剣士2話 冒険者組合
前話の<賢者>の前提を変更したので、それに伴った加筆を『剣士1話』にしました。
ボクに遅れること1ヶ月。
漸くにしてレティも古代語を習得した。
これは一般的に考えれば十分驚異的な速度であるらしい。
現在、この世界で使われてる、あらゆる言語の中でも古代語は相当に難しいそうだ。それを身につけるのに、通常だと1年は掛かるという。しかも(集中力はともかくとして)才能は皆等しく同じのはずで……。
もちろん必要日数は生活の片手間という範囲での話だ。
しかしそうは言っても、それを短期間で覚えたレティはよほど頑張ったのだろう。寝る暇も惜しんでいたし十分納得の出来る事なんだが、その活力はやはり『<聖女>になる!』という意気込みから来ているに違いない。
その一方で、ボクは<剣士の剣>を摩耗させる日々を過ごしていた。
適当な的を選び、そこに【下位魔法】のマジックバリアを掛け、ひたすら打ち付けるだけの単純作業だ。何度もそれを繰り返した。
当初は【中位魔法】を育てるべくマグネットバリアを張った。が、未だボクの腕力が低いため、バリアと接する前にはじき返されるという始末。これじゃ【剣習熟】および【武器習熟】による効果で剣の腕が育たないばかりではなく、<剣士の剣>もちっとも削れない。
それを踏まえた上でマジックバリアに変えたわけだが。
バリア相手じゃあまり摩耗しないんだよね、うん。正直もっと堅い物にアタックしたいところだった。ホント何とかして欲しい。
けどそれは、とある理由から不可能だった。
的は消耗品。金属、藁、木など様々な物があるが、使って壊すことを前提としている。
されど、壊せば買い換えが必要になるのは自明の理。藁や木ならさほどではないが、金属ならばとても金が掛かってしまう。そしてボクが求めるのは金属の的だった。
最初はボクにも一つ、的が用意されていた。カリスさんの客分ゆえのご厚意である。しかし、<剣士の剣>を使い潰すために相当無理な使い方をして、アッサリと的を破壊してしまっていた。それはもうボッコボコに。
ガンガン打ち付けた挙げ句生じた、飛び散る火花がボクを高揚させてしまったのだ。
興に乗ったボクはコンボを決め、さらには【魔力剣】まで使う始末。最後はフィニ――ッシュ! と持てる力の全てを注ぎ込んでしまったね。
うーん、ボクも若かった。長く利用できるように大事に使うべきだったな。
後悔先に立たずとはこのことか!
いや、前も何かで反省した記憶があるんだけど……まあ、いいか。ボクは未来を生きるため必死なんだから……!
これが理由でバリアを叩くしかボクには道が残されていなかった。ちなみにバリアを掛けているのは無残に壊れた元"金属の的"だったが。
そして現在――。
転職を果たし、<盾士の盾>を装備したレティを引き連れたボクは、<冒険者組合>という組織の<エコノミックワーカー>支部にいた。
ここの建物は木造でそれなりに大きい。内装は奥がずらりと窓口で埋め尽くされ、手前が休憩および待合スペースとし飲食が楽しめる様になっている。
そこでたむろしているのは当然<冒険者>だ。
いや、他にもいる。<冒険者>に限らずもっと上級な職業に就いている者が。魔物を狩ったり、ダンジョンや遺跡を捜索したりする者たちが……。
<冒険者組合>とは、あくまで冒険を支援するための組合というのであって、<冒険者>がメインという訳ではない。言うなれば職業でない冒険者が所属するって感じだ。
しかし、冒険者というと――以前ボクの貞操を奪おうとした荒くれ者というイメージがある。なので今は顔の上部を覆う仮面――<呪い師>のときに使ったアレだ――を装着中!
これは<美人局>で無くなったとはいえ、当然の配慮だ。もしかしたら……があるし。襲われたらボクとしても困るし、相手方も性欲を刺激されて暴走など笑えない。下手したら本来は無害なムッツリまでお縄に付く……なんてことも。
と、まぁどちらにとってもマイナス効果しか生み出さない事態を考えた上での着用だ。すっかり気に入ってしまった、なんて事実はない。……ホントだよ?
けどボクの色気はそれで隠せる物じゃないらしい。衆目を一身に集めてしまっているね。
あ、でもレティにも少し視線が飛んでいるかな?
