表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/53

剣士1話 剣士の剣

あとがきでいつものアレの他にもちょっとした告知あり。





 <料理人>を習得したボクは、次は旅に欠かせない<冒険者>や<御者>、あるいは<剣士>や<軽戦士>などに注目していた。

 しかし、転職する前に一度後宮に戻ったことでその計画は頓挫する。というのも――、


「ミヅキさま。どうせでしたら、わたくしが<盾士>になるまで待っててくださいませんか?」


 と、顔を紅潮させながら可愛かわいらしくおねだりするレティにほだされてしまったのが原因だ。むろんその後押し倒したけど……。ゴホンッ、今は関係ないのでそれは置いておく。


 で、レティの魅力に負けたボクは、現在彼女が作業している物を利用すべく、同じ職業ジョブに就くことにした。そう、<博士>だ。

 転職してみた結果、その習得条件は『【鑑定】の依頼を100回行う』と言う物だった。


 レティは城の<メイド>ならぬ侍女さんから、タオルの現状の――ボロい、新品、使用済みなど――金銭的価値を確認する作業を依頼されていた。王室の方に安物となったタオルを使わせる訳にはいかない……という建前を元に、しかも1回に付き1枚、1人につき1回。

 要するに人界戦術だ。ぶっちゃけせこい手段! 依頼というのも烏滸おこがましいにもほどがある。――が、これを利用しない手は無いだろう。

 『念のため再確認をお願いします』という感じで、レティの恩恵にあやかることにした。むろんベッド上で侍女たちのストレス発散にも付き合ってあげました、まる。


 当然と言えば当然だけど、ボクより早く始めたレティは先に条件を満たす。

 彼女はボクが30回ほど依頼をこなしたところで<博士>から<修士>へと転職を果たし、何日も図書庫に籠もる生活を送っていた。しかしその生活も僅か数日で転職条件を満たし、今や<賢者>となり、一冊の本を片手に優雅なお姫さまライフに戻っている。


 ――そんなある日のこと。

 ベッドに横たわるボクの隣でレティがのほほんと今日も何かの本を読んでいた。

 【吸魔】を使わない寝技でもボクの方が優位だったにもかかわらず、最近ではレティに連敗を喫していた。どうやら『精力減衰』という限定スキルがボクの邪魔をしているらしい。<賢者>となったレティはベッドの上での反応が鈍くなってしまったのだ! ぐぬぬ。


 呼吸を整えたあと、こっそりのぞいてみる。どうやら古代語の本であるらしい。彼女はそれを覚えようとしている。

 ははぁん、そうか。分かったぞ!

 ボクが思うに、それを扱える様になることが<賢者>の習得条件ではないだろうか。

 要は<学徒>や<魔法使い>と同じってことだ。ボクにとって<賢者>はぐ習得できるボーナス職業ジョブであると見ていいだろう。なので、ボクは焦ることなく【鑑定】を使う日々を過ごしていた。



 レティに遅れること20日、ようやくにして<博士>の職業ジョブを習得した。

 ここまで遅くなったのはボクが急がなかったってこともあるけど、何よりも『依頼』をくれる侍女さんたちが暇じゃなかったってこと。王女さまであるレティ相手ならともかく、ついででもない状況でボクを相手に構い続けるというのは到底無理な話だ。ボクが忙しそう似働く侍女さんたちに少し遠慮ってのもあるが。

 ボクは余った時間を習得済みの職業ジョブスキルの強化に当てながら、【鑑定】をちょびちょび使うのにとどめていた。

 さて、次は<修士>だ。




 レティと同じく、図書庫に籠もること数日。

 ひたすら頭の中に浮かんできた文字を空白の書籍に写し続けて――【翻訳】したのは未翻訳の古代書で、これが出版される度にボクの懐へと翻訳料が入ってくるというおまけ付き――転職条件の『五冊の本を【翻訳】する』を終え光に祝福されたボクは、既に定期行事ともなった『神殿』へと訪問をしていた。もう慣れたものである。


「<賢者>でお願いします」


 キリッと表情を作り、既に(かお)()()みとなった(けど名前は知らない)祭司さんに転職をお願いする。

 祭司さんが像に向かって祈ると、光を発していた神秘石ミスティックが砕かれ、ボクに光が移って宿る。

 ふっ、これでボクも<賢者>だ。少し頭がよくなった気がするな。ま、それは気のせいだとして、今は――。

 ボクの身体がパアッと再び輝いた。

 やっぱりだ。予想通りだね。

 それからボクは<剣士>に転職する代金おふせを払い、その場を後にした。


 ――が、<剣士>の習得条件は『<剣士の剣>を使い潰すこと』であるらしく、販売しているのは『神殿』だけだという。城門を守る<精鋭>さんにそれを教えてもらった。恥かいちゃったよ、もう……。

