魔法戦士1話 随分お布施しました!
<転職リスト>の中で燦々と輝く(ように見える)職業、<魔法戦士>はボクを惹きつけて止まなかった。
しかし、ここは<魔術師>にするべきだろう。
<魔法使い>の転職条件『下位魔法語を習得する』や<学徒>の『2カ国の読み書きを修める』を即時満たしたのはボクの祝福が関係していると睨んでいる。会話に関する物だけかと思ったが、どうやら魔法語においても十全に役立っているようだ。おそらく言語の習得が条件になっているのはどれも即時習得する可能性が高いはず。
ならばこそまずは<魔術師>にするべきだろう。『中位魔法語習熟』があるし、条件は『中位魔法語を習得する』とある程度予想できる。
ボクは神秘石から顔を上げて祭司さんに告げた。
「<魔術師>でお願いします」
そして、期待通りの反応が起こる。習得の光。それがボクを包み込む。
更に銀貨50枚と銅貨10枚を支払い、ボクは<魔法戦士>となって『神殿』を後にした。
ちなみに<魔術師>を得たことで追加された職業は存在しなかった。魔法使い系に上級職がないとは思わないので、たぶんだが、それ単体では何の意味も無い職業なのだろう。複合職と同じ様に……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
<魔法戦士>の習得条件を満たす前にやるべき事があった。
そう、これまでに習得した職業スキルの実践だ! まったく使う暇もなかったので一切強化されていないという有様だしね。
スキルは使用しないと強化されない。才能に値する職業スキルなんかはまさにそれ。アクションスキルなどは別にそれでも問題無いのだが、残念ながら【下位魔法】や【中位魔法】はアクションでありつつも熟練を必要とする要素も兼ね備えていた。
<歌人>の【美声】【音感】あたりは普段生活でなんとかなるのでとりあえず放置。
<呪い師>のは魔法を使っていけばこれも大丈夫だ。
なので、ボクは下位と中位の魔法を使ってみるべく安い杖を用意した。そして城の訓練施設を借り受けて訓練に励むことにした。
ここはソリュンさんに鍛えて貰った訓練施設ではない。
魔法を使うため、あそこよりも3倍くらい広い造りとなっている。ま、それもそうだよな。【下位魔法】にはないが【中位魔法】以上ともなると爆発とかあるって話だし。
「何にしても、まずは使ってみないことには、ね」
いきなり攻撃魔法を使うのもアレなので、まずはマジックバリアからだな!
使おうとした瞬間、マジックバリアの呪文が脳裏に浮かびあがる。
「……なるほど、ね。魔法書の類を見かけたことがないからどうなるかと思ったけど……」
どうやら職業スキルが全てを担ってくれるようだ。<呪い師>で扱う才能を手に入れて、<魔法使い>で呪文を手に入れる。
まったく面倒な世界にしてくれたもんだよ、<ワーカー>さんは。
「さて……」
ボクは再びマジックバリアを意識した。
「え~と、何々……。魔力よ集え、我が内より顕現し身を守る盾とならん?」
…………。
……あれ? 何も変化が起きないな。
あ、そっか。下位魔法語で使わないといけないのか。気を取り直してもう一度。
「『ねえねえマナさん、身体の中で眠ってる所ちょっと悪いんだけど、お願いを聞いて欲しいな。敵の攻撃が怖いからバリアがちょ~~~と欲しいなんて言っちゃたりして』――って、何じゃこりゃ!」
その言葉を言い終えるなりボクの身体から魔力が湧き出して、媒介たる杖の先端に集まっていく。
う~ん、これはヒドイ……。発動の気配がしたから間違っていないのだろうけど、この詠唱は一体何なんだ! 他の人は疑問を抱かないのか、というよりよく脱力しないもんだな。
「もしかすると祝福の影響なのかもしれないな。ネイティブで覚えるあまり、深く意味が意味が分からず使ってる可能性とか……。まあ、いいや。とりあえず。――マジックバリア!」
杖を格好良く掲げ、力ある言葉を放つ。
すると、杖の先端に光となって集まっていた魔力が弾ける。ボクの意志に従い、魔力が身を守るための膜へと瞬時に再構成される。
「ううむ、ライラさんの魔法がガラス球だとしたら、ボクのはさしずめシャボン玉といったところか」
使った魔力は明らかにボクの方が多いというのに、ライラさんに使って貰ったマジックバリアと比べ貧相にもほどがあった。おそらく【下位魔法】の熟練度が足りずに、込めた魔力の効率が非常に悪いのだろう。
「ま、今のは適当にやったから、ちゃんと意識して使えば違うのかもしれない」
ボクはもう一度気の抜ける詠唱を繰り返し、先程以上の魔力を込めてマジックバリアを構成した。
