羞恥プレイ? いいえ、さらし者です
――というのが、昨夜見た夢だった。
その後ボクは生まれ変わるんだけど、何に生まれ変わったのかは覚えてない。まあ、夢だし? どうでもいいといえばどうでもいい。
が、そうも言ってられないかな。
手にした解答用紙を見ると実は夢じゃない? なんて考えが脳裏によぎるがまさかね。
「よぉし、それじゃ答え合わせと行くぞ」
いつの間にか生徒全員にテストが返却されていたようだ。
他の生徒たちは「あぁ~~やっちまったかぁ。こっちが答えだったんか」「フッ、今回も一〇〇点」などと、叫んでいる人も居れば、ボソリと呟き小さくガッツポーズを取る人もいる。「くっそぉ。また負けた……」と自嘲する人は誰かと勝負していたのかな?
……。
というか、こんなテストで一〇〇点とか獲れるの? ちょっと信じられないな。
内容からして答えが一つじゃないのも分かるけど……一人一人問題も違うし。比べる必要もあるのだろうか。
「プロジェクターの用意は良いな? それじゃ再生するぞぉ」
はっ?
……えっ?
――えぇぇぇぇえええ!?
答え合わせと称して教師がプロジェクター――動画をスクリーンに投影するのまでは意表を突かれただけで済んだ。しかし、そのタイトルが『人生1.高城守としての人生』だった。
それ、ボクの問題の問1)じゃん。というか、夢で見た映像まんまだし……。どうなってんの?
もちろん、夢で見た程詳細な内容ではなかった。時間も限られているからダイジェストにしたと言われれば信じてしまうだろう。いや、信じる他ない。ホントどういうことなのよ?
動揺している内に『人生1.高城守としての人生』の動画を教師は停止した。
「この高城守くんだけど、御曹司として生まれ、お坊ちゃん生活を送っているけど……まあ、ここまでは特に問題無いな」
・財閥の御曹司として生まれる。
・絵に描いたお坊ちゃん生活を送る。(英才教育)
・一流大学に入り、そのままストレートに卒業する。
教師は要点をまとめ、黒板に記述する。
「これで学業でも落ちぶれていたら目も当てられないが、御曹司としては『よくできました』というやつだな。一流大学を卒業したのも素晴らしい。敢えて難を告げるなら首席卒業じゃなかったことくらいだな」
教師の発言に、クラス中の皆が頷いている。うん、確かにボクもそう思うよ。それがボクが見た夢じゃなければ。
「だけどな……模範解答と言っても良いのはここまでだ!」
教師はバンっと黒板を叩き大きな音を出す。うわぁ……びびったぁ……。
というか、模範解答って? これ本当にテストなの?
それから教師は止めた動画を再生する。一つ一つ追って行くのだろう。
・学生時代の恋人と恋愛結婚をする。
ある程度まで進むとまた停止して、次いで黒板に書き加える。
「確かに恋愛は美しいな。しかぁぁぁあああっし! そのとき両親は祝福してくれましたか? それと貴方は確実に世継ぎを残さなければいけない立場です。相手の出産能力を確認するべきでしたね」
雑な口調が突如丁寧な物へと変わる。これ、アレだよね? 絶対にバカにしているよね?
教師はチラリとボクの方に視線を飛ばし「ぷぷぷっ」と笑いやがった。殺意が目覚めるとはこの事か……。
・10年間子供が出来ずに離婚させられる。
・親に勧められたお見合いで2度目の結婚をする。
「あぁ~。これは仕方ないな、先生でもそうしますぅ。先程の失敗の修正だと諦めるしかないよ。まあ、先生なら上手くやってこうはならなかったけどな。つぅかよぉ。真面目過ぎるだろ。金持ちなんだから遊べよ。こんな事言うと先生怒られちゃうかもしれないけど、ハーレム築いて先に種しこんじゃえよYOU!」
教師はそう言ってボクを指さした。ちょ! バレるじゃん! 止めてよ!
――って、あれ? どうして高城守を自分の事と思ってるんだろう。ボクじゃないのに。夢のことの筈だよね?
・条件であった5年でも子供が出来ず離婚する。(慰謝料込み)
「あー、ここで先ほどの失敗をまたしてるな。お見合い相手も一人だけじゃなかったのになぁ。守くんはどうやらお見合い写真の中からの好みで選んでしまったようだ。バッカだよなぁ」
お見合い写真なんて自分の好み以外で何を選べって言うんだよ! 釣書? そんなの金持ちの令嬢でどれも同じに見えたんだよ!
――あれ? ボク本当にどうしたんだろ? なんでこんな気持ちになるのかな?