 それを聞くなりボクは再び取って返した。

 転職に慣れて、確認を怠ったのが悪いのだけどね。なんともまあ、締まりの無い話だ。


 で、『神殿』とある区画に行ってみたのだけど、意外にも色々な物が販売していた。<剣士の剣>を始めとし<やり士の槍>、<盾士の盾>……と続き、冒険者必須(ひっす)のポーションの類から生活日用品、果ては食料品まで。まさに何でも御座れだった。

 お、これはいい物だ。

 革のむちだ。偶然見かけたそれを手にし、ボクは見分する。

 所有するのと同じ革製の鞭なんだけど、ボクの持つ物とは違い明らかにしなりが違う! これでひっぱたいて上げたらMなあの子もきっと良い声で泣いてくれるかな? ぐふふ……。

 どうしよ~かなぁ~。買っちゃお~うかな~。


「……げっ」


 表示されている値段を見てボクは恐る恐る展示されていた場所へと戻す。

 高すぎ……。転職費用で資産が目減りしてるのに、大金貨2枚とか無理よ。

 買えることは買えるが、これからのことを考えると贅沢ぜいたく、ダメ絶対! な状況だった。ボクは泣く泣くそれを諦める。どうやら鞭に泣かされたのはボクだったようだ。ぐすんっ。


 気を取り直したボクはさらに周囲を練り歩く。

 ううむ、これは――デパートみたいなものかね。まさか地下・・にこんなにたくさん店があるとは思わなかったな。

 おっといけない。いつの間にか本来の目的を忘れ、ウィンドウショッピングに精を出しすぎていたようだ。本末転倒とはこのことか。

 武器の――剣を展示してた所にもどるか……。


 着いた先には天上までびっしり、等間隔で何本もの剣が配置されていた。どれも見栄えがよく、剣の下に価格が表示されているがどれも高い。

 いや、こちらも買えないこともない。けど、【魔力剣】が使える以上は、次に買う剣は最低でもミスリルコーティングされている物と決めている。

 それに、だ。


「――と、あったあった」


 展示空間の端っこある籠の中に、無造作に放り込まれているそれらの1つを取り出す。扱いがヒドイのは頑丈だからだろうか? それと安物だけど置かないわけにはいかないからだろうか?

 それを手に取りさやから抜いてみると、うん、まさにthe剣って感じだ。

 <剣士の剣>は飾り気など何もなく、ただつばがあるのみ。そして目を引くのは――。


「これを使い潰せっていうのか……?」


 余りにもブッとい剣幅に絶句してしまう。

 これをなまくらになるまで使い込み、研いでは使ってと。それを繰り返せと<ワーカー>さんはおっしゃっているのですね? しかも『使い潰せ』ということは雑に使って折れるのは許さないってことでしょうか。ふふふ。

 ――って、冗談じゃないよ!

 1年やそこらで使い潰せるとは思えない。

 一度挫折して再転職した場合は一本以上になるのか、それとも……。


「こりゃ、しくったかな……」


 有り難いことに、簡単に剣が折れないようにと<剣士>には『損耗軽減(剣)』という限定スキルがお有りになるじゃありませんか。その分期間が延びそうですが。

 カリスさんが使ってた【特殊歩法】は是非とも欲しい。そして<剣士>の先の<師範(剣)>でそれは手に入るという。……ううむ、辞めるという選択肢はありえないな。

 どうやらいばらの道に突入したようです。

 ま、剣の扱い方が上手うまくなれば強くなれるだろうし、前向きに考えるしかないかな。

 ボクは<剣士の剣>を右手にレジのカウンターに向かった。


「ありがとうございました~」


 代金銀貨25枚、25000マルク。

 安い模造刀くらいの値段だ。これを安いと見るか高いと見るかは判断に悩む。物価が違うしね。

 いや、<剣士>――共通2次職の転職費用が銀貨10枚と諸費用で銅貨10枚だったことを鑑みると、高いと見るべきかな? まあ、必要経費なので諦めるしかないんだけど。


「さて、用も終わったし戻るか……」


 そうして、ボクは二度目の帰路へとついた。

 帰りを迎えてくれた門番の<精鋭>さんは苦笑と共にボクを出迎える。ぐぬぬぬ……。


 その晩、その怒りをきさきたちとのベッド戦で発散した。

 現在、王の妻たる方々はボクの情事に大変ご満足をされて、モザイク推奨の顔で死屍累々(ししるいるい)の状態となっている。ボクは杯を手に、喉を潤しながら今日あったことを反芻はんすうしていく。

