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魔法戦士4話 打倒ソリュンさん





 あれから11日がっていた。

 ボクは必殺連携と【強化魔法】を繰り返す作業をひたすら続けていた。

 日ごとに【武器習熟】の習熟が進み、振るう剣に鋭さを増していた。うん、強くなったな。と自分ですら実感できるレベルだ。自身が強くなった高揚感とは実にいい物だ。やった分だけ身につく。才能が努力に付いてくる感覚とでも言えばいいのかな。

 【強化魔法】の維持も大分楽になり、最近では【魔力剣】を使う余裕すら生まれてきていた。

 この他に福次効果として【体力向上】【腕力向上】などの才能系の職業ジョブも鍛えられている。

 自身が強者きょうしゃになったとはとても言えないが、もはや貧弱! というレッテルは返上出来たのではないかと、最近実感している。


 と、前置きはこのくらいにして――。

 ボクは卒業試験ならぬ試金石としてソリュンさんと再び対決することにした。この戦いに臨むに当たって、新しい魔法媒体の指輪――性能はさほどではないけど、小型化は技術的に難しいらしいので大金貨1枚もするという高級な品だ――も用意してある。

 いや……まあ、<魔法戦士>を習得してから挑めよ、って話だけど、強くなったという実感を物差しで測りたいって訳よ。分かってくれるかな?

 あまり褒められた感情じゃないのは分かってるんだけどね。でもどうしても指針は欲しいところ。

 で、選んだのがソリュンさん。

 カリスさんは到底かなう相手じゃないし、<近衛兵>たちは普段から忙しそうにしてるし……ってことで暇そうにしていたのがソリュンさんだったという話だ。要するに選出方法は消去法。


 彼は本当に毎日暇そうにしている。

 ボクが戦士系職業ジョブに就かないと知ってあの時意気消沈したのは、やっと出来た暇つぶしの相手がいなくなると(てい)(かん)を覚えたのだろう。マジ何しに王宮に上がってるの? って状態だった。閑職にもほどがありすぎ。

 まあ、やりは不人気ってこともあるだろうけど、実際は弱い武官など王宮勤めは不可能なんだ。人に習う段階は既に終えている者たちばかりだから、彼の教えを乞う程度の人など王族くらいしかいない。しかも武の道に進むのは少数派と来たもんだ。もうね、なんというかあわれでならないよ。

 つまりソリュンさんの仕事は、たまに居るリハビリ相手に付き合うくらいしかする事がないんだ。

 せめて、その暇な時間で『ソリュン流』を打ち立てて欲しいモノだ。


 そんなことを考えて素振りをしながら待っていると、入り口からソリュンさんが満を持して登場。ボクに倒されるためにやって来た! いや、まあ本気で掛かってこられたら勝てないだろうが。

 手に持つのはやはり木剣。ボク相手では槍はまだ早いってことなのだろう。

 ――狙い通り!

 ニヤリとほくそ笑んだボクは、彼が近づくのを待つ間に詠唱を始め、指輪に魔力を流してスピードアシストの魔法を掛ける。


「待たせたようだな」


 ボクから歩くこと一〇数歩。

 その位置にソリュンさんは停止して剣を抜き放った。


「いえ、それほどでも」


「そうか、では始めよう」


 ソリュンさんは会話はもはや終わりだと、腰を下げ剣を正眼せいがんに構えた。ボクは右足を下げ半身となって、木剣を右手に持ち相対した。

 場に緊張が走る――。先に動いたのはソリュンさん! いつの間にか腕を引き、ボクを横薙ぎにしようとする体勢になっている。

 その動きに合わせるようにボクは動き出す。はやいのはボク! ソリュンさんが攻撃を繰り出す出鼻をくじくべく、両手で剣を持ち、打ち付けてやった。


 ガツンと音を立てつばぜり合いの体勢となる。

 力では圧倒的に不利なボクだが、有利な体勢を維持する事によって互角の状況。ソリュンさんはそれを何とかしてやろうと力を振り絞り、気合いの表情をボクに見せつけてくる。

 それは以前の様に掛かってこい的な態度ではなく、真剣に戦ってやろうというおもいをボクは感じた。ならばボクも殺してやるくらいの気持ちで掛かってやる!


