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剣士4話 指針





 レティと目で意見を交わし合う。


「とりあえずアインさん、よろしくお願いします。他の方は少しお待ちください」


 ボクは彼の前に近づき握手を求めた。


「ああ、よろしく頼むよ」


 当然の結果だ。といった様子で手を握り返してくる。うん、まあ当然なんだけど。


「それでですね、アインさん少し相談に乗ってもらいたいのですよ」


「ああ、しばらくは同じ仲間だ。答えられることなら何でも聞いてくれ」


 快くうなずいてくれたアインさんにボクは小声で話しかける。


「ボクたち3人で、王都近隣のダンジョン<マルサ>に行くとして。どのくらいが限度だと思います?」


「3人で、か……。ふむ、そうだね。君たちの職業ジョブ経歴を見ると三層までは安全かな? 四層がメインとなるはずだ。が、五層はやめておいた方がいい。無理をすれば行けないこともないが……その場合は抜けさせてもらう。無理をして稼ぎが変わるという訳でもないし、そういうのは馬鹿のやることだしな」


 ダンジョン<マルサ>は洞窟型で全八層の積層ダンジョン。洞窟の中なのに中は光が差し込んでいる摩訶不思議まかふしぎな造りをしている、そうだ。まあ、全てのダンジョンは神が創ったとされるから、そんな不思議現象があってもおかしくはないのだが。

 ダンジョンは一層ごとに徘徊はいかいする魔物が違う。奥に行けば行く程、同時に出てくる数も変わる。おそらくアインさんは五層の敵数にボクらでは対処できないと踏んでいるのだろう。ちなみに増えるという意味ではない。


「やはり……人数が足りませんか?」


「そのとおり。私としては出来るならば五層、あるいは六層を目指したいところだが、君たちの実力では五層はともかくとして六層はまだ早いね」


 なるほどね……。3人でいくよりは数を増やして五層に行くべきだとアインさんは思っているみたいだ。


「じゃあ、もう少し人数を増やしてもいいですよね?」


「そうしてくれると有り難い」


 事実その通りであったらしい。けどアインさんがチラチラと視線をやって希望している人物はボクが危険と判断した怪しい男だった。

 それに気付いた男――ティーチはニヤリとする。視線がすごく気持ち悪い。うん、やっぱないな。


「それでしたら、ミーズリさんとマーレンさんはどうでしょう?」


 ボクはティーチに聞こえる様に告げてやった。

 アインさんはそれに難色を示すように顔をゆがめる。

 ティーチも呆然ぼうぜんとしてボクが何をいったのか理解出来ていないみたいだ。自分が選ばれるとでも思っていたんだろうな。どうしてそう思ったのか不思議でならないよ。


「もともと女性の方を希望していたので。ボクもレティも男の人は苦手なんです。あ、アインさんはご結婚されてるみたいなので大丈夫です」


 ボクがそう言うとアインさんは渋々うなずいて何とか納得してくれた様子。なので続きを話すことにした。


「ですので、まず候補に挙がったのはミーズリさん。索敵能力を持っているとのことなので。けど、彼女は戦闘能力を持っていないみたいですから、もう一人必要です。特に前線を支える人が。で、残った選択肢がマーレンさん。実力を考えたらレブンさんの方が良かったのですが、生憎あいにくとボクたちの都合でご遠慮させてください」


 ティーチの事はスルーしてやった。ざまーみろ! けっけっけ。


「ふむ、私としてはティーチ氏がお勧めなのだが。……確かにそうだな。探索パーティとしてではなく、女性としてを重きにおいたならば、彼は……」


 チラチラとティーチに視線をやって、何やら自己完結をしているアインさん。きっとエロい視線に気付いたのだろう。

 稼ぎ以前に安全第一ということを理解してくれて助かったよ。


「それでは他の方々には申し訳ないのですが、これにて失礼します」


 ボクは一礼をして部屋を退出する。それに続くようにして複数の足音が耳に届いた。

 部屋を出たところで全員がついてきたのを確認すると、担当してくれた係員のいる、窓口へと向かう。そこで諸費用を納め、ボクたちは冒険者組合を後にした。

 そしてとある宿屋に向かい、その一室を借り受けた。

 ティーチが跡をつけてくる様子はなかったので、少し安心した。ひょっとするとボクたちの身体を諦めきれずに着いてくるかも、なんて思ってたからね。よかったよかった。


「この部屋はミーズリさんとマーレンさんが使っていいからね。ボクとレティはとある場所に居を構えているし、アインさんは近くに自宅を持ってるみたいだから」


 その言葉にミーズリさんとマーレンさんが感謝の意を述べてきた。

 それも当然のこと。何せ一月単位での支払いを済ませているのだから。金額にして金貨一枚弱。一泊3300マルクの宿だ。それなりの宿が2500マルクで泊まれることから、中々に豪勢な宿だといえた。