教師が高城守の歩みを追って行くごとにボクの心は荒れていく。これ、どう考えても晒し者だよね? ねえ、教育委員会に訴えていい?
・最後の頼みとしてバツイチの経産婦と結婚する。
「以下同文。反省の色無しってやつですね。救いようがありません。ここで高城守の人生は詰んでいました」
再び丁寧な言葉。けど、語尾を強調してるし、さっき以上にボクを馬鹿にしてるよね?
・10年子供が出来ずに廃嫡させられる。
・そのままその女性ともに老衰を迎える。
「よく孤独死をしませんでしたね。そういった意味では高城守も魅力ある人物だったのでしょう。たとえ種なしでも!」
最後は投げやりな感じだ。耳までほじってやがる……。よし殺そうか。
そう思って立ち上がろうとしたとき、教師は止めていた動画を再生し『人生2.明石楓としての人生』を映し出した。
――なっ!?
一度はいい、偶然だと言い切れる。でも二度目はない。それはもはや何かの作為があるのだから。
全部見終わった高城守の一生は、全ての場面がボクの夢と一致していた。もしこれで明石楓の一生も一致してたらとしたら……。
ボクは教師に天誅を喰らわせてやるのも忘れ、その動画を見入る。
同じだ。昨日見た夢と全く同じ。ボクを虐めるのにここまでやる? というか、そうだとしてもどうやって?
考えの深みに嵌まっている内に動画は停止していた。
・貧乏な家に生まれる。
「前世での反動ってやつだろうな? まあ、人生色々楽あれば苦ありってことだ」
前世? 夢の通り楓は守の転生体なの?
・学生時代貧乏でおしゃれが出来ないことを嘆き、援助交際二手を出す。
「うわぁ。うわぁ……」
教師軽蔑の視線をボクに向けた。うっさいっつーの! 楓はボクとは違うよ! ボクは男だ!
……というより、高校生にこんなショッキングな映像見せてよかったの? どう考えても一八禁でしょ、これ。
ボクも男だからこんなアダルティックな映像を見せられたら興奮しちゃうけど、自分で見たというか、体感した出来事だけに……どっちかというと恥ずかしいな。
・快楽におぼれ高校中退する。
「うわぁ。うわぁ……」
教師は先程から軽蔑した視線のままだ。それでもなお、黒板を書き続けるのは職務ゆえだろうか。
その時不意に「乱交とかネーヨ」と呟く声が聞こえる。おいっ、誰だ今言った奴!
ボクは振り返って誰が言ったか特定しようとしたが、皆あらぬ方向を向いて特定出来なかった。皆、これ……ボクのことだと思ってるよね、絶対そうだよね?
まあ、あれだけ教師がボクに当て付けていれば分かるか……。よしっ、後で絶対死なす!
・妊娠・結婚をする。
「ビッチに熱を上げる人がよく都合よくいたなぁ。ボテ腹好きとか超ウケるぅ~」
もう何も突っ込まんぞ。後で覚えてろよぉ!
・旦那と死別する。(交通事故・保険金が手に入る)
「自分を淫乱に仕立て上げた男のことなんて放っておくべきだったな。無視するか、脅されていたって旦那に告げて、一緒に向かうのが正しい選択だ。浮気するつもりだったとしか思えんな」
夢で見た楓は実際そうだった。愛してもいない夫よりも快楽を選び、向かう最中だった。でも、途中で携帯に死亡したという電話が諦めたはずだ。
う~ん、本当にこんなのボクがどう関係あるんだろう。
・新たな出会いを迎え再婚すし子供を為す。
「よかったな、相手が見つかって。中古など先生ならノーセンキューだ! ごめんなさい、お断りですってやつだぜ」
ピキッ! こめかみが軋む。おっと、いけない。今は充電中だ……。爆発するためのナァッ!!
・妊娠中に旦那が死亡する(腎虚)。
「うわぁ……。やっぱビッチこえぇ」
・妊婦好きな外人と結婚するし出産する。
「……もう先生なんとも言えません。」
なら、何も言わずに話を進めろ!
・旦那が腎虚で死ぬ。
「…………これはヒドイ」
・再婚し出産する。
「先生、先が見えてきました」
・旦那が腎虚で死ぬ。
「ほら……やっぱり……」
・結婚を諦め、寿命を全うする。
「もっと早くに気付くべきでしたね……。何人の男性が犠牲になったのやら……」
腹上死とか一番望まれる死因だろ! なら良いじゃないか!
それにしても……高城守の一生と同じ様に一致していた。やはり偶然じゃない。
これは……この教師の陰謀!?
観月「今日は包丁を買って帰るか……」
教師「こえぇよ」
観月「月夜の晩だけだと思うなよ!」
教師「いや、まじこえぇからやめろって」