 ――【魔力剣】発動!


 武器を同じくした戦いにこれは卑怯ひきょうと感じる心もある。だがねじ伏せる、そんな強者のみ許される油断だとして。

 ボクは木刀に魔力を通していく。その瞬間、木刀からオーラのような物が立ち上る。

 ――頃合いだ!

 十分に魔力が行き渡ったと感じたボクは左手を離し、腰へと手を伸ばした。

 押しつける力が弱まると、ソリュンさんが巻き返しを図るべくじわじわと押し返してくる。その行為でソリュンさんの木刀にはヒビが生じ始めている――が、それに構わずボクは事を進める。

 そして腰にある物をつかむと、勢いよく腕をしならせた。


 ビューンッ!

 風を切るようにしてむちがしなる! 狙いは顔面。ソリュンさんの目潰しだ。

 ソリュンさんはそれに脅威を抱いたのか押し合いに見切りを付け、剣を鞭に向けるのと前後して、自身は空手で大きく後退。着地と共に虚空よりポケットから代わりの木剣を抜き出した。

 ――が、用意されたのは2本。左手で前面に構え、右を頭上に構える。二刀流ならぬ二剣流というやつだろう。ソリュンさんの癖に格好かっこいいじゃないか、コンチクショウ!


 ボクは腕をしならせ、鞭に巻き付いていた木刀を払うとそれにも魔力を流し始めた。

 ボクらは互いに見合い、時をうかがう。そして――。今度はボクが仕掛けた。


 振るうのは鞭。【魔力剣】で強化された革の鞭は鋭い刃がごとく空気を断ち切る。

 ソリュンさんを踏み込ませないという意気込みでボクは左手で振り続けた。まるで鞭の結界を張るが如く……。

 しかしソリュンさんは動かない。鋭い眼光を飛ばして来るだけで、構えるを維持する以外には何も行動を起こさない。――いや、すきを窺ってるのか!?


 何か不味まずいという予感にとらわれる。ボクは現状で意味をさなくなったスピードアシストを解くと共に、ソリュンさんに聞こえないように小さく、次なる詠唱を始める。

 その時だった、ソリュンさんが動き出したのは。

 彼はボクの隙を見つけ出し、瞬時、行動に移したようだ。おそらくだが、呪文をとなえ始めたことで、気もそぞろとなり鞭の結界に穴が出来てしまったに違いない。

 ――ソリュンさんが放つプレッシャーに負けてしまったのだろうか。


 が、しかし! まだ負けた訳じゃない!

 ボクは詠唱の時間を少しでも稼ぐべく懸命に鞭を振るった。

 それを両手に持つ木刀でいなしながら少しずつ近づいてくる。なんてこったい、両利きなのか! 左右の手を自由自在に操るソリュンさんにボクは驚愕きょうがくを禁じ得ない。

 そして彼の木刀がボクに届くという寸前に――。


「フィジカルガード!」


 何とか間に合わせることが出来た!

 力ある言葉と同時にボクの身体を魔力が包み込む。とそこへソリュンさんの2つの剣が迫ってきた。

 鞭を捨て木剣を両手で握ると、片方の剣をそれで迎撃し他方を無視する形をとる。

 襲い来る襲撃を覚悟し、ボクは更に間合いを詰める。

 互いにはじき合う剣戟けんげきに、ボクの肩を打ち付ける木刀。が、フィジカルガードに減衰されてほとんど痛みを感じない! ボクはそこで剣を捨ててソリュンさんの身体に肉薄し、フリーとなった両手で腕をつかむ。

 ――いまだっ!


「【吸魔】っ!」


 種族能力アビリティを最大威力で発動し、つかんだ手からソリュンさんの魔力を吸い出そうとする。しかしソリュンさんは魔力を持たない身体。なので、彼はボクの与える一方的な快楽を元に絶頂を迎え――気絶してしまった。


 その際に見た、いかついソリュンさんのアヘ顔はすごく、凄く! キモかったです。

 けれどボクは紳士。そのまま放置して立ち去るというわけにはいきません。なので、その顔を他者に見られても大丈夫なように泥パックをして上げました、まる。


 こうしてハンデ付きではあるが、ある程度の実力者を打ち倒せたことによりボクは自信を持つことが出来た。

 しかし、せっかく編み出した必殺技を繰り出すチャンスが全くなかった!