 そんな高い宿を選んだ理由は簡単。信用がおけるの一言に尽きた。

 ここは王宮に勤めていた<シェフ>と<メイド>が結婚して、独立を期に建てた宿。それをミサさんに教えてもらっていた。ここならば話し合いをしても聞き耳を立てられることもなければ、万が一の場合は王宮に連絡が行くと考えての選択だった。


「まあ、それはともかくとして。ボクたちはとりあえず四層で試してから五層に行く。もしダメだと思った場合は早急に引き返すつもり。作戦は命を大事に、ね。これが一番重要だよ。いくら稼げても命あっての物種だからね」


 ボクは厳かに告げる。仮面着用で締まらない感じもするがそこはまあ、気にしないことにしよう。精神の安らぎのために。

 全員が頷く。意志は統一出来たようだ。うんうん。やっぱり命が一番だからね。特にアインさんなんて子供が出来るのだから、絶対に死ぬ訳にはいかないだろうし。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「やぁぁぁぁあああっ!」


 マーレンさんの気合いが周囲に響く。彼女は豚野郎オークへと殺意の込めた一撃を繰り出していた。

 彼女が使うはやり

 <槍士>縛りのない彼女は、鋼製の<槍士の槍>より少し良い獲物を扱っていた。

 鋭い刃を持つその槍は、当然豚野郎オークなどの豚肌スキンで防げるわけもなく突き刺さる。その痛みに悲鳴を上げる豚野郎オークにトドメをささんと、ボクは剣を振るう。首元へと一撃だ!

 吹き上がるくれない。ボクの一撃はみごと豚野郎オークの首をはね飛ばした!


「ぺっぺ。あー、少し口に入っちゃった」


 倒れ伏す5つの死体。もはや動く敵の影は何処にもない。

 ボクは悪態をつきながら剣に付着した血糊ちのりを拭う。皆同様に武器の手入れを行っているようだ。

 現在<マルサ>三層。四層に向けて進行している最中だ。


「大分形になってきましたね」


 レティは誰もケガを負っていないのを確認し、ホッとひと息をついてからそう感想を述べた。それに賛同するようにアインさんも頷く。


「ああ、最低限の連携はできるようになったと見ていいな。これなら四層でもまったく問題無いだろう」


「ふぅ、凄いプレッシャーでした」


 一人だけ習得職業ジョブの少ないマーレンさんは気が気じゃなかったのだろう。女二人のパーティと聞いて、もっとぬるい戦いを想定しての応募だったに違いない。それがこの有様。まさに青天の霹靂へきれき。是非とも頑張って欲しい。


「この辺りは大丈夫みたいです。もう【解体】作業に移っても問題ありません」


「そっか。じゃあ始めよう」


 周囲の警戒を続けていたミズーリさんのその一言で、ボクたちは完全に緊張を解く。

 彼女は戦闘に参加することなく、不意打ちに対し常に警戒してくれている。おそらく彼女が一番精神を疲弊しているだろう。自身の不明でパーティが全滅しかねないのだから、当然とも言えるが。ホントに頭が下がるおもいです!

 安全を告げられたボクたちは、ミズーリさんを除いたみんなで手分けして、豚野郎オークを【解体】に取り掛かり素材とゴミに分けていった。

 その中で価値の高い物だけを選び取り、【ポケット】に収納していく。まだ先は長いのだから、いらない物を持って行く余裕などない。ああ、本当に『アイテムボックス』が恋しいよ、カリスさん。






転生三〇五日目

ミヅキ「さあ始まりました、ダンジョンアタック!」

レティ「ええ、ええ! 夢と希望がつまったダンジョンです!」

アイン「絶望と死もあることを忘れるなよ。逸って死ぬなど馬鹿げてるからな」

マーレン「はい! わかりましたアインさん♪」

ミーズリ「(これはあれね……)」

ミヅキ「(うんうん、間違いないね)」

レティ「(ホの字というやつですわね)」

ミーズリ「(妻子持ちに惚れるなんて、マーレンも損な性格だわね)」

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