王族のレティも顔が知れ渡っているので、当たり前のように変装をしている。
どちらにせよ、ボクらのおっぱいにご執心な<冒険者>はやはりエロエロな奴等とみるべきか。いや、断定しよう。コイツらはエロ助どもだ! まあ、ボクがいうなよって話もあるが、そこは耳が痛いので置いておこう。うんうん、そうしよう。
ホントは来たくなかった。でも、これからのことを考えれば他に選択肢がなく、嫌悪の感情を覚えながらも無理にここに訪れたという訳だ。
それと言うのも、「戦いの日々を送るのはダンジョンが一番ですわ!」というレティの一言による。
彼女が言うには、無闇に大陸の秘境を回るよりもダンジョンという不思議空間で冒険をした方が魔物との遭遇は容易い、とのこと。地下に潜れば潜る程、強力な魔物が現れるそうな。
しかし、ボクたちは魔法戦士とヒーラーしかいない。ダンジョンを生き抜くためには罠を解除出来る職業が欲しいところだった。
おわかりだろうか? ボクたちが無為にダンジョンに籠もればトラップのカモになってしまうのだ! それだけではなく、ボクたち自身を狙う悪漢も現れることだろう。
つまり、最低でも探知系の職業スキルを使える人とパーティを結成しないといけないって訳さ。むろん、【小隊編成】も必要なため<冒険者>の職業スキルを使える人も必須となる。
本当はカリスさんが付いて来てくれれば問題は無かった。けど、あいにくと公用で隣国へと出発してしまっていた。
主力かつ索敵要員がいなくなるという事態にボクは動揺を隠せなかった。レティも少し不安そうにしていた。
ボクはそれを見て決意する。男だろ! って。
レティに安堵させるようにボクは「パーティを結成しよう」と告げる。
そもそも何時までも姫プレイをし続けていては成長が見込めない。ボクは強くなると決めたんだ。――という想いもあった。
その2つの理由からボクたちはここ、<冒険者組合>の門を叩いたのだ。
ただ突っ立って考えていてもしょうがない。
「レティ、とりあえず登録手続きをしよう」
「……ええ。ええ、そうですわね!」
荒くれ共の視線を受ける機会の無かった、レティが硬直するのも無理はないかな。
ボクは彼女の手を握りしめて『組合登録』と書かれた窓口へと向かった。
「初めての方ですか?」
そこへ付くと、窓口に待機していた好青年が語りかけてくる。うーん、ここはお姉ちゃん勤務じゃないのか。
にしても初めてというのは? 『登録手続』専用窓口だというのに一体どういう事か。
その疑問を係員たる青年に訊くと、「支部ごとでの登録になりますので」と告げられた。ううむ、余計に分からなくなったぞ。――ということで更に深く質問した。
係員が言うには組合員の現在位置を把握するための処置だそうだ。あとは登録記載情報の修正とかもこの窓口で行うとか。
要するに、職業習得情報の更新ってやつだろう。他の組合員にアピールすることで良いパーティに勧誘されようとする魂胆だ。
全部を記載する必要は無いらしいが、施設を利用するには現職だけは絶対に変更しないといけないそうだ。<奴隷>や<殺人者>などというマイナスイメージは書かないということだろう。
この様なことは周知であるらしく、それを知らないボクらは当然ご新規様なのは確定だ。それをアッサリと見抜いた係員は二枚の用紙をテーブルの上に置いた。
とりあえず必要なもの――戦闘に関する職業を記入してそれを返すと、説明が始まった。
何か細かい規則を言っているようだが、ボクは耳をほじりながらそれを聞き流す。まあ、レティが聞いていてくれるだろうし。何か合った場合は対処してくれると期待しよう。
「……さま、ミヅキさま!」
おっと、いつの間にか微睡んでいたようだ。レティは柔らかな指でボクを揺すってくれていた。
様子を窺うと、どうやら説明は全て終わっていたようだ。係員の青年はボクを胡乱な目で見つめている。あまり直視すんなよ、目が潰れるぜ?
冗談はともかくとして。
もうここには用事はない。なのでボクは立ち上がりレティに続くように促した。
「次は『メンバー斡旋』窓口かな?」
「ええ、そうですわね」
そう言うなりボクは告げた場所へと向かうべく足を動かした。
ボクの性格など知り尽くしている彼女は、特に何を言うわけでもなく自然とボクの横に並び歩き始める。
そこで『斥候および【小隊編成】を使える者を探している。出来れば女性希望』と用紙に記入し、ボクらは帰路へついた。後はメンバーが見つかるのを待つばかり。
その晩、<賢者>から解放されたレティと久しぶりの激しい情交を堪能した。その寝物語で本日の説明を要約して貰い、聞いたところ、特に重要と思われることは何もなかった。
基本的に自己責任で、個人情報保護についてや、他者および組合に不利益な行動を取った場合は横入れもあり得る、とかそんなことばかりだった。
やはり聞かなくて正解だったなと考えながら、ボクは闇という微睡みに意識を委ねた。
転生二九八日目
ミヅキ「ヘルプキャラはいなくなる定めか……」
レティ「ヘルプキャラって、なんですの?」
ミヅキ「ん? ああ、お守りをしてくれる人のことだよ。つまりカリスさんのことさ(ライラさんもだけど……。そういえば今どこにいるんだろう?)」
~とあるダンジョン~
ライラ「くしゅん!」
仲間1「ライラ、どうした? 風邪か?」
仲間2「おいおい、こまるぜぇ。まだダンジョンに入ったばかりだろ。せめて数日分の宿くらいは稼がないとゆっくりできねぇぞ」
ライラ「そういう感じじゃないかな? 噂でもされたのかも」
仲間3「そうか? ならいいんだが……」
リーダー「話はそこまでだ。敵だ! 来るぞッ!」