 方向性を間違えているのかな? もしソリュンさんが魔力を持っていたら勝つことは出来なかったに違いないし、ううむ……どうしたものか。

 悩んだ末、ボクはソリュンさんに水をぶっかけてたたき起こし、反省会もとい指導を受けることにした。もちろん水が(しょう)()(いん)(めつ)を計ってくれた。


 で、その結果だが……。どうやらボクが両手で別の武器を使ったのが誤りらしい。ソリュンさんのように限定スキル『両利き』を持っていない限りは、奇襲以外は頼るべきではないという。実に荒い(むち)(さば)きだった、と酷評を頂いてしまった。

 うん、なるほどねぇ……。ていうかボク、奇策ばっか使ってるなぁ。実力差があるだけに、無理をしないと勝てないってのもあるけど。


 身体能力に置いては1日の長がある分、年配の人の方がまず強い。まあ、老化によって弱体もあるのだが、壮年のソリュンさんに老化は関係ないので、及ばないのは確実な訳で――。それでつい奇策に走りたくなってしまう。

 いや、うそはいけないな。自分に嘘をついてもろくなことにはならないな。うんうん。

 そこにロマンがあるから使いたくなってしまうのだ!

 やはりロマンと強さはイコールで結ばれない運命にあるらしい。

 くっ、いずれ強くなってロマンに走ってやる!


 ――という感じで、いつの間にかボクの中で強くなる理由が全く別の物へと変わっていたのだった。

 まあ、強くなるならどんな理由でも構わないさ!






転生一九八日目

ミヅキ「ボクが本当に殺意を抱いていたら、フィジカルガードのところをフォースショットで迎撃したよ。それで抹殺完了ってね。自分の魔力波形の魔法はダメージを受けないってス・テ・キ」

カリス「ふっ。まあ、模擬戦の体裁だからね。そこまでするのは問題外だよ」

レティ「至近距離でのフォースショットは避けようもありませんしね……」


※付録※

<師範(槍)>(共通3次職)

条件:槍士

技能スキル:【弱点看破】【投槍】

限定:『両利き』

習得:<精霊槍>と契約する。

備考:二槍流だってロマン!


『両利き』

効果:両手共に利き手になる。

備考:色々と便利だよ。


【弱点看破】

効果:経験を元にして相手の弱点を見つける。

備考:何事も経験が大事。


【投槍】

効果:魔力壁をも貫き、岩石をも砕く衝撃を伴った槍の投擲。貫通が本質で衝撃はおまけ。

備考:悪あがきだと思った? ざんぁ~んねん! 必殺技でした! これがあるから短槍二本持つのが基本だね。


ミヅキ「な、なんという……ロマン職! そこに痺れるぅ! 憧れ……はしないかな。やっぱ槍だし?」

カリス「<師範(剣)>の限定スキルも『両利き』だよ。一時期は聖剣<ファーレン>とオリハルコンの剣を使っていたよ」

ミヅキ「あれ? 精霊剣は?」

カリス「ふっ、見ての通り精霊武器の取得が職業ジョブ習得の条件なのでね。ボクは<勇者>を目指す必要があっただけに、そのまま次の職業ジョブに進んでしまったよ。なので、聖剣<ファーレン>と一緒に構えたことはないね」

レティ「そういえばあのオリハルコンの剣、どうしましたっけ?」

カリス「ああ、あれは宝物庫に眠ってるんじゃないかな」

ミヅキ「そ――」

レティ「ミヅキさまに是非と思ったのですが、そうですか……。宝物庫にしまったのでは許可を取らないと無理ですわね」

カリス「そうだな。その理由だとまず降りないと思った方がいいね。……ところでミヅキ、今何か言おうとした?」

ミヅキ「(ぐっ、このタイミングでくれなんて言えないだろ!)ふふっ、そろそろベッドに行こうか、って言おうとしただけだよ」

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