 ――と、そのときあることが脳裏にひらめく。


「――っ!?」


 槍って穂先だけだよな? おのは重量が無くなると武器の体裁がたもてない! 盾に至っては壊れることが前提……。弓は長く使えるだろうが、おそらく条件が違うんじゃないかね?

 そうすると――。


「剣って……一番損じゃね?」


 ボクの苦悩が思わず言葉となって口から飛び出す。

 されどボクのつぶやきを聞いていた者は誰もいなく、むなしく後宮の静寂しじまに吸い込まれていった。






転生二六七日目

ミヅキ「くっ、こんなダサイ剣を使い続けなくちゃいけないなんて……!」

カリス「ああ、それはダサイよね。使い始めた頃は自分の実力相応なんて思ったけど、私も何本か折ってしまってね。随分と衆目を気にしたものだよ」

レティ「わたくしが装備する予定の盾は無地なので、木の盾よりマシと言ったところですかね」

ミヅキ「チクショウ! これじゃ無理だ!」

カリス「ふっ、大丈夫さ。【剣習熟】が育つに連れて、剣の動かし方も何となく理解出来るから、頑張れば確実に習得出来るよ」

レティ「そうですわ。ミヅキさまなら絶対こなせますわ!」

ミヅキ「違う、そうじゃない! そうじゃないんだ!」

レティ「――どういうことですの?」

ミヅキ「これじゃ、ボクがいくら美しいからって持ってる剣まではフォロー出来ないよ!」

カリス「……。ふっ、さすがはミヅキ。使う前から余裕たっぷりじゃないか。ボクがそれを気にしたのは使い潰す間際になって漸くだったよ」


※付録※

<料理人>(特殊職)

条件:解体屋で食料品ばかり【解体】する。

技能スキル:【調理】

限定:『器用上昇』

習得:相手が心から美味いと思える料理を作ること。

備考:なんちゅ~もんを食わせてくれたんや。


『器用上昇』

効果:手先が器用になる。

備考:これで指をケガすることはなくなったね♪


【調理】

効果:料理技能の習熟が早くなる。

備考:手際が肝心。どんなに美味しい物も冷めたら不味くなる。


<博士>(共通2次職)

条件:学徒

技能スキル:【鑑定】

限定:『食堂2割引』

習得:【鑑定】の以来を100回こなす。

備考:楽にお金が貯まる職業だよ!


『食堂2割引』

効果:国が経営する食堂で、2割引で食べられる様になる。

備考:味はお察し……プププッ。


【鑑定】

効果:物品の鑑定をする技能スキル

備考:金銭価値が分かる技能スキルだよ!


<修士>

条件:学徒

技能スキル:【翻訳】

限定:『図書館無料』

習得:5冊の本を【翻訳】する。

備考:生きる辞書さん。


『図書館無料』

効果:図書館利用料が無料になる。

備考:ぶっちゃけ仕事です! しかも無給の!


【翻訳】

効果:違う言葉に置き換える技能スキル

備考:【言語習熟】はその言葉自体覚えるから反面、このスキルは自分が習熟している言語を同じく覚えている別の言語に変換する。



<賢者>

条件:博士・修士

技能スキル:【上位鑑定】【古代語習熟】

限定:『精力減衰』

習得:古代語を習得する。

備考:求めよ、さらば与えられん。叩けよ、さらば開かれん。


『精力減衰』

効果:性欲が著しく衰える。

備考:精神的に成熟したのか、枯れたのかはヒ・ミ・ツ♪


【上位鑑定】

効果:【鑑定】の上位技能ハイスキル

備考:物の価値だけではなく、効果が分かるようになる。


【古代語習熟】

効果:古代語の習熟が早くなる。

備考:昔のことなんか知ったこったねぇよ、な! あれ? おい、何マジになってんの?


ミヅキ「【上位鑑定】があれば【鑑定】などいらない!」

レティ「そうですわね。ともに成長しない職業ジョブスキルですし」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