形成されたのは先程と寸分違わぬ貧弱なシャボン玉。敵の攻撃を防ぐにしてはあまりにも頼りないバリアだった。
「うーん、これはあれかな。熟練度次第で使える魔力の限界が決まってるってやつかな」
要するに、魔法が暴走することが無い代わりに自分の技量以上の力は使えないと言うことだろう。
以前ライラさんの【水魔法】をハックして、十二分に威力を発揮できたのは魔法の構成を維持していたのが精霊だった事が大きかったのかもしれない。ボクはただの燃料だったという話だ。
「もしかすると失敗したかも。ボクも<水魔法師>になるのが正解だった……とか?」
まあ何にせよ、今更『神殿』へ駆け込んで転職するというのは無しだ。そうしたら次回<魔法戦士>となったとき習得条件がよりシビアとなってしまう。それに掛かる金も端金ってレベルじゃないし。
「幸い、ボクには寿命が無いみたいだし、焦る必要はないかな」
どのみち自力を鍛えなければならない。今は使い物にならないとはいえ、マジックバリアは敵の剣戟にも堪えられる性能を秘めている。ならば【下位魔法】を疎かにするわけにいかない。
少なくともカリスさんの一撃くらいは堪えられるくらいにはならないと……。
それからボクはマジックネットとマジックアローを試した。
やはりマジックバリアと同様にヘロヘロっとして実践では使い物にならないレベルだった。
「……今日の内に【中位魔法】までさらっと試して【魔力剣】や【強化魔法】を試すつもりだったんだけどなぁ」
この調子では【下位魔法】に集中し、魔法の強化に励んだ方がいいだろう。
試した結果、使えば使う程威力が向上しているような気がする。雀の涙ほどだけど。
ともすれば、ひたすら使うのみ! 幸いにしてボクの魔力は潤沢。<呪い師>となったことで、まだ僅かだけど魔力回復も順調に出来る様になったし。最悪後宮の誰かから【吸魔】で吸わせて貰えれば尽きた後でも訓練できるのだから。
その日、ボクはひたすら【下位魔法】を唱えた。
それによりボクの【下位魔法】はそれなりとなるも、それ以上に【美声】が鍛えられてしまった。
これは余談になるけど――。
『集え魔力よ、我が内より顕現し』が【下位魔法】の共通の詠唱で、『ねえねえマナさん、身体の中で眠ってる所ちょっと悪いんだけど、お願いを聞いて欲しいな』となるわけだが、その先が少々違うだけだった。
マジックアローは『敵を討つ矢となれ』が『敵がちょっとウザイから矢でも撃って欲しいかな』となり、マジックネットが『敵を捕縛する縄とならん』が『敵がちょっとムカツクから縄で捕まえて欲しいかな』となっている。
それと王宮魔術師に聞いた話だけど、彼らは下位魔法語でちゃんと『集え魔力よ、我が内より顕現し身を守る盾とならん』と言ってるそうな。
やはりボクの祝福の力でそう聞こえてしまっているに過ぎないと分かってしまった。まあ、意図せず喋れたり聞き取れたり出来るから不満はないんだけどね……。
転生一五二日目
ミヅキ「え~と、<歌人>から<魔法使い>になるのに銅貨10に銀貨5枚。<魔法使い>から<魔術師>になるのに銅貨10に銀貨50枚。<魔術師>から<魔法戦士>も先に同じ」
カリス「105,300マルクだね」
<魔法使い>(複合1次職)
条件:学徒・呪い師
技能:【下位魔法】【下位魔法語習熟】
限定:『詠唱』
習得:下位魔法語を習得する。
備考:無詠唱? 詠唱破棄? そんな都合のいいものはありませんよ。
『詠唱』
効果:淀みなく詠唱出来る。
備考:早口言葉、正確な発音、なんでもござれ。
【下位魔法】
効果:魔力を形にするだけの単純な魔法。
備考:魔力に対抗出来るのは魔力だけ! 腕力で対抗とか止めてくださいよぉ……。
・マジックアロー
・マジックネット
・マジックバリア
【下位魔法語習熟】
効果:難解な魔法語の習得を手助けしてくれる。それでもまだ下位なので簡単な方。
備考:これがないと多分理解出来ないだろうね!
ミヅキ「魔法については魔法書を買って覚えるのではなく、取り扱い資格を手に入れて『神殿』で知識を買う――みたいな感じだね。少々面倒な感じもするけど、それがこの世界、<ワーカー>さんが定めた法則というのだから仕方が無いか……。まあ、努力すれば才能が身につくというのだから悪いことでもないのかな? あ、でも、その代わり挫折は自己責任となっちゃうね。なにせ『才能がないから』という免罪符を奪われてしまったのも同然だし」
レティ「はあ? 才能ですか?」
ミヅキ「ああ、何でもないよ。独り言さ」
カリス「才能という言葉は久しぶりに聞いたかな。教団がいうには『根気』や『センス』と言った物が才能らしい」




