんは、まるでリーダーの様に振る舞った。

 …………。

 ……うん、なんて言うかね。本来はボクがリーダーなんだけどね。ダンジョン探索は素人な訳ですよ。決して立場を取られたなんて思って居ませんよ? ええ、ええ! 適材適所ってやつです。

 慣れたアインさんが指導し、ボクらはその指示に従って動く。そこに不満があるなんてとんでもない話ですから。

 先頭をくアインさんに、後ろからマジックアローをぶち込みたいなんて思って居ませんよ? ちょっとしか。


 ゴホンッ。それはともかくとして。

 アインさんの指示はこうだ。

 罠を探れるアインさんが先頭。少し遅れる位置に【警戒】を使えるミーズリさん。戦闘力が皆無のミーズリさんを守れるように、すぐ後ろにレティ。そしてマーレンさんと続く。

 ボクは最後。つまり殿しんがりを任されている。後方奇襲があったとしても一人で戦える<魔法戦士>であることと、後ろから強力な魔法を放つことを期待されていた。

 ぶっちゃけ<剣士の剣>を消耗させるという思惑から外れてしまった訳なんだが。まあ、命あっての物だねだから反論することはしなかった。少し納得がいかなかったが……。

 だから時折突出して剣を振るっていた。魔力を温存するという名目の下に。ふふり。どうよ? この知謀。今日もボクの才能はえ渡る。


 道なりに沿ってボクら一行は四層を進む。

 道は蛇行しているが、いまだ分かれ道には遭遇していない。

 行き止まりに当たって宝箱を発見する事を妄想して歩くことしばし。不意に「敵の気配です!」と叫ぶミーズリさんの声が一帯に響く。

 ボクたちは各々【ポケット】より獲物を取り出して、周囲を警戒する。――と、その時、前方よりのそりのそりと大きな影がやって来た。


 ――フレッシュゴーレム。

 肉で形成されたゴーレム。スピード、防御力は皆無だが、巨体から繰り出す一撃は凄まじいの一言。ただ一撃をもらうだけでボク程度では瀕死ひんしとは言わないが、昏倒こんとうは免れないだろう。打ち所が悪ければ当然死も覚悟しなければならない。

 しかも、ゴーレムはこれまで相対してきた魔物とは一つ違う点がある。これが豚野郎オークが前座と言われる所以ゆえん

 こいつらケガを負っても動きが鈍らないのだ。もちろん四肢欠損すればその限りではないが、けんを切ったところで意味をさない。痛みがないのだ。

 というかそもそも生物じゃないのだから当たり前といえば当たり前。強いて言うなら、魔石を燃料とする魔導具まどうぐのような物か。壊れるまで動き続ける道具の鏡だ。


 だからといって強敵という訳ではない。ただ倒すだけならば簡単だ。急所とも言える魔石を破壊すればいいのだから。

 けど、ボクたちはそれは選ばない。

 ゴーレム退治の収入源は魔石。特にフレッシュゴーレムはそれ以外売り物にならないからだ。なので、えぐり出す! コイツらメインで狩りをするならば魔石を破壊するなど愚の骨頂でしかない。

 ちなみに魔石は2つ存在している。それが魔導具ではないかと言われる一因ではあるのだが、今はそれは置いておこう。


 ボクたちは白魔石2つを求め、フレッシュゴーレムに向けて走り出す!

 その中、ミーズリさんが独り途中で立ち止まる。それに続いてボクも足を止め、マジックアローの詠唱を始める。


「『ねえねえマナさん、身体の中で眠ってる所ちょっと悪いんだけど、お願いを聞いて欲しいな。敵がちょっとウザイから矢でも撃って欲しいかな』」


 込める魔力は最低限。牽制けんせいという意味以外持たない魔法の矢を作り出す。むろん魔法を手早く構成するために通常より多く魔力をそそいではいるが。

 左手の指に付けられた媒介――指輪に集まった魔力が形を成していく。それが1つ、2つ、3つとボクの頭上に現れた。


「――マジックアロー!」


 力ある言葉と同時にそれらはゴーレムの腕と頭を目掛けて飛んでいく。その速度は駆ける仲間を圧倒する!

 魔法の矢は、彼らが攻撃を仕掛ける間際にそれぞれ狙いの場所にぶち当たる。そして、体勢を崩したフレッシュゴーレムに仲間たちが思い思い攻撃を仕掛けていく。

 アインさんが剣で左足を切り離す。それに続きミーズリさんが右手を切断する。最後にレティが飛び上がって、顔面を盾で殴りつけ打ち倒してしまう!


「みんな、今だ!」


 フレッシュゴーレムが地に倒れるのを見るなり、アインさんは大声を上げてソイツに飛びつく!

 少し遅れてマーレンさんもゴーレムの身体に乗り移っていた。レティはそれに追従することなく、様子をうかがっている。

 ボクはボクで走り出していた。絶好のチャンスなんだ。滅多打ちに出来る機会を逃すつもりはない!


 それから四肢を完全に切断されたフレッシュゴーレムは、少しずつ刻まれてあとは核を含む部位ばかりとなっていた。

 それを見てアインさんが再び指示を出す。


「よし、ここからは【解体】の仕事だ! みんな<解体ナイフ>に持ち替えろ」


 周囲を警戒するミーズリさんと彼女を護衛する立場のレティ、奇襲に対応するアインさんを除き、その言葉に従ってボクらはナイフを刺していく。そして――白く輝く小さな石を2つ取り出すことに成功する。


 ミヅキ は 白魔石 を 手に入れた。

 ミヅキ は 白魔石 を 手に入れた。


 と、変な文章を頭の中で起こしてしまったのは内緒だ。どうやらリンチするという展開に酔ってしまったのだろう。

 ボクたちはそれらを【ポケット】に収め、次なる獲物を求め四層をさまようのだった。






転生三〇五日目

ミヅキ「これ1つで5000マルク。銀貨5枚と等価か……」

ミーズリ「一匹銀貨10枚……ゴクリッ」

マーレン「え~と。銀貨10枚といいますと共通2次職費用と同じですよね」

レティ「5人でしたら……5匹倒せば費用を稼げるわけですね」

アイン「いや、そもそも共通2次職の転職費用に困る人材は、フレッシュゴーレムなんかとは戦えないよ。だからもっと苦労する」

ミヅキ「まあ、そうかな。一人でも倒せないことはないけど、魔石を傷つけない、って条件は結構シビアだし